Life is short, time is money.
作成:2010年1月22日
明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂
http://lawschool.jp/kagayama/
自らの後継者を養成できない機関は,独立の機関とはいえない。「研究者教員の養成」は,すべての研究科の使命であり,かつ,研究機関の存立基盤であることを私たちは肝に銘じなければならない。
長いようでも,定年までの時間はすぐに尽きてしまう。定年を迎えとときに,自らの学問分野に対する業績だけでなく,「明治学院大学にどのような貢献をすることができたか」を明確に振り返ることができるよう,各教員が,今から長期的な計画を持ち,自らの目標達成に向かって努力を積み重ねていくことを希望する。
2004年に法科大学院が設立され,法と政治に関して理論と事務の架橋がなされつつあることは喜ばしいことではあるが,法学部から複数の教員が法科大学院に移籍したため,研究者養成のための教育については,これまでよりも手薄になっている。したがって,この事態を放置していたのでは,本研究科における研究者教員の養成は絶望的となってしまう。
そこで,研究・教育機関としての本来の使命を回復するためにも,何よりも,博士後期課程の充実を図る必要がある(2010年3月6日(土)早稲田大学法学研究科シンポジウム「研究者教員の養成はどうあるべきか」が参考になる。なお,主催者の好意により,奥田昌道(元最高裁判所裁判官・京大名誉教授)の基調講演の全文をこのホームページに掲載する許可を得ることができた)。
2010年度の博士後期課程への入学者はゼロであった。このままの状況を放置するならば,本研究科への入学者はゼロを更新し,やがては,博士後期課程の存立の基盤すら失われることになりかねない。後継者の養成を怠った組織は自滅に向かうことを避けることができない。
この事態を打開するためには,なによりも,優秀な学生をスカウトすることが緊急の課題となっている。しかしながら,本研究科は,博士前期課程を廃止したため,博士後期課程に入学する学生も減少する傾向にある。他の大学院研究科から本研究科に入学しようとしても,他大学からの入学希望者に対しては90万円を超える学納金が要求されるばかりでなく,授業料免除の適用もされないなど,本研究科に移籍するメリットが大幅に減殺されているからである。
コース | 研究者最短コース | 法曹最短コース | 明学通常コース | 最長コース | |||||||
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法学部 | 1 | 4年 | 3年 |
4年 | 4年 | ||||||
2 | |||||||||||
3 | |||||||||||
4 | −(飛び級) | ||||||||||
研究科 博士課程前期 |
法科大学院 | 1 | 2年 | 他大学大学院 博士前期コース |
2年 | 法科大学院 既修者コース |
2年 | 法科大学院 既修者コース |
3年 | 法科大学院 未修者コース |
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未修者コース | 既修者コース | 2 | |||||||||
3 | − | −司法試験不受験 | − | − | |||||||
4 | − | − | 2年 | 司法試験受験・合格 | |||||||
5 | − | − | 司法修習 | ||||||||
博士課程後期 | 1 | 3年 | 語学の習得・文献リサーチ | ||||||||
2 | 学位論文の一部の執筆 | ||||||||||
3 | 学位論文の完成と学位論文審査 | ||||||||||
就職要件としての学位取得 そのための時間と費用 |
年数 | 9年 | 8年 | 11年 | 12年 | ||||||
費用 | 8,146,800円 | 8,773,160円 | 9,759,260円 | 11,315,290円 | |||||||
年齢 | 27歳 | 26歳 | 29歳 | 30歳 | |||||||
研究者最短コース | 法曹最短コース | 明学通常コース | 最長コース |
このように,本研究科においては,他大学の学生が本学に入学しようとしても,大きな障害が待ち受けており,インセンティブに欠ける状態が放置されているというのが現状である。私たちは,まず,この点を改善することから始めなければならない。
学部で優秀な成績を上げた学生に,奨学金,推薦入学,授業料の免除措置等の優遇措置を講じるべきである。そうでなければ,博士前期課程を他大学で過ごした学生を呼び戻すことはほとんど不可能である。
他学部(法科大学院を含む),他大学に在籍する優秀な学生で,明治学院での研究を希望する者に対するスカウトを奨励し,一定の要件をクリアした者に対して,推薦入学,奨励金の授与,授業料の免除等の優遇措置を講じるべきである。
他大学の博士前期課程の学生は,自らの大学の後期課程への進学を選択した場合,入学金等の学納金が免除されるのが常態である。したがって,優秀な学生をスカウトするには,それ同等以上の特典を用意する必要がある。研究者がどれほど魅力的な研究をしていたとしても,その魅力だけでは,学生を本研究科に引き寄せることはできないのである。
この点で,社会学研究科において,他大学が上記のような優遇措置を講じているために,入学者がゼロとなったのを契機に,「奨学金」のような返還が必要なもの(奨学金のせいで学生をローン地獄に落とすべきではない)とは異なり,返還不要の新たな制度として「奨励金」の創設に踏み切ったことは,大いに参考になる(学生研究奨励金規定(社会学研究科)参照)。
また,学術振興会の特別研究員へ応募させることも推奨されるべきである。大学院生の時に,この制度を利用した経験者からの聞き取り調査によると,学会での報告が不可欠であるが,もしも採用が決まれば,月額20万円の給与が給付され,さらに,毎年150万円以内の研究費が支給されるとのことである。
優秀な留学生をスカウトし,同様の優遇措置を与えるべきである。特に,名古屋大学,立命館大学,九州大学,早稲田大学は,多くの留学生を受け入れており,その中から優秀な留学生をスカウトすることも考慮に入れるべきである。
