編集:2004年12月27日
改定:2008年9月25日
明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂
民法のうち,文語・カタカナ書きの財産法部分(第1編,第2編,第3編)を現代語化し,それに合わせて,家族法(第4編,第5編)の語句を修正するとともに,保証契約の内容の適正化の観点から保証人の保護を図るため,貸金等根保証契約について極度額,元本確定期日等に関する規定を新設すること,その他の保証債務に関する規定の整備を行うための「民法の一部を改正する法律」が第161回国会において,2004年12月1日に制定・公布され,2005年4月1日(予定)から施行されることになった。
現在のところ,Webページで公開されている現代語化された民法正文(新旧対照表)は,条文番号がすべて漢数字で表現されており,横書きの文章に引用するには不便である。そこで,民法現代語化による民法の改正(2004年)を,教材の作成等に際して,引用しやすくするため,以下の方針で編集し直した。
民法を国民に理解しやすいものとするためその表記を現代用語化することは,筆者を含めた国民の念願であったから,今回の民法の現代語化は,大いに歓迎されるべきである。しかし,今回の現代語化において,理由が全く示されないままに,上記のように,法律用語(取消し⇔撤回,目的⇔目的物,抗弁権⇔抗弁)等の内容の変更が,整合性を欠く形で行われたことは,まことに残念であった。現代語化に際して,条文の番号まで変更することが必要であったかも,大いに疑問であろう(よく引用される4条→5条,12条→13条,20条→21条,377条→378条などは,特に混乱が予想される)。
今回の民法改正に関する公式の説明文書である法務省民事局参事官室「民法現代語化案補足説明(平成16年8月4日)」(http://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI50/refer02.pdf)の「2 民法現代語化の基本方針(3) 条番号の整序等」によれば,「各編の全条文を改正する第1編から第3編までについては,章・節・款の中途の欠番や枝番号・孫枝番号の解消等を目的として,必要最小限の条番号の整序を行っている」とある。ところが,民法1条の2は,第一編第一章の最後にある条文であり,枝番号を解消すべき対象である「章・節・款の中途の欠番や枝番号・孫枝番号」ではない。ところが,今回の改正で,不注意にも,これを第2条へと変更してしまったため,従来の3条,4条の条番号も連鎖的に変更されてしまった。しかし,これらは,明らかに,必要のない変更であり,立法の過誤というべきであろう。
現代語化に際しては,以下のように,内容を変更することなく,まず,現代語化に専念し,現代語化した後に,広く国民の意見を集約して,内容の改正を行うべきであるというのが,筆者の長年の主張であった(読売新聞1992年5月9日号「論点:法改正に不可欠な口語化」)。
民法を口語化することは,法律に対する市民の理解を促進するばかりでなく,民法を時代の要請にしたがって絶えず改正していくためにも不可欠である。「せっ かく改めるなら,条文も内容も一挙に改正しよう」などと欲を出したりせずに,民法のありのままを口語にして,その内容を国民の前にさらけ出し,その後,市 民参加の精神にのっとって公開の場で,内容の改正を行なうべきであろう。
上記で示した立法の過誤と思われる箇所は,一例に過ぎない。現代語化に際して内容の変更が行われた箇所については,より詳細な検討が必要であると思われる。
2006年(平成18年)6月6日に公布されたいわゆる公益法人関連三法,すなわち,①一般社団及び一般財団に関する法律(平成18年法48)〔(非営利)一般法人法〕,②公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18法49)〔公益認定法〕,および,③一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成18法50)〔(非営利法人関係法)整備法〕によって,改正前民法の法人に関する規定は,大きく改正されることになった。上記の公益法人関連三法,および,民法の法人関連規定の改正が施行されるのは,2008年(平成20年)12月1日からであるが,便宜のため,改正後の民法を現行法とし,改正前民法の規定を旧条文として掲載するとともに,旧条文が一般法人法のどの条文に吸収されたかを示すことにした。
なお,現行法においては,法人は,たとえば,以下のように分類されることになる。
法人の種類 | 根拠法 | 設立の 形態 |
法人数 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
非営利法人 | 広義の公益法人 | 狭義の公益法人 (改正前民法34条) |
(新)公益社団法人 | 公益法人認定法 | 認定 | (旧)24,893 (H18.10.1) |
(新)公益財団法人 | ||||||
特別法に基づく公益法人 | 医療法人 | 医療法 | 認可 | 41,720 (H18.3.31) |
||
学校法人 | 私立学校法 | 認可 | 7,875 (H18.3.31) |
|||
社会福祉法人 | 社会福祉法 | 認可 | 18,453 (H18.3.31) |
|||
宗教法人 | 宗教法人法 | 認証 | 183,200 (H17.12.31) |
|||
更正保護法人 | 更正保護事業法 | 認可 | 163 (H18.3.31) |
|||
特定非営利活動法人 (NPO) |
特定非営利活動促進法 (NPO法) |
認証 | 33,124 (H19.22.30) |
|||
政党法人 | 政党法人法 | 認証 | 7 (H20.3.31) |
|||
独立行政法人 等 | 独立行政法人通則法 等 | 認証 | 102 (H30.3.1) |
|||
非営利・ 非公益法人 |
特別法に基づく非公益法人 | 一般社団法人 | 非営利一般法人法 | 準則 | - | |
一般財団法人 | - | |||||
労働組合 | 労働組合法 | 準則 | 1,629 (H19.6.30) |
|||
消費生活協同組合 | 消費生活協同組合法 | 認可 | 1,097 (H17.3.31) |
|||
旧中間法人 | 旧中間法人法 | 準則 | 4,094 (H19.9.30) |
|||
農業協同組合 等 | 農業協同組合法 等 | 認可 | 844 (H18.3.31) |
|||
営利法人 | 株式会社 | 会社法 | 準則 | 1,516,000 (H18.3.31) |
||
合名会社 | ||||||
合資会社 | ||||||
合同会社 等 |
第1条(基本原則)
①私権は,公共の福祉に適合しなければならない。
②権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない。
③権利の濫用は,これを許さない。
第2条(解釈の基準) 〔旧・第1条ノ2〕←〔本来なら,そのまま第1条の2とすべきところ。第2条としたのは立法の過誤と思われる。〕
この法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として,解釈しなければならない。
第3条〔権利能力〕 〔旧・1条ノ3〕←〔本来なら第2条とすべきところ。第3条としたのは立法の過誤と思われる。〕
①私権の享有は,出生に始まる。
②外国人は,法令又は条約の規定により禁止される場合を除き,私権を享有する。
第4条(成年) 〔旧・第3条〕←〔本来なら,そのまま第3条とすべきところ。条番号の変更は立法の過誤と思われる。〕
年齢20歳をもって,成年とする。
第5条(未成年者の法律行為) 〔旧・第4条,第5条〕←〔本来なら条番号をそのままにすべきところ。条番号の変更は立法の過誤と思われる。〕
①未成年者が法律行為をするには,その法定代理人の同意を得なければならない。ただし,単に権利を得,又は義務を免れる法律行為については,この限りでない。 〔旧・第4条1項〕
②前項の規定に反する法律行為は,取り消すことができる。 〔旧・第4条2項〕
③第1項の規定にかかわらず,法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は,その目的の範囲内において,未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも,同様とする。 〔旧・第5条〕
第6条(未成年者の営業の許可)
①一種又は数種の営業を許された未成年者は,その営業に関しては,成年者と同一の行為能力を有する。
②前項の場合において,未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは,その法定代理人は,第四編(親族)の規定〔第823条(職業の許可)〕に従い,その許可を取り消し,又はこれを制限することができる。
第7条(後見開始の審判)
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については,家庭裁判所は,本人,配偶者,4親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人,補助監督人又は検察官の請求により,後見開始の審判をすることができる。
第8条(成年被後見人及び成年後見人)
後見開始の審判を受けた者は,成年被後見人とし,これに成年後見人を付する。
第9条(成年被後見人の法律行為)
成年被後見人の法律行為は,取り消すことができる。ただし,日用品の購入その他日常生活に関する行為については,この限りでない。
第10条(後見開始の審判の取消し)
第7条に規定する原因〔精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況〕が消滅したときは,家庭裁判所は,本人,配偶者,4親等内の親族,後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。以下同じ。),後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。以下同じ。)又は検察官の請求により,後見開始の審判を取り消さなければならない。
第11条(保佐開始の審判)
精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については,家庭裁判所は,本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,補助人,補助監督人又は検察官の請求により,保佐開始の審判をすることができる。ただし,第7条に規定する原因がある者〔精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者〕については,この限りでない。
第12条(被保佐人及び保佐人) 〔旧・第11条の2〕
保佐開始の審判を受けた者は,被保佐人とし,これに保佐人を付する。
第13条(保佐人の同意を要する行為等) 〔旧・第12条〕
①被保佐人が次に掲げる行為をするには,その保佐人の同意を得なければならない。ただし,第9条ただし書に規定する行為〔日用品の購入その他日常生活に関する行為〕については,この限りでない。
一 元本を領収し,又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与,和解又は仲裁合意(仲裁法(平成15年法律第138号)第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し,遺贈を放棄し,負担付贈与の申込みを承諾し,又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築,改築,増築又は大修繕をすること。
九 第602条〔短期賃貸借〕に定める期間を超える賃貸借をすること。
②家庭裁判所は,第11条本文に規定する者〔本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,補助人,補助監督人又は検察官〕又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により,被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし,第9条ただし書に規定する行為〔日用品の購入その他日常生活に関する行為〕については,この限りでない。
③保佐人の同意を得なければならない行為について,保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは,家庭裁判所は,被保佐人の請求により,保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
④保佐人の同意を得なければならない行為であって,その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは,取り消すことができる。
第14条(保佐開始の審判等の取消し) 〔旧・第13条〕
①第11条本文に規定する原因〔精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である〕が消滅したときは,家庭裁判所は,本人,配偶者,4親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,保佐人,保佐監督人又は検察官の請求により,保佐開始の審判を取り消さなければならない。
②家庭裁判所は,前項に規定する者の請求により,前条第2項の審判〔保佐人の同意を得なければならない旨の審判〕の全部又は一部を取り消すことができる。
第15条(補助開始の審判) 〔旧・第14条〕
①精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については,家庭裁判所は,本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人又は検察官の請求により,補助開始の審判をすることができる。ただし,第7条又は第11条本文に規定する原因がある者〔精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者又は精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者〕については,この限りでない。
②本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには,本人の同意がなければならない。
③補助開始の審判は,第17条第1項の審判〔補助人の同意を要する旨の審判〕又は第876条の9第1項の審判〔補助人に代理権を付与する旨の審判〕とともにしなければならない。
第16条(被補助人及び補助人) 〔旧・第15条〕
補助開始の審判を受けた者は,被補助人とし,これに補助人を付する。
第17条(補助人の同意を要する旨の審判等) 〔旧・第16条〕
①家庭裁判所は,第15条第1項本文に規定する者〔本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人又は検察官〕又は補助人若しくは補助監督人の請求により,被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし,その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は,第13条第1項に規定する行為〔保佐人の同意を要する行為〕の一部に限る。
②本人以外の者の請求により前項の審判をするには,本人の同意がなければならない。
③補助人の同意を得なければならない行為について,補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは,家庭裁判所は,被補助人の請求により,補助人の同意に代わる許可を与えることができる。
④補助人の同意を得なければならない行為であって,その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは,取り消すことができる。
第18条(補助開始の審判等の取消し) 〔旧・第17条〕
①第15条第1項本文に規定する原因〔精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である〕が消滅したときは,家庭裁判所は,本人,配偶者,4親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,補助人,補助監督人又は検察官の請求により,補助開始の審判を取り消さなければならない。
②家庭裁判所は,前項に規定する者の請求により,前条第1項の審判〔補助人の同意を要する旨の審判〕の全部又は一部を取り消すことができる。
③前条第1項の審判及び第876条の9第1項の審判〔補助人に代理権を付与する旨の審判〕をすべて取り消す場合には,家庭裁判所は,補助開始の審判を取り消さなければならない。
第19条(審判相互の関係) 〔旧・第18条〕
①後見開始の審判をする場合において,本人が被保佐人又は被補助人であるときは,家庭裁判所は,その本人に係る保佐開始又は補助開始の審判を取り消さなければならない。
②前項の規定は,保佐開始の審判をする場合において本人が成年被後見人若しくは被補助人であるとき,又は補助開始の審判をする場合において本人が成年被後見人若しくは被保佐人であるときについて準用する。
第20条(制限行為能力者の相手方の催告権) 〔旧・第19条〕
①制限行為能力者(未成年者,成年被後見人,被保佐人及び第17条第1項の審判〔補助人の同意を要する旨の審判〕を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の相手方は,その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後,その者に対し,1箇月以上の期間を定めて,その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において,その者がその期間内に確答を発しないときは,その行為を追認したものとみなす。
②制限行為能力者の相手方が,制限行為能力者が行為能力者とならない間に,その法定代理人,保佐人又は補助人に対し,その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において,これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも,同項後段と同様とする。
③特別の方式を要する行為については,前2項の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しないときは,その行為を取り消したものとみなす。
④制限行為能力者の相手方は,被保佐人又は第17条第1項の審判〔補助人の同意を要する旨の審判〕を受けた被補助人に対しては,第1項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において,その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは,その行為を取り消したものとみなす。
第21条(制限行為能力者の詐術) 〔旧・第20条〕
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは,その行為を取り消すことができない。
第22条(住所) 〔旧・第21条〕
各人の生活の本拠をその者の住所とする。
第23条(居所) 〔旧・第22条,旧・第23条〕
①住所が知れない場合には,居所を住所とみなす。〔旧・第22条〕
②日本に住所を有しない者は,その者が日本人又は外国人のいずれであるかを問わず,日本における居所をその者の住所とみなす。ただし,法例(明治31年法律第10号)その他準拠法を定める法律に従いその者の住所地法によるべき場合は,この限りでない。〔旧・第23条〕
第24条(仮住所)
ある行為について仮住所を選定したときは,その行為に関しては,その仮住所を住所とみなす。
第25条(不在者の財産の管理)
①従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも,同様とする。
②前項の規定による命令後,本人が管理人を置いたときは,家庭裁判所は,その管理人,利害関係人又は検察官の請求により,その命令を取り消さなければならない。
第26条(管理人の改任)
不在者が管理人を置いた場合において,その不在者の生死が明らかでないときは,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,管理人を改任することができる。
第27条(管理人の職務)
①前2条の規定〔不在者の財産の管理〕により家庭裁判所が選任した管理人は,その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において,その費用は,不在者の財産の中から支弁する。
②不在者の生死が明らかでない場合において,利害関係人又は検察官の請求があるときは,家庭裁判所は,不在者が置いた管理人にも,前項の目録の作成を命ずることができる。
③前2項に定めるもののほか,家庭裁判所は,管理人に対し,不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。
第28条(管理人の権限)
管理人は,第103条〔権限の定めのない代理人の権限〕に規定する権限を超える行為を必要とするときは,家庭裁判所の許可を得て,その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において,その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも,同様とする。
第29条(管理人の担保提供及び報酬)
①家庭裁判所は,管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。
②家庭裁判所は,管理人と不在者との関係その他の事情により,不在者の財産の中から,相当な報酬を管理人に与えることができる。
第30条(失踪(そう)の宣告)
①不在者の生死が7年間明らかでないときは,家庭裁判所は,利害関係人の請求により,失踪(そう)の宣告をすることができる。
②戦地に臨んだ者,沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が,それぞれ,戦争が止(や)んだ後,船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも,前項と同様とする。
第31条(失踪の宣告の効力)
前条第1項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に,同条第2項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に,死亡したものとみなす。
第32条(失踪の宣告の取消し)
①失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは,家庭裁判所は,本人又は利害関係人の請求により,失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において,その取消しは,失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
②失踪の宣告によって財産を得た者は,その取消しによって権利を失う。ただし,現に利益を受けている限度においてのみ,その財産を返還する義務を負う。
第32条の2〔同時死亡の推定〕
数人の者が死亡した場合において,そのうちの1人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは,これらの者は,同時に死亡したものと推定する。
旧第一節 法人の設立 → 節名を削除
第33条(法人の設立等)
①法人は,この法律その他の法律の規定によらなければ,成立しない。
②学術,技芸,慈善,祭祀,宗教その他の公益を目的とする法人〔一般法人,公益法人〕,営利事業を営むことを目的とする法人〔会社〕その他の法人〔地縁による団体〕の設立,組織,運営及び管理については,この法律その他の法律の定めるところによる。(平成18法50本項追加)←旧34条から
旧第33条(法人の成立) → 新・33条1項
法人は,この法律その他の法律の規定によらなければ,成立しない。
第34条(法人の能力)
法人は,法令の規定に従い,定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において,権利を有し,義務を負う。(平成18法50本条全部改正)←旧第43条から
旧第34条(公益法人の設立) → 新・33条2項,一般法人法3条(法人格)
学術,技芸,慈善,祭祀(し),宗教その他の公益に関する社団又は財団であって,営利を目的としないものは,主務官庁の許可を得て,法人とすることができる。
第35条(外国法人)
①外国法人は,国,国の行政区画及び外国会社を除き,その成立を認許しない。ただし,法律又は条約の規定により認許された外国法人は,この限りでない。
②前項の規定により認許された外国法人は,日本において成立する同種の法人と同一の私権を有する。ただし,外国人が享有することのできない権利及び法律又は条約中に特別の規定がある権利については,この限りでない。(平成18法50本条全部改正)←旧36条から
旧第35条(名称の使用制限) 〔旧・第34条の2〕,〔旧・第35条【営利を目的とする社団】は削除された〕 → 一般法人法5条2項,3項(名称),6条~8条(名称使用の禁止と責任)
社団法人又は財団法人でない者は,その名称中に社団法人若しくは財団法人という文字又はこれらと誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。
第36条(登記)
法人及び外国法人は,この法律その他の法令の定めるところにより,登記をするものとする。
旧第36条(外国法人) → 新・35条
①外国法人は,国,国の行政区画及び商事会社を除き,その成立を認許しない。ただし,法律又は条約の規定により認許された外国法人は,この限りでない。
②前項の規定により認許された外国法人は,日本において成立する同種の法人と同一の私権を有する。ただし,外国人が享有することのできない権利及び法律又は条約中に特別の規定がある権利については,この限りでない。
第37条(外国法人の登記) ← 旧・49条から
外国法人(第35条第1項ただし書に規定する外国法人に限る。以下この条において同じ。)が日本に事務所を設けたときは,3週間以内に,その事務所の所在地において,次に掲げる事項を登記しなければならない。
一 外国法人の設立の準拠法
二 目的
三 名称
四 事務所の所在場所
五 存続期間を定めたときは,その定め
六 代表者の氏名及び住所
②前項各号に掲げる事項に変更を生じたときは,3週間以内に,変更の登記をしなければならない。この場合において,登記前にあっては,その変更をもって第三者に対抗することができない。
③代表者の職務の執行を停止し,若しくはその職務を代行する者を選任する仮処分命令又はその仮処分命令を変更し,若しくは取り消す決定がされたときは,その登記をしなければならない。この場合においては,前項後段の規定を準用する。
④前2項の規定により登記すべき事項が外国において生じたときは,登記の期間は,その通知が到達した日から起算する。
⑤外国法人が初めて日本に事務所を設けたときは,その事務所の所在地において登記するまでは,第三者は,その法人の成立を否認することができる。
⑥外国法人が事務所を移転したときは,旧所在地においては3週間以内に移転の登記をし,新所在地においては4週間以内に第1項各号に掲げる事項を登記しなければならない。
⑦同一の登記所の管轄区域内において事務所を移転したときは,その移転を登記すれば足りる。
⑧外国法人の代表者が,この条に規定する登記を怠ったときは,50万円以下の過料に処する。
旧第37条(定款) → 一般法人法10条~14条(一般社団法人の定款の作成)
社団法人を設立しようとする者は,定款を作成し,次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 目的
二 名称
三 事務所の所在地
四 資産に関する規定
五 理事の任免に関する規定
六 社員の資格の得喪に関する規定
第38条から第84条まで【法人の設立・管理・解散に関する規定】削除(平成18法50)
旧第38条(定款の変更)←削除(平成18法50) → 一般法人法49条2項4号(社員総会の特別決議),146条(一般社団法人の定款変更)
①定款は,総社員の4分の3以上の同意があるときに限り,変更することができる。ただし,定款に別段の定めがあるときは,この限りでない。
②定款の変更は,主務官庁の認可を受けなければ,その効力を生じない。
旧第39条(寄附行為)←削除(平成18法50) → 一般法人法152条~156条(一般財団法人の定款),200条(一般財団法人の定款の変更)
財団法人を設立しようとする者は,その設立を目的とする寄附行為で,第37条第一号から第五号までに掲げる事項〔目的,名称,事務所の所在地,資産に関する規定,理事の任免に関する規定〕を定めなければならない。
旧第40条(裁判所による名称等の定め)←削除(平成18法50) → 対応規定なし。ただし一般法人法155条(一般財団法人の定款の認証)参照
財団法人を設立しようとする者が,その名称,事務所の所在地又は理事の任免の方法を定めないで死亡したときは,裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,これを定めなければならない。
旧第41条(贈与又は遺贈に関する規定の準用)←削除(平成18法50) → 一般法人法157条,158条(財産の拠出)
①生前の処分で寄附行為をするときは,その性質に反しない限り,贈与に関する規定を準用する。
②遺言で寄附行為をするときは,その性質に反しない限り,遺贈に関する規定を準用する。
旧第42条(寄附財産の帰属時期)←削除(平成18法50) 一般法人法164条,165条(一般財団法人の財産の帰属,錯誤無効;詐欺・強迫取消しの制限)
①生前の処分で寄附行為をしたときは,寄附財産は,法人の設立の許可があった時から法人に帰属する。
②遺言で寄附行為をしたときは,寄附財産は,遺言が効力を生じた時から法人に帰属したものとみなす。
旧第43条(法人の能力) ←削除(平成18法50) → 新第34条。なお,一般法人法3条(法人格)参照
法人は,法令の規定に従い,定款又は寄附行為で定められた目的の範囲内において,権利を有し,義務を負う。
旧第44条(法人の不法行為能力等)←削除(平成18法50) → 一般法人法78条(代表者の行為についての損害賠償責任),117条(役員等の第三者に対する損害賠償責任),118条(役員等の連帯責任)。その他関連規定として,一般法人法23条~26条(設立時社員等の責任),111条~116条(役員等の一般社団法人に対する損害賠償責任),166条~169条(一般財団法人の設立者等の責任),198条(一般財団法の役員等の一般財団法人に対する損害賠償責任)参照。
①法人は,理事その他の代理人がその職務を行うについて他人に加えた損害を賠償する責任を負う。
②法人の目的の範囲を超える行為によって他人に損害を加えたときは,その行為に係る事項の決議に賛成した社員及び理事並びにその決議を履行した理事その他の代理人は,連帯してその損害を賠償する責任を負う。
旧第45条(法人の設立の登記等)←削除(平成18法50) → 新36条,一般法人法22条(一般社団法人の成立),299条(登記の効力)
①法人は,その設立の日から,主たる事務所の所在地においては2週間以内に,その他の事務所の所在地においては3週間以内に,登記をしなければならない。
②法人の設立は,その主たる事務所の所在地において登記をしなければ,第三者に対抗することができない。
③法人の設立後に新たに事務所を設けたときは,その事務所の所在地においては3週間以内に,登記をしなければならない。
旧第46条(設立の登記の登記事項及び変更の登記等)←削除(平成18法50) → 一般法人法301条(一般社団法人の設立の登記),303条(一般社団法人の登記の変更),320条。その他,登記に関しては,305条~319条,321条~330条参照。
①法人の設立の登記において登記すべき事項は,次のとおりとする。
一 目的
二 名称
三 事務所の所在地
四 設立の許可の年月日
五 存立時期を定めたときは,その時期
六 資産の総額
七 出資の方法を定めたときは,その方法
八 理事の氏名及び住所
②前項各号に掲げる事項に変更を生じたときは,主たる事務所の所在地においては2週間以内に,その他の事務所の所在地においては3週間以内に,変更の登記をしなければならない。この場合において,それぞれ登記前にあっては,その変更をもって第三者に対抗することができない。
③理事の職務の執行を停止し,若しくはその職務を代行する者を選任する仮処分又はその仮処分の変更若しくは取消しがあったときは,主たる事務所及びその他の事務所の所在地においてその登記をしなければならない。この場合においては,前項後段の規定を準用する。
旧第47条(登記の期間の計算)←削除(平成18法50) → 一般法人整備法中経過規定154条~160条。この点については非訟事件手続法参照。
第45条第1項及び前条の規定〔法人の設立の登記〕により登記すべき事項であって,官庁の許可を要するものは,その許可書が到達した時から登記の期間を起算する。
旧第48条(事務所の移転の登記)←削除(平成18法50) 一般法人法304条
①法人が主たる事務所を移転したときは,2週間以内に,旧所在地においては移転の登記をし,新所在地においては第46条第1項各号に掲げる事項〔目的,名称,事務所の所在地,設立の許可の年月日,存立時期を定めたときはその時期,資産の総額,出資の方法を定めたときはその方法,理事の氏名及び住所〕を登記しなければならない。
②法人が主たる事務所以外の事務所を移転したときは,旧所在地においては3週間以内に移転の登記をし,新所在地においては4週間以内に第46条第1項各号に掲げる事項を登記しなければならない。〔項の追加〕
③同一の登記所の管轄区域内において事務所を移転したときは,その移転を登記すれば足りる。〔旧・第48条2項〕
旧第49条(外国法人の登記)←削除(平成18法50) → 新37条
①第45条第3項,第46条〔法人の設立の登記〕及び前条〔事務所の移転の登記〕の規定は,外国法人が日本に事務所を設ける場合について準用する。ただし,外国において生じた事項については,その通知が到達した時から登記の期間を起算する。
②外国法人が初めて日本に事務所を設けたときは,その事務所の所在地において登記するまでは,第三者は,その法人の成立を否認することができる。
旧第50条(法人の住所)←削除(平成18法50) →一般法人法4条(住所)
法人の住所は,その主たる事務所の所在地にあるものとする。
旧第51条(財産目録及び社員名簿)←削除(平成18法50) → 一般法人法120条(会計帳簿の作成及び保存),31条(社員名簿),32条(社員名簿の備置き及び閲覧等)
①法人は,設立の時及び毎年1月から3月までの間に財産目録を作成し,常にこれをその主たる事務所に備え置かなければならない。ただし,特に事業年度を設けるものは,設立の時及び毎事業年度の終了の時に財産目録を作成しなければならない。
②社団法人は,社員名簿を備え置き,社員の変更があるごとに必要な変更を加えなければならない。
旧第二節 法人の管理 → 節名を削除
旧第52条(理事)←削除(平成18法50) 一般法人法15条~21条(設立時理事),53条(理事等の説明義務),60条(機関の設置),63条~66条(役員の選任及び解任),75条(役員等に欠員を生じた場合の措置),76条(業務の執行),90条(理事会の権限等),92条(競業及び理事会設置一般社団法人との取引等の制限),93条~98条(理事会召集・決議・議事録等)
①法人には,1人又は数人の理事を置かなければならない。
②理事が数人ある場合において,定款又は寄附行為に別段の定めがないときは,法人の事務は,理事の過半数で決する。
旧第53条(法人の代表)←削除(平成18法50) → 一般法人法21条(設立時代表理事の選任等),77条(一般社団法人の代表)。その他一般法人法第3章1節3款~5款(設立時評議員の選任,設立時理事等による調査,設立時代表理事の選定等)参照
理事は,法人のすべての事務について,法人を代表する。ただし,定款の規定又は寄附行為の趣旨に反することはできず,また,社団法人にあっては総会の決議に従わなければならない。
旧第54条(理事の代理権の制限)←削除(平成18法50) → 一般法人法77条5項(一般社団法人の代表の権限に加えた制限)
理事の代理権に加えた制限は,善意の第三者に対抗することができない。
旧第55条(理事の代理行為の委任)←削除(平成18法50) → 一般法人法64条(一般社団法人と役員等との関係:委任),172条(一般社団法人と評議員等との関係:委任)
理事は,定款,寄附行為又は総会の決議によって禁止されていないときに限り,特定の行為の代理を他人に委任することができる。
旧第56条(仮理事)←削除(平成18法50) → 一般法人法79条2項(代表理事に欠員を生じた場合の措置),80条(理事の職務を代行する者の権限),175条2項(評議員に欠員を生じた場合の措置)
理事が欠けた場合において,事務が遅滞することにより損害を生ずるおそれがあるときは,裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,仮理事を選任しなければならない。
旧第57条(利益相反行為)←削除(平成18法50) → 一般法人法81条(一般社団法人と理事との間の訴えにおける法人の代表),84条(競業及び利益相反取引の制限,民法108条の適用除外(同法同条2号の場合)),197条(準用)
法人と理事との利益が相反する事項については,理事は,代理権を有しない。この場合においては,裁判所は,利害関係人又は検察官の請求により,特別代理人を選任しなければならない。
旧第58条(監事)←削除(平成18法50) 一般法人法60条~63条(監事),67条~69条(監事・会計監査人の任期),72条(監事の選任に関する監事の同意),99条(監事の権限),197条(準用)
法人には,定款,寄附行為又は総会の決議で,1人又は数人の監事を置くことができる。
旧第59条(監事の職務)←削除(平成18法50) → 一般法人法71条~75条(監事による会計監査人の解任,監事の選任における同意権,会計監査人の選任における同意権・意見の陳述,役員等に欠員を生じた場合の措置),99条~106条(監事),197条(準用)。その他一般法人法2章3節7款(一般社団法人の会計監査人),2章4節(一般社団法人の計算),3章2節4款(一般財団法人の理事,理事会,幹事及び会計監査人),3章3節(一般財団法人の計算)参照。
監事の職務は,次のとおりとする。
一 法人の財産の状況を監査すること。
二 理事の業務の執行の状況を監査すること。
三 財産の状況又は業務の執行について,法令,定款若しくは寄附行為に違反し,又は著しく不当な事項があると認めるときは,総会又は主務官庁に報告をすること。
四 前号の報告をするため必要があるときは,総会を招集すること。
旧第60条(通常総会)←削除(平成18法50) → 一般法人法36条(社員総会の招集)
社団法人の理事は,少なくとも毎年1回,社員の通常総会を開かなければならない。
旧第61条(臨時総会)←削除(平成18法50) → 一般法人法36条~38条(社員総会の招集)
①社団法人の理事は,必要があると認めるときは,いつでも臨時総会を招集することができる。
②総社員の5分の1以上から会議の目的である事項を示して請求があったときは,理事は,臨時総会を招集しなければならない。ただし,総社員の5分の1の割合については,定款でこれと異なる割合を定めることができる。
旧第62条(総会の招集)←削除(平成18法50) → 一般法人法39条~42条(社員総会の招集,参考書類・議決権行使書面の交付)
総会の招集の通知は,会日より少なくとも5日前に,その会議の目的である事項を示し,定款で定めた方法に従ってしなければならない。
旧第63条(社団法人の事務の執行)←削除(平成18法50) → 一般法人法35条(社員総会の権限)
社団法人の事務は,定款で理事その他の役員に委任したものを除き,すべて総会の決議によって行う。
旧第64条(総会の決議事項)←削除(平成18法50) → 一般法人法43条~45条(社員提案権),70条(会計監査人の解任),81条(一般社団法人と理事との間の訴訟における法人の代表の選任),89条(理事の報酬等),105条(監事の報酬等)
総会においては,第62条〔総会の招集〕の規定によりあらかじめ通知をした事項についてのみ,決議をすることができる。ただし,定款に別段の定めがあるときは,この限りでない。
旧第65条(社員の表決権)←削除(平成18法50) → 一般法人法48条(決議権の数),50条~52条(議決権の代理行使),58条(社員総会の決議の省略)
①各社員の表決権は,平等とする。
②総会に出席しない社員は,書面で,又は代理人によって表決をすることができる。
③前2項の規定は,定款に別段の定めがある場合には,適用しない。
旧第66条(表決権のない場合)←削除(平成18法50) → 一般法人法84条(競業及び利益相反取引の制限)
