6 関連判例

6.3 大阪高決平10・4・30判タ998号259頁,金商1054号49頁

大阪高裁(平10(ラ)第303号 移送決定に対する即時抗告事件 平成10年4月30日第11民事部決定 原決定取消 申立却下・確定)

【抗告人】 近松司 代理人 西田雅年,野田底吾,羽柴修,本上博丈

【相手方】 バールシステムズ株式会社 代表取締役 吉村直

【第1審】 神戸地裁(平9(ワ)第1904号 平成10年3月31日決定)

【判示事項】 給料を口座振込の方法により支払うことは、持参の方法による支払のためにとられているものと解されることから、給料支払義務の履行地は、債権者の所在地であるとした事例

主 文

一 原決定を取り消す。

二 本件移送申立てを却下する。

理 由

一 本件即時抗告の趣旨及び理由は別紙「抗告状」(写し)記載のとおりである。

二 当裁判所の判断

1 「事務所・営業所」所在地の裁判籍について(略)

2 義務履行地の裁判籍について

本件においては,前記1で認定したとおり,抗告人に対する給料の支払方法については、労働協約、就業規則等に定めがなく、相手方は、抗告人に対し、いわゆる口座振込の方法、具体的には毎月二五日に抗告人の指定した同人の住所地に近いさくら銀行甲南支店の抗告人名義の普通預金口座に振込送金する方法で支払っており、相手方は、右送金手続を東京都に所在する東京三菱銀行の支店において行っていたものである。すなわち、本件においては、相手方の本社所在地等に抗告人が出向いて取立ての方法で給料を支払うことは予定されておらず、民法の原則のとおりに抗告人の住所地で持参の方法で支払うことを予定しており、右口座振込の方法による支払は、右持参の方法による支払のためにとられているものと解される

そうすると、給料支払義務の履行地は、抗告人の住所地であるというべきである(相手方は、労働者が指定する金融機関の口座が存在する場所が義務履行地であるとすると、労働者が任意に義務履行地を選択できることになって不合理である旨主張するが、右主張はその前提を欠いて理由がない。)。

これに対し、相手方は、銀行振込の方法をとった場合、債務者が払込手続をとれば債権者への支払手続の確実性に欠けるところはないから、債務者が銀行の支店等に送金手続をした時点で義務の履行が終了したものと解すべきであり、送金手続を行う場所が義務履行地である、と主張する。しかし、銀行振込の場合、通常は債務者が払込手続をとれば債権者への支払手続の確実性に欠けるところはないとはいえるが、万一銀行の送金手続の過誤等で債権者の指定口座に入金されなかった場合には、債務者の義務が終了したことにならないのは明らかであり(現金書留の方法等で送金した場合も同様であり、郵便局等の過誤で債権者に送金されなかった場合には債務者の義務は終了したことにはならない。)、債権者の指定口座に入金されて初めて債務者の義務が終了するというべきであるので、相手方の主張はその前提を欠くものというべきである。すなわち、銀行振込は、義務履行のための一つの方法に過ぎず、本来の義務履行地はこれにより左右されるものではない。

したがって,本件においては,抗告人においては,抗告人は,相手方に対し,相手方による解雇が無効であるとして,解雇無効の確認の確認及び未払給料の支払を求めているところ,給料支払義務の履行地を管轄する裁判所は原審裁判所(神戸地方裁判所)であるから,原審裁判所に管轄があるというべきである。

(以下略)