自らの母校に別れを告げ,高い学納金を納めて本研究科で学位を取得しようとする熱意のある学生に対しては,私たちは,それ相応の対応(最高度の研究指導と手厚い就職指導)をすべきである(学位授与の記録参照)。
日本語,外国語をとわず,原書を講読・輪読を奨励し,学生が,学部を超えて,自由に参加できるシステムを作るべきである。
優秀な学生に論文の査読委員として参加させる道を開くべきである。そして,査読委員となった学生には,報酬または特別の奨励金を授与すべきである。
学生同士の研究交流を促進するため,学部を超えた研修旅行を計画し,実施すべきである。「学生同士の切磋琢磨」こそが,何にもまして,研究者としての自覚と研究意欲を向上させるからである。
勉学にインセンティブを与えるため,懸賞論文を募集し,1等には50万円の賞金を与える制度を創設すべきである。社会学部の奨励金制度と同様の制度を採用した上で,この懸賞金をあわせると,優秀な学生をスカウトし,立派な研究者教員へと育て上げる前提が整うことになる。
現在の教授中心の研究指導を改善し,一定の経験を経た准教授を含めた研究指導体制へと制度改革を行うべきである。そして,研究指導を行った学生が博士号を取得した場合には,その教員にも共著者として学術論文を1本完成させたのと同等の評価を与えるべきである。
博士論文を書くまでの間においても,学生の研究が外部から高く評価されることが必要である。そのためには,学生の研究紀要への投稿を認めるとともに,査読制を採用し,その論文が外部からもきちんと評価されるように配慮すべきである。査読制のある研究会での報告なしには,20万円の給与と150万円以内の研究費が支給される学術振興会の特別研究員としての資格を得ることもままならないからである。
大学院生に対して,常に就職を意識させ,教員となった場合の学力と責任とを自覚させるべきである。
他大学の教員の接し方として,学生に,将来の同僚となるべき人物であるとの認識をもたせることが必要である。
他大学への研究会への出席を奨励し,交通費等の支給制度を創設すべきである。他大学での研究会の報告の機会が,就職の際に大きな役割を果たすからである。
最高度の研究指導を実現するためには,本研究科の研究環境が,最高度の研究・教育の環境へと整備されなければならない。研究の質は,その研究機関の図書館の質と正比例する。情報ネットワークの拠点となる図書館との綿密な連携がなによりも大切である。
講義のレジュメは,公開されないため,批判にさらされない。講義案を出版することができれば,講義も格段に充実する。したがって,講義案がどんどん出版されるような仕組みを作る必要がある。
出版された講義案,教科書類は,図書館,ラウンジ,広報室,学長・事務局室に備え付けるとともに,同僚に対して無償で献本することを可能にすべきである。
本学にも,出版助成の制度があり,運用されているにもかかわらず,それが,Webページで公開されていないのは問題であろう。
すぐれた論文・出版物を評価するため,明治学院賞を創設すべきである。名前は,部門に応じて,ヘボン賞とかDoForOthers賞とか,白金出版賞とか,いろいろ考えることができる(日本学術振興会賞参照)。
厳正な審査を行うため,外部委員を含めた審査委員会を立ち上げ,定期的に審査委員会を開催し,結果を公表すべきである。
研究・教育環境の整備には,原資が必要である。原資の調達も,また,教員の重要な業務である。
理科系の学者からの聞き取り調査によると,教授としての評価は,以下の3つの基準によるとのことである。
将来の教授をめざす若手教員には,このような評価基準を考慮して,今後の教育・研究計画を作成することを勧めたい。
充実したWebページを作成し,申請手続がスムーズに行くように,また,実例の報告集も作っておくとよい。
科研費をとれた教員には,科研費の期間が終了した後,3年間,次の申請の準備を兼ねて,研究費を増額すべきである。
skypeというソフトを使うと,教師と学生とが自宅にいながらにして,研究指導を受けることができる。無料のビデオ電話,チャット,資料の提示,論文の修正がすべて可能であり,数人の学生とのテレビ会議もできるため,ゼミも成り立つ。また,インフルエンザ対策としても効果的である。
学生が関心を持つ講師を集中講義として呼ぶことができると,学生の学力が飛躍的に向上する。また,指導教員の負担も軽減されるという効果もある。
博士号を取得した学生には祝賀会が開かれるが,指導教授にも祝賀会を開き,指導のノウハウを公表する正規の機会を与えるべきである。
博士号を取得させるためのノウハウについて,研究科員会(FD会議)の議題として,経験の交流をすべきである。
博士号を取得した場合,学生と指導教授の談話を広報に掲載すべきである。
優秀な学生をスカウトするために,教員の出張旅費を用意すべきである。
年に2回,研究会(時の人の招待講演)を兼ねた食事会を開催し,専門の違う教員間の情報交換の機会を作るべきである。
法学研究科専用のホームページ(パスワード付き)を立ち上げ,法学研究科委員会の日程,議題等を前もって提示するとともに,議事録等も整理して記載し,いつでも検索できるようにしておく。
また,会議の議題について,メーリング・リストなどで事前・事後に自由な議論ができる仕組みを作り,1時間弱の会議時間を有効に利用できるようにするので,活用をお願いしたい。
http://lawschool.jp/mgul/
ホームページとメーリングリストを有効に利用することによって,入学試験事務の簡素化を実現することができる。
ホームページを有効に利用することによって,各教員が毎年申請する研究費の申請手続,カリキュラムの作成等,様々な申請手続の簡素化を実現することができる。
委員会の事務手続きの簡素化,入学試験事務の簡素化,カリキュラム作成の簡素化を行うに際しては,事務的な仕事から若手教員を解放し,教育・研究に専念できるような環境を実現できるように配慮すべきである。
研究指導体制を改革するためには,博士後期課程に新たな入学者が出てきた段階で,一定の経験を積んだ若手教員が,入学者に対する研究指導を実施できる制度へと変更していく必要があると考える。