5 教科書・注釈書

民法484条

(1)特定物の引渡を目的とする債務は,債権発生の当時その物の存在した場所において弁済すべきである(484条前段)。但し,この債務も履行不能によって損害賠償債務に変じた場合にはつぎの原則に従う(大判昭11・12・8民2149頁)。
(2)特定物の引渡以外の給付を目的とする債務は,債権者の現時(弁済をなす時)の住所において弁済すべきである(484条後段)。但し,売買代金について例外がある。目的物の引渡と同時に代金を支払うべきときは,その引渡の場所が支払地となる(574条)。

我妻栄『新訂債権総論(民法講義W)』岩波書店(1964年)221頁

民法574条

フランス民法(1651)にならった意思推測の規定である(大判大3・1・20民録20・21。本条と異なる慣習があれば,92条により,これに従うべきである,とする)。目的物の引渡の場所につき特約がないときは,特定物売買においては契約当時目的物の存在した場所不特定物売買にあっては買主の現時の住所,において代金を支払うべきである(484)。もっとも目的物の引渡と同時に代金を払うべきではない場合はもちろん(目的物の引渡と代金の支払とが同時であることの不明な場合も同様〔大判大14・4・25新聞2465・12〕),たとい目的物の引渡と同時に代金を支払うべきときでも,すでに目的物の引渡だけを終わってしまった後においては,代金支払の場所は一般原則(484後段)によってこれを決すべく,したがって,売主の現時の住所において代金を支払うべきである(後者の場合につき同旨:大判昭2・12・27民集6・743。借家人の造作買取請求権の行使による造作代金の支払場所につき,造作の引渡を終わった後は債権者の住所地である,とするものである)。〔柚木馨・高木多喜男〕

柚木馨・高木多喜男『新版注釈民法(14)』〔債権(5)§§549〜586〕有斐閣(1993)417頁