白金法学会「法学部・大学院ニュース」


法学研究科の新しい動き

2010年10月1日

大学院法学研究科委員長 加賀山 茂


T 教員養成に関する危機的状況


1.法学研究科存立基盤の危機

明治学院法学研究科は,2006年3月に博士前期課程を廃止し,博士後期課程からのみなる研究科として研究者や高度職業人の養成に特化した教育・研究活動を行っております。

ところが,博士前期課程を廃止したことによって,新たな問題が生じました。明治学院大学法学研究科に入学しようと思う人たちは,本学の法科大学院を経るか,他大学の博士前期課程を経る必要があります。しかし,法科大学院に入学した人のほとんどは,法曹実務家を志望しており,本学の法学研究科に再入学する人はまれです。また,他大学の博士前期課程に進んだ人は,その大学の博士後期課程に進学すると,入学金や奨学金の面でも優遇されるのに対して,本学の研究科に再入学する際には,そのような優遇措置を得ることができません。このことが,その人たちが,本学の法各研究科に帰ってくることの大きな障害となっているのです。したがって,このような困難を放置していたのでは,博士後期課程のみで法学研究科を維持・発展させることを決意した本学法学研究科は,その入学希望者を失うことになり,その存在自体の基盤が失われることになりかねません。

2.全国的な研究者養成の危機

しかも,このような危機的な状況は,わが国のすべての法学研究科が直面している危機でもあります。なぜかというと,その原因は,2004年にわが国で法叢養成に特化した法科大学院が設立されたことにあります。確かに,法科大学院の設立は,わが国の法学教育において,大きな意義を有します。しかし,その設立に際しては,十分な準備をする余裕が与えられなかったため,法科大学院の教員には過大な負担が課され,研究者の養成に割く時間を有していません。しかも,法科大学院の学生たちは法曹実務家を希望しているため,法科大学院おいては,法曹の養成は行えても,自らの後継者である研究者を養成することがほぼ不可能な状態となっています。  そして,全国の法学研究科も,法科大学院に学生を奪われて博士前期課程の入学希望者が激減し,かつ,これまで教員養成に従事していたベテランの教員が法科大学院へと移籍したため,教員養成をする人材の不足に悩むという状況に陥っているのです。


U 発想の転換とリクルートの必要性


3.危機的状態をチャンスと捉える

しかし,考えようによっては,全国的な危機的な状態こそ,われわれのチャンスと考えることもできます。「世間が不況と思っている時こそが,ビジネスチャンスである」と考えるのが有能な起業家の発想であるのと同様に,われわれも,全国的な教員養成の危機状態こそを,明治学院大学が教員養成で名をなすチャンスであると捉えようと思うのです。

従来は,明治学院では,後継者養成を東京大学,早稲田大学,慶応大学等のいわゆる一流大学に頼り切っており,皆が研究熱心で研究成果をあげていることと対比すると,後継者を含めた教員養成にはあまり熱心ではなかったように思われます。

しかし,この機運は徐々に変化しています。そのことは,課程博士の授与者とその就職率の変化に現れています。2006年に久々の課程博士号をベトナムからの留学生(グエン・コック・ビン)に授与して以来,2007年には台湾からの留学生(黄瑞宜)に,そして,2009年には,ウズベキスタンの留学生(ノジム・ジョン・フジャエフ)に課程博士を授与したばかりでなく,わが国の学生についても,2008年に課程博士号を授与して,東洋大学の講師(深川裕佳)として送り出し,2009年には,本学の法学部の出身者(上杉めぐみ)を内閣府を経て,愛知大学の講師として送り出しています。

このような実績からすると,大学法学研究科は,教員養成について,潜在的に大きな力を有していることが明らかです。

4.入学者を獲得するための環境の整備とリクルート活動

そこで,本年度から,他大学から本学の法学研究科へと入学しようとする志望者入学金の低額化,奨学金制度の充実について改革を行うことに着手しました。学長の理解もあって,来年度からは,他大学から博士後期課程へ入学を希望する人の入学金が大幅に値下げされることになりました。また,社会学研究科が,返還を要しない奨学金として「研究奨励金」の制度を立ち上げたことを参考にして,法学研究科においても,法学部教授会の理解をいただき,学業優秀な学生5名の限度で3年間にわたって,年間 30万円の奨励金を与える制度を創設することができました。

これと並行して,本学の法学研究科への入学を希望する人々の指針となるよう,正規のホームページと並行して,より詳しい,法学研究科独自のホームページを立ち上げることにしました(http://lawschool.jp/gsl/)。

このような努力の甲斐があって,本年度の学部合同のオープンキャンパスでは,複数の学生が法学研究科のブースを訪問してくれるようになり,しかも,関西の学生からは,上京を覚悟の上で,来年度の法学研究科博士後期課程の入学試験にトライしたいという,うれしいニュースを受け取ることができました。


V 今後の展望と夢


現在のわが国の法学部の現状は,2004年に法科大学院が設立されたために,教員養成という点で危機的な状況にあります。法科大学院では,実質的に教員養成の機能が停止しており,法学研究科は,法科大学院の設立の影響を受けて,入学希望者の激減に悩んでおります。しかし,そのような状況だからこそ,本学の法学研究科の研究者養成の潜在的能力を大きく引き出し,わが国で有数の研究者養成機関としてのチャンスがあると思われます。

法学研究科の入学定員は5名です。留学生を2名受け入れて,世界に人材を送り出す。わが国の学生を3名受け入れて,教員,または,高度職業人として他大学,他機関に送り出す。そして,そのうち1名は,明治学位大学の教員として帰ってきてもらう。そのような夢に向かって法学研究科の改革を進めていきたいと思っております。

スタッフと力を合わせて,なおいっそう,教育・研究活動に励んで参りますので,今後とも,ご支援,ご鞭撻のほど,よろしくお願い申し上げます。