社団法人と特定の社員との関係について議決をする場合には,その社員は,表決権を有しない。
旧第67条(法人の業務の監督)←削除(平成18法50) → 一般法人法46条4項(検査役の裁判所への報告),47条(裁判所による社員総会召集等の決定),86条5項(業務の執行に関する検査役の裁判所への報告),87条(裁判所による社員総会召集等の決定)
①法人の業務は,主務官庁の監督に属する。
②主務官庁は,法人に対し,監督上必要な命令をすることができる。
③主務官庁は,職権で,いつでも法人の業務及び財産の状況を検査することができる。
旧第三節 法人の解散 → 節名を削除
旧第68条(法人の解散事由)←削除(平成18法50) → 一般法人法148条(一般社団法人の解散の事由),202条(一般財団法人の解散の事由)
①法人は,次に掲げる事由によって解散する。
一 定款又は寄附行為で定めた解散事由の発生
二 法人の目的である事業の成功又はその成功の不能
三 破産手続開始の決定
四 設立の許可の取消し
②社団法人は,前項各号に掲げる事由のほか,次に掲げる事由によって解散する。
一 総会の決議
二 社員が欠けたこと。
旧第69条(法人の解散の決議)←削除(平成18法50) → 一般法人法49条2項6号(社員総会の決議),148条3号(解散の事由)
社団法人は,総社員の4分の3以上の賛成がなければ,解散の決議をすることができない。ただし,定款に別段の定めがあるときは,この限りでない。
旧第70条(法人についての破産手続の開始)←削除(平成18法50) → 一般法人法202条1項5号(解散の事由・破産手続開始の決定)
①法人がその債務につきその財産をもって完済することができなくなった場合には,裁判所は,理事若しくは債権者の申立てにより又は職権で,破産手続開始の決定をする。
②前項に規定する場合には,理事は,直ちに破産手続開始の申立てをしなければならない。
旧第71条(法人の設立の許可の取消し)←削除(平成18法50) → 一般法人法261条(解散命令)
法人がその目的以外の事業をし,又は設立の許可を得た条件若しくは主務官庁の監督上の命令に違反し,その他公益を害すべき行為をした場合において,他の方法により監督の目的を達することができないときは,主務官庁は,その許可を取り消すことができる。正当な事由なく引き続き3年以上事業をしないときも,同様とする。
旧第72条(残余財産の帰属)←削除(平成18法50) → 一般法人法239条(残余財産の帰属)
①解散した法人の財産は,定款又は寄附行為で指定した者に帰属する。
②定款又は寄附行為で権利の帰属すべき者を指定せず,又はその者を指定する方法を定めなかったときは,理事は,主務官庁の許可を得て,その法人の目的に類似する目的のために,その財産を処分することができる。ただし,社団法人にあっては,総会の決議を経なければならない。
③前2項の規定により処分されない財産は,国庫に帰属する。
旧第73条(清算法人)←削除(平成18法50) → 一般法人法150条(一般社団法人の継続),207条(清算法人の能力)
解散した法人は,清算の目的の範囲内において,その清算の結了に至るまではなお存続するものとみなす。
旧第74条(清算人)←削除(平成18法50) → 一般法人法208条(清算法人の機関),209条(清算人の就任)
法人が解散したときは,破産手続開始の決定による解散の場合を除き,理事がその清算人となる。ただし,定款若しくは寄附行為に別段の定めがあるとき,又は総会において理事以外の者を選任したときは,この限りでない。
旧第75条(裁判所による清算人の選任)←削除(平成18法50) → 一般法人法209条(清算人の就任)
前条の規定により清算人となる者がないとき,又は清算人が欠けたため損害を生ずるおそれがあるときは,裁判所は,利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で,清算人を選任することができる。
旧第76条(清算人の解任)←削除(平成18法50) → 一般法人法210条(清算人の解任)
重要な事由があるときは,裁判所は,利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で,清算人を解任することができる。
旧第77条(清算人及び解散の登記及び届出)←削除(平成18法50) → 一般法人法308条~310条(解散・継続・清算人・清算決了の登記)
①清算人は,破産手続開始の決定及び設立の許可の取消しの場合を除き,解散後主たる事務所の所在地においては2週間以内に,その他の事務所の所在地においては3週間以内に,その氏名及び住所並びに解散の原因及び年月日の登記をし,かつ,これらの事項を主務官庁に届け出なければならない。
②清算中に就職した清算人は,就職後主たる事務所の所在地においては2週間以内に,その他の事務所の所在地においては3週間以内に,その氏名及び住所の登記をし,かつ,これらの事項を主務官庁に届け出なければならない。
③前項の規定は,設立の許可の取消しによる解散の際に就職した清算人について準用する。
旧第78条(清算人の職務及び権限)←削除(平成18法50) → 212条~214条(清算人の職務等)
①清算人の職務は,次のとおりとする。
一 現務の結了
二 債権の取立て及び債務の弁済
三 残余財産の引渡し
②清算人は,前項各号に掲げる職務を行うために必要な一切の行為をすることができる。
旧第79条(債権の申出の催告等)←削除(平成18法50) → 一般法人法233条~238条(債務の弁済等)
①清算人は,その就職の日から2箇月以内に,少なくとも3回の公告をもって,債権者に対し,一定の期間内にその債権の申出をすべき旨の催告をしなければならない。この場合において,その期間は,2箇月を下ることができない。
②前項の公告には,債権者がその期間内に申出をしないときは,その債権は清算から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし,清算人は,知れている債権者を除斥することができない。
③清算人は,知れている債権者には,各別にその申出の催告をしなければならない。
旧第80条(期間経過後の債権の申出)←削除(平成18法50) 一般法人法238条2項(清算からの除斥)
前条第1項の期間の経過後に申出をした債権者は,法人の債務が完済された後まだ権利の帰属すべき者に引き渡されていない財産に対してのみ,請求をすることができる。
旧第81条(清算法人についての破産手続の開始)←削除(平成18法50) → 一般法人法215条(清算法人についての破産手続の開始)
①清算中に法人の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは,清算人は,直ちに破産手続開始の申立てをし,その旨を公告しなければならない。
②清算人は,清算中の法人が破産手続開始の決定を受けた場合において,破産管財人にその事務を引き継いだときは,その任務を終了したものとする。
③前項に規定する場合において,清算中の法人が既に債権者に支払い,又は権利の帰属すべき者に引き渡したものがあるときは,破産管財人は,これを取り戻すことができる。
旧第82条(裁判所による監督)←削除(平成18法50) → 一般法人法216条(裁判所の選任する清算人の報酬)参照
①法人の解散及び清算は,裁判所の監督に属する。
②裁判所は,職権で,いつでも前項の監督に必要な検査をすることができる。
旧第83条(清算結了の届出)←削除(平成18法50) → 一般法人法240条(清算事務の終了等)
清算が結了したときは,清算人は,その旨を主務官庁に届け出なければならない。
旧第四節 補則 → 節名を削除
旧第84条(主務官庁の権限の委任) 〔旧・第83条ノ2〕←削除(平成18法50) → もともと民法に規定すべき内容ではなく,完全に削除された。
この章に規定する主務官庁の権限は,政令で定めるところにより,その全部又は一部を国に所属する行政庁に委任することができる。
旧第84条の2(都道府県の執行機関による主務官庁の事務の処理) 〔旧・第83条ノ3〕←削除(平成18法50) → もともと民法に規定すべき内容ではなく,完全に削除された。
①この章に規定する主務官庁の権限に属する事務は,政令で定めるところにより,都道府県の知事その他の執行機関(以下「都道府県の執行機関」という。)においてその全部又は一部を処理することとすることができる。
②前項の場合において,主務官庁は,政令で定めるところにより,法人に対する監督上の命令又は設立の許可の取消しについて,都道府県の執行機関に対し指示をすることができる。
③第1項の場合において,主務官庁は,都道府県の執行機関がその事務を処理するに当たってよるべき基準を定めることができる。
④主務官庁が前項の基準を定めたときは,これを告示しなければならない。
旧第五節 罰則 → 節名を削除
旧第84条の3〔罰則〕←削除(平成18法50) → 一般法人法334条~344条(罰則)
①法人の理事,監事又は清算人は,次の各号のいずれかに該当する場合には,50万円以下の過料に処する。 〔旧・第84条〕
一 この章に規定する登記を怠ったとき。
二 第51条〔財産目録及び社員名簿〕の規定に違反し,又は財産目録若しくは社員名簿に不正の記載をしたとき。
三 第67条第3項〔法人の業務及び財産の状況の検査〕又は第82条第2項〔法人の解散及び清算の監督に必要な検査〕の規定による主務官庁,その権限の委任を受けた国に所属する行政庁若しくはその権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関又は裁判所の検査を妨げたとき。
四 第67条第2項〔法人の業務の監督上必要な命令〕の規定による主務官庁又はその権限の委任を受けた国に所属する行政庁若しくはその権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関の監督上の命令に違反したとき。 〔旧・第84条第三号ノ二〕
五 官庁,主務官庁の権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関又は総会に対し,不実の申立てをし,又は事実を隠ぺいしたとき。 〔旧・第84条第四号〕
六 第70条第2項〔理事による破産手続の開始の申立て〕又は第81条第1項〔清算人による破産手続の開始の申立て〕の規定による破産手続開始の申立てを怠ったとき。 〔旧・第84条第五号〕
七 第79条第1項〔精算人による債権の申出の催告〕又は第81条第1項〔清算人による破産手続の開始の申立て〕の公告を怠り,又は不正の公告をしたとき。 〔旧・第84条第六号〕
②第35条〔名称の使用制限〕の規定に違反した者は,10万円以下の過料に処する。 〔旧・第84条ノ2〕
第85条(定義)
この法律において「物」とは,有体物をいう。
第86条(不動産及び動産)
①土地及びその定着物は,不動産とする。
②不動産以外の物は,すべて動産とする。
③無記名債権は,動産とみなす。
第87条(主物及び従物)
①物の所有者が,その物の常用に供するため,自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは,その附属させた物を従物とする。
②従物は,主物の処分に従う。
第88条(天然果実及び法定果実)
①物の用法に従い収取する産出物を天然果実とする。
②物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする。
第89条(果実の帰属)
①天然果実は,その元物から分離する時に,これを収取する権利を有する者に帰属する。
②法定果実は,これを収取する権利の存続期間に応じて,日割計算によりこれを取得する。
第90条(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は,無効とする。
第91条(任意規定と異なる意思表示)
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは,その意思に従う。
第92条(任意規定と異なる慣習)
法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において,法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは,その慣習に従う。
第93条(心裡(り)留保)
意思表示は,表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても,そのためにその効力を妨げられない。ただし,相手方が表意者の真意を知り,又は知ることができたときは,その意思表示は,無効とする。
第94条(虚偽表示)
①相手方と通じてした虚偽の意思表示は,無効とする。
②前項の規定による意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することができない。
第95条(錯誤)
意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。ただし,表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自らその無効を主張することができない。
第96条(詐欺又は強迫)
①詐欺又は強迫による意思表示は,取り消すことができる。
②相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては,相手方がその事実を知っていたときに限り,その意思表示を取り消すことができる。
③前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは,善意の第三者に対抗することができない。
第97条(隔地者に対する意思表示)
①隔地者に対する意思表示は,その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
②隔地者に対する意思表示は,表意者が通知を発した後に死亡し,又は行為能力を喪失したときであっても,そのためにその効力を妨げられない。
第98条(公示による意思表示) 〔旧・第97条ノ2〕
①意思表示は,表意者が相手方を知ることができず,又はその所在を知ることができないときは,公示の方法によってすることができる。
②前項の公示は,公示送達に関する民事訴訟法(平成8年法律第109号)の規定に従い,裁判所の掲示場に掲示し,かつ,その掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載して行う。ただし,裁判所は,相当と認めるときは,官報への掲載に代えて,市役所,区役所,町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができる。
③公示による意思表示は,最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間を経過した時に,相手方に到達したものとみなす。ただし,表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは,到達の効力を生じない。
④公示に関する手続は,相手方を知ることができない場合には表意者の住所地の,相手方の所在を知ることができない場合には相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属する。
⑤裁判所は,表意者に,公示に関する費用を予納させなければならない。
第98条の2(意思表示の受領能力) 〔旧・第98条〕
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは,その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし,その法定代理人がその意思表示を知った後は,この限りでない。
第99条(代理行為の要件及び効果)
①代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は,本人に対して直接にその効力を生ずる。
②前項の規定は,第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。
第100条(本人のためにすることを示さない意思表示)
代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は,自己のためにしたものとみなす。ただし,相手方が,代理人が本人のためにすることを知り,又は知ることができたときは,前条第1項〔顕名代理〕の規定を準用する。
第101条(代理行為の瑕疵(かし))
①意思表示の効力が意思の不存在,詐欺,強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には,その事実の有無は,代理人について決するものとする。
②特定の法律行為をすることを委託された場合において,代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは,本人は,自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても,同様とする。
第102条(代理人の行為能力)
代理人は,行為能力者であることを要しない。
第103条(権限の定めのない代理人の権限)
権限の定めのない代理人は,次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において,その利用又は改良を目的とする行為
第104条(任意代理人による復代理人の選任)
委任による代理人は,本人の許諾を得たとき,又はやむを得ない事由があるときでなければ,復代理人を選任することができない。
第105条(復代理人を選任した代理人の責任)
①代理人は,前条の規定により復代理人を選任したときは,その選任及び監督について,本人に対してその責任を負う。
②代理人は,本人の指名に従って復代理人を選任したときは,前項の責任を負わない。ただし,その代理人が,復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら,その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは,この限りでない。
第106条(法定代理人による復代理人の選任)
法定代理人は,自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において,やむを得ない事由があるときは,前条第1項〔選任及び監督〕の責任のみを負う。
第107条(復代理人の権限等)
①復代理人は,その権限内の行為について,本人を代表する。
②復代理人は,本人及び第三者に対して,代理人と同一の権利を有し,義務を負う。
第108条(自己契約及び双方代理)
同一の法律行為については,相手方の代理人となり,又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし,債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。
第109条(代理権授与の表示による表見代理)
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について,その責任を負う。ただし,第三者が,その他人が代理権を与えられていないことを知り,又は過失によって知らなかったときは,この限りでない。
第110条(権限外の行為の表見代理)
前条〔代理権授与の表示による表見代理〕本文の規定は,代理人がその権限外の行為をした場合において,第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
第111条(代理権の消滅事由)
①代理権は,次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人の死亡
二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
②委任による代理権は,前項各号に掲げる事由のほか,委任の終了によって消滅する。
第112条(代理権消滅後の表見代理)
代理権の消滅は,善意の第三者に対抗することができない。ただし,第三者が過失によってその事実を知らなかったときは,この限りでない。
第113条(無権代理)
①代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は,本人がその追認をしなければ,本人に対してその効力を生じない。
②追認又はその拒絶は,相手方に対してしなければ,その相手方に対抗することができない。ただし,相手方がその事実を知ったときは,この限りでない。
第114条(無権代理の相手方の催告権)
前条の場合において,相手方は,本人に対し,相当の期間を定めて,その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において,本人がその期間内に確答をしないときは,追認を拒絶したものとみなす。
第115条(無権代理の相手方の取消権【撤回権】)
代理権を有しない者がした契約は,本人が追認をしない間は,相手方が取り消す【撤回する】ことができる。ただし,契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは,この限りでない。
第116条(無権代理行為の追認)
追認は,別段の意思表示がないときは,契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,第三者の権利を害することはできない。
第117条(無権代理人の責任)
①他人の代理人として契約をした者は,自己の代理権を証明することができず,かつ,本人の追認を得ることができなかったときは,相手方の選択に従い,相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
②前項の規定は,他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき,若しくは過失によって知らなかったとき,又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは,適用しない。
第118条(単独行為の無権代理)
単独行為については,その行為の時において,相手方が,代理人と称する者が代理権を有しないで行為をすることに同意し,又はその代理権を争わなかったときに限り,第113条から前条まで〔無権代理〕の規定を準用する。代理権を有しない者に対しその同意を得て単独行為をしたときも,同様とする。
第119条(無効な行為の追認)
無効な行為は,追認によっても,その効力を生じない。ただし,当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは,新たな行為をしたものとみなす。
第120条(取消権者)
①行為能力の制限によって取り消すことができる行為は,制限行為能力者又はその代理人,承継人若しくは同意をすることができる者に限り,取り消すことができる。
②詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は,瑕疵(かし)ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り,取り消すことができる。
第121条(取消しの効果)
取り消された行為は,初めから無効であったものとみなす。ただし,制限行為能力者は,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う。
第122条(取り消すことができる行為の追認)
取り消すことができる行為は,第120条〔取消権者〕に規定する者が追認したときは,以後,取り消すことができない。ただし,追認によって第三者の権利を害することはできない。
第123条(取消し及び追認の方法)
取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には,その取消し又は追認は,相手方に対する意思表示によってする。
第124条(追認の要件)
①追認は,取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ,その効力を生じない。
②成年被後見人は,行為能力者となった後にその行為を了知したときは,その了知をした後でなければ,追認をすることができない。
③前2項の規定は,法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をする場合には,適用しない。
第125条(法定追認)
前条の規定により追認をすることができる時以後に,取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは,追認をしたものとみなす。ただし,異議をとどめたときは,この限りでない。
一 全部又は一部の履行
二 履行の請求
三 更改
四 担保の供与
五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
六 強制執行
第126条(取消権の期間の制限)
取消権は,追認をすることができる時から5年間行使しないときは,時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも,同様とする。
第127条(条件が成就した場合の効果)
①停止条件付法律行為は,停止条件が成就した時からその効力を生ずる。
②解除条件付法律行為は,解除条件が成就した時からその効力を失う。
③当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは,その意思に従う。
第128条(条件の成否未定の間における相手方の利益の侵害の禁止)
条件付法律行為の各当事者は,条件の成否が未定である間は,条件が成就した場合にその法律行為から生ずべき相手方の利益を害することができない。
第129条(条件の成否未定の間における権利の処分等)
条件の成否が未定である間における当事者の権利義務は,一般の規定に従い,処分し,相続し,若しくは保存し,又はそのために担保を供することができる。
第130条(条件の成就の妨害)
条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは,相手方は,その条件が成就したものとみなすことができる。
第131条(既成条件)
①条件が法律行為の時に既に成就していた場合において,その条件が停止条件であるときはその法律行為は無条件とし,その条件が解除条件であるときはその法律行為は無効とする。
②条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において,その条件が停止条件であるときはその法律行為は無効とし,その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする。
③前2項に規定する場合において,当事者が条件が成就したこと又は成就しなかったことを知らない間は,第128条〔条件の成否未定の間における相手方の利益の侵害の禁止〕及び第129条〔条件の成否未定の間における権利の処分等〕の規定を準用する。
第132条(不法条件)
不法な条件を付した法律行為は,無効とする。不法な行為をしないことを条件とするものも,同様とする。
第133条(不能条件)
①不能の停止条件を付した法律行為は,無効とする。
②不能の解除条件を付した法律行為は,無条件とする。
第134条(随意条件)
停止条件付法律行為は,その条件が単に債務者の意思のみに係るときは,無効とする。
第135条(期限の到来の効果)
①法律行為に始期を付したときは,その法律行為の履行は,期限が到来するまで,これを請求することができない。
②法律行為に終期を付したときは,その法律行為の効力は,期限が到来した時に消滅する。
第136条(期限の利益及びその放棄)
①期限は,債務者の利益のために定めたものと推定する。
②期限の利益は,放棄することができる。ただし,これによって相手方の利益を害することはできない。
第137条(期限の利益の喪失)
次に掲げる場合には,債務者は,期限の利益を主張することができない。
一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二 債務者が担保を滅失させ,損傷させ,又は減少させたとき。
三 債務者が担保を供する義務を負う場合において,これを供しないとき。
第138条(期間の計算の通則)
期間の計算方法は,法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き,この章の規定に従う。
第139条(期間の起算1)
時間によって期間を定めたときは,その期間は,即時から起算する。
第140条〔期間の起算2〕
日,週,月又は年によって期間を定めたときは,期間の初日は,算入しない。ただし,その期間が午前零時から始まるときは,この限りでない。
第141条(期間の満了1)
前条の場合には,期間は,その末日の終了をもって満了する。
第142条〔期間の満了2〕
期間の末日が日曜日,国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日その他の休日に当たるときは,その日に取引をしない慣習がある場合に限り,期間は,その翌日に満了する。
第143条(暦による期間の計算)
①週,月又は年によって期間を定めたときは,その期間は,暦に従って計算する。
②週,月又は年の初めから期間を起算しないときは,その期間は,最後の週,月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし,月又は年によって期間を定めた場合において,最後の月に応当する日がないときは,その月の末日に満了する。
第144条(時効の効力)
時効の効力は,その起算日にさかのぼる。
第145条(時効の援用)
時効は,当事者が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。
第146条(時効の利益の放棄)
時効の利益は,あらかじめ放棄することができない。
第147条(時効の中断事由)
時効は,次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え,仮差押え又は仮処分
三 承認
第148条(時効の中断の効力が及ぶ者の範囲)
前条の規定による時効の中断は,その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ,その効力を有する。
第149条(裁判上の請求)
裁判上の請求は,訴えの却下又は取下げの場合には,時効の中断の効力を生じない。
第150条(支払督促)
支払督促は,債権者が民事訴訟法第392条〔期間の徒過による支払督促の失効〕に規定する期間内〔仮執行の宣言の申立てをすることができる時から30日以内〕に仮執行の宣言の申立てをしないことによりその効力を失うときは,時効の中断の効力を生じない。
第151条(和解及び調停の申立て)
和解の申立て又は民事調停法(昭和26年法律第222号)若しくは家事審判法(昭和22年法律第152号)による調停の申立ては,相手方が出頭せず,又は和解若しくは調停が調わないときは,1箇月以内に訴えを提起しなければ,時効の中断の効力を生じない。
第152条(破産手続参加等)
破産手続参加,再生手続参加又は更生手続参加は,債権者がその届出を取り下げ,又はその届出が却下されたときは,時効の中断の効力を生じない。
第153条(催告)
催告は,6箇月以内に,裁判上の請求,支払督促の申立て,和解の申立て,民事調停法若しくは家事審判法による調停の申立て,破産手続参加,再生手続参加,更生手続参加,差押え,仮差押え又は仮処分をしなければ,時効の中断の効力を生じない。
第154条(差押え,仮差押え及び仮処分1)
差押え,仮差押え及び仮処分は,権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは,時効の中断の効力を生じない。
第155条〔差押え,仮差押え及び仮処分2〕
差押え,仮差押え及び仮処分は,時効の利益を受ける者に対してしないときは,その者に通知をした後でなければ,時効の中断の効力を生じない。
第156条(承認)
時効の中断の効力を生ずべき承認をするには,相手方の権利についての処分につき行為能力又は権限があることを要しない。
第157条(中断後の時効の進行)
①中断した時効は,その中断の事由が終了した時から,新たにその進行を始める。
②裁判上の請求によって中断した時効は,裁判が確定した時から,新たにその進行を始める。
第158条(未成年者又は成年被後見人と時効の停止) 〔旧・第158条,第159条〕
①時効の期間の満了前6箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは,その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は,その未成年者又は成年被後見人に対して,時効は,完成しない。〔旧・第158条〕
②未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父,母又は後見人に対して権利を有するときは,その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は,その権利について,時効は,完成しない。 〔旧・第159条〕
第159条(夫婦間の権利の時効の停止) 〔旧・第159条ノ2〕
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については,婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
第160条(相続財産に関する時効の停止)
相続財産に関しては,相続人が確定した時,管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から6箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
第161条(天災等による時効の停止)
時効の期間の満了の時に当たり,天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは,その障害が消滅した時から2週間を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
第162条(所有権の取得時効)
①20年間,所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人の物を占有した者は,その所有権を取得する。
②10年間,所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人の物を占有した者は,その占有の開始の時に,善意であり,かつ,過失がなかったときは,その所有権を取得する。
第163条(所有権以外の財産権の取得時効)
所有権以外の財産権を,自己のためにする意思をもって,平穏に,かつ,公然と行使する者は,前条の区別に従い20年又は10年を経過した後,その権利を取得する。
第164条(占有の中止等による取得時効の中断1)
第162条〔所有権の取得時効〕の規定による時効は,占有者が任意にその占有を中止し,又は他人によってその占有を奪われたときは,中断する。
第165条〔占有の中止等による取得時効の中断2〕
前条の規定は,第163条〔所有権以外の財産権の取得時効〕の場合について準用する。
第166条(消滅時効の進行等)
①消滅時効は,権利を行使することができる時から進行する。
②前項の規定は,始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために,その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし,権利者は,その時効を中断するため,いつでも占有者の承認を求めることができる。
第167条(債権等の消滅時効)
①債権は,10年間行使しないときは,消滅する。
②債権又は所有権以外の財産権は,20年間行使しないときは,消滅する。
第168条(定期金債権の消滅時効)
①定期金の債権は,第1回の弁済期から20年間行使しないときは,消滅する。最後の弁済期から10年間行使しないときも,同様とする。
②定期金の債権者は,時効の中断の証拠を得るため,いつでも,その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。
第169条(定期給付債権の短期消滅時効)
年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は,5年間行使しないときは,消滅する。
第170条(3年の短期消滅時効1)
次に掲げる債権は,3年間行使しないときは,消滅する。ただし,第二号に掲げる債権の時効は,同号の工事が終了した時から起算する。
一 医師,助産師又は薬剤師の診療,助産又は調剤に関する債権
二 工事の設計,施工又は監理を業とする者の工事に関する債権
第171条〔3年の短期消滅時効2〕
弁護士又は弁護士法人は事件が終了した時から,公証人はその職務を執行した時から3年を経過したときは,その職務に関して受け取った書類について,その責任を免れる。
第172条(2年の短期消滅時効1)
①弁護士,弁護士法人又は公証人の職務に関する債権は,その原因となった事件が終了した時から2年間行使しないときは,消滅する。
②前項の規定にかかわらず,同項の事件中の各事項が終了した時から5年を経過したときは,同項の期間内であっても,その事項に関する債権は,消滅する。〔項の新設〕
第173条〔2年の短期消滅時効2〕
次に掲げる債権は,2年間行使しないときは,消滅する。
一 生産者,卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
二 自己の技能を用い,注文を受けて,物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
三 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育,衣食又は寄宿の代価について有する債権
第174条(1年の短期消滅時効)
次に掲げる債権は,1年間行使しないときは,消滅する。
一 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権
二 自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権
三 運送賃に係る債権
四 旅館,料理店,飲食店,貸席又は娯楽場の宿泊料,飲食料,席料,入場料,消費物の代価又は立替金に係る債権
五 動産の損料に係る債権
第174条の2(判決で確定した権利の消滅時効)
①確定判決によって確定した権利については,10年より短い時効期間の定めがあるものであっても,その時効期間は,10年とする。裁判上の和解,調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても,同様とする。
②前項の規定は,確定の時に弁済期の到来していない債権については,適用しない。
第175条(物権の創設)
物権は,この法律その他の法律に定めるもののほか,創設することができない。
第176条(物権の設定及び移転)
物権の設定及び移転は,当事者の意思表示のみによって,その効力を生ずる。
第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
不動産に関する物権の得喪及び変更は,不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ,第三者に対抗することができない。
第178条(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
動産に関する物権の譲渡は,その動産の引渡しがなければ,第三者に対抗することができない。
第179条(混同)
①同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは,当該他の物権は,消滅する。ただし,その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは,この限りでない。
②所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは,当該他の権利は,消滅する。この場合においては,前項ただし書の規定を準用する。
③前2項の規定は,占有権については,適用しない。
第180条(占有権の取得)
占有権は,自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
第181条(代理占有)
占有権は,代理人によって取得することができる。
第182条(現実の引渡し及び簡易の引渡し)
①占有権の譲渡は,占有物の引渡しによってする。
②譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には,占有権の譲渡は,当事者の意思表示のみによってすることができる。
第183条(占有改定)
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは,本人は,これによって占有権を取得する。
第184条(指図による占有移転)
代理人によって占有をする場合において,本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ,その第三者がこれを承諾したときは,その第三者は,占有権を取得する。
