2000年7月18日
名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂
大学教育は基本が大切であって,応用は,実務に任せるべきだとの議論がある。しかし,応用がきく基本でなければ意味がないのではないだろうか。ここでは,基本と応用との緊張関係について論じることにする。
急斜面を滑り降りてみて実感できる基本の大切さ |
私は,数年前からスキーを楽しむようになったが,スキーは,基本と応用との関係を知る上でとても教訓的なスポーツだと思う。急斜面で転がり落ちて初めて,基本の大切さを痛感できるし,緩斜面でいくら基本を勉強しても,実際の急斜面に行ってみなければ応用力はつかないことも体験できるからである。
基本ができていないと,応用はおぼつかない。このことは一般に言われていることである。しかし,本当に基本をマスターするつもりであれば,その前に,応用の厳しい試練を受けるべきである。応用の厳しさに接して,はじめて,人は,基本の大切さを理解し得るし,基本理論も,応用を念頭に入れてはじめて精緻なものとなりうるのである。
大切なことは,基本と応用を学ばせるタイミングであろう。動機付けのための応用の見学→基本の説明→実務のシミュレーション→基礎理論の習熟→簡単な実務の体験→基礎理論の掘り下げ→本格的な実務実習というように,実務と基本は交互に密接な関連を保ちながら教育がなされる必要がある。
確かに,大学における法曹教育は,基本法の理解を中心に据えるべきである。しかし,基本法を理解させるためには,常に,最前線の応用問題を提示しながら,その問題の解決に必要なものとして基本法の奥深さを理解させなければならない。また,提示される応用問題は,特別法を駆使してもうまく解決できるとは限らないものであって,特別法に対する理解を深めた上で,なおかつ,基本法の考え方が有用であることを示すものであることが望ましい。
教育方法としては,最先端の問題を扱うためには,個人で解決しようとはせず,できることなら,複数の教官(この中には,実務家が入っていることが望ましい)とチームを組んで,講義なり演習をすることが大切である。従来の縦割り的な講義を打開し,事例に即した,総合的な講義・演習の方法を開発すべきである。