2 設問

2.1. 設問の意味

通信販売の場合には,通常は,代金の支払場所は,振込み指定があるため,債権者である売主の住所(または,売主の取引銀行)となる。そして,代引き(代金引換払い)を利用する場合には,代金の支払場所は,品物の引渡場所である買主の住所となる。

代引きを利用しない前者の場合において,通常行われている振込み指定がない場合には,任意規定である民法が適用されることになる。その場合に適用される条文は,不思議なことに,債権各論の「売買代金の支払場所」に関する民法574条ではなく,より一般的な債権総論の「弁済の場所」に関する民法484条である。

本来ならば,債権各論と債権総論の規定がある場合には,「特別法は一般法に優先する」という原則にしたがって,特別法である債権各論の規定が適用されるはずである。それにもかかわらず,設例の場合のように,代金の後払いが原則となっている通信販売の場合に,特別法である「売買代金の支払の場所」の規定である民法574条が適用されず,一般法である「弁済の場所」に関する民法484条が適用されるのはなぜであろうか。これが,設問における,最初の問題提起である。

次に,通信販売で代引き(代金引換払い)を利用した場合には,代金の支払場所については,通常の通信販売の場合とは異なり,民法484条ではなく,民法574条が適用されることになる。では,通信販売で代引きを利用した場合に,民法574条が適用されるのはなぜであろうか。民法574条は,債権総論の民法484条とは全く異なる原則に基づいた,完全な例外規定なのであろうか。それとも,別の原則から導かれる理由の説明できる規定なのであろうか。これが,設問の第2の意味であり,設問2,設問3,設問4はすべて,この問題意識から出されている。