第185条(占有の性質の変更)
権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には,その占有者が,自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し,又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ,占有の性質は,変わらない。
第186条(占有の態様等に関する推定)
①占有者は,所有の意思をもって,善意で,平穏に,かつ,公然と占有をするものと推定する。
②前後の両時点において占有をした証拠があるときは,占有は,その間継続したものと推定する。
第187条(占有の承継)
①占有者の承継人は,その選択に従い,自己の占有のみを主張し,又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
②前の占有者の占有を併せて主張する場合には,その瑕疵をも承継する。
第188条(占有物について行使する権利の適法の推定)
占有者が占有物について行使する権利は,適法に有するものと推定する。
第189条(善意の占有者による果実の取得等)
①善意の占有者は,占有物から生ずる果実を取得する。
②善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは,その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。
第190条(悪意の占有者による果実の返還等)
①悪意の占有者は,果実を返還し,かつ,既に消費し,過失によって損傷し,又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
②前項の規定は,暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。
第191条(占有者による損害賠償)
占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し,又は損傷したときは,その回復者に対し,悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い,善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。ただし,所有の意思のない占有者は,善意であるときであっても,全部の賠償をしなければならない。
第192条(即時取得)
取引行為によって,平穏に,かつ,公然と動産の占有を始めた者は,善意であり,かつ,過失がないときは,即時にその動産について行使する権利を取得する。
第193条(盗品又は遺失物の回復1)
前条の場合において,占有物が盗品又は遺失物であるときは,被害者又は遺失者は,盗難又は遺失の時から2年間,占有者に対してその物の回復を請求することができる。
第194条〔盗品又は遺失物の回復2〕
占有者が,盗品又は遺失物を,競売若しくは公の市場において,又はその物と同種の物を販売する商人から,善意で買い受けたときは,被害者又は遺失者は,占有者が支払った代価を弁償しなければ,その物を回復することができない。
第195条(動物の占有による権利の取得)
家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は,その占有の開始の時に善意であり,かつ,その動物が飼主の占有を離れた時から1箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは,その動物について行使する権利を取得する。
第196条(占有者による費用の償還請求)
①占有者が占有物を返還する場合には,その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし,占有者が果実を取得したときは,通常の必要費は,占有者の負担に帰する。
②占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については,その価格の増加が現存する場合に限り,回復者の選択に従い,その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし,悪意の占有者に対しては,裁判所は,回復者の請求により,その償還について相当の期限を許与することができる。
第197条(占有の訴え)
占有者は,次条から第202条までの規定に従い,占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も,同様とする。
第198条(占有保持の訴え)
占有者がその占有を妨害されたときは,占有保持の訴えにより,その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
第199条(占有保全の訴え)
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは,占有保全の訴えにより,その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
第200条(占有回収の訴え)
①占有者がその占有を奪われたときは,占有回収の訴えにより,その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
②占有回収の訴えは,占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし,その承継人が侵奪の事実を知っていたときは,この限りでない。
第201条(占有の訴えの提起期間)
①占有保持の訴えは,妨害の存する間又はその消滅した後1年以内に提起しなければならない。ただし,工事により占有物に損害を生じた場合において,その工事に着手した時から1年を経過し,又はその工事が完成したときは,これを提起することができない。
②占有保全の訴えは,妨害の危険の存する間は,提起することができる。この場合において,工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは,前項ただし書の規定を準用する。
③占有回収の訴えは,占有を奪われた時から1年以内に提起しなければならない。
第202条(本権の訴えとの関係)
①占有の訴えは本権の訴えを妨げず,また,本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
②占有の訴えについては,本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。
第203条(占有権の消滅事由)
占有権は,占有者が占有の意思を放棄し,又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし,占有者が占有回収の訴えを提起したときは,この限りでない。
第204条(代理占有権の消滅事由)
①代理人によって占有をする場合には,占有権は,次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。
二 代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。
三 代理人が占有物の所持を失ったこと。
②占有権は,代理権の消滅のみによっては,消滅しない。
第205条〔準占有〕
この章〔占有権〕の規定は,自己のためにする意思をもって財産権の行使をする場合について準用する。
第206条(所有権の内容)
所有者は,法令の制限内において,自由にその所有物の使用,収益及び処分をする権利を有する。
第207条(土地所有権の範囲)
土地の所有権は,法令の制限内において,その土地の上下に及ぶ。
第208条 削除
第209条(隣地の使用請求)
①土地の所有者は,境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で,隣地の使用を請求することができる。ただし,隣人の承諾がなければ,その住家に立ち入ることはできない。
②前項の場合において,隣人が損害を受けたときは,その償金を請求することができる。
第210条(〔袋地所有者の〕公道に至るための他の土地〔囲繞地〕の通行権1)
①他の土地に囲まれて公道に通じない土地〔袋地〕の所有者は,公道に至るため,その土地を囲んでいる他の土地〔囲繞地〕を通行することができる。
②池沼,河川,水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき,又は崖(がけ)があって土地と公道とに著しい高低差があるときも,前項と同様とする。
第211条〔〔袋地所有者の〕公道に至るための他の土地〔囲繞地〕の通行権2-通行権の行使方法〕
①前条の場合には,通行の場所及び方法は,同条の規定による通行権を有する者のために必要であり,かつ,他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
②前条の規定による通行権を有する者は,必要があるときは,通路を開設することができる。
第212条〔〔袋地所有者の〕公道に至るための他の土地〔囲繞地〕の通行権3-償金の支払〕
第210条の規定による通行権〔囲繞地通行権〕を有する者は,その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし,通路の開設のために生じた損害に対するものを除き,1年ごとにその償金を支払うことができる。
第213条〔〔袋地所有者の〕公道に至るための他の土地〔囲繞地〕の通行権4-土地の分割・譲渡による場合〕
①分割によって公道に通じない土地が生じたときは,その土地の所有者は,公道に至るため,他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては,償金を支払うことを要しない。
②前項の規定は,土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
第214条(自然水流に対する妨害の禁止)
土地の所有者は,隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない。
第215条(水流の障害の除去)
水流が天災その他避けることのできない事変により低地において閉塞(そく)したときは,高地の所有者は,自己の費用で,水流の障害を除去するため必要な工事をすることができる。
第216条(水流に関する工作物の修繕等)
他の土地に貯水,排水又は引水のために設けられた工作物の破壊又は閉塞により,自己の土地に損害が及び,又は及ぶおそれがある場合には,その土地の所有者は,当該他の土地の所有者に,工作物の修繕若しくは障害の除去をさせ,又は必要があるときは予防工事をさせることができる。
第217条(費用の負担についての慣習)
前2条〔疎通工事権,予防工事請求権〕の場合において,費用の負担について別段の慣習があるときは,その慣習に従う。
第218条(雨水を隣地に注ぐ工作物の設置の禁止)
土地の所有者は,直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。
第219条(水流の変更)
①溝,堀その他の水流地の所有者は,対岸の土地が他人の所有に属するときは,その水路又は幅員を変更してはならない。
②両岸の土地が水流地の所有者に属するときは,その所有者は,水路及び幅員を変更することができる。ただし,水流が隣地と交わる地点において,自然の水路に戻さなければならない。
③前2項の規定と異なる慣習があるときは,その慣習に従う。
第220条(排水のための低地の通水)
高地の所有者は,その高地が浸水した場合にこれを乾かすため,又は自家用若しくは農工業用の余水を排出するため,公の水流又は下水道に至るまで,低地に水を通過させることができる。この場合においては,低地のために損害が最も少ない場所及び方法を選ばなければならない。
第221条(通水用工作物の使用)
①土地の所有者は,その所有地の水を通過させるため,高地又は低地の所有者が設けた工作物を使用することができる。
②前項の場合には,他人の工作物を使用する者は,その利益を受ける割合に応じて,工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。
第222条(堰(せき)の設置及び使用)
①水流地の所有者は,堰(せき)を設ける必要がある場合には,対岸の土地が他人の所有に属するときであっても,その堰を対岸に付着させて設けることができる。ただし,これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
②対岸の土地の所有者は,水流地の一部がその所有に属するときは,前項の堰を使用することができる。
③前条第2項の規定〔利益を受ける割合に応じて,工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない〕は,前項の場合について準用する。 〔項の追加〕
第223条(境界標の設置)
土地の所有者は,隣地の所有者と共同の費用で,境界標を設けることができる。
第224条(境界標の設置及び保存の費用)
境界標の設置及び保存の費用は,相隣者が等しい割合で負担する。ただし,測量の費用は,その土地の広狭に応じて分担する。
第225条(囲障の設置)
①2棟の建物がその所有者を異にし,かつ,その間に空地があるときは,各所有者は,他の所有者と共同の費用で,その境界に囲障を設けることができる。
②当事者間に協議が調わないときは,前項の囲障は,板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものであって,かつ,高さ2メートルのものでなければならない。
第226条(囲障の設置及び保存の費用)
前条の囲障の設置及び保存の費用は,相隣者が等しい割合で負担する。
第227条(相隣者の1人による囲障の設置)
相隣者の1人は,第225条第2項に規定する材料〔板塀又は竹垣その他これらに類する材料〕より良好なものを用い,又は同項に規定する高さを増して囲障を設けることができる。ただし,これによって生ずる費用の増加額を負担しなければならない。
第228条(囲障の設置等に関する慣習)
前3条〔囲障設置権〕の規定と異なる慣習があるときは,その慣習に従う。
第229条(境界標等の共有の推定1)
境界線上に設けた境界標,囲障,障壁,溝及び堀は,相隣者の共有に属するものと推定する。
第230条〔境界標等の共有の推定2〕
①1棟の建物の一部を構成する境界線上の障壁については,前条の規定〔共有の推定〕は,適用しない。
②高さの異なる2棟の隣接する建物を隔てる障壁の高さが,低い建物の高さを超えるときは,その障壁のうち低い建物を超える部分についても,前項と同様とする。ただし,防火障壁については,この限りでない。
第231条(共有の障壁の高さを増す工事1)
①相隣者の1人は,共有の障壁の高さを増すことができる。ただし,その障壁がその工事に耐えないときは,自己の費用で,必要な工作を加え,又はその障壁を改築しなければならない。
②前項の規定により障壁の高さを増したときは,その高さを増した部分は,その工事をした者の単独の所有に属する。
第232条〔共有の障壁の高さを増す工事2〕
前条の場合において,隣人が損害を受けたときは,その償金を請求することができる。
第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)
①隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは,その竹木の所有者に,その枝を切除させることができる。
②隣地の竹木の根が境界線を越えるときは,その根を切り取ることができる。
第234条(境界線付近の建築の制限1)
①建物を築造するには,境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。
②前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは,隣地の所有者は,その建築を中止させ,又は変更させることができる。ただし,建築に着手した時から1年を経過し,又はその建物が完成した後は,損害賠償の請求のみをすることができる。
第235条〔境界線付近の建築の制限2〕
①境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は,目隠しを付けなければならない。
②前項の距離は,窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。
第236条(境界線付近の建築に関する慣習)
前2条〔境界線付近の建築の制限〕の規定と異なる慣習があるときは,その慣習に従う。
第237条(境界線付近の掘削の制限)
①井戸,用水だめ,下水だめ又は肥料だめを掘るには境界線から2メートル以上,池,穴蔵又はし尿だめを掘るには境界線から1メートル以上の距離を保たなければならない。
②導水管を埋め,又は溝若しくは堀を掘るには,境界線からその深さの2分の1以上の距離を保たなければならない。ただし,1メートルを超えることを要しない。
第238条(境界線付近の掘削に関する注意義務)
境界線の付近において前条〔境界線付近の掘削〕の工事をするときは,土砂の崩壊又は水若しくは汚液の漏出を防ぐため必要な注意をしなければならない。
第239条(無主物の帰属)
①所有者のない動産は,所有の意思をもって占有することによって,その所有権を取得する。
②所有者のない不動産は,国庫に帰属する。
第240条(遺失物の拾得)
遺失物は,遺失物法(〔明治32年法律第87号〕→平成18年法律代73号)の定めるところに従い公告をした後3箇月以内にその所有者が判明しないときは,これを拾得した者がその所有権を取得する。
第241条(埋蔵物の発見)
埋蔵物は,遺失物法の定めるところに従い公告をした後6箇月以内にその所有者が判明しないときは,これを発見した者がその所有権を取得する。ただし,他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については,これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。
第242条(不動産の付合)
不動産の所有者は,その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし,権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
第243条(動産の付合1)
所有者を異にする数個の動産が,付合により,損傷しなければ分離することができなくなったときは,その合成物の所有権は,主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも,同様とする。
第244条〔動産の付合2〕
付合した動産について主従の区別をすることができないときは,各動産の所有者は,その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
第245条(混和)
前2条〔動産の付合〕の規定は,所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合について準用する。
第246条(加工)
①他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは,その加工物の所有権は,材料の所有者に帰属する。ただし,工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは,加工者がその加工物の所有権を取得する。
②前項に規定する場合において,加工者が材料の一部を供したときは,その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り,加工者がその加工物の所有権を取得する。
第247条(付合,混和又は加工の効果)
①第242条から前条まで〔添付〕の規定により物の所有権が消滅したときは,その物について存する他の権利も,消滅する。
②前項に規定する場合において,物の所有者が,合成物,混和物又は加工物(以下この項において「合成物等」という。)の単独所有者となったときは,その物について存する他の権利は以後その合成物等について存し,物の所有者が合成物等の共有者となったときは,その物について存する他の権利は以後その持分について存する。
第248条(付合,混和又は加工に伴う償金の請求)
第242条から前条まで〔添付〕の規定の適用によって損失を受けた者は,第703条及び第704条〔一般不当利得〕の規定に従い,その償金を請求することができる。
第249条(共有物の使用)
各共有者は,共有物の全部について,その持分に応じた使用をすることができる。
第250条(共有持分の割合の推定)
各共有者の持分は,相等しいものと推定する。
第251条(共有物の変更)
各共有者は,他の共有者の同意を得なければ,共有物に変更を加えることができない。
第252条(共有物の管理)
共有物の管理に関する事項は,前条〔共有物の変更〕の場合を除き,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決する。ただし,保存行為は,各共有者がすることができる。
第253条(共有物に関する負担)
①各共有者は,その持分に応じ,管理の費用を支払い,その他共有物に関する負担を負う。
②共有者が1年以内に前項の義務を履行しないときは,他の共有者は,相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
第254条(共有物についての債権)
共有者の1人が共有物について他の共有者に対して有する債権は,その特定承継人に対しても行使することができる。
第255条(持分の放棄及び共有者の死亡)
共有者の1人が,その持分を放棄したとき,又は死亡して相続人がないときは,その持分は,他の共有者に帰属する。
第256条(共有物の分割請求1)
①各共有者は,いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし,5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
②前項ただし書の契約は,更新することができる。ただし,その期間は,更新の時から5年を超えることができない。
第257条〔共有物の分割請求2〕
前条の規定は,第229条に規定する共有物〔境界線上に設けた境界標,囲障,障壁,溝及び堀〕については,適用しない。
第258条(裁判による共有物の分割)
①共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは,その分割を裁判所に請求することができる。
②前項の場合において,共有物の現物を分割することができないとき,又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは,裁判所は,その競売を命ずることができる。
第259条(共有に関する債権の弁済)
①共有者の1人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは,分割に際し,債務者に帰属すべき共有物の部分をもって,その弁済に充てることができる。
②債権者は,前項の弁済を受けるため債務者に帰属すべき共有物の部分を売却する必要があるときは,その売却を請求することができる。
第260条(共有物の分割への参加)
①共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は,自己の費用で,分割に参加することができる。
②前項の規定による参加の請求があったにもかかわらず,その請求をした者を参加させないで分割をしたときは,その分割は,その請求をした者に対抗することができない。
第261条(分割における共有者の担保責任)
各共有者は,他の共有者が分割によって取得した物について,売主と同じく,その持分に応じて担保の責任を負う。
第262条(共有物に関する証書)
①分割が完了したときは,各分割者は,その取得した物に関する証書を保存しなければならない。
②共有者の全員又はそのうちの数人に分割した物に関する証書は,その物の最大の部分を取得した者が保存しなければならない。
③前項の場合において,最大の部分を取得した者がないときは,分割者間の協議で証書の保存者を定める。協議が調わないときは,裁判所が,これを指定する。
④証書の保存者は,他の分割者の請求に応じて,その証書を使用させなければならない。
第263条(共有の性質を有する入会権)
共有の性質を有する入会権については,各地方の慣習に従うほか,この節の規定を適用する。
第264条(準共有)
この節〔共有〕の規定は,数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし,法令に特別の定めがあるときは,この限りでない。
第265条(地上権の内容)
地上権者は,他人の土地において工作物又は竹木を所有するため,その土地を使用する権利を有する。
第266条(地代)
①第274条から第276条まで〔永小作権の小作料の減免,永小作権の放棄,永小作権の消滅請求〕の規定は,地上権者が土地の所有者に定期の地代を支払わなければならない場合について準用する。
②地代については,前項に規定するもののほか,その性質に反しない限り,賃貸借に関する規定を準用する。
第267条(相隣関係の規定の準用)
前章第一節第二款(相隣関係)の規定は,地上権者間又は地上権者と土地の所有者との間について準用する。ただし,第229条〔境界標等の共有の推定1〕の規定は,境界線上の工作物が地上権の設定後に設けられた場合に限り,地上権者について準用する。
第268条(地上権の存続期間)
①設定行為で地上権の存続期間を定めなかった場合において,別段の慣習がないときは,地上権者は,いつでもその権利を放棄することができる。ただし,地代を支払うべきときは,1年前に予告をし,又は期限の到来していない1年分の地代を支払わなければならない。
②地上権者が前項の規定によりその権利を放棄しないときは,裁判所は,当事者の請求により,20年以上50年以下の範囲内において,工作物又は竹木の種類及び状況その他地上権の設定当時の事情を考慮して,その存続期間を定める。
第269条(工作物等の収去等)
①地上権者は,その権利が消滅した時に,土地を原状に復してその工作物及び竹木を収去することができる。ただし,土地の所有者が時価相当額を提供してこれを買い取る旨を通知したときは,地上権者は,正当な理由がなければ,これを拒むことができない。
②前項の規定と異なる慣習があるときは,その慣習に従う。
第269条の2(地下又は空間を目的【物】とする地上権)
①地下又は空間は,工作物を所有するため,上下の範囲を定めて地上権の目的【物】とすることができる。この場合においては,設定行為で,地上権の行使のためにその土地の使用に制限を加えることができる。
②前項の地上権は,第三者がその土地の使用又は収益をする権利を有する場合においても,その権利又はこれを目的【物】とする権利を有するすべての者の承諾があるときは,設定することができる。この場合において,土地の使用又は収益をする権利を有する者は,その地上権の行使を妨げることができない。
第270条(永小作権の内容)
永小作人は,小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。
第271条(永小作人による土地の変更の制限)
永小作人は,土地に対して,回復することのできない損害を生ずべき変更を加えることができない。
第272条(永小作権の譲渡又は土地の賃貸)
永小作人は,その権利を他人に譲り渡し,又はその権利の存続期間内において耕作若しくは牧畜のため土地を賃貸することができる。ただし,設定行為で禁じたときは,この限りでない。
第273条(賃貸借に関する規定の準用)
永小作人の義務については,この章の規定及び設定行為で定めるもののほか,その性質に反しない限り,賃貸借に関する規定を準用する。
第274条(小作料の減免)
永小作人は,不可抗力により収益について損失を受けたときであっても,小作料の免除又は減額を請求することができない。
第275条(永小作権の放棄)
永小作人は,不可抗力によって,引き続き3年以上全く収益を得ず,又は5年以上小作料より少ない収益を得たときは,その権利を放棄することができる。
第276条(永小作権の消滅請求)
永小作人が引き続き2年以上小作料の支払を怠ったときは,土地の所有者は,永小作権の消滅を請求することができる。
第277条(永小作権に関する慣習)
第271条から前条までの規定と異なる慣習があるときは,その慣習に従う。
第278条(永小作権の存続期間)
①永小作権の存続期間は,20年以上50年以下とする。設定行為で50年より長い期間を定めたときであっても,その期間は,50年とする。
②永小作権の設定は,更新することができる。ただし,その存続期間は,更新の時から50年を超えることができない。
③設定行為で永小作権の存続期間を定めなかったときは,その期間は,別段の慣習がある場合を除き,30年とする。
第279条(工作物等の収去等)
第269条〔地上権の消滅の際の工作物等の収去等〕の規定は,永小作権について準用する。
第280条(地役権の内容)
地役権者は,設定行為で定めた目的に従い,他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし,第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。
第281条(地役権の付従性〔随伴性〕)
①地役権は,要役地(地役権者の土地であって,他人の土地から便益を受けるものをいう。以下同じ。)の所有権に従たるものとして,その所有権とともに移転し,又は要役地について存する他の権利の目的となるものとする。ただし,設定行為に別段の定めがあるときは,この限りでない。
②地役権は,要役地から分離して譲り渡し,又は他の権利の目的とすることができない。
第282条(地役権の不可分性)
①土地の共有者の1人は,その持分につき,その土地のために又はその土地について存する地役権を消滅させることができない。
②土地の分割又はその一部の譲渡の場合には,地役権は,その各部のために又はその各部について存する。ただし,地役権がその性質により土地の一部のみに関するときは,この限りでない。
第283条(地役権の時効取得1)
地役権は,継続的に行使され,かつ,外形上認識することができるものに限り,時効によって取得することができる。
第284条〔地役権の時効取得2〕
①土地の共有者の1人が時効によって地役権を取得したときは,他の共有者も,これを取得する。
②共有者に対する時効の中断は,地役権を行使する各共有者に対してしなければ,その効力を生じない。
③地役権を行使する共有者が数人ある場合には,その1人について時効の停止の原因があっても,時効は,各共有者のために進行する。
第285条(用水地役権)
①用水地役権の承役地(地役権者以外の者の土地であって,要役地の便益に供されるものをいう。以下同じ。)において,水が要役地及び承役地の需要に比して不足するときは,その各土地の需要に応じて,まずこれを生活用に供し,その残余を他の用途に供するものとする。ただし,設定行為に別段の定めがあるときは,この限りでない。
②同一の承役地について数個の用水地役権を設定したときは,後の地役権者は,前の地役権者の水の使用を妨げてはならない。
第286条(承役地の所有者の工作物の設置義務等1)
設定行為又は設定後の契約により,承役地の所有者が自己の費用で地役権の行使のために工作物を設け,又はその修繕をする義務を負担したときは,承役地の所有者の特定承継人も,その義務を負担する。
第287条〔承役地の所有者の工作物の設置義務等2〕
承役地の所有者は,いつでも,地役権に必要な土地の部分の所有権を放棄して地役権者に移転し,これにより前条の義務を免れることができる。
第288条(承役地の所有者の工作物の使用)
①承役地の所有者は,地役権の行使を妨げない範囲内において,その行使のために承役地の上に設けられた工作物を使用することができる。
②前項の場合には,承役地の所有者は,その利益を受ける割合に応じて,工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。
第289条(承役地の時効取得による地役権の消滅1)
承役地の占有者が取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは,地役権は,これによって消滅する。
第290条〔承役地の時効取得による地役権の消滅2〕
前条の規定による地役権の消滅時効は,地役権者がその権利を行使することによって中断する。
第291条(地役権の消滅時効1)
第167条第2項に規定する消滅時効の期間〔20年間〕は,継続的でなく行使される地役権については最後の行使の時から起算し,継続的に行使される地役権についてはその行使を妨げる事実が生じた時から起算する。
第292条〔地役権の消滅時効2〕
要役地が数人の共有に属する場合において,その1人のために時効の中断又は停止があるときは,その中断又は停止は,他の共有者のためにも,その効力を生ずる。
第293条〔地役権の消滅時効3〕
地役権者がその権利の一部を行使しないときは,その部分のみが時効によって消滅する。
第294条(共有の性質を有しない入会権)
共有の性質を有しない入会権については,各地方の慣習に従うほか,この章〔地役権〕の規定を準用する。
第295条(留置権の内容)
①他人の物の占有者は,その物に関して生じた債権を有するときは,その債権の弁済を受けるまで,その物を留置することができる。ただし,その債権が弁済期にないときは,この限りでない。
②前項の規定は,占有が不法行為によって始まった場合には,適用しない。
第296条(留置権の不可分性)
留置権者は,債権の全部の弁済を受けるまでは,留置物の全部についてその権利を行使することができる。
第297条(留置権者による果実の収取)
①留置権者は,留置物から生ずる果実を収取し,他の債権者に先立って,これを自己の債権の弁済に充当することができる。
②前項の果実は,まず債権の利息に充当し,なお残余があるときは元本に充当しなければならない。
第298条(留置権者による留置物の保管等)
①留置権者は,善良な管理者の注意をもって,留置物を占有しなければならない。
②留置権者は,債務者の承諾を得なければ,留置物を使用し,賃貸し,又は担保に供することができない。ただし,その物の保存に必要な使用をすることは,この限りでない。
③留置権者が前2項の規定に違反したときは,債務者は,留置権の消滅を請求することができる。
第299条(留置権者による費用の償還請求)
①留置権者は,留置物について必要費を支出したときは,所有者にその償還をさせることができる。
②留置権者は,留置物について有益費を支出したときは,これによる価格の増加が現存する場合に限り,所有者の選択に従い,その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし,裁判所は,所有者の請求により,その償還について相当の期限を許与することができる。
第300条(留置権の行使と債権の消滅時効)
留置権の行使は,債権の消滅時効の進行を妨げない。
第301条(担保の供与による留置権の消滅)
債務者は,相当の担保を供して,留置権の消滅を請求することができる。
第302条(占有の喪失による留置権の消滅)
留置権は,留置権者が留置物の占有を失うことによって,消滅する。ただし,第298条第2項〔債務者の承諾を得た留置物の使用・賃貸・担保供与〕の規定により留置物を賃貸し,又は質権の目的【物】としたときは,この限りでない。
第303条(先取特権の内容)
先取特権者は,この法律その他の法律の規定に従い,その債務者の財産について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
第304条(物上代位)
①先取特権は,その目的物の売却,賃貸,滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても,行使することができる。ただし,先取特権者は,その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
②債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても,前項と同様とする。
第305条(先取特権の不可分性)
第296条〔留置権の不可分性〕の規定は,先取特権について準用する。
第306条(一般の先取特権)
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は,債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給
第307条(共益費用の先取特権)
①共益の費用の先取特権は,各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存,清算又は配当に関する費用について存在する。
②前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては,先取特権は,その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。
第308条(雇用関係の先取特権)
雇用関係の先取特権は,給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。
第309条(葬式費用の先取特権)
①葬式の費用の先取特権は,債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する。
②前項の先取特権は,債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額についても存在する。
第310条(日用品供給の先取特権)
日用品の供給の先取特権は,債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の6箇月間の飲食料品,燃料及び電気の供給について存在する。
第311条(動産の先取特権)
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は,債務者の特定の動産について先取特権を有する。
一 不動産の賃貸借
二 旅館の宿泊
三 旅客又は荷物の運輸
四 動産の保存 〔旧・311条四号の「公吏の職務上の過失」を削除,以下,一号ずつ繰り上がり〕
五 動産の売買
六 種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給
七 農業の労務 〔旧・311条八号の「農工業ノ労役」を2つに分割〕
八 工業の労務
第312条(不動産賃貸の先取特権)
不動産の賃貸の先取特権は,その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し,賃借人の動産について存在する。
第313条(不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲1)
①土地の賃貸人の先取特権は,その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産,その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。
②建物の賃貸人の先取特権は,賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。
第314条〔不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲2〕
賃借権の譲渡又は転貸の場合には,賃貸人の先取特権は,譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても,同様とする。
第315条(不動産賃貸の先取特権の被担保債権の範囲1)
賃借人の財産のすべてを清算する場合には,賃貸人の先取特権は,前期,当期及び次期の賃料その他の債務並びに前期及び当期に生じた損害の賠償債務についてのみ存在する。
第316条〔不動産賃貸の先取特権の被担保債権の範囲2〕
賃貸人は,敷金を受け取っている場合には,その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。
第317条(旅館宿泊の先取特権)
旅館の宿泊の先取特権は,宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料に関し,その旅館に在るその宿泊客の手荷物について存在する。
第318条(運輸の先取特権)
運輸の先取特権は,旅客又は荷物の運送賃及び付随の費用に関し,運送人の占有する荷物について存在する。
第319条(即時取得の規定の準用)
第192条から第195条まで〔即時取得〕の規定は,第312条から前条まで〔不動産賃貸の先取特権,旅館宿泊の先取特権,運輸の先取特権〕の規定による先取特権について準用する。
第320条(動産保存の先取特権) 〔旧・第320条【公吏の職務上の過失】を削除〕 〔旧・第321条第1項,第2項の項を削除して繰上げ〕
動産の保存の先取特権は,動産の保存のために要した費用又は動産に関する権利の保存,承認若しくは実行のために要した費用に関し,その動産について存在する。
