はじめに

法科大学院における教育の基本方針は,司法制度改革審議会の「意見書−21世紀の日本を支える司法制度」(平成13年6月12日)が述べているように以下の通りである。

専門的な法知識を確実に習得させるとともに,それを批判的に検討し,また発展させていく創造的な思考力,あるいは事実に即して具体的な法的問題を解決していくために必要な法的分析能力や法的議論の能力等を育成する。

上記のような「創造的な思考力」を育成するためには,従来とは異なり,既存の体系的な知識やルールを教え,事例・判例は体系やルールを理解するために補助的に利用するのではなく,まず,学生に具体的な事実と問題を与え,それを法的に解決するために,どのような条文,ルール,学説等を駆使すべきかを学生自身が発見するように導き,さまざまな問題を解決していくことを通じて,おのずから,自分自身の体系が形成されていくように教育することが有用であると思われる。

このような教育方法が有効かどうかは,従来の教育方法と並行して実施してみて,それらの成果を比較検討してみる以外に,厳密な評価を行うことはできない。そこで,民法の契約法の講義の中で,履行の場所という,これまで余り注目されていないが,教育方法の違いによって,大きな差が出ると思われるテーマを選択し,創造教育の方法が有効かどうかを実験することにした。学生諸君は,以下の順序に従って,いずれも45分ずつ,予習を行い,講義を聴講し,試験を受けていただきたい。

  1. 左の目次に従って,予習を行う。目標は,1設例をよく読み,2.設問,および,8.練習問題に答えられるようになることである。
  2. 講義をよく聴く。そして,1.設例に関する2.設問,および,8.練習問題について,正しい回答ができるように,質問を行う。
  3. 講義の評価のために別に用意される試験問題を解く。試験時間は,予習時間,講義時間と同じく,45分間である。