第321条(動産売買の先取特権) 〔旧・322条を繰り上げ〕
動産の売買の先取特権は,動産の代価及びその利息に関し,その動産について存在する。
第322条(種苗又は肥料の供給の先取特権) 〔旧・第323条を繰り上げ〕
種苗又は肥料の供給の先取特権は,種苗又は肥料の代価及びその利息に関し,その種苗又は肥料を用いた後1年以内にこれを用いた土地から生じた果実(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉の使用によって生じた物を含む。)について存在する。
第323条(農業労務の先取特権) 〔旧・第324条の一部〕
農業の労務の先取特権は,その労務に従事する者の最後の1年間の賃金に関し,その労務によって生じた果実について存在する。
第324条(工業労務の先取特権) 〔旧・第324条の一部〕
工業の労務の先取特権は,その労務に従事する者の最後の3箇月間の賃金に関し,その労務によって生じた製作物について存在する。
第325条(不動産の先取特権)
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は,債務者の特定の不動産について先取特権を有する。
一 不動産の保存
二 不動産の工事
三 不動産の売買
第326条(不動産保存の先取特権) 〔旧・第326条第1項,2項の項を削除〕
不動産の保存の先取特権は,不動産の保存のために要した費用又は不動産に関する権利の保存,承認若しくは実行のために要した費用に関し,その不動産について存在する。
第327条(不動産工事の先取特権)
①不動産の工事の先取特権は,工事の設計,施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し,その不動産について存在する。
②前項の先取特権は,工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り,その増価額についてのみ存在する。
第328条(不動産売買の先取特権)
不動産の売買の先取特権は,不動産の代価及びその利息に関し,その不動産について存在する。
第329条(一般の先取特権の順位)
①一般の先取特権が互いに競合する場合には,その優先権の順位は,第306条〔一般の先取特権〕各号に掲げる順序に従う。
②一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には,特別の先取特権は,一般の先取特権に優先する。ただし,共益の費用の先取特権は,その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。
第330条(動産の先取特権の順位)
①同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には,その優先権の順位は,次に掲げる順序に従う。この場合において,第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは,後の保存者が前の保存者に優先する。
一 不動産の賃貸,旅館の宿泊及び運輸の先取特権
二 動産の保存の先取特権
三 動産の売買,種苗又は肥料の供給,農業の労務及び工業の労務の先取特権
②前項の場合において,第1順位の先取特権者は,その債権取得の時において第2順位又は第3順位の先取特権者があることを知っていたときは,これらの者に対して優先権を行使することができない。第1順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても,同様とする。
③果実に関しては,第1の順位は農業の労務に従事する者に,第2の順位は種苗又は肥料の供給者に,第3の順位は土地の賃貸人に属する。
第331条(不動産の先取特権の順位)
①同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には,その優先権の順位は,第325条〔不動産の先取特権〕各号に掲げる順序に従う。
②同一の不動産について売買が順次された場合には,売主相互間における不動産売買の先取特権の優先権の順位は,売買の前後による。
第332条(同一順位の先取特権)
同一の目的物について同一順位の先取特権者が数人あるときは,各先取特権者は,その債権額の割合に応じて弁済を受ける。
第333条(先取特権と第三取得者)
先取特権は,債務者がその目的【物】である動産をその第三取得者に引き渡した後は,その動産について行使することができない。
第334条(先取特権と動産質権との競合)
先取特権と動産質権とが競合する場合には,動産質権者は,第330条〔動産の先取特権の順位〕の規定による第1順位の先取特権者と同一の権利を有する。
第335条(一般の先取特権の効力)
①一般の先取特権者は,まず不動産以外の財産から弁済を受け,なお不足があるのでなければ,不動産から弁済を受けることができない。
②一般の先取特権者は,不動産については,まず特別担保の目的【物】とされていないものから弁済を受けなければならない。
③一般の先取特権者は,前2項の規定に従って配当に加入することを怠ったときは,その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額については,登記をした第三者に対してその先取特権を行使することができない。
④前3項の規定は,不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当し,又は他の不動産の代価に先立って特別担保の目的【物】である不動産の代価を配当する場合には,適用しない。
第336条(一般の先取特権の対抗力)
一般の先取特権は,不動産について登記をしなくても,特別担保を有しない債権者に対抗することができる。ただし,登記をした第三者に対しては,この限りでない。
第337条(不動産保存の先取特権の登記)
不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには,保存行為が完了した後直ちに登記をしなければならない。
第338条(不動産工事の先取特権の登記)
①不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには,工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において,工事の費用が予算額を超えるときは,先取特権は,その超過額については存在しない。
②工事によって生じた不動産の増価額は,配当加入の時に,裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。
第339条(登記をした不動産保存又は不動産工事の先取特権)
前2条の規定に従って登記をした先取特権は,抵当権に先立って行使することができる。
第340条(不動産売買の先取特権の登記)
不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには,売買契約と同時に,不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記しなければならない。
第341条(抵当権に関する規定の準用)
先取特権の効力については,この節に定めるもののほか,その性質に反しない限り,抵当権に関する規定を準用する。
第342条(質権の内容)
質権者は,その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し,かつ,その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
第343条(質権の目的【物】)
質権は,譲り渡すことができない物をその目的【物】とすることができない。
第344条(質権の設定)
質権の設定は,債権者にその目的物を引き渡すことによって,その効力を生ずる。
第345条(質権設定者による代理占有の禁止)
質権者は,質権設定者に,自己に代わって質物の占有をさせることができない。
第346条(質権の被担保債権の範囲)
質権は,元本,利息,違約金,質権の実行の費用,質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし,設定行為に別段の定めがあるときは,この限りでない。
第347条(質物の留置)
質権者は,前条に規定する債権の弁済を受けるまでは,質物を留置することができる。ただし,この権利は,自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。
第348条(転質)
質権者は,その権利の存続期間内において,自己の責任で,質物について,転質をすることができる。この場合において,転質をしたことによって生じた損失については,不可抗力によるものであっても,その責任を負う。
第349条(契約による質物の処分の禁止)
質権設定者は,設定行為又は債務の弁済期前の契約において,質権者に弁済として質物の所有権を取得させ,その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。
第350条(留置権及び先取特権の規定の準用)
第296条から第300条まで〔留置権の不可分性,留置権者による果実の収取,留置権者による留置物の保管等,留置権者による費用の償還請求,留置権の行使は債権の消滅時効の進行を妨げない〕及び第304条〔先取特権の物上代位〕の規定は,質権について準用する。
第351条(物上保証人の求償権)
他人の債務を担保するため質権を設定した者は,その債務を弁済し,又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは,保証債務に関する規定に従い,債務者に対して求償権を有する。
第352条(動産質の対抗要件)
動産質権者は,継続して質物を占有しなければ,その質権をもって第三者に対抗することができない。
第353条(質物の占有の回復)
動産質権者は,質物の占有を奪われたときは,占有回収の訴えによってのみ,その質物を回復することができる。
第354条(動産質権の実行)
動産質権者は,その債権の弁済を受けないときは,正当な理由がある場合に限り,鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求することができる。この場合において,動産質権者は,あらかじめ,その請求をする旨を債務者に通知しなければならない。
第355条(動産質権の順位)
同一の動産について数個の質権が設定されたときは,その質権の順位は,設定の前後による。
第356条(不動産質権者による使用及び収益)
不動産質権者は,質権の目的【物】である不動産の用法に従い,その使用及び収益をすることができる。
第357条(不動産質権者による管理の費用等の負担)
不動産質権者は,管理の費用を支払い,その他不動産に関する負担を負う。
第358条(不動産質権者による利息の請求の禁止)
不動産質権者は,その債権の利息を請求することができない。
第359条(設定行為に別段の定めがある場合等)
前3条〔不動産質権者の使用収益権,管理費用等の負担,利息請求の禁止〕の規定は,設定行為に別段の定めがあるとき,又は担保不動産収益執行(民事執行法(昭和54年法律第4号)第180条第二号に規定する担保不動産収益執行をいう。以下同じ。)の開始があったときは,適用しない。
第360条(不動産質権の存続期間)
①不動産質権の存続期間は,10年を超えることができない。設定行為でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は,10年とする。
②不動産質権の設定は,更新することができる。ただし,その存続期間は,更新の時から10年を超えることができない。
第361条(抵当権の規定の準用)
不動産質権については,この節に定めるもののほか,その性質に反しない限り,次章(抵当権)の規定を準用する。
第362条(権利質の目的等)
①質権は,財産権をその目的【物】とすることができる。
②前項の質権については,この節に定めるもののほか,その性質に反しない限り,前三節(総則,動産質及び不動産質)の規定を準用する。
第363条(債権質の設定)
債権であってこれを譲り渡すにはその証書を交付することを要するものを質権の目的【物】とするときは,質権の設定は,その証書を交付することによって,その効力を生ずる(平成15(2003)年法134本条全部改正)。
旧々・358条
債権ヲ以テ質権ノ目的ト為ス場合ニ以テ其債権ノ証書アルトキハ〔指図債権の場合だけでなく,指名債権の場合であっても〕質権ノ設定ハ其証書ノ交付ヲ為スニ因リテ其効力ヲ生ズ
第364条(指名債権を目的【物】とする質権の対抗要件)
指名債権を質権の目的【物】としたときは,第467条〔指名債権の譲渡の対抗要件〕の規定に従い,第三債務者に質権の設定を通知し,又は第三債務者がこれを承諾しなければ,これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない。
【削除】②前項の規定は,株式については,適用しない。 (平成17(2005)年法87本条2項削除)
第365条(指図債権を目的【物】とする質権の対抗要件)〔旧・366条〕
指図債権を質権の目的【物】としたときは,その証書に質権の設定の裏書をしなければ,これをもって第三者に対抗することができない。
旧・第365条(記名社債を目的【物】とする質権の対抗要件)【削除】
記名社債を質権の目的【物】としたときは,社債の譲渡に関する規定に従い会社の帳簿に質権の設定を記入しなければ,これをもって会社その他の第三者に対抗することができない。
第366条(質権者による債権の取立て等)〔旧・367条〕
①質権者は,質権の目的【物】である債権を直接に取り立てることができる。
②債権の目的物が金銭であるときは,質権者は,自己の債権額に対応する部分に限り,これを取り立てることができる。
③前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは,質権者は,第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において,質権は,その供託金について存在する。
④債権の目的物が金銭でないときは,質権者は,弁済として受けた物について質権を有する。
第367条 削除 → 新・366条
第368条 削除(昭和54(1979)年,権利質の執行について,民事執行法が,同法193条以下の規定を整備したため,削除された)
旧368条
質権者ハ前条ノ規定ニ依ル外民事訴訟法ニ定ムル執行方法ニ依リテ質権ノ実行ヲ為スコトヲ得
第369条(抵当権の内容)
①抵当権者は,債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
②地上権及び永小作権も,抵当権の目的【物】とすることができる。この場合においては,この章〔抵当権〕の規定を準用する。
第370条(抵当権の効力の及ぶ範囲1)
抵当権は,抵当地の上に存する建物を除き,その目的【物】である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし,設定行為に別段の定めがある場合及び第424条〔詐害行為取消権〕の規定により債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合は,この限りでない。
第371条〔抵当権の効力の及ぶ範囲2〕
抵当権は,その担保する債権について不履行があったときは,その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。
第372条(留置権等の規定の準用)
第296条〔留置権の不可分性〕,第304条〔先取特権の物上代位〕及び第351条〔物上保証人の求償権〕の規定は,抵当権について準用する。
第373条(抵当権の順位) 〔旧・第373条第1項を分離独立〕
同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは,その抵当権の順位は,登記の前後による。
第374条(抵当権の順位の変更) 〔旧・第373条第2項,第3項〕
①抵当権の順位は,各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし,利害関係を有する者があるときは,その承諾を得なければならない。
②前項の規定による順位の変更は,その登記をしなければ,その効力を生じない。
第375条(抵当権の被担保債権の範囲) 〔旧・第374条〕
①抵当権者は,利息その他の定期金を請求する権利を有するときは,その満期となった最後の2年分についてのみ,その抵当権を行使することができる。ただし,それ以前の定期金についても,満期後に特別の登記をしたときは,その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
②前項の規定は,抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の2年分についても適用する。ただし,利息その他の定期金と通算して2年分を超えることができない。
第376条(抵当権の処分) 〔旧・第375条〕
①抵当権者は,その抵当権を他の債権の担保とし,又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し,若しくは放棄することができる。
②前項の場合において,抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは,その処分の利益を受ける者の権利の順位は,抵当権の登記にした付記の前後による。
第377条(抵当権の処分の対抗要件) 〔旧・第376条〕
①前条の場合には,第467条〔指名債権の譲渡の対抗要件〕の規定に従い,主たる債務者に抵当権の処分を通知し,又は主たる債務者がこれを承諾しなければ,これをもって主たる債務者,保証人,抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない。
②主たる債務者が前項の規定により通知を受け,又は承諾をしたときは,抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は,その受益者に対抗することができない。
第378条(代価弁済) 〔旧・第377条〕
抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が,抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは,抵当権は,その第三者のために消滅する。
第379条(抵当権消滅請求1) 〔旧・378条〕
抵当不動産の第三取得者は,第383条〔抵当権消滅請求の手続〕の定めるところにより,抵当権消滅請求をすることができる。
旧第378条〔てき除〕
抵当不動産ニ付キ所有権,地上権又ハ永小作権ヲ取得シタル第三者ハ第382条乃至第384条ノ規定ニ従ヒ抵当権者ニ提供シテ其承諾ヲ得タル金額ヲ払渡シ又ハ之ヲ供託シテ抵当権ヲ滌除スルコトヲ得
第380条〔抵当権消滅請求2〕 〔旧・第379条〕
主たる債務者,保証人及びこれらの者の承継人は,抵当権消滅請求をすることができない。
旧第379条〔てき除をなしえない者〕
主タル債務者,保証人及ヒ其承継人ハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス
第381条〔抵当権消滅請求3〕 〔旧・第380条〕,〔旧・第381条は削除〕
抵当不動産の停止条件付第三取得者は,その停止条件の成否が未定である間は,抵当権消滅請求をすることができない。
旧第380条〔同前〕
停止条件附第三取得者ハ条件ノ成否未定ノ間ハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス
旧第381条〔てき除権者への抵当権実行の通知〕
抵当権者カ其抵当権ヲ実行セント欲スルトキハ予メ第378条ニ掲ケタル第三取得者ニ其旨ヲ通知スルコトヲ要ス
第382条(抵当権消滅請求の時期)
抵当不動産の第三取得者は,抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に,抵当権消滅請求をしなければならない。
旧第382条〔てき除の時期〕
①第三取得者ハ前条ノ通知ヲ受クルマテハ何時ニテモ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得
②第三取得者カ前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ1个月内ニ次条ノ送達ヲ為スニ非サレハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス
③前条ノ通知アリタル後ニ第378条ニ掲ケタル権利ヲ取得シタル第三者ハ前項ノ第三取得者カ滌除ヲ為スコトヲ得ル期間内ニ限リ之ヲ為スコトヲ得
第383条(抵当権消滅請求の手続)
抵当不動産の第三取得者は,抵当権消滅請求をするときは,登記をした各債権者に対し,次に掲げる書面を送付しなければならない。
一 取得の原因及び年月日,譲渡人及び取得者の氏名及び住所並びに抵当不動産の性質,所在及び代価その他取得者の負担を記載した書面
二 抵当不動産に関する登記事項証明書(現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る。)
三 債権者が2箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは,抵当不動産の第三取得者が第一号に規定する代価又は特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し又は供託すべき旨を記載した書面
旧第383条〔てき除の手続〕
①第三取得者カ抵当権ヲ滌除セント欲スルトキハ登記ヲ為シタル各債権者ニ左ノ書面ヲ送達スルコトヲ要ス
一 取得ノ原因,年月日,譲渡人及ヒ取得者ノ氏名,住所,抵当不動産ノ性質,所在,代価其他取得者ノ負担ヲ記載シタル書面
二 抵当不動産ニ関スル登記簿ノ謄本但既ニ消滅シタル権利ニ関スル登記ハ之ヲ掲クルコトヲ要セス
三 債権者カ1个月内ニ次条ノ規定ニ従ヒ増価競売ヲ請求セサルトキハ第三取得者ハ第1号ニ掲ケタル代価又ハ特ニ指定シタル金額ヲ債権ノ順位ニ従ヒテ弁済又ハ供託スヘキ旨ヲ記載シタル書面
第384条(債権者のみなし承諾)
次に掲げる場合には,前条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は,抵当不動産の第三取得者が同条第三号に掲げる書面に記載したところにより提供した同号の代価又は金額を承諾したものとみなす。
一 その債権者が前条各号に掲げる書面の送付を受けた後2箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないとき。
二 その債権者が前号の申立てを取り下げたとき。
三 第一号の申立てを却下する旨の決定が確定したとき。
四 第一号の申立てに基づく競売の手続を取り消す旨の決定(民事執行法第188条において準用する同法第63条第3項若しくは第68条の3第3項の規定又は同法第183条第1項第五号の謄本が提出された場合における同条第2項の規定による決定を除く。)が確定したとき。
旧第384条〔増価競売の請求〕
①債権者カ前条ノ送達ヲ受ケタル後1个月内ニ増価競売ヲ請求セサルトキハ第三取得者ノ提供ヲ承諾シタルモノト看做ス
②増価競売ハ若シ競売ニ於テ第三取得者カ提供シタル金額ヨリ10分ノ1以上高価ニ抵当不動産ヲ売却スルコト能ハサルトキハ10分ノ1ノ増価ヲ以テ自ラ其不動産ヲ買受クヘキ旨ヲ附言シ第三取得者ニ対シテ之ヲ請求スルコトヲ要ス
〔昭54法5第3項削除〕
第385条(競売の申立ての通知)
第383条〔抵当権消滅請求の手続〕各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は,前条第一号の申立てをするときは,同号の期間内に,債務者及び抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければならない。
旧第385条〔増価競売の通知〕
債権者カ増価競売ヲ請求スルトキハ前条ノ期間内ニ債務者及ヒ抵当不動産ノ譲渡人ニ之ヲ通知スルコトヲ要ス
旧第386条〔増価競売請求の取消〕
増価競売ヲ請求シタル債権者ハ登記ヲ為シタル他ノ債権者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ其請求ヲ取消スコトヲ得ス
第386条(抵当権消滅請求の効果)
登記をしたすべての債権者が抵当不動産の第三取得者の提供した代価又は金額を承諾し,かつ,抵当不動産の第三取得者がその承諾を得た代価又は金額を払い渡し又は供託したときは,抵当権は,消滅する。
旧第387条〔抵当権者の競売請求権〕
抵当権者カ第382条ニ定メタル期間内ニ第三取得者ヨリ債務ノ弁済又ハ滌除ノ通知ヲ受ケサルトキハ抵当不動産ノ競売ヲ請求スルコトヲ得
第387条(抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力)
①登記をした賃貸借は,その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし,かつ,その同意の登記があるときは,その同意をした抵当権者に対抗することができる。
②抵当権者が前項の同意をするには,その抵当権を目的【物】とする権利を有する者その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならない。
第388条(法定地上権)
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において,その土地又は建物につき抵当権が設定され,その実行により所有者を異にするに至ったときは,その建物について,地上権が設定されたものとみなす。この場合において,地代は,当事者の請求により,裁判所が定める。
旧第388条〔法定地上権〕
土地及ヒ其上ニ存スル建物カ同一ノ所有者ニ属スル場合ニ於テ其土地又ハ建物ノミヲ抵当ト為シタルトキハ抵当権設定者ハ競売ノ場合ニ付キ地上権ヲ設定シタルモノト看做ス但地代ハ当事者ノ請求ニ因リ裁判所之ヲ定ム
第389条(抵当地の上の建物の競売)
①抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは,抵当権者は,土地とともにその建物を競売することができる。ただし,その優先権は,土地の代価についてのみ行使することができる。
②前項の規定は,その建物の所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には,適用しない。
旧第389条〔抵当地上の建物の競売権〕
抵当権設定ノ後其設定者カ抵当地ニ建物ヲ築造シタルトキハ抵当権者ハ土地ト共ニ之ヲ競売スルコトヲ得但其優先権ハ土地ノ代価ニ付テノミ之ヲ行フコトヲ得
第390条(抵当不動産の第三取得者による買受け)
抵当不動産の第三取得者は,その競売において買受人となることができる。
第391条(抵当不動産の第三取得者による費用の償還請求)
抵当不動産の第三取得者は,抵当不動産について必要費又は有益費を支出したときは,第196条〔占有者による費用の償還請求〕の区別に従い,抵当不動産の代価から,他の債権者より先にその償還を受けることができる。
第392条(共同抵当における代価の配当)
①債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において,同時にその代価を配当すべきときは,その各不動産の価額に応じて,その債権の負担を按(あん)分する。
②債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において,ある不動産の代価のみを配当すべきときは,抵当権者は,その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合において,次順位の抵当権者は,その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として,その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。
第393条(共同抵当における代位の付記登記)
前条第2項後段の規定により代位によって抵当権を行使する者は,その抵当権の登記にその代位を付記することができる。
第394条(抵当不動産以外の財産からの弁済)
①抵当権者は,抵当不動産の代価から弁済を受けない債権の部分についてのみ,他の財産から弁済を受けることができる。
②前項の規定は,抵当不動産の代価に先立って他の財産の代価を配当すべき場合には,適用しない。この場合において,他の各債権者は,抵当権者に同項の規定による弁済を受けさせるため,抵当権者に配当すべき金額の供託を請求することができる。
第395条(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
①抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的【物】である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は,その建物の競売における買受人の買受けの時から6箇月を経過するまでは,その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
②前項の規定は,買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について,買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその1箇月分以上の支払の催告をし,その相当の期間内に履行がない場合には,適用しない。
旧第395条〔短期賃借権の保護〕
第602条ニ定メタル期間ヲ超エサル賃貸借ハ抵当権ノ登記後ニ登記シタルモノト雖モ之ヲ以テ抵当権者ニ対抗スルコトヲ得但其賃貸借カ抵当権者ニ損害ヲ及ホストキハ裁判所ハ抵当権者ノ請求ニ因リ其解除ヲ命スルコトヲ得
第396条(抵当権の消滅時効)
抵当権は,債務者及び抵当権設定者に対しては,その担保する債権と同時でなければ,時効によって消滅しない。
第397条(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは,抵当権は,これによって消滅する。
第398条(抵当権の目的【物】である地上権等の放棄)
地上権又は永小作権を抵当権の目的【物】とした地上権者又は永小作人は,その権利を放棄しても,これをもって抵当権者に対抗することができない。
第398条の2(根抵当権)
①抵当権は,設定行為で定めるところにより,一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。
②前項の規定による抵当権(以下「根抵当権」という。)の担保すべき不特定の債権の範囲は,債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して,定めなければならない。
③特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権又は手形上若しくは小切手上の請求権は,前項の規定にかかわらず,根抵当権の担保すべき債権とすることができる。
第398条の3(根抵当権の被担保債権の範囲)
①根抵当権者は,確定した元本並びに利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について,極度額を限度として,その根抵当権を行使することができる。
②債務者との取引によらないで取得する手形上又は小切手上の請求権を根抵当権の担保すべき債権とした場合において,次に掲げる事由があったときは,その前に取得したものについてのみ,その根抵当権を行使することができる。ただし,その後に取得したものであっても,その事由を知らないで取得したものについては,これを行使することを妨げない。
一 債務者の支払の停止 〔号の新設〕
二 債務者についての破産手続開始,再生手続開始,更生手続開始,整理開始又は特別清算開始の申立て 〔号の新設〕
三 抵当不動産に対する競売の申立て又は滞納処分による差押え 〔号の新設〕
第398条の4(根抵当権の被担保債権の範囲及び債務者の変更)
①元本の確定前においては,根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更をすることができる。債務者の変更についても,同様とする。
②前項の変更をするには,後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない。
③第1項の変更について元本の確定前に登記をしなかったときは,その変更をしなかったものとみなす。
第398条の5(根抵当権の極度額の変更)
根抵当権の極度額の変更は,利害関係を有する者の承諾を得なければ,することができない。
第398条の6(根抵当権の元本確定期日の定め)
①根抵当権の担保すべき元本については,その確定すべき期日を定め又は変更することができる。
②第398条の4第2項〔根抵当権の被担保債権の範囲及び債務者の変更の場合の後順位の抵当権者その他の第三者の承諾の不要〕の規定は,前項の場合について準用する。
③第1項の期日は,これを定め又は変更した日から5年以内でなければならない。
④第1項の期日の変更についてその変更前の期日より前に登記をしなかったときは,担保すべき元本は,その変更前の期日に確定する。
第398条の7(根抵当権の被担保債権の譲渡等)
①元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は,その債権について根抵当権を行使することができない。元本の確定前に債務者のために又は債務者に代わって弁済をした者も,同様とする。
②元本の確定前に債務の引受けがあったときは,根抵当権者は,引受人の債務について,その根抵当権を行使することができない。
③元本の確定前に債権者又は債務者の交替による更改があったときは,その当事者は,第518条〔更改後の債務への担保の移転〕の規定にかかわらず,根抵当権を更改後の債務に移すことができない。 〔旧・第398条ノ8〕
第398条の8(根抵当権者又は債務者の相続) 〔旧・第398条ノ9〕
①元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは,根抵当権は,相続開始の時に存する債権のほか,相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保する。
②元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは,根抵当権は,相続開始の時に存する債務のほか,根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する。
③第398条の4第2項〔根抵当権の被担保債権の範囲及び債務者の変更の場合の後順位の抵当権者その他の第三者の承諾の不要〕の規定は,前2項の合意をする場合について準用する。
④第1項及び第2項の合意について相続の開始後6箇月以内に登記をしないときは,担保すべき元本は,相続開始の時に確定したものとみなす。
第398条の9(根抵当権者又は債務者の合併) 〔旧・第398条ノ10〕
①元本の確定前に根抵当権者について合併があったときは,根抵当権は,合併の時に存する債権のほか,合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に取得する債権を担保する。
②元本の確定前にその債務者について合併があったときは,根抵当権は,合併の時に存する債務のほか,合併後存続する法人又は合併によって設立された法人が合併後に負担する債務を担保する。
③前2項の場合には,根抵当権設定者は,担保すべき元本の確定を請求することができる。ただし,前項の場合において,その債務者が根抵当権設定者であるときは,この限りでない。
④前項の規定による請求があったときは,担保すべき元本は,合併の時に確定したものとみなす。
⑤第3項の規定による請求は,根抵当権設定者が合併のあったことを知った日から2週間を経過したときは,することができない。合併の日から1箇月を経過したときも,同様とする。
第398条の10(根抵当権者又は債務者の会社分割) 〔旧・第398条ノ10ノ2〕
①元本の確定前に根抵当権者を分割をする会社とする分割があったときは,根抵当権は,分割の時に存する債権のほか,分割をした会社及び分割によって設立された会社又は営業を承継した会社が分割後に取得する債権を担保する。
②元本の確定前にその債務者を分割をする会社とする分割があったときは,根抵当権は,分割の時に存する債務のほか,分割をした会社及び分割によって設立された会社又は営業を承継した会社が分割後に負担する債務を担保する。
③前条第3項から第5項まで〔元本の確定請求〕の規定は,前2項の場合について準用する。
第398条の11(根抵当権の処分)
①元本の確定前においては,根抵当権者は,第376条〔抵当権の処分〕第1項の規定による根抵当権の処分をすることができない。ただし,その根抵当権を他の債権の担保とすることを妨げない。
②第377条〔抵当権の処分の対抗要件〕第2項の規定は,前項ただし書の場合において元本の確定前にした弁済については,適用しない。
第398条の12(根抵当権の譲渡)
①元本の確定前においては,根抵当権者は,根抵当権設定者の承諾を得て,その根抵当権を譲り渡すことができる。
②根抵当権者は,その根抵当権を2個の根抵当権に分割して,その一方を前項の規定により譲り渡すことができる。この場合において,その根抵当権を目的【物】とする権利は,譲り渡した根抵当権について消滅する。
③前項の規定による譲渡をするには,その根抵当権を目的【物】とする権利を有する者の承諾を得なければならない。
第398条の13(根抵当権の一部譲渡)
元本の確定前においては,根抵当権者は,根抵当権設定者の承諾を得て,その根抵当権の一部譲渡(譲渡人が譲受人と根抵当権を共有するため,これを分割しないで譲り渡すことをいう。以下この節において同じ。)をすることができる。
第398条の14(根抵当権の共有)
①根抵当権の共有者は,それぞれその債権額の割合に応じて弁済を受ける。ただし,元本の確定前に,これと異なる割合を定め,又はある者が他の者に先立って弁済を受けるべきことを定めたときは,その定めに従う。
②根抵当権の共有者は,他の共有者の同意を得て,第398条の12〔根抵当権の譲渡〕第1項の規定によりその権利を譲り渡すことができる。
第398条の15(抵当権の順位の譲渡又は放棄と根抵当権の譲渡又は一部譲渡)
抵当権の順位の譲渡又は放棄を受けた根抵当権者が,その根抵当権の譲渡又は一部譲渡をしたときは,譲受人は,その順位の譲渡又は放棄の利益を受ける。
第398条の16(共同根抵当)
第392条〔共同抵当における代価の配当〕及び第393条〔共同抵当における代位の付記登記〕の規定は,根抵当権については,その設定と同時に同一の債権の担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をした場合に限り,適用する。
第398条の17(共同根抵当の変更等)
①前条の登記がされている根抵当権の担保すべき債権の範囲,債務者若しくは極度額の変更又はその譲渡若しくは一部譲渡は,その根抵当権が設定されているすべての不動産について登記をしなければ,その効力を生じない。
②前条の登記がされている根抵当権の担保すべき元本は,1個の不動産についてのみ確定すべき事由が生じた場合においても,確定する。
第398条の18(累積根抵当)
数個の不動産につき根抵当権を有する者は,第398条の16〔共同根抵当〕の場合を除き,各不動産の代価について,各極度額に至るまで優先権を行使することができる。
第398条の19(根抵当権の元本の確定請求)
①根抵当権設定者は,根抵当権の設定の時から3年を経過したときは,担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において,担保すべき元本は,その請求の時から2週間を経過することによって確定する。
②根抵当権者は,いつでも,担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において,担保すべき元本は,その請求の時に確定する。
③前2項の規定は,担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときは,適用しない。
第398条の20(根抵当権の元本の確定事由)
①次に掲げる場合には,根抵当権の担保すべき元本は,確定する。
一 根抵当権者が抵当不動産について競売若しくは担保不動産収益執行又は第372条において準用する第304条〔先取特権の物上代位〕の規定による差押えを申し立てたとき。ただし,競売手続若しくは担保不動産収益執行手続の開始又は差押えがあったときに限る。
二 根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき。
三 根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始又は滞納処分による差押えがあったことを知った時から2週間を経過したとき。
四 債務者又は根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき。
②前項第三号の競売手続の開始若しくは差押え又は同項第四号の破産手続開始の決定の効力が消滅したときは,担保すべき元本は,確定しなかったものとみなす。ただし,元本が確定したものとしてその根抵当権又はこれを目的【物】とする権利を取得した者があるときは,この限りでない。
第398条の21(根抵当権の極度額の減額請求)
①元本の確定後においては,根抵当権設定者は,その根抵当権の極度額を,現に存する債務の額と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求することができる。
②第398条の16〔共同根抵当〕の登記がされている根抵当権の極度額の減額については,前項の規定による請求は,そのうちの1個の不動産についてすれば足りる。
第398条の22(根抵当権の消滅請求)
①元本の確定後において現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超えるときは,他人の債務を担保するためその根抵当権を設定した者又は抵当不動産について所有権,地上権,永小作権若しくは第三者に対抗することができる賃借権を取得した第三者は,その極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して,その根抵当権の消滅請求をすることができる。この場合において,その払渡し又は供託は,弁済の効力を有する。
②第398条の16〔共同根抵当〕の登記がされている根抵当権は,1個の不動産について前項の消滅請求があったときは,消滅する。
③第380条及び第381条〔抵当権消滅請求権を行使できない者〕の規定は,第1項の消滅請求について準用する。
第399条(債権の目的)
債権は,金銭に見積もることができないものであっても,その目的とすることができる。
第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,その引渡しをするまで,善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならない。
第401条(種類債権)
①債権の目的物を種類のみで指定した場合において,法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは,債務者は,中等の品質を有する物を給付しなければならない。
②前項の場合において,債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し,又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは,以後その物を債権の目的物とする。
第402条(金銭債権1)
①債権の目的物が金銭であるときは,債務者は,その選択に従い,各種の通貨で弁済をすることができる。ただし,特定の種類の通貨の給付を債権の目的としたときは,この限りでない。
②債権の目的物である特定の種類の通貨が弁済期に強制通用の効力を失っているときは,債務者は,他の通貨で弁済をしなければならない。
③前2項の規定は,外国の通貨の給付を債権の目的とした場合について準用する。
第403条〔金銭債権2〕
外国の通貨で債権額を指定したときは,債務者は,履行地における為替相場により,日本の通貨で弁済をすることができる。
第404条(法定利率)
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,年5分とする。
第405条(利息の元本への組入れ)
利息の支払が1年分以上延滞した場合において,債権者が催告をしても,債務者がその利息を支払わないときは,債権者は,これを元本に組み入れることができる。
第406条(選択債権における選択権の帰属)
債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは,その選択権は,債務者に属する。
第407条(選択権の行使)
①前条の選択権は,相手方に対する意思表示によって行使する。
②前項の意思表示は,相手方の承諾を得なければ,撤回する【取り消す】ことができない。
第408条(選択権の移転)
債権が弁済期にある場合において,相手方から相当の期間を定めて催告をしても,選択権を有する当事者がその期間内に選択をしないときは,その選択権は,相手方に移転する。
第409条(第三者の選択権)
①第三者が選択をすべき場合には,その選択は,債権者又は債務者に対する意思表示によってする。
②前項に規定する場合において,第三者が選択をすることができず,又は選択をする意思を有しないときは,選択権は,債務者に移転する。
第410条(不能による選択債権の特定)
①債権の目的である給付の中に,初めから不能であるもの又は後に至って不能となったものがあるときは,債権は,その残存するものについて存在する。
②選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは,前項の規定は,適用しない。
第411条(選択の効力)
選択は,債権の発生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,第三者の権利を害することはできない。
第412条(履行期と履行遅滞)
①債務の履行について確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
②債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。
③債務の履行について期限を定めなかったときは,債務者は,履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
第413条(受領遅滞)
債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができないときは,その債権者は,履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。
第414条(履行の強制)
①債務者が任意に債務の履行をしないときは,債権者は,その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし,債務の性質がこれを許さないときは,この限りでない。
②債務の性質が強制履行を許さない場合において,その債務が作為を目的とするときは,債権者は,債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし,法律行為を目的とする債務については,裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
③不作為を目的とする債務については,債務者の費用で,債務者がした行為の結果を除去し,又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。
④前3項の規定は,損害賠償の請求を妨げない。
第415条(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも,同様とする。
第416条(損害賠償の範囲)
①債務の不履行に対する損害賠償の請求は,これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
②特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見し,又は予見することができたときは,債権者は,その賠償を請求することができる。
第417条(損害賠償の方法)
損害賠償は,別段の意思表示がないときは,金銭をもってその額を定める。
第418条(過失相殺)
債務の不履行に関して債権者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の責任及びその額を定める。
第419条(金銭債務の特則)
①金銭の給付を目的とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,法定利率によって定める。ただし,約定利率が法定利率を超えるときは,約定利率による。
②前項の損害賠償については,債権者は,損害の証明をすることを要しない。
③第1項の損害賠償については,債務者は,不可抗力をもって抗弁とすることができない。
第420条(賠償額の予定1)
①当事者は,債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において,裁判所は,その額を増減することができない。
②賠償額の予定は,履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
③違約金は,賠償額の予定と推定する。
第421条〔賠償額の予定2〕
前条の規定は,当事者が金銭でないものを損害の賠償に充てるべき旨を予定した場合について準用する。
第422条(損害賠償による代位)
債権者が,損害賠償として,その債権の目的【物】である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは,債務者は,その物又は権利について当然に債権者に代位する。
第423条(債権者代位権)
①債権者は,自己の債権を保全するため,債務者に属する権利を行使することができる。ただし,債務者の一身に専属する権利は,この限りでない。
②債権者は,その債権の期限が到来しない間は,裁判上の代位によらなければ,前項の権利を行使することができない。ただし,保存行為は,この限りでない。
第424条(詐害行為取消権)
①債権者は,債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし,その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは,この限りでない。
②前項の規定は,財産権を目的【物】としない法律行為については,適用しない。
第425条(詐害行為の取消しの効果)
前条の規定による取消しは,すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。
第426条(詐害行為取消権の期間の制限)
第424条〔詐害行為取消権〕の規定による取消権は,債権者が取消しの原因を知った時から2年間行使しないときは,時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも,同様とする。
第427条(分割債権及び分割債務)
数人の債権者又は債務者がある場合において,別段の意思表示がないときは,各債権者又は各債務者は,それぞれ等しい割合で権利を有し,又は義務を負う。
第428条(不可分債権)
債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において,数人の債権者があるときは,各債権者はすべての債権者のために履行を請求し,債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
第429条(不可分債権者の1人について生じた事由等の効力)
①不可分債権者の1人と債務者との間に更改又は免除があった場合においても,他の不可分債権者は,債務の全部の履行を請求することができる。この場合においては,その1人の不可分債権者がその権利を失わなければ分与される利益を債務者に償還しなければならない。
②前項に規定する場合のほか,不可分債権者の1人の行為又は1人について生じた事由は,他の不可分債権者に対してその効力を生じない。
第430条(不可分債務)
前条の規定及び次款(連帯債務)の規定(第434条から第440条まで〔連帯債務者の1人について生じた事由の他の連帯債務者に対する効力〕の規定を除く。)は,数人が不可分債務を負担する場合について準用する。
第431条(可分債権又は可分債務への変更)
不可分債権が可分債権となったときは,各債権者は自己が権利を有する部分についてのみ履行を請求することができ,不可分債務が可分債務となったときは,各債務者はその負担部分についてのみ履行の責任を負う。
第432条(履行の請求)
数人が連帯債務を負担するときは,債権者は,その連帯債務者の1人に対し,又は同時に若しくは順次にすべての連帯債務者に対し,全部又は一部の履行を請求することができる。
第433条(連帯債務者の1人についての法律行為の無効等)
連帯債務者の1人について法律行為の無効又は取消し【又は撤回】の原因があっても,他の連帯債務者の債務は,その効力を妨げられない。
第434条(連帯債務者の1人に対する履行の請求)
連帯債務者の1人に対する履行の請求は,他の連帯債務者に対しても,その効力を生ずる。
第435条(連帯債務者の1人との間の更改)
連帯債務者の1人と債権者との間に更改があったときは,債権は,すべての連帯債務者の利益のために消滅する。
第436条(連帯債務者の1人による相殺等)
①連帯債務者の1人が債権者に対して債権を有する場合において,その連帯債務者が相殺を援用したときは,債権は,すべての連帯債務者の利益のために消滅する。
②前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる。
第437条(連帯債務者の1人に対する免除)
連帯債務者の1人に対してした債務の免除は,その連帯債務者の負担部分についてのみ,他の連帯債務者の利益のためにも,その効力を生ずる。
第438条(連帯債務者の1人との間の混同)
連帯債務者の1人と債権者との間に混同があったときは,その連帯債務者は,弁済をしたものとみなす。
第439条(連帯債務者の1人についての時効の完成)
連帯債務者の1人のために時効が完成したときは,その連帯債務者の負担部分については,他の連帯債務者も,その義務を免れる。
第440条(相対的効力の原則)
第434条から前条まで〔連帯債務者の1人について生じた事由の他の連帯債務者に対する絶対的効力〕に規定する場合を除き,連帯債務者の1人について生じた事由は,他の連帯債務者に対してその効力を生じない。
第441条(連帯債務者についての破産手続の開始)
連帯債務者の全員又はそのうちの数人が破産手続開始の決定を受けたときは,債権者は,その債権の全額について各破産財団の配当に加入することができる。
第442条(連帯債務者間の求償権)
①連帯債務者の1人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有する。
②前項の規定による求償は,弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
第443条(通知を怠った連帯債務者の求償の制限)
①連帯債務者の1人が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において,他の連帯債務者は,債権者に対抗することができる事由を有していたときは,その負担部分について,その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において,相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは,過失のある連帯債務者は,債権者に対し,相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
②連帯債務者の1人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため,他の連帯債務者が善意で弁済をし,その他有償の行為をもって免責を得たときは,その免責を得た連帯債務者は,自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。
第444条(償還をする資力のない者の負担部分の分担)
連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは,その償還をすることができない部分は,求償者及び他の資力のある者の間で,各自の負担部分に応じて分割して負担する。ただし,求償者に過失があるときは,他の連帯債務者に対して分担を請求することができない。
第445条(連帯の免除と弁済をする資力のない者の負担部分の分担)
連帯債務者の1人が連帯の免除を得た場合において,他の連帯債務者の中に弁済をする資力のない者があるときは,債権者は,その資力のない者が弁済をすることができない部分のうち連帯の免除を得た者が負担すべき部分を負担する。
第446条(保証人の責任等)
①保証人は,主たる債務者がその債務を履行しないときに,その履行をする責任を負う。
②保証契約は,書面でしなければ,その効力を生じない。
③保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは,その保証契約は,書面によってされたものとみなして,前項の規定を適用する。
第447条(保証債務の範囲)
①保証債務は,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。
②保証人は,その保証債務についてのみ,違約金又は損害賠償の額を約定することができる。
第448条(保証人の負担が主たる債務より重い場合)
保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは,これを主たる債務の限度に減縮する。
第449条(取り消すことができる債務の保証)←【制限行為能力者の債務の保証】
行為能力の制限によって取り消すことができる債務を保証した者は,保証契約の時においてその取消しの原因を知っていたときは,主たる債務の不履行の場合又はその債務の取消しの場合においてこれと同一の目的を有する独立の債務を負担したものと推定する。
第450条(保証人の要件)
①債務者が保証人を立てる義務を負う場合には,その保証人は,次に掲げる要件を具備する者でなければならない。
一 行為能力者であること。
二 弁済をする資力を有すること。
②保証人が前項第二号に掲げる要件を欠くに至ったときは,債権者は,同項各号に掲げる要件を具備する者をもってこれに代えることを請求することができる。
③前2項の規定は,債権者が保証人を指名した場合には,適用しない。
第451条(他の担保の供与)
債務者は,前条第1項各号に掲げる要件を具備する保証人を立てることができないときは,他の担保を供してこれに代えることができる。
第452条(催告の抗弁【権】)
債権者が保証人に債務の履行を請求したときは,保証人は,まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし,主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき,又はその行方が知れないときは,この限りでない。
第453条(検索の抗弁【権】)
債権者が前条〔催告の抗弁権〕の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても,保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり,かつ,執行が容易であることを証明したときは,債権者は,まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。
第454条(連帯保証の場合の特則)
保証人は,主たる債務者と連帯して債務を負担したときは,前2条〔催告・検索の抗弁権〕の権利〔保証の補充性〕を有しない。
第455条(催告の抗弁【権】及び検索の抗弁【権】の効果)
第452条〔催告の抗弁権〕又は第453条〔検索の抗弁権〕の規定により保証人の請求又は証明があったにもかかわらず,債権者が催告又は執行をすることを怠ったために主たる債務者から全部の弁済を得られなかったときは,保証人は,債権者が直ちに催告又は執行をすれば弁済を得ることができた限度において,その義務を免れる。
第456条(数人の保証人がある場合〔分別の利益〕)
数人の保証人がある場合には,それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても,第427条〔分割債権及び分割債務〕の規定を適用する。
第457条(主たる債務者について生じた事由の効力)
①主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は,保証人に対しても,その効力を生ずる。
②保証人は,主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。
第458条(連帯保証人について生じた事由の効力)
第434条から第440条まで〔連帯債務者の1人について生じた事由の他の連帯債務者に対する効力〕の規定は,主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する。
第459条(委託を受けた保証人の求償権)
①保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け,又は主たる債務者に代わって弁済をし,その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは,その保証人は,主たる債務者に対して求償権を有する。
②第442条第2項〔連帯債務者間の求償権の範囲〕の規定は,前項の場合について準用する。
第460条(委託を受けた保証人の事前の求償権)
保証人は,主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,次に掲げるときは,主たる債務者に対して,あらかじめ,求償権を行使することができる。
一 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け,かつ,債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
二 債務が弁済期にあるとき。ただし,保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は,保証人に対抗することができない。
三 債務の弁済期が不確定で,かつ,その最長期をも確定することができない場合において,保証契約の後10年を経過したとき。
第461条(主たる債務者が保証人に対して償還をする場合)
①前2条〔委託を受けた保証人の求償権〕の規定により主たる債務者が保証人に対して償還をする場合において,債権者が全部の弁済を受けない間は,主たる債務者は,保証人に担保を供させ,又は保証人に対して自己に免責を得させることを請求することができる。
②前項に規定する場合において,主たる債務者は,供託をし,担保を供し,又は保証人に免責を得させて,その償還の義務を免れることができる。
第462条(委託を受けない保証人の求償権)
①主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が弁済をし,その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせたときは,主たる債務者は,その当時利益を受けた限度において償還をしなければならない。
②主たる債務者の意思に反して保証をした者は,主たる債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する。この場合において,主たる債務者が求償の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは,保証人は,債権者に対し,その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。
第463条(通知を怠った保証人の求償の制限)
①第443条〔通知を怠った連帯債務者の求償の制限〕の規定は,保証人について準用する。
②保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,善意で弁済をし,その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは,第443条〔通知を怠った連帯債務者の求償の制限〕の規定は,主たる債務者についても準用する。
第464条(連帯債務又は不可分債務の保証人の求償権)
連帯債務者又は不可分債務者の1人のために保証をした者は,他の債務者に対し,その負担部分のみについて求償権を有する。
第465条(共同保証人間の求償権)
①第442条から第444条まで〔連帯債務者間の求償権,通知を怠った連帯債務者の求償の制限,償還をする資力のない者の負担部分の分担〕の規定は,数人の保証人がある場合において,そのうちの1人の保証人が,主たる債務が不可分であるため又は各保証人が全額を弁済すべき旨の特約があるため,その全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。
②第462条〔委託を受けない保証人の求償権〕の規定は,前項に規定する場合を除き,互いに連帯しない保証人の1人が全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。
第465条の2(貸金等根保証契約の保証人の責任等)
①一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は,主たる債務の元本,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について,その全部に係る極度額を限度として,その履行をする責任を負う。
②貸金等根保証契約は,前項に規定する極度額を定めなければ,その効力を生じない。
③第446条第2項及び第3項〔保証契約の書面性〕の規定は,貸金等根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。
第465条の3(貸金等根保証契約の元本確定期日)
①貸金等根保証契約において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において,その元本確定期日がその貸金等根保証契約の締結の日から5年を経過する日より後の日と定められているときは,その元本確定期日の定めは,その効力を生じない。
②貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には,その元本確定期日は,その貸金等根保証契約の締結の日から3年を経過する日とする。
③貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において,変更後の元本確定期日がその変更をした日から5年を経過する日より後の日となるときは,その元本確定期日の変更は,その効力を生じない。ただし,元本確定期日の前2箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において,変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から5年以内の日となるときは,この限りでない。
④第446条第2項及び第3項〔保証契約の書面性〕の規定は,貸金等根保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その貸金等根保証契約の締結の日から3年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について準用する。
第465条の4(貸金等根保証契約の元本の確定事由)
次に掲げる場合には,貸金等根保証契約における主たる債務の元本は,確定する。
一 債権者が,主たる債務者又は保証人の財産について,金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし,強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
二 主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
第465条の5(保証人が法人である貸金等債務の根保証契約の求償権)
保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものにおいて,第465条の2〔貸金等根保証契約〕第1項に規定する極度額の定めがないとき,元本確定期日の定めがないとき,又は元本確定期日の定め若しくはその変更が第465条の3〔貸金等根保証契約の元本確定期日〕第1項若しくは第3項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは,その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人であるものを除く。)は,その効力を生じない。
第466条(債権の譲渡性)
①債権は,譲り渡すことができる。ただし,その性質がこれを許さないときは,この限りでない。
②前項の規定は,当事者が反対の意思を表示した場合には,適用しない。ただし,その意思表示は,善意の第三者に対抗することができない。
第467条(指名債権の譲渡の対抗要件)
①指名債権の譲渡は,譲渡人が債務者に通知をし,又は債務者が承諾をしなければ,債務者その他の第三者に対抗することができない。
②前項の通知又は承諾は,確定日付のある証書によってしなければ,債務者以外の第三者に対抗することができない。
第468条(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)
①債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは,譲渡人に対抗することができた事由があっても,これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において,債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し,譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
②譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは,債務者は,その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
第469条(指図債権の譲渡の対抗要件)
指図債権の譲渡は,その証書に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ,債務者その他の第三者に対抗することができない。
第470条(指図債権の債務者の調査の権利等)
指図債権の債務者は,その証書の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが,その義務を負わない。ただし,債務者に悪意又は重大な過失があるときは,その弁済は,無効とする。
第471条(記名式所持人払債権の債務者の調査の権利等)
前条の規定は,債権に関する証書に債権者を指名する記載がされているが,その証書の所持人に弁済をすべき旨が付記されている場合について準用する。
第472条(指図債権の譲渡における債務者の抗弁の制限)
指図債権の債務者は,その証書に記載した事項及びその証書の性質から当然に生ずる結果を除き,その指図債権の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。
第473条(無記名債権の譲渡における債務者の抗弁の制限)
前条の規定は,無記名債権について準用する。
第474条(第三者の弁済)
①債務の弁済は,第三者もすることができる。ただし,その債務の性質がこれを許さないとき,又は当事者が反対の意思を表示したときは,この限りでない。
②利害関係を有しない第三者は,債務者の意思に反して弁済をすることができない。
第475条(弁済として引き渡した物の取戻し1)
弁済をした者が弁済として他人の物を引き渡したときは,その弁済をした者は,更に有効な弁済をしなければ,その物を取り戻すことができない。
第476条〔弁済として引き渡した物の取戻し2〕
譲渡につき行為能力の制限を受けた所有者が弁済として物の引渡しをした場合において,その弁済を取り消したときは,その所有者は,更に有効な弁済をしなければ,その物を取り戻すことができない。
第477条(弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力等)
前2条〔弁済として引き渡した物の取戻し〕の場合において,債権者が弁済として受領した物を善意で消費し,又は譲り渡したときは,その弁済は,有効とする。この場合において,債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは,弁済をした者に対して求償をすることを妨げない。
第478条(債権の準占有者に対する弁済)
債権の準占有者に対してした弁済は,その弁済をした者が善意であり,かつ,過失がなかったときに限り,その効力を有する。
第479条(受領する権限のない者に対する弁済)
前条の場合を除き,弁済を受領する権限を有しない者に対してした弁済は,債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ,その効力を有する。
第480条(受取証書の持参人に対する弁済)
受取証書の持参人は,弁済を受領する権限があるものとみなす。ただし,弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき,又は過失によって知らなかったときは,この限りでない。
第481条(支払の差止めを受けた第三債務者の弁済)
①支払の差止めを受けた第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは,差押債権者は,その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。
②前項の規定は,第三債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。
第482条(代物弁済)
債務者が,債権者の承諾を得て,その負担した給付に代えて他の給付をしたときは,その給付は,弁済と同一の効力を有する。
第483条(特定物の現状による引渡し)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは,弁済をする者は,その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。
第484条(弁済の場所)
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは,特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において,その他の弁済は債権者の現在の住所において,それぞれしなければならない。
第485条(弁済の費用)
弁済の費用について別段の意思表示がないときは,その費用は,債務者の負担とする。ただし,債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは,その増加額は,債権者の負担とする。
第486条(受取証書の交付請求)
弁済をした者は,弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる。
第487条(債権証書の返還請求)
債権に関する証書がある場合において,弁済をした者が全部の弁済をしたときは,その証書の返還を請求することができる。
第488条(弁済の充当の指定)
①債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において,弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りないときは,弁済をする者は,給付の時に,その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
②弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは,弁済を受領する者は,その受領の時に,その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし,弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは,この限りでない。
③前2項の場合における弁済の充当の指定は,相手方に対する意思表示によってする。
第489条(法定充当)
弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは,次の各号の定めるところに従い,その弁済を充当する。
一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは,弁済期にあるものに先に充当する。
二 すべての債務が弁済期にあるとき,又は弁済期にないときは,債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは,弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は,各債務の額に応じて充当する。
第490条(数個の給付をすべき場合の充当)
1個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において,弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは,前2条〔弁済の充当の指定,法定充当〕の規定を準用する。
第491条(元本,利息及び費用を支払うべき場合の充当)
①債務者が1個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において,弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは,これを順次に費用,利息及び元本に充当しなければならない。
②第489条〔法定充当〕の規定は,前項の場合について準用する。
第492条(弁済の提供の効果)
債務者は,弁済の提供の時から,債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。
第493条(弁済の提供の方法)
弁済の提供は,債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし,債権者があらかじめその受領を拒み,又は債務の履行について債権者の行為を要するときは,弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。
第494条(供託)
債権者が弁済の受領を拒み,又はこれを受領することができないときは,弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は,債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも,同様とする。
第495条(供託の方法)
①前条の規定による供託は,債務の履行地の供託所にしなければならない。
②供託所について法令に特別の定めがない場合には,裁判所は,弁済者の請求により,供託所の指定及び供託物の保管者の選任をしなければならない。
③前条の規定により供託をした者は,遅滞なく,債権者に供託の通知をしなければならない。
第496条(供託物の取戻し)
①債権者が供託を受諾せず,又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は,弁済者は,供託物を取り戻すことができる。この場合においては,供託をしなかったものとみなす。
②前項の規定は,供託によって質権又は抵当権が消滅した場合には,適用しない。
第497条(供託に適しない物等)
弁済の目的物が供託に適しないとき,又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるときは,弁済者は,裁判所の許可を得て,これを競売に付し,その代金を供託することができる。その物の保存について過分の費用を要するときも,同様とする。
第498条(供託物の受領の要件)
債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には,債権者は,その給付をしなければ,供託物を受け取ることができない。
第499条(任意代位)
①債務者のために弁済をした者は,その弁済と同時に債権者の承諾を得て,債権者に代位することができる。
②第467条〔指名債権の譲渡の対抗要件〕の規定は,前項の場合について準用する。
第500条(法定代位)
弁済をするについて正当な利益を有する者は,弁済によって当然に債権者に代位する。
第501条(弁済による代位の効果)
前2条の規定により債権者に代位した者は,自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において,債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。この場合においては,次の各号の定めるところに従わなければならない。
一 保証人は,あらかじめ先取特権,不動産質権又は抵当権の登記にその代位を付記しなければ,その先取特権,不動産質権又は抵当権の目的【物】である不動産の第三取得者に対して債権者に代位することができない。
二 第三取得者は,保証人に対して債権者に代位しない。
三 第三取得者の1人は,各不動産の価格に応じて,他の第三取得者に対して債権者に代位する。
四 物上保証人の1人は,各財産の価格に応じて,他の物上保証人に対して債権者に代位する。
五 保証人と物上保証人との間においては,その数に応じて,債権者に代位する。ただし,物上保証人が数人あるときは,保証人の負担部分を除いた残額について,各財産の価格に応じて,債権者に代位する。
六 前号の場合において,その財産が不動産であるときは,第一号の規定を準用する。 〔号の追加〕
第502条(一部弁済による代位)
①債権の一部について代位弁済があったときは,代位者は,その弁済をした価額に応じて,債権者とともにその権利を行使する。
②前項の場合において,債務の不履行による契約の解除は,債権者のみがすることができる。この場合においては,代位者に対し,その弁済をした価額及びその利息を償還しなければならない。
第503条(債権者による債権証書の交付等)
①代位弁済によって全部の弁済を受けた債権者は,債権に関する証書及び自己の占有する担保物を代位者に交付しなければならない。
②債権の一部について代位弁済があった場合には,債権者は,債権に関する証書にその代位を記入し,かつ,自己の占有する担保物の保存を代位者に監督させなければならない。
第504条(債権者による担保の喪失等)
第500条〔法定代位〕の規定により代位をすることができる者がある場合において,債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し,又は減少させたときは,その代位をすることができる者は,その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において,その責任を免れる。
第505条(相殺の要件等)
①2人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において,双方の債務が弁済期にあるときは,各債務者は,その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし,債務の性質がこれを許さないときは,この限りでない。
②前項の規定は,当事者が反対の意思を表示した場合には,適用しない。ただし,その意思表示は,善意の第三者に対抗することができない。
第506条(相殺の方法及び効力)
①相殺は,当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において,その意思表示には,条件又は期限を付することができない。
②前項の意思表示は,双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。
第507条(履行地の異なる債務の相殺)
相殺は,双方の債務の履行地が異なるときであっても,することができる。この場合において,相殺をする当事者は,相手方に対し,これによって生じた損害を賠償しなければならない。
第508条(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)
時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には,その債権者は,相殺をすることができる。
第509条(不法行為により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
債務が不法行為によって生じたときは,その債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができない。
第510条(差押禁止債権を受働債権とする相殺の禁止)
債権が差押えを禁じたものであるときは,その債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができない。
第511条(支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
支払の差止めを受けた第三債務者は,その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。
第512条(相殺の充当)
第488条から第491条まで〔弁済の充当〕の規定は,相殺について準用する。
第513条(更改)
①当事者が債務の要素を変更する契約をしたときは,その債務は,更改によって消滅する。
②条件付債務を無条件債務としたとき,無条件債務に条件を付したとき,又は債務の条件を変更したときは,いずれも債務の要素を変更したものとみなす。
第514条(債務者の交替による更改)
債務者の交替による更改は,債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。ただし,更改前の債務者の意思に反するときは,この限りでない。
第515条(債権者の交替による更改1)
債権者の交替による更改は,確定日付のある証書によってしなければ,第三者に対抗することができない。
第516条〔債権者の交替による更改2〕
第468条第1項〔異議をとどめない承諾の効力〕の規定は,債権者の交替による更改について準用する。
第517条(更改前の債務が消滅しない場合)
更改によって生じた債務が,不法な原因のため又は当事者の知らない事由によって成立せず又は取り消されたときは,更改前の債務は,消滅しない。
第518条(更改後の債務への担保の移転)
更改の当事者は,更改前の債務の目的の限度において,その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。ただし,第三者がこれを設定した場合には,その承諾を得なければならない。
第519条〔免除〕
債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは,その債権は,消滅する。
第520条〔混同〕
債権及び債務が同一人に帰属したときは,その債権は,消滅する。ただし,その債権が第三者の権利の目的【物】であるときは,この限りでない。
第521条(承諾の期間の定めのある申込み)
①承諾の期間を定めてした契約の申込みは,撤回する【取り消す】ことができない。
②申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは,その申込みは,その効力を失う。
第522条(承諾の通知の延着)
①前条第1項の申込み〔承諾期間の定めのある申込み〕に対する承諾の通知が同項の期間の経過後に到達した場合であっても,通常の場合にはその期間内に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは,申込者は,遅滞なく,相手方に対してその延着の通知を発しなければならない。ただし,その到達前に遅延の通知を発したときは,この限りでない。
②申込者が前項本文の延着の通知を怠ったときは,承諾の通知は,前条第1項の〔承諾〕期間内に到達したものとみなす。
第523条(遅延した承諾の効力)
申込者は,遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる。
第524条(承諾の期間の定めのない申込み)
承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは,申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは,撤回する【取り消す】ことができない。
第525条(申込者の死亡又は行為能力の喪失)
第97条〔隔地者に対する意思表示〕第2項の規定は,申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には,適用しない。
第526条(隔地者間の契約の成立時期)
①隔地者間の契約は,承諾の通知を発した時に成立する。
②申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には,契約は,承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。
第527条(申込みの撤回【取消し】の通知の延着)
①申込みの撤回【取消し】の通知が承諾の通知を発した後に到達した場合であっても,通常の場合にはその前に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは,承諾者は,遅滞なく,申込者に対してその延着の通知を発しなければならない。
②承諾者が前項の延着の通知を怠ったときは,契約は,成立しなかったものとみなす。
第528条(申込みに変更を加えた承諾)
承諾者が,申込みに条件を付し,その他変更を加えてこれを承諾したときは,その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす。
第529条(懸賞広告)
ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下この款において「懸賞広告者」という。)
は,その行為をした者に対してその報酬を与える義務を負う。
第530条(懸賞広告の撤回【撤回又は取消し】)
①前条の場合において,懸賞広告者は,その指定した行為を完了する者がない間は,前の広告と同一の方法によってその広告を撤回する【撤回又は取り消する】ことができる。ただし,その広告中に撤回【撤回又は取消し】をしない旨を表示したときは,この限りでない。
②前項本文に規定する方法によって撤回【撤回又は取消し】をすることができない場合には,他の方法によって撤回【撤回又は取消し】をすることができる。この場合において,その撤回【撤回又は取消し】は,これを知った者に対してのみ,その効力を有する。
③懸賞広告者がその指定した行為をする期間を定めたときは,その撤回【取消し】をする権利を放棄したものと推定する。
第531条(懸賞広告の報酬を受ける権利)
①広告に定めた行為をした者が数人あるときは,最初にその行為をした者のみが報酬を受ける権利を有する。
②数人が同時に前項の行為をした場合には,各自が等しい割合で報酬を受ける権利を有する。ただし,報酬がその性質上分割に適しないとき,又は広告において1人のみがこれを受けるものとしたときは,抽選でこれを受ける者を定める。
③前2項の規定は,広告中にこれと異なる意思を表示したときは,適用しない。
第532条(優等懸賞広告)
①広告に定めた行為をした者が数人ある場合において,その優等者のみに報酬を与えるべきときは,その広告は,応募の期間を定めたときに限り,その効力を有する。
②前項の場合において,応募者中いずれの者の行為が優等であるかは,広告中に定めた者が判定し,広告中に判定をする者を定めなかったときは懸賞広告者が判定する。
③応募者は,前項の判定に対して異議を述べることができない。
④前条第2項の規定は,数人の行為が同等と判定された場合について準用する。
第533条(同時履行の抗弁【権】)
双務契約の当事者の一方は,相手方がその債務の履行を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる。ただし,相手方の債務が弁済期にないときは,この限りでない。
第534条(債権者の危険負担)
①特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において,その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し,又は損傷したときは,その滅失又は損傷は,債権者の負担に帰する。
②不特定物に関する契約については,第401条〔種類債権〕第2項の規定によりその物が確定した時から,前項の規定を適用する。
第535条(停止条件付双務契約における危険負担)
①前条の規定は,停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には,適用しない。
②停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは,その損傷は,債権者の負担に帰する。
③停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において,条件が成就したときは,債権者は,その選択に従い,契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては,損害賠償の請求を妨げない。
第536条(債務者の危険負担等)
①前2条に規定する場合を除き,当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債務者は,反対給付を受ける権利を有しない。
②債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは,債務者は,反対給付を受ける権利を失わない。この場合において,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを債権者に償還しなければならない。
第537条(第三者のためにする契約)
①契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは,その第三者は,債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
②前項の場合において,第三者の権利は,その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
第538条(第三者の権利の確定)
前条の規定により第三者の権利が発生した後は,当事者は,これを変更し,又は消滅させることができない。
第539条(債務者の抗弁)
債務者は,第537条〔第三者のためにする契約〕第1項の契約に基づく抗弁をもって,その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。
第540条(解除権の行使)
①契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは,その解除は,相手方に対する意思表示によってする。
②前項の意思表示は,撤回する【取り消す】ことができない。
第541条(履行遅滞等による解除権)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。
第542条(定期行為の履行遅滞による解除権)
契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは,相手方は,前条の催告をすることなく,直ちにその契約の解除をすることができる。
第543条(履行不能による解除権)
履行の全部又は一部が不能となったときは,債権者は,契約の解除をすることができる。ただし,その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
第544条(解除権の不可分性)
①当事者の一方が数人ある場合には,契約の解除は,その全員から又はその全員に対してのみ,することができる。
②前項の場合において,解除権が当事者のうちの1人について消滅したときは,他の者についても消滅する。
第545条(解除の効果)
①当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者は,その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし,第三者の権利を害することはできない。
②前項本文の場合において,金銭を返還するときは,その受領の時から利息を付さなければならない。
③解除権の行使は,損害賠償の請求を妨げない。
第546条(契約の解除と同時履行)
第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定は,前条の場合について準用する。
第547条(催告による解除権の消滅)
解除権の行使について期間の定めがないときは,相手方は,解除権を有する者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において,その期間内に解除の通知を受けないときは,解除権は,消滅する。
第548条(解除権者の行為等による解除権の消滅)
①解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し,若しくは返還することができなくなったとき,又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは,解除権は,消滅する。
②契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過失によらないで滅失し,又は損傷したときは,解除権は,消滅しない。
第549条(贈与)
贈与は,当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し,相手方が受諾をすることによって,その効力を生ずる。
第550条(書面によらない贈与の撤回【取消し】)
書面によらない贈与は,各当事者が撤回する【取り消す】ことができる。ただし,履行の終わった部分については,この限りでない。
第551条(贈与者の担保責任)
①贈与者は,贈与の目的【物】である物又は権利の瑕疵又は不存在について,その責任を負わない。ただし,贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは,この限りでない。
②負担付贈与については,贈与者は,その負担の限度において,売主と同じく担保の責任を負う。
第552条(定期贈与)
定期の給付を目的とする贈与は,贈与者又は受贈者の死亡によって,その効力を失う。
第553条(負担付贈与)
負担付贈与については,この節に定めるもののほか,その性質に反しない限り,双務契約に関する規定を準用する。
第554条(死因贈与)
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については,その性質に反しない限り,遺贈に関する規定を準用する。
第555条(売買)
売買は,当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。
第556条(売買の一方の予約)
①売買の一方の予約は,相手方が売買を完結する意思を表示した時から,売買の効力を生ずる。
②前項の意思表示について期間を定めなかったときは,予約者は,相手方に対し,相当の期間を定めて,その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において,相手方がその期間内に確答をしないときは,売買の一方の予約は,その効力を失う。
第557条(手付)
①買主が売主に手付を交付したときは,当事者の一方が契約の履行に着手するまでは,買主はその手付を放棄し,売主はその倍額を償還して,契約の解除をすることができる。
②第545条第3項〔解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない〕の規定は,前項の場合には,適用しない。
第558条(売買契約に関する費用)
売買契約に関する費用は,当事者双方が等しい割合で負担する。
第559条(有償契約への準用)
この節の規定は,売買以外の有償契約について準用する。ただし,その有償契約の性質がこれを許さないときは,この限りでない。
第560条(他人の権利の売買における売主の義務)
他人の権利を売買の目的【物】としたときは,売主は,その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
第561条(他人の権利の売買における売主の担保責任)
前条の場合において,売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは,買主は,契約の解除をすることができる。この場合において,契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは,損害賠償の請求をすることができない。
第562条(他人の権利の売買における善意の売主の解除権)
①売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において,その権利を取得して買主に移転することができないときは,売主は,損害を賠償して,契約の解除をすることができる。
②前項の場合において,買主が契約の時においてその買い受けた権利が売主に属しないことを知っていたときは,売主は,買主に対し,単にその売却した権利を移転することができない旨を通知して,契約の解除をすることができる。
第563条(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任1)
①売買の目的【物】である権利の一部が他人に属することにより,売主がこれを買主に移転することができないときは,買主は,その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
②前項の場合において,残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは,善意の買主は,契約の解除をすることができる。
③代金減額の請求又は契約の解除は,善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。
第564条〔権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任2〕
前条の規定による権利は,買主が善意であったときは事実を知った時から,悪意であったときは契約の時から,それぞれ1年以内に行使しなければならない。
第565条(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
前2条〔権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任〕の規定は,数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において,買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。
第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
①売買の目的物が地上権,永小作権,地役権,留置権又は質権の目的【物】である場合において,買主がこれを知らず,かつ,そのために契約をした目的を達することができないときは,買主は,契約の解除をすることができる。この場合において,契約の解除をすることができないときは,損害賠償の請求のみをすることができる。
②前項の規定は,売買の目的【物】である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
③前2項の場合において,契約の解除又は損害賠償の請求は,買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。
第567条(抵当権等がある場合における売主の担保責任)
①売買の目的【物】である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは,買主は,契約の解除をすることができる。
②買主は,費用を支出してその所有権を保存したときは,売主に対し,その費用の償還を請求することができる。
③前2項の場合において,買主は,損害を受けたときは,その賠償を請求することができる。
第568条(強制競売における担保責任)
①強制競売における買受人は,第561条から前条まで〔売主の追奪担保責任〕の規定により,債務者に対し,契約の解除をし,又は代金の減額を請求することができる。
②前項の場合において,債務者が無資力であるときは,買受人は,代金の配当を受けた債権者に対し,その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
③前2項の場合において,債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき,又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは,買受人は,これらの者に対し,損害賠償の請求をすることができる。
第569条(債権の売主の担保責任)
①債権の売主が債務者の資力を担保したときは,契約の時における資力を担保したものと推定する。
②弁済期に至らない債権の売主が債務者の将来の資力を担保したときは,弁済期における資力を担保したものと推定する。
第570条(売主の瑕疵担保責任)
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは,第566条〔地上権等がある場合等における売主の担保責任〕の規定を準用する。ただし,強制競売の場合は,この限りでない。
第571条(売主の担保責任と同時履行)
第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定は,第563条から第566条まで及び前条〔売主の担保責任〕の場合について準用する。
第572条(担保責任を負わない旨の特約)
売主は,第560条から前条まで〔売主の担保責任〕の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても,知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については,その責任を免れることができない。
第573条(代金の支払期限)
売買の目的物の引渡しについて期限があるときは,代金の支払についても同一の期限を付したものと推定する。
第574条(代金の支払場所)
売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは,その引渡しの場所において支払わなければならない。
第575条(果実の帰属及び代金の利息の支払)
①まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは,その果実は,売主に帰属する。
②買主は,引渡しの日から,代金の利息を支払う義務を負う。ただし,代金の支払について期限があるときは,その期限が到来するまでは,利息を支払うことを要しない。
第576条(権利を失うおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)
売買の目的【物】について権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利の全部又は一部を失うおそれがあるときは,買主は,その危険の限度に応じて,代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし,売主が相当の担保を供したときは,この限りでない。
第577条(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
①買い受けた不動産について抵当権の登記があるときは,買主は,抵当権消滅請求の手続が終わるまで,その代金の支払を拒むことができる。この場合において,売主は,買主に対し,遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。
②前項の規定は,買い受けた不動産について先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。
第578条(売主による代金の供託の請求)
前2条〔買主の代金支払拒絶権〕の場合においては,売主は,買主に対して代金の供託を請求することができる。
第579条(買戻しの特約)
不動産の売主は,売買契約と同時にした買戻しの特約により,買主が支払った代金及び契約の費用を返還して,売買の解除をすることができる。この場合において,当事者が別段の意思を表示しなかったときは,不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
第580条(買戻しの期間)
①買戻しの期間は,10年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは,その期間は,10年とする。
②買戻しについて期間を定めたときは,その後にこれを伸長することができない。
③買戻しについて期間を定めなかったときは,5年以内に買戻しをしなければならない。
第581条(買戻しの特約の対抗力)
①売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは,買戻しは,第三者に対しても,その効力を生ずる。
②登記をした賃借人の権利は,その残存期間中1年を超えない期間に限り,売主に対抗することができる。ただし,売主を害する目的で賃貸借をしたときは,この限りでない。
第582条(買戻権の代位行使)
売主の債権者が第423条〔債権者代位権〕の規定により売主に代わって買戻しをしようとするときは,買主は,裁判所において選任した鑑定人の評価に従い,不動産の現在の価額から売主が返還すべき金額を控除した残額に達するまで売主の債務を弁済し,なお残余があるときはこれを売主に返還して,買戻権を消滅させることができる。
第583条(買戻しの実行)
①売主は,第580条〔買戻しの期間〕に規定する期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ,買戻しをすることができない。
②買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは,売主は,第196条〔占有者による費用の償還請求〕の規定に従い,その償還をしなければならない。ただし,有益費については,裁判所は,売主の請求により,その償還について相当の期限を許与することができる。
第584条(共有持分の買戻特約付売買1)
不動産の共有者の1人が買戻しの特約を付してその持分を売却した後に,その不動産の分割又は競売があったときは,売主は,買主が受け,若しくは受けるべき部分又は代金について,買戻しをすることができる。ただし,売主に通知をしないでした分割及び競売は,売主に対抗することができない。
第585条〔共有持分の買戻特約付売買2〕
①前条の場合において,買主が不動産の競売における買受人となったときは,売主は,競売の代金及び第583条〔買戻しの実行〕に規定する費用を支払って買戻しをすることができる。この場合において,売主は,その不動産の全部の所有権を取得する。
②他の共有者が分割を請求したことにより買主が競売における買受人となったときは,売主は,その持分のみについて買戻しをすることはできない。
第586条〔交換〕
①交換は,当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって,その効力を生ずる。
②当事者の一方が他の権利とともに金銭の所有権を移転することを約した場合におけるその金銭については,売買の代金に関する規定〔代金の支払の拒絶権(576~578条),売主の先取特権(321条,328条)〕を準用する。
第587条(消費貸借)
消費貸借は,当事者の一方が種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生ずる。
第588条(準消費貸借)
消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において,当事者がその物を消費貸借の目的【物】とすることを約したときは,消費貸借は,これによって成立したものとみなす。
第589条(消費貸借の予約と破産手続の開始)
消費貸借の予約は,その後に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは,その効力を失う。
第590条(貸主の担保責任)
①利息付きの消費貸借において,物に隠れた瑕疵があったときは,貸主は,瑕疵がない物をもってこれに代えなければならない。この場合においては,損害賠償の請求を妨げない。
②無利息の消費貸借においては,借主は,瑕疵がある物の価額を返還することができる。この場合において,貸主がその瑕疵を知りながら借主に告げなかったときは,前項の規定を準用する。
第591条(返還の時期)
①当事者が返還の時期を定めなかったときは,貸主は,相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
②借主は,いつでも返還をすることができる。
第592条(価額の償還)
借主が貸主から受け取った物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることができなくなったときは,その時における物の価額を償還しなければならない。ただし,第402条第2項〔債権の目的物である特定の種類の通貨が弁済期に強制通用の効力を失っているとき〕に規定する場合は,この限りでない。
第593条(使用貸借)
使用貸借は,当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって,その効力を生ずる。
第594条(借主による使用及び収益)
①借主は,契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い,その物の使用及び収益をしなければならない。
②借主は,貸主の承諾を得なければ,第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
③借主が前2項の規定に違反して使用又は収益をしたときは,貸主は,契約の解除をすることができる。
第595条(借用物の費用の負担)
①借主は,借用物の通常の必要費を負担する。
②第583条第2項〔買戻しの場合の費用償還請求権〕の規定は,前項の通常の必要費以外の費用について準用する。
第596条(貸主の担保責任)
第551条〔贈与者の担保責任〕の規定は,使用貸借について準用する。
第597条(借用物の返還の時期)
①借主は,契約に定めた時期に,借用物の返還をしなければならない。
②当事者が返還の時期を定めなかったときは,借主は,契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に,返還をしなければならない。ただし,その使用及び収益を終わる前であっても,使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは,貸主は,直ちに返還を請求することができる。
③当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは,貸主は,いつでも返還を請求することができる。
第598条(借主による収去)
借主は,借用物を原状に復して,これに附属させた物を収去することができる。
第599条(借主の死亡による使用貸借の終了)
使用貸借は,借主の死亡によって,その効力を失う。
第600条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は,貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
第601条(賃貸借)
賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。
第602条(短期賃貸借)
処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には,次の各号に掲げる賃貸借は,それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年
三 建物の賃貸借 3年
四 動産の賃貸借 6箇月
第603条(短期賃貸借の更新)
前条に定める期間は,更新することができる。ただし,その期間満了前,土地については1年以内,建物については3箇月以内,動産については1箇月以内に,その更新をしなければならない。
第604条(賃貸借の存続期間)
①賃貸借の存続期間は,20年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は,20年とする。
②賃貸借の存続期間は,更新することができる。ただし,その期間は,更新の時から20年を超えることができない。
第605条(不動産賃貸借の対抗力)
不動産の賃貸借は,これを登記したときは,その後その不動産について物権を取得した者に対しても,その効力を生ずる。
第606条(賃貸物の修繕等)
①賃貸人は,賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
②賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは,賃借人は,これを拒むことができない。
第607条(賃借人の意思に反する保存行為)
賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において,そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは,賃借人は,契約の解除をすることができる。
第608条(賃借人による費用の償還請求)
①賃借人は,賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは,賃貸人に対し,直ちにその償還を請求することができる。
②賃借人が賃借物について有益費を支出したときは,賃貸人は,賃貸借の終了の時に,第196条第2項〔占有者による有益費の償還請求〕の規定に従い,その償還をしなければならない。ただし,裁判所は,賃貸人の請求により,その償還について相当の期限を許与することができる。
第609条(減収による賃料の減額請求)
収益を目的とする土地の賃借人は,不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは,その収益の額に至るまで,賃料の減額を請求することができる。ただし,宅地の賃貸借については,この限りでない。
第610条(減収による解除)
前条の場合において,同条の賃借人は,不可抗力によって引き続き2年以上賃料より少ない収益を得たときは,契約の解除をすることができる。
第611条(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等)
①賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは,賃借人は,その滅失した部分の割合に応じて,賃料の減額を請求することができる。
②前項の場合において,残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは,賃借人は,契約の解除をすることができる。
第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
①賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸することができない。
②賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。
第613条(転貸の効果)
①賃借人が適法に賃借物を転貸したときは,転借人は,賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては,賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
②前項の規定は,賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
第614条(賃料の支払時期)
賃料は,動産,建物及び宅地については毎月末に,その他の土地については毎年末に,支払わなければならない。ただし,収穫の季節があるものについては,その季節の後に遅滞なく支払わなければならない。
第615条(賃借人の通知義務)
賃借物が修繕を要し,又は賃借物について権利を主張する者があるときは,賃借人は,遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし,賃貸人が既にこれを知っているときは,この限りでない。
第616条(使用貸借の規定の準用)
第594条第1項〔借主による使用及び収益〕,第597条第1項〔借用物の返還の時期〕及び第598条〔借主による収去〕の規定は,賃貸借について準用する。
第617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)
①当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては,次の各号に掲げる賃貸借は,解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
一 土地の賃貸借 1年
二 建物の賃貸借 3箇月
三 動産及び貸席の賃貸借 1日
②収穫の季節がある土地の賃貸借については,その季節の後次の耕作に着手する前に,解約の申入れをしなければならない。
第618条(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保)
当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても,その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは,前条の規定を準用する。
第619条(賃貸借の更新の推定等)
①賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において,賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは,従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において,各当事者は,第617条〔期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ〕の規定により解約の申入れをすることができる。
②従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは,その担保は,期間の満了によって消滅する。ただし,敷金については,この限りでない。
第620条(賃貸借の解除の効力)
賃貸借の解除をした場合には,その解除は,将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合において,当事者の一方に過失があったときは,その者に対する損害賠償の請求を妨げない。
第621条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限) 〔旧・622条〕
第600条〔使用貸借の場合の損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限〕の規定は,賃貸借について準用する。
第622条 削除 〔旧・第621条【賃借人の破産による解約申入れ・削除】→破産法第56条〕
第623条(雇用)
雇用は,当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し,相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって,その効力を生ずる。
第624条(報酬の支払時期)
①労働者は,その約した労働を終わった後でなければ,報酬を請求することができない。
②期間によって定めた報酬は,その期間を経過した後に,請求することができる。
第625条(使用者の権利の譲渡の制限等)
①使用者は,労働者の承諾を得なければ,その権利を第三者に譲り渡すことができない。
②労働者は,使用者の承諾を得なければ,自己に代わって第三者を労働に従事させることができない。
③労働者が前項の規定に違反して第三者を労働に従事させたときは,使用者は,契約の解除をすることができる。
第626条(期間の定めのある雇用の解除)
①雇用の期間が5年を超え,又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは,当事者の一方は,5年を経過した後,いつでも契約の解除をすることができる。ただし,この期間は,商工業の見習を目的とする雇用については,10年とする。
②前項の規定により契約の解除をしようとするときは,3箇月前にその予告をしなければならない。
第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
①当事者が雇用の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において,雇用は,解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
②期間によって報酬を定めた場合には,解約の申入れは,次期以後についてすることができる。ただし,その解約の申入れは,当期の前半にしなければならない。
③6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には,前項の解約の申入れは,3箇月前にしなければならない。
第628条(やむを得ない事由による雇用の解除)
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても,やむを得ない事由があるときは,各当事者は,直ちに契約の解除をすることができる。この場合において,その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは,相手方に対して損害賠償の責任を負う。
第629条(雇用の更新の推定等)
①雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において,使用者がこれを知りながら異議を述べないときは,従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において,各当事者は,第627条〔期間の定めのない雇用の解約の申入れ〕の規定により解約の申入れをすることができる。
②従前の雇用について当事者が担保を供していたときは,その担保は,期間の満了によって消滅する。ただし,身元保証金については,この限りでない。
第630条(雇用の解除の効力)
第620条〔賃貸借の解除の効力の不遡及〕の規定は,雇用について準用する。
第631条(使用者についての破産手続の開始による解約の申入れ)
使用者が破産手続開始の決定を受けた場合には,雇用に期間の定めがあるときであっても,労働者又は破産管財人は,第627条〔期間の定めのない雇用の解約の申入れ〕の規定により解約の申入れをすることができる。この場合において,各当事者は,相手方に対し,解約によって生じた損害の賠償を請求することができない。
第632条(請負)
請負は,当事者の一方がある仕事を完成することを約し,相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。
第633条(報酬の支払時期)
報酬は,仕事の目的物の引渡しと同時に,支払わなければならない。ただし,物の引渡しを要しないときは,第624条第1項〔報酬の支払時期・労務の提供の後〕の規定を準用する。
第634条(請負人の担保責任1)
①仕事の目的物に瑕疵があるときは,注文者は,請負人に対し,相当の期間を定めて,その瑕疵の修補を請求することができる。ただし,瑕疵が重要でない場合において,その修補に過分の費用を要するときは,この限りでない。
②注文者は,瑕疵の修補に代えて,又はその修補とともに,損害賠償の請求をすることができる。この場合においては,第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定を準用する。
第635条〔請負人の担保責任2〕
仕事の目的物に瑕疵があり,そのために契約をした目的を達することができないときは,注文者は,契約の解除をすることができる。ただし,建物その他の土地の工作物については,この限りでない。
第636条(請負人の担保責任に関する規定の不適用)
前2条の規定は,仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは,適用しない。ただし,請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは,この限りでない。
第637条(請負人の担保責任の存続期間1)
①前3条〔請負人の担保責任〕の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は,仕事の目的物を引き渡した時から1年以内にしなければならない。
②仕事の目的物の引渡しを要しない場合には,前項の期間は,仕事が終了した時から起算する。
第638条〔請負人の担保責任の存続期間2〕
①建物その他の土地の工作物の請負人は,その工作物又は地盤の瑕疵について,引渡しの後5年間その担保の責任を負う。ただし,この期間は,石造,土造,れんが造,コンクリート造,金属造その他これらに類する構造の工作物については,10年とする。
②工作物が前項の瑕疵によって滅失し,又は損傷したときは,注文者は,その滅失又は損傷の時から1年以内に,第634条〔請負人の担保責任〕の規定による権利を行使しなければならない。
第639条(担保責任の存続期間の伸長)
第637条及び前条第1項の期間は,第167条〔債権等の消滅時効〕の規定による消滅時効の期間内に限り,契約で伸長することができる。
第640条(担保責任を負わない旨の特約)
請負人は,第634条又は第635条の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても,知りながら告げなかった事実については,その責任を免れることができない。
第641条(注文者による契約の解除)
請負人が仕事を完成しない間は,注文者は,いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
第642条(注文者についての破産手続の開始による解除)
①注文者が破産手続開始の決定を受けたときは,請負人又は破産管財人は,契約の解除をすることができる。この場合において,請負人は,既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について,破産財団の配当に加入することができる。
②前項の場合には,契約の解除によって生じた損害の賠償は,破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り,請求することができる。この場合において,請負人は,その損害賠償について,破産財団の配当に加入する。
第643条(委任)
委任は,当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し,相手方がこれを承諾することによって,その効力を生ずる。
第644条(受任者の注意義務)
受任者は,委任の本旨に従い,善良な管理者の注意をもって,委任事務を処理する義務を負う。
第645条(受任者による報告)
受任者は,委任者の請求があるときは,いつでも委任事務の処理の状況を報告し,委任が終了した後は,遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
第646条(受任者による受取物の引渡し等)
①受任者は,委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても,同様とする。
②受任者は,委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
第647条(受任者の金銭の消費についての責任)
受任者は,委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは,その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において,なお損害があるときは,その賠償の責任を負う。
第648条(受任者の報酬)
①受任者は,特約がなければ,委任者に対して報酬を請求することができない。
②受任者は,報酬を受けるべき場合には,委任事務を履行した後でなければ,これを請求することができない。ただし,期間によって報酬を定めたときは,第624条第2項〔報酬の支払時期・期間経過後〕の規定を準用する。
③委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは,受任者は,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
第649条(受任者による費用の前払請求)
委任事務を処理するについて費用を要するときは,委任者は,受任者の請求により,その前払をしなければならない。
第650条(受任者による費用等の償還請求等)
①受任者は,委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは,委任者に対し,その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
②受任者は,委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは,委任者に対し,自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において,その債務が弁済期にないときは,委任者に対し,相当の担保を供させることができる。
③受任者は,委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは,委任者に対し,その賠償を請求することができる。
第651条(委任の解除)
①委任は,各当事者がいつでもその解除をすることができる。
②当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは,その当事者の一方は,相手方の損害を賠償しなければならない。ただし,やむを得ない事由があったときは,この限りでない。
第652条(委任の解除の効力)
第620条〔賃貸借の解除の効力の不遡及〕の規定は,委任について準用する。
第653条(委任の終了事由)
委任は,次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡 〔号の新設〕
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。 〔号の新設〕
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。 〔号の新設〕
第654条(委任の終了後の処分)
委任が終了した場合において,急迫の事情があるときは,受任者又はその相続人若しくは法定代理人は,委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで,必要な処分をしなければならない。
第655条(委任の終了の対抗要件)
委任の終了事由は,これを相手方に通知したとき,又は相手方がこれを知っていたときでなければ,これをもってその相手方に対抗することができない。
第656条(準委任)
この節〔委任〕の規定は,法律行為でない事務の委託について準用する。
第657条(寄託)
寄託は,当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって,その効力を生ずる。
第658条(寄託物の使用及び第三者による保管)
①受寄者は,寄託者の承諾を得なければ,寄託物を使用し,又は第三者にこれを保管させることができない。
②第105条〔復代理人を選任した代理人の責任〕及び第107条第2項〔復代理人の権利・義務〕の規定は,受寄者が第三者に寄託物を保管させることができる場合について準用する。
第659条(無償受寄者の注意義務)
無報酬で寄託を受けた者は,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,寄託物を保管する義務を負う。
第660条(受寄者の通知義務)
寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し,又は差押え,仮差押え若しくは仮処分をしたときは,受寄者は,遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。
第661条(寄託者による損害賠償)
寄託者は,寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければならない。ただし,寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知らなかったとき,又は受寄者がこれを知っていたときは,この限りでない。
第662条(寄託者による返還請求)
当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても,寄託者は,いつでもその返還を請求することができる。
第663条(寄託物の返還の時期)
①当事者が寄託物の返還の時期を定めなかったときは,受寄者は,いつでもその返還をすることができる。
②返還の時期の定めがあるときは,受寄者は,やむを得ない事由がなければ,その期限前に返還をすることができない。
第664条(寄託物の返還の場所)
寄託物の返還は,その保管をすべき場所でしなければならない。ただし,受寄者が正当な事由によってその物を保管する場所を変更したときは,その現在の場所で返還をすることができる。
第665条(委任の規定の準用)
第646条から第650条まで(同条第3項を除く。)の規定は,寄託について準用する。
第666条(消費寄託)
①第五節(消費貸借)の規定は,受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合について準用する。 〔旧・第666条本文〕
②前項において準用する第591条第1項〔返還の時期・貸主による返還の催告〕の規定にかかわらず,前項の契約に返還の時期を定めなかったときは,寄託者は,いつでも返還を請求することができる。 〔旧・第666条ただし書〕
第667条(組合契約)
①組合契約は,各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって,その効力を生ずる。
②出資は,労務をその目的とすることができる。
第668条(組合財産の共有)
各組合員の出資その他の組合財産は,総組合員の共有に属する。
第669条(金銭出資の不履行の責任)
金銭を出資の目的とした場合において,組合員がその出資をすることを怠ったときは,その利息を支払うほか,損害の賠償をしなければならない。
第670条(業務の執行の方法)
①組合の業務の執行は,組合員の過半数で決する。
②前項の業務の執行は,組合契約でこれを委任した者(次項において「業務執行者」という。)が数人あるときは,その過半数で決する。
③組合の常務は,前2項の規定にかかわらず,各組合員又は各業務執行者が単独で行うことができる。ただし,その完了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときは,この限りでない。
第671条(委任の規定の準用)
第644条から第650条までの規定は,組合の業務を執行する組合員について準用する。
第672条(業務執行組合員の辞任及び解任)
①組合契約で1人又は数人の組合員に業務の執行を委任したときは,その組合員は,正当な事由がなければ,辞任することができない。
②前項の組合員は,正当な事由がある場合に限り,他の組合員の一致によって解任することができる。
第673条(組合員の組合の業務及び財産状況に関する検査)
各組合員は,組合の業務を執行する権利を有しないときであっても,その業務及び組合財産の状況を検査することができる。
第674条(組合員の損益分配の割合)
①当事者が損益分配の割合を定めなかったときは,その割合は,各組合員の出資の価額に応じて定める。
②利益又は損失についてのみ分配の割合を定めたときは,その割合は,利益及び損失に共通であるものと推定する。
第675条(組合員に対する組合の債権者の権利の行使)
組合の債権者は,その債権の発生の時に組合員の損失分担の割合を知らなかったときは,各組合員に対して等しい割合でその権利を行使することができる。
第676条(組合員の持分の処分及び組合財産の分割)
①組合員は,組合財産についてその持分を処分したときは,その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができない。
②組合員は,清算前に組合財産の分割を求めることができない。
第677条(組合の債務者による相殺の禁止)
組合の債務者は,その債務と組合員に対する債権とを相殺することができない。
第678条(組合員の脱退1)
①組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき,又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは,各組合員は,いつでも脱退することができる。ただし,やむを得ない事由がある場合を除き,組合に不利な時期に脱退することができない。
②組合の存続期間を定めた場合であっても,各組合員は,やむを得ない事由があるときは,脱退することができる。
第679条〔組合員の脱退2〕
前条の場合のほか,組合員は,次に掲げる事由によって脱退する。
一 死亡
二 破産手続開始の決定を受けたこと。
三 後見開始の審判を受けたこと。
四 除名
第680条(組合員の除名)
組合員の除名は,正当な事由がある場合に限り,他の組合員の一致によってすることができる。ただし,除名した組合員にその旨を通知しなければ,これをもってその組合員に対抗することができない。
第681条(脱退した組合員の持分の払戻し)
①脱退した組合員と他の組合員との間の計算は,脱退の時における組合財産の状況に従ってしなければならない。
②脱退した組合員の持分は,その出資の種類を問わず,金銭で払い戻すことができる。
③脱退の時にまだ完了していない事項については,その完了後に計算をすることができる。
第682条(組合の解散事由)
組合は,その目的である事業の成功又はその成功の不能によって解散する。
第683条(組合の解散の請求)
やむを得ない事由があるときは,各組合員は,組合の解散を請求することができる。
第684条(組合契約の解除の効力)
第620条〔賃貸借の解除の効力の不遡及〕の規定は,組合契約について準用する。
第685条(組合の清算及び清算人の選任)
①組合が解散したときは,清算は,総組合員が共同して,又はその選任した清算人がこれをする。
②清算人の選任は,総組合員の過半数で決する。
第686条(清算人の業務の執行の方法)
第670条〔業務の執行の方法〕の規定は,清算人が数人ある場合について準用する。
第687条(組合員である清算人の辞任及び解任)
第672条〔業務執行組合員の辞任及び解任〕の規定は,組合契約で組合員の中から清算人を選任した場合について準用する。
第688条(清算人の職務及び権限並びに残余財産の分割方法)
①清算人の職務は,次のとおりとする。
一 現務の結了
二 債権の取立て及び債務の弁済
三 残余財産の引渡し
(平成18法50本項全部改正)
②清算人は,前項各号に掲げる職務を行うために必要な一切の行為をすることができる。(平成18法50本項追加)
③残余財産は,各組合員の出資の価額に応じて分割する。
旧第688条(清算人の職務及び権限並びに残余財産の分割方法)
①第78条〔法人の精算人〕の規定は,清算人の職務及び権限について準用する。
②残余財産は,各組合員の出資の価額に応じて分割する。
第689条(終身定期金契約)
終身定期金契約は,当事者の一方が,自己,相手方又は第三者の死亡に至るまで,定期に金銭その他の物を相手方又は第三者に給付することを約することによって,その効力を生ずる。
第690条(終身定期金の計算)
終身定期金は,日割りで計算する。
第691条(終身定期金契約の解除)
①終身定期金債務者が終身定期金の元本を受領した場合において,その終身定期金の給付を怠り,又はその他の義務を履行しないときは,相手方は,元本の返還を請求することができる。この場合において,相手方は,既に受け取った終身定期金の中からその元本の利息を控除した残額を終身定期金債務者に返還しなければならない。
②前項の規定は,損害賠償の請求を妨げない。
第692条(終身定期金契約の解除と同時履行)
第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定は,前条の場合について準用する。
第693条(終身定期金債権の存続の宣告)
①終身定期金債務者の責めに帰すべき事由によって第689条〔終身定期金契約〕に規定する死亡が生じたときは,裁判所は,終身定期金債権者又はその相続人の請求により,終身定期金債権が相当の期間存続することを宣告することができる。
②前項の規定は,第691条〔終身定期金契約の解除〕の権利の行使を妨げない。
第694条(終身定期金の遺贈)
この節〔終身定期金〕の規定は,終身定期金の遺贈について準用する。
第695条(和解)
和解は,当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって,その効力を生ずる。
第696条(和解の効力)
当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ,又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において,その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは,その権利は,和解によってその当事者の一方に移転し,又は消滅したものとする。
第697条(事務管理)
①義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は,その事務の性質に従い,最も本人の利益に適合する方法によって,その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
②管理者は,本人の意思を知っているとき,又はこれを推知することができるときは,その意思に従って事務管理をしなければならない。
第698条(緊急事務管理)
管理者は,本人の身体,名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは,悪意又は重大な過失があるのでなければ,これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。
第699条(管理者の通知義務)
管理者は,事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない。ただし,本人が既にこれを知っているときは,この限りでない。
第700条(管理者による事務管理の継続)
管理者は,本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで,事務管理を継続しなければならない。ただし,事務管理の継続が本人の意思に反し,又は本人に不利であることが明らかであるときは,この限りでない。
第701条(委任の規定の準用)
第645条から第647条までの規定は,事務管理について準用する。
第702条(管理者による費用の償還請求等)
①管理者は,本人のために有益な費用を支出したときは,本人に対し,その償還を請求することができる。
②第650条第2項〔受任者による費用等の償還請求〕の規定は,管理者が本人のために有益な債務を負担した場合について準用する。
③管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは,本人が現に利益を受けている限度においてのみ,前2項の規定を適用する。
第703条(不当利得の返還義務)
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け,そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は,その利益の存する限度において,これを返還する義務を負う。
第704条(悪意の受益者の返還義務等)
悪意の受益者は,その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において,なお損害があるときは,その賠償の責任を負う。
第705条(債務の不存在を知ってした弁済)
債務の弁済として給付をした者は,その時において債務の存在しないことを知っていたときは,その給付したものの返還を請求することができない。
第706条(期限前の弁済)
債務者は,弁済期にない債務の弁済として給付をしたときは,その給付したものの返還を請求することができない。ただし,債務者が錯誤によってその給付をしたときは,債権者は,これによって得た利益を返還しなければならない。
第707条(他人の債務の弁済)
①債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合において,債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し,担保を放棄し,又は時効によってその債権を失ったときは,その弁済をした者は,返還の請求をすることができない。
②前項の規定は,弁済をした者から債務者に対する求償権の行使を妨げない。
第708条(不法原因給付)
不法な原因のために給付をした者は,その給付したものの返還を請求することができない。ただし,不法な原因が受益者についてのみ存したときは,この限りでない。
第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第710条(財産以外の損害の賠償)
他人の身体,自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず,前条の規定により損害賠償の責任を負う者は,財産以外の損害に対しても,その賠償をしなければならない。
第711条(近親者に対する損害の賠償)
他人の生命を侵害した者は,被害者の父母,配偶者及び子に対しては,その財産権が侵害されなかった場合においても,損害の賠償をしなければならない。
第712条(責任能力1)
未成年者は,他人に損害を加えた場合において,自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは,その行為について賠償の責任を負わない。
第713条〔責任能力2〕
精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は,その賠償の責任を負わない。ただし,故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは,この限りでない。
第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
①前2条〔責任能力〕の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において,その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は,その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,監督義務者がその義務を怠らなかったとき,又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。
②監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も,前項の責任を負う。
第715条(使用者等の責任)
①ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。
②使用者に代わって事業を監督する者も,前項の責任を負う。
③前2項の規定は,使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
第716条(注文者の責任)
注文者は,請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし,注文又は指図についてその注文者に過失があったときは,この限りでない。
第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
①土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは,その工作物の占有者は,被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし,占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは,所有者がその損害を賠償しなければならない。
②前項の規定は,竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
③前2項の場合において,損害の原因について他にその責任を負う者があるときは,占有者又は所有者は,その者に対して求償権を行使することができる。
第718条(動物の占有者等の責任)
①動物の占有者は,その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは,この限りでない。
②占有者に代わって動物を管理する者も,前項の責任を負う。
第719条(共同不法行為者の責任)
①数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも,同様とする。
②行為者を教唆した者及び幇(ほう)助した者は,共同行為者とみなして,前項の規定を適用する。
第720条(正当防衛及び緊急避難)
①他人の不法行為に対し,自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため,やむを得ず加害行為をした者は,損害賠償の責任を負わない。ただし,被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
②前項の規定は,他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。
第721条(損害賠償請求権に関する胎児の権利能力)
胎児は,損害賠償の請求権については,既に生まれたものとみなす。
第722条(損害賠償の方法及び過失相殺)
①第417条〔損害賠償の方法〕の規定は,不法行為による損害賠償について準用する。
②被害者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができる。
第723条(名誉毀(き)損における原状回復)
他人の名誉を毀(き)損した者に対しては,裁判所は,被害者の請求により,損害賠償に代えて,又は損害賠償とともに,名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも,同様とする。
第725条(親族の範囲)
次に掲げる者は,親族とする。
一 6親等内の血族
二 配偶者
三 3親等内の姻族
第726条(親等の計算)
①親等は,親族間の世代数を数えて,これを定める。
②傍系親族の親等を定めるには,その1人又はその配偶者から同一の祖先にさかのぼり,その祖先から他の1人に下るまでの世代数による。
第727条(縁組による親族関係の発生)
養子と養親及びその血族との間においては,養子縁組の日から,血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。
第728条(離婚等による姻族関係の終了)
①姻族関係は,離婚によって終了する。
②夫婦の一方が死亡した場合において,生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも,前項と同様とする。
第729条(離縁による親族関係の終了)
養子及びその配偶者並びに養子の直系卑属及びその配偶者と養親及びその血族との親族関係は,離縁によって終了する。
第730条(親族間の扶け合い)
直系血族及び同居の親族は,互いに扶け合わなければならない。
第731条(婚姻適齢)
男は,18歳に,女は,16歳にならなければ,婚姻をすることができない。
第732条(重婚の禁止)
配偶者のある者は,重ねて婚姻をすることができない。
第733条(再婚禁止期間)
①女は,前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ,再婚をすることができない。
②女が前婚の解消又は取消しの前から懐胎していた場合には,その出産の日から,前項の規定を適用しない。
第734条(近親者間の婚姻の禁止)
①直系血族又は3親等内の傍系血族の間では,婚姻をすることができない。ただし,養子と養方の傍系血族との間では,この限りでない。
②第817条の9〔特別養子の実方との親族関係の終了〕の規定により親族関係が終了した後も,前項と同様とする。
第735条(直系姻族間の婚姻の禁止)
直系姻族の間では,婚姻をすることができない。第728条〔離婚等による姻族関係の終了〕又は第817条の9〔特別養子の実方との親族関係の終了〕の規定により姻族関係が終了した後も,同様とする。
第736条(養親子等の間の婚姻の禁止)
養子若しくはその配偶者又は養子の直系卑属若しくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では,第729条〔離縁による親族関係の終了〕の規定により親族関係が終了した後でも,婚姻をすることができない。
第737条(未成年者の婚姻についての父母の同意)
①未成年の子が婚姻をするには,父母の同意を得なければならない。
②父母の一方が同意しないときは,他の一方の同意だけで足りる。父母の一方が知れないとき,死亡したとき,又はその意思を表示することができないときも,同様とする。
第738条(成年被後見人の婚姻)
成年被後見人が婚姻をするには,その成年後見人の同意を要しない。
第739条(婚姻の届出)
①婚姻は,戸籍法(昭和22年法律第224号)の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる。
②前項の届出は,当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で,又はこれらの者から口頭で,しなければならない。
第740条(婚姻の届出の受理)
婚姻の届出は,その婚姻が第731条〔婚姻適齢〕から第737条〔未成年者の婚姻についての父母の同意〕まで及び前条第2項の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ,受理することができない。
第741条(外国に在る日本人間の婚姻の方式)
外国に在る日本人間で婚姻をしようとするときは,その国に駐在する日本の大使,公使又は領事にその届出をすることができる。この場合においては,前2条の規定を準用する。
第742条(婚姻の無効)
婚姻は,次に掲げる場合に限り,無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。
二 当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし,その届出が第739条第2項に定める方式を欠くだけであるときは,婚姻は,そのためにその効力を妨げられない。
第743条(婚姻の取消し)
婚姻は,次条から第747条までの規定〔不適法な婚姻の取消し〕によらなければ,取り消すことができない。
第744条(不適法な婚姻の取消し)
①第731条〔婚姻適齢〕から第736条〔養親子等の間の婚姻の禁止〕までの規定に違反した婚姻は,各当事者,その親族又は検察官から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,検察官は,当事者の一方が死亡した後は,これを請求することができない。
②第732条〔重婚の禁止〕又は第733条〔再婚禁止期間〕の規定に違反した婚姻については,当事者の配偶者又は前配偶者も,その取消しを請求することができる。
第745条(不適齢者の婚姻の取消し)
①第731条〔婚姻適齢〕の規定に違反した婚姻は,不適齢者が適齢に達したときは,その取消しを請求することができない。
②不適齢者は,適齢に達した後,なお3箇月間は,その婚姻の取消しを請求することができる。ただし,適齢に達した後に追認をしたときは,この限りでない。
第746条(再婚禁止期間内にした婚姻の取消し)
第733条〔再婚禁止期間〕の規定に違反した婚姻は,前婚の解消若しくは取消しの日から6箇月を経過し,又は女が再婚後に懐胎したときは,その取消しを請求することができない。
第747条(詐欺又は強迫による婚姻の取消し)
①詐欺又は強迫によって婚姻をした者は,その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
②前項の規定による取消権は,当事者が,詐欺を発見し,若しくは強迫を免れた後3箇月を経過し,又は追認をしたときは,消滅する。
第748条(婚姻の取消しの効力)
①婚姻の取消しは,将来に向かってのみその効力を生ずる。
②婚姻の時においてその取消しの原因があることを知らなかった当事者が,婚姻によって財産を得たときは,現に利益を受けている限度において,その返還をしなければならない。
③婚姻の時においてその取消しの原因があることを知っていた当事者は,婚姻によって得た利益の全部を返還しなければならない。この場合において,相手方が善意であったときは,これに対して損害を賠償する責任を負う。
第749条(離婚の規定の準用)
第728条第1項〔離婚等による婚姻関係の終了〕,第766条から第769条まで〔離婚の効果〕,第790条第1項ただし書〔子の氏〕並びに第819条第2項,第3項,第5項及び第6項〔離婚の際の親権者の決定〕の規定は,婚姻の取消しについて準用する。
第750条(夫婦の氏)
夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称する。
第751条(生存配偶者の復氏等)
①夫婦の一方が死亡したときは,生存配偶者は,婚姻前の氏に復することができる。
②第769条〔離婚による復氏の際の権利の承継〕の規定は,前項及び第728条第2項〔夫婦の一方が死亡した場合の姻族関係の終了〕の場合について準用する。
第752条(同居,協力及び扶助の義務)
夫婦は同居し,互いに協力し扶助しなければならない。
第753条(婚姻による成年擬制)
未成年者が婚姻をしたときは,これによって成年に達したものとみなす。
第754条(夫婦間の契約の取消権)
夫婦間でした契約は,婚姻中,いつでも,夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし,第三者の権利を害することはできない。
第755条(夫婦の財産関係)
夫婦が,婚姻の届出前に,その財産について別段の契約をしなかったときは,その財産関係は,次款に定めるところによる。
第756条(夫婦財産契約の対抗要件)
夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは,婚姻の届出までにその登記をしなければ,これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。
第757条 削除
第758条(夫婦の財産関係の変更の制限等)
①夫婦の財産関係は,婚姻の届出後は,変更することができない。
②夫婦の一方が,他の一方の財産を管理する場合において,管理が失当であったことによってその財産を危うくしたときは,他の一方は,自らその管理をすることを家庭裁判所に請求することができる。
③共有財産については,前項の請求とともに,その分割を請求することができる。
第759条(財産の管理者の変更及び共有財産の分割の対抗要件)
前条の規定又は第755条の契約〔夫婦財産契約〕の結果により,財産の管理者を変更し,又は共有財産の分割をしたときは,その登記をしなければ,これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。
第760条(婚姻費用の分担)
夫婦は,その資産,収入その他一切の事情を考慮して,婚姻から生ずる費用を分担する。
第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは,他の一方は,これによって生じた債務について,連帯してその責任を負う。ただし,第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は,この限りでない。
第762条(夫婦間における財産の帰属)
①夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は,その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
②夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は,その共有に属するものと推定する。
第763条(協議上の離婚)
夫婦は,その協議で,離婚をすることができる。
第764条(婚姻の規定の準用)
第738条〔成年被後見人の婚姻〕,第739条〔婚姻の届出〕及び第747条〔再婚禁止期間内にした婚姻の取消し〕の規定は,協議上の離婚について準用する。
第765条(離婚の届出の受理)
①離婚の届出は,その離婚が前条において準用する第739条第2項〔婚姻届出の方式〕の規定及び第819条第1項〔親権者の決定〕の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ,受理することができない。
②離婚の届出が前項の規定に違反して受理されたときであっても,離婚は,そのためにその効力を妨げられない。
第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
①父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は,その協議で定める。協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,これを定める。
②子の利益のため必要があると認めるときは,家庭裁判所は,子の監護をすべき者を変更し,その他監護について相当な処分を命ずることができる。
③前2項の規定によっては,監護の範囲外では,父母の権利義務に変更を生じない。
第767条(離婚による復氏等)
①婚姻によって氏を改めた夫又は妻は,協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
②前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は,離婚の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,離婚の際に称していた氏を称することができる。
第768条(財産分与)
①協議上の離婚をした者の一方は,相手方に対して財産の分与を請求することができる。
②前項の規定による財産の分与について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,当事者は,家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし,離婚の時から2年を経過したときは,この限りでない。
③前項の場合には,家庭裁判所は,当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して,分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
第769条(離婚による復氏の際の権利の承継)
①婚姻によって氏を改めた夫又は妻が,第897条第1項〕の権利〔祭祀に関する権利を承継した後,協議上の離婚をしたときは,当事者その他の関係人の協議で,その権利を承継すべき者を定めなければならない。
②前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,同項の権利を承継すべき者は,家庭裁判所がこれを定める。
第770条(裁判上の離婚)
①夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
②裁判所は,前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,離婚の請求を棄却することができる。
第771条(協議上の離婚の規定の準用)
第766条から第769条までの規定〔離婚後の子の監護,離婚による復氏,財産分与,復氏の際の祭祀に関する権利の承継〕は,裁判上の離婚について準用する。
第772条(嫡出の推定)
①妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。
②婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。
第773条(父を定めることを目的とする訴え)
第733条第1項〔再婚禁止期間〕の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において,前条の規定によりその子の父を定めることができないときは,裁判所が,これを定める。
第774条(嫡出の否認)
第772条〔嫡出の推定〕の場合において,夫は,子が嫡出であることを否認することができる。
第775条(嫡出否認の訴え)
前条の規定による否認権は,子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは,家庭裁判所は,特別代理人を選任しなければならない。
第776条(嫡出の承認)
夫は,子の出生後において,その嫡出であることを承認したときは,その否認権を失う。
第777条(嫡出否認の訴えの出訴期間1)
嫡出否認の訴えは,夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない。
第778条〔嫡出否認の訴えの出訴期間2〕
夫が成年被後見人であるときは,前条の期間は,後見開始の審判の取消しがあった後夫が子の出生を知った時から起算する。
第779条(認知)
嫡出でない子は,その父又は母がこれを認知することができる。
第780条(認知能力)
認知をするには,父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても,その法定代理人の同意を要しない。
第781条(認知の方式)
①認知は,戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。
②認知は,遺言によっても,することができる。
第782条(成年の子の認知)
成年の子は,その承諾がなければ,これを認知することができない。
第783条(胎児又は死亡した子の認知)
①父は,胎内に在る子でも,認知することができる。この場合においては,母の承諾を得なければならない。
②父又は母は,死亡した子でも,その直系卑属があるときに限り,認知することができる。この場合において,その直系卑属が成年者であるときは,その承諾を得なければならない。
第784条(認知の効力)
認知は,出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,第三者が既に取得した権利を害することはできない。
第785条(認知の取消しの禁止)
認知をした父又は母は,その認知を取り消すことができない。
第786条(認知に対する反対の事実の主張)
子その他の利害関係人は,認知に対して反対の事実を主張することができる。
第787条(認知の訴え)
子,その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は,認知の訴えを提起することができる。ただし,父又は母の死亡の日から3年を経過したときは,この限りでない。
第788条(認知後の子の監護に関する事項の定め等)
第766条〔離婚後の子の監護に関する事項の定め等〕の規定は,父が認知する場合について準用する。
第789条(準正)
①父が認知した子は,その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。
②婚姻中父母が認知した子は,その認知の時から,嫡出子の身分を取得する。
③前2項の規定は,子が既に死亡していた場合について準用する。
第790条(子の氏)
①嫡出である子は,父母の氏を称する。ただし,子の出生前に父母が離婚したときは,離婚の際における父母の氏を称する。
②嫡出でない子は,母の氏を称する。
第791条(子の氏の変更)
①子が父又は母と氏を異にする場合には,子は,家庭裁判所の許可を得て,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その父又は母の氏を称することができる。
②父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には,子は,父母の婚姻中に限り,前項の許可を得ないで,戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その父母の氏を称することができる。
③子が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わって,前2項の行為をすることができる。
④前3項の規定により氏を改めた未成年の子は,成年に達した時から1年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,従前の氏に復することができる。
第792条(養親となる者の年齢)
成年に達した者は,養子をすることができる。
第793条(尊属又は年長者を養子とすることの禁止)
尊属又は年長者は,これを養子とすることができない。
第794条(後見人が被後見人を養子とする縁組)
後見人が被後見人(未成年被後見人及び成年被後見人をいう。以下同じ。)を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。後見人の任務が終了した後,まだその管理の計算が終わらない間も,同様とする。
第795条(配偶者のある者が未成年者を養子とする縁組)
配偶者のある者が未成年者を養子とするには,配偶者とともにしなければならない。ただし,配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は,この限りでない。
第796条(配偶者のある者の縁組)
配偶者のある者が縁組をするには,その配偶者の同意を得なければならない。ただし,配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は,この限りでない。
第797条(15歳未満の者を養子とする縁組)
①養子となる者が15歳未満であるときは,その法定代理人が,これに代わって,縁組の承諾をすることができる。
②法定代理人が前項の承諾をするには,養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが他にあるときは,その同意を得なければならない。
第798条(未成年者を養子とする縁組)
未成年者を養子とするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし,自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は,この限りでない。
第799条(婚姻の規定の準用)
第738条〔成年被後見人の婚姻〕及び第739条〔婚姻の届出〕の規定は,縁組について準用する。
第800条(縁組の届出の受理)
縁組の届出は,その縁組が第792条から前条までの規定〔縁組の要件〕その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ,受理することができない。
第801条(外国に在る日本人間の縁組の方式)
外国に在る日本人間で縁組をしようとするときは,その国に駐在する日本の大使,公使又は領事にその届出をすることができる。この場合においては,第799条〔婚姻の規定の準用〕において準用する第739条〔婚姻の届出〕の規定及び前条の規定を準用する。
第802条(縁組の無効)
縁組は,次に掲げる場合に限り,無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
二 当事者が縁組の届出をしないとき。ただし,その届出が第799条〔婚姻の規定の準用〕において準用する第739条第2項〔婚姻の届出〕に定める方式を欠くだけであるときは,縁組は,そのためにその効力を妨げられない。
第803条(縁組の取消し)
縁組は,次条から第808条〔婚姻の取消し等の規定の準用〕までの規定によらなければ,取り消すことができない。
第804条(養親が未成年者である場合の縁組の取消し)
第792条の規定に違反した縁組は,養親又はその法定代理人から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,養親が,成年に達した後6箇月を経過し,又は追認をしたときは,この限りでない。
第805条(養子が尊属又は年長者である場合の縁組の取消し)
第793条の規定に違反した縁組は,各当事者又はその親族から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。
第806条(後見人と被後見人との間の無許可縁組の取消し)
①第794条の規定に違反した縁組は,養子又はその実方の親族から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,管理の計算が終わった後,養子が追認をし,又は6箇月を経過したときは,この限りでない。
②前項ただし書の追認は,養子が,成年に達し,又は行為能力を回復した後にしなければ,その効力を生じない,。
③養子が,成年に達せず,又は行為能力を回復しない間に,管理の計算が終わった場合には,第1項ただし書の期間は,養子が,成年に達し,又は行為能力を回復した時から起算する。
第806条の2(配偶者の同意のない縁組等の取消し)
①第796条の規定に違反した縁組は,縁組の同意をしていない者から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,その者が,縁組を知った後6箇月を経過し,又は追認をしたときは,この限りでない。
②詐欺又は強迫によって第796条〔配偶者のある者の縁組〕の同意をした者は,その縁組の取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,その者が,詐欺を発見し,若しくは強迫を免れた後6箇月を経過し,又は追認をしたときは,この限りでない。
第806条の3(子の監護をすべき者の同意のない縁組等の取消し)
①第797条第2項の規定に違反した縁組は,縁組の同意をしていない者から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,その者が追認をしたとき,又は養子が15歳に達した後6箇月を経過し,若しくは追認をしたときは,この限りでない。
②前条第2項の規定は,詐欺又は強迫によって第797条第2項の同意をした者について準用する。
第807条(養子が未成年者である場合の無許可縁組の取消し)
第798条の規定に違反した縁組は,養子,その実方の親族又は養子に代わって縁組の承諾をした者から,その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし,養子が,成年に達した後6箇月を経過し,又は追認をしたときは,この限りでない。
第808条(婚姻の取消し等の規定の準用)
①第747条〔詐欺又は強迫による婚姻の取消し〕及び第748条〔婚姻の取消しの効力〕の規定は,縁組について準用する。この場合において,第747条第2項中「3箇月」とあるのは,「6箇月」と読み替えるものとする。
②第769条〔離婚による復氏の際の権利の承継〕及び第816条〔離縁による復氏等〕の規定は,縁組の取消しについて準用する。
第809条(嫡出子の身分の取得)
養子は,縁組の日から,養親の嫡出子の身分を取得する。
第810条(養子の氏)
養子は,養親の氏を称する。ただし,婚姻によって氏を改めた者については,婚姻の際に定めた氏を称すべき間は,この限りでない。
第811条(協議上の離縁等)
①縁組の当事者は,その協議で,離縁をすることができる。
②養子が15歳未満であるときは,その離縁は,養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをする。
③前項の場合において,養子の父母が離婚しているときは,その協議で,その一方を養子の離縁後にその親権者となるべき者と定めなければならない。
④前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所は,同項の父若しくは母又は養親の請求によって,協議に代わる審判をすることができる。
⑤第2項の法定代理人となるべき者がないときは,家庭裁判所は,養子の親族その他の利害関係人の請求によって,養子の離縁後にその未成年後見人となるべき者を選任する。
⑥縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは,家庭裁判所の許可を得て,これをすることができる。
第811条の2(夫婦である養親と未成年者との離縁)
養親が夫婦である場合において未成年者と離縁をするには,夫婦が共にしなければならない。ただし,夫婦の一方がその意思を表示することができないときは,この限りでない。
第812条(婚姻の規定の準用)
第738条〔成年被後見人の婚姻〕,第739条〔婚姻の届出〕及び第747条〔詐欺又は強迫による婚姻の取消し〕の規定は,協議上の離縁について準用する。この場合において,同条第2項中「3箇月」とあるのは,「6箇月」と読み替えるものとする。
第813条(離縁の届出の受理)
①離縁の届出は,その離縁が前条において準用する第739条第2項〔婚姻の届出〕の規定並びに第811条〔協議上の離縁等〕及び第811条の2〔夫婦である養親と未成年者との離縁〕の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ,受理することができない。
②離縁の届出が前項の規定に違反して受理されたときであっても,離縁は,そのためにその効力を妨げられない。
第814条(裁判上の離縁)
①縁組の当事者の一方は,次に掲げる場合に限り,離縁の訴えを提起することができる。
一 他の一方から悪意で遺棄されたとき。
二 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき。
三 その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき。
②第770条第2項〔裁判上の離婚の請求棄却〕の規定は,前項第一号及び第二号に掲げる場合について準用する。
第815条(養子が15歳未満である場合の離縁の訴えの当事者)
養子が15歳に達しない間は,第811条〔協議上の離縁等〕の規定により養親と離縁の協議をすることができる者から,又はこれに対して,離縁の訴えを提起することができる。
第816条(離縁による復氏等)
①養子は,離縁によって縁組前の氏に復する。ただし,配偶者とともに養子をした養親の一方のみと離縁をした場合は,この限りでない。
②縁組の日から7年を経過した後に前項の規定により縁組前の氏に復した者は,離縁の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,離縁の際に称していた氏を称することができる。
第817条(離縁による復氏の際の権利の承継)
第769条〔離婚による復氏の際の権利の承継〕の規定は,離縁について準用する。
第817条の2(特別養子縁組の成立)
①家庭裁判所は,次条から第817条の7までに定める要件があるときは,養親となる者の請求により,実方の血族との親族関係が終了する縁組(以下この款において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる。
②前項に規定する請求をするには,第794条〔後見人が被後見人を養子とする縁組〕又は第798条〔未成年者を養子とする縁組〕の〔家庭裁判所の〕許可を得ることを要しない。
第817条の3(養親の夫婦共同縁組)
①養親となる者は,配偶者のある者でなければならない。
②夫婦の一方は,他の一方が養親とならないときは,養親となることができない。ただし,夫婦の一方が他の一方の嫡出である子(特別養子縁組以外の縁組による養子を除く。)の養親となる場合は,この限りでない。
第817条の4(養親となる者の年齢)
25歳に達しない者は,養親となることができない。ただし,養親となる夫婦の一方が25歳に達していない場合においても,その者が20歳に達しているときは,この限りでない。
第817条の5(養子となる者の年齢)
第817条の2に規定する請求の時に6歳に達している者は,養子となることができない。ただし,その者が8歳未満であって6歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合は,この限りでない。
第817条の6(父母の同意)
特別養子縁組の成立には,養子となる者の父母の同意がなければならない。ただし,父母がその意思を表示することができない場合又は父母による虐待,悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は,この限りでない。
第817条の7(子の利益のための特別の必要性)
特別養子縁組は,父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において,子の利益のため特に必要があると認めるときに,これを成立させるものとする。
第817条の8(監護の状況)
①特別養子縁組を成立させるには,養親となる者が養子となる者を6箇月以上の期間監護した状況を考慮しなければならない。
②前項の期間は,第817条の2に規定する請求の時から起算する。ただし,その請求前の監護の状況が明らかであるときは,この限りでない。
第817条の9(実方との親族関係の終了)
養子と実方の父母及びその血族との親族関係は,特別養子縁組によって終了する。ただし,第817条の3第2項ただし書に規定する他の一方及びその血族との親族関係については,この限りでない。
第817条の10(特別養子縁組の離縁)
①次の各号のいずれにも該当する場合において,養子の利益のため特に必要があると認めるときは,家庭裁判所は,養子,実父母又は検察官の請求により,特別養子縁組の当事者を離縁させることができる。
一 養親による虐待,悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること。
二 実父母が相当の監護をすることができること。
②離縁は,前項の規定による場合のほか,これをすることができない。
第817条の11(離縁による実方との親族関係の回復)
養子と実父母及びその血族との間においては,離縁の日から,特別養子縁組によって終了した親族関係と同一の親族関係を生ずる。
第818条(親権者)
①成年に達しない子は,父母の親権に服する。
②子が養子であるときは,養親の親権に服する。
③親権は,父母の婚姻中は,父母が共同して行う。ただし,父母の一方が親権を行うことができないときは,他の一方が行う。
第819条(離婚又は認知の場合の親権者)
①父母が協議上の離婚をするときは,その協議で,その一方を親権者と定めなければならない。
②裁判上の離婚の場合には,裁判所は,父母の一方を親権者と定める。
③子の出生前に父母が離婚した場合には,親権は,母が行う。ただし,子の出生後に,父母の協議で,父を親権者と定めることができる。
④父が認知した子に対する親権は,父母の協議で父を親権者と定めたときに限り,父が行う。
⑤第1項,第3項又は前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所は,父又は母の請求によって,協議に代わる審判をすることができる。
⑥子の利益のため必要があると認めるときは,家庭裁判所は,子の親族の請求によって,親権者を他の一方に変更することができる。
第820条(監護及び教育の権利義務)
親権を行う者は,子の監護及び教育をする権利を有し,義務を負う。
第821条(居所の指定)
子は,親権を行う者が指定した場所に,その居所を定めなければならない。
第822条(懲戒)
①親権を行う者は,必要な範囲内で自らその子を懲戒し,又は家庭裁判所の許可を得て,これを懲戒場に入れることができる。
②子を懲戒場に入れる期間は,6箇月以下の範囲内で,家庭裁判所が定める。ただし,この期間は,親権を行う者の請求によって,いつでも短縮することができる。
第823条(職業の許可)
①子は,親権を行う者の許可を得なければ,職業を営むことができない。
②親権を行う者は,第6条第2項〔未成年者の営業の許可の取消し等〕の場合には,前項の許可を取り消し,又はこれを制限することができる。
第824条(財産の管理及び代表)
親権を行う者は,子の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし,その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には,本人の同意を得なければならない。
第825条(父母の一方が共同の名義でした行為の効力)
父母が共同して親権を行う場合において,父母の一方が,共同の名義で,子に代わって法律行為をし又は子がこれをすることに同意したときは,その行為は,他の一方の意思に反したときであっても,そのためにその効力を妨げられない。ただし,相手方が悪意であったときは,この限りでない。
第826条(利益相反行為)
①親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については,親権を行う者は,その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
②親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において,その1人と他の子との利益が相反する行為については,親権を行う者は,その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
第827条(財産の管理における注意義務)
親権を行う者は,自己のためにするのと同一の注意をもって,その管理権を行わなければならない。
第828条(財産の管理の計算1)
子が成年に達したときは,親権を行った者は,遅滞なくその管理の計算をしなければならない。ただし,その子の養育及び財産の管理の費用は,その子の財産の収益と相殺したものとみなす。
第829条〔財産の管理の計算2〕
前条ただし書の規定は,無償で子に財産を与える第三者が反対の意思を表示したときは,その財産については,これを適用しない。
第830条(第三者が無償で子に与えた財産の管理)
①無償で子に財産を与える第三者が,親権を行う父又は母にこれを管理させない意思を表示したときは,その財産は,父又は母の管理に属しないものとする。
②前項の財産につき父母が共に管理権を有しない場合において,第三者が管理者を指定しなかったときは,家庭裁判所は,子,その親族又は検察官の請求によって,その管理者を選任する。
③第三者が管理者を指定したときであっても,その管理者の権限が消滅し,又はこれを改任する必要がある場合において,第三者が更に管理者を指定しないときも,前項と同様とする。
④第27条から第29条まで〔不在者の財産の管理人の職務権限〕の規定は,前2項の場合について準用する。
第831条(委任の規定の準用)
第654条〔委任の終了後の処分〕及び第655条〔委任の終了の対抗要件〕の規定は,親権を行う者が子の財産を管理する場合及び前条の場合について準用する。
第832条(財産の管理について生じた親子間の債権の消滅時効)
①親権を行った者とその子との間に財産の管理について生じた債権は,その管理権が消滅した時から5年間これを行使しないときは,時効によって消滅する。
②子がまだ成年に達しない間に管理権が消滅した場合において子に法定代理人がないときは,前項の期間は,その子が成年に達し,又は後任の法定代理人が就職した時から起算する。
第833条(子に代わる親権の行使)
親権を行う者は,その親権に服する子に代わって親権を行う。
第834条(親権の喪失の宣告)
父又は母が,親権を濫用し,又は著しく不行跡であるときは,家庭裁判所は,子の親族又は検察官の請求によって,その親権の喪失を宣告することができる。
第835条(管理権の喪失の宣告)
親権を行う父又は母が,管理が失当であったことによってその子の財産を危うくしたときは,家庭裁判所は,子の親族又は検察官の請求によって,その管理権の喪失を宣告することができる。
第836条(親権又は管理権の喪失の宣告の取消し)
前2条に規定する原因が消滅したときは,家庭裁判所は,本人又はその親族の請求によって,前2条の規定による親権又は管理権の喪失の宣告を取り消すことができる。
第837条(親権又は管理権の辞任及び回復)
①親権を行う父又は母は,やむを得ない事由があるときは,家庭裁判所の許可を得て,親権又は管理権を辞することができる。
②前項の事由が消滅したときは,父又は母は,家庭裁判所の許可を得て,親権又は管理権を回復することができる。
第838条〔後見の開始〕
後見は,次に掲げる場合に開始する。
一 未成年者に対して親権を行う者がないとき,又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
二 後見開始の審判があったとき。
第839条(未成年後見人の指定)
①未成年者に対して最後に親権を行う者は,遺言で,未成年後見人を指定することができる。ただし,管理権を有しない者は,この限りでない。
②親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは,他の一方は,前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。
第840条(未成年後見人の選任)
前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは,家庭裁判所は,未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって,未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも,同様とする。
第841条(父母による未成年後見人の選任の請求)
父又は母が親権若しくは管理権を辞し,又は親権を失ったことによって未成年後見人を選任する必要が生じたときは,その父又は母は,遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。
第842条(未成年後見人の数)
未成年後見人は,1人でなければならない。
第843条(成年後見人の選任)
①家庭裁判所は,後見開始の審判をするときは,職権で,成年後見人を選任する。
②成年後見人が欠けたときは,家庭裁判所は,成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で,成年後見人を選任する。
③成年後見人が選任されている場合においても,家庭裁判所は,必要があると認めるときは,前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により又は職権で,更に成年後見人を選任することができる。
④成年後見人を選任するには,成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況,成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは,その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無),成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
第844条(後見人の辞任)
後見人は,正当な事由があるときは,家庭裁判所の許可を得て,その任務を辞することができる。
第845条(辞任した後見人による新たな後見人の選任の請求)
後見人がその任務を辞したことによって新たに後見人を選任する必要が生じたときは,その後見人は,遅滞なく新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。
第846条(後見人の解任)
後見人に不正な行為,著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは,家庭裁判所は,後見監督人,被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で,これを解任することができる。
第847条(後見人の欠格事由)
次に掲げる者は,後見人となることができない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人,保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし,又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者
第848条(未成年後見監督人の指定)
未成年後見人を指定することができる者は,遺言で,未成年後見監督人を指定することができる。
第849条(未成年後見監督人の選任)
前条の規定により指定した未成年後見監督人がない場合において必要があると認めるときは,家庭裁判所は,未成年被後見人,その親族若しくは未成年後見人の請求により又は職権で,未成年後見監督人を選任することができる。未成年後見監督人の欠けた場合も,同様とする。
第849条の2(成年後見監督人の選任)
家庭裁判所は,必要があると認めるときは,成年被後見人,その親族若しくは成年後見人の請求により又は職権で,成年後見監督人を選任することができる。
第850条(後見監督人の欠格事由)
後見人の配偶者,直系血族及び兄弟姉妹は,後見監督人となることができない。
第851条(後見監督人の職務)
後見監督人の職務は,次のとおりとする。
一 後見人の事務を監督すること。
二 後見人が欠けた場合に,遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること。
三 急迫の事情がある場合に,必要な処分をすること。
四 後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること。
第852条(委任及び後見人の規定の準用)
第644条〔受任者の注意義務〕,第654条〔委任の終了後の処分〕,第655条〔委任の終了の対抗要件〕,第843条第4項〔成年後見人の選任〕,第844条〔後見人の辞任〕,第846条〔後見人の解任〕,第847条〔後見人の欠格事由〕,第859条の2〔成年後見人が数人ある場合の権限の行使等〕,第859条の3〔成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可〕,第861条第2項〔後見の事務の費用〕及び第862条〔後見人の報酬〕の規定は,後見監督人について準用する。
第853条(財産の調査及び目録の作成)
①後見人は,遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し,1箇月以内に,その調査を終わり,かつ,その目録を作成しなければならない。ただし,この期間は,家庭裁判所において伸長することができる。
②財産の調査及びその目録の作成は,後見監督人があるときは,その立会いをもってしなければ,その効力を生じない。
第854条(財産の目録の作成前の権限)
後見人は,財産の目録の作成が終わるまでは,急迫の必要がある行為のみをする権限を有する。ただし,これをもって善意の第三者に対抗することができない。
第855条(後見人の被後見人に対する債権又は債務の申出義務)
①後見人が,被後見人に対し,債権を有し,又は債務を負う場合において,後見監督人があるときは,財産の調査に着手する前に,これを後見監督人に申し出なければならない。
②後見人が,被後見人に対し債権を有することを知ってこれを申し出ないときは,その債権を失う。
第856条(被後見人が包括財産を取得した場合についての準用)
前3条の規定は,後見人が就職した後被後見人が包括財産を取得した場合について準用する。
第857条(未成年被後見人の身上の監護に関する権利義務)
未成年後見人は,第820条から第823条までに規定する事項〔監護及び教育の権利義務,居所の指定,懲戒,職業の許可〕について,親権を行う者と同一の権利義務を有する。ただし,親権を行う者が定めた教育の方法及び居所を変更し,未成年被後見人を懲戒場に入れ,営業を許可し,その許可を取り消し,又はこれを制限するには,未成年後見監督人があるときは,その同意を得なければならない。
第858条(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
成年後見人は,成年被後見人の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては,成年被後見人の意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
第859条(財産の管理及び代表)
①後見人は,被後見人の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
②第824条ただし書〔財産の管理が子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には本人の同意が必要〕の規定は,前項の場合について準用する。
第859条の2(成年後見人が数人ある場合の権限の行使等)
①成年後見人が数人あるときは,家庭裁判所は,職権で,数人の成年後見人が,共同して又は事務を分掌して,その権限を行使すべきことを定めることができる。
②家庭裁判所は,職権で,前項の規定による定めを取り消すことができる。
③成年後見人が数人あるときは,第三者の意思表示は,その1人に対してすれば足りる。
第859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)
成年後見人は,成年被後見人に代わって,その居住の用に供する建物又はその敷地について,売却,賃貸,賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには,家庭裁判所の許可を得なければならない。
第860条(利益相反行為)
第826条〔利益相反行為〕の規定は,後見人について準用する。ただし,後見監督人がある場合は,この限りでない。
第861条(支出金額の予定及び後見の事務の費用)
①後見人は,その就職の初めにおいて,被後見人の生活,教育又は療養看護及び財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない。
②後見人が後見の事務を行うために必要な費用は,被後見人の財産の中から支弁する。
第862条(後見人の報酬)
家庭裁判所は,後見人及び被後見人の資力その他の事情によって,被後見人の財産の中から,相当な報酬を後見人に与えることができる。
第863条(後見の事務の監督)
①後見監督人又は家庭裁判所は,いつでも,後見人に対し後見の事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め,又は後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができる。
②家庭裁判所は,後見監督人,被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で,被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。
第864条(後見監督人の同意を要する行為1)
後見人が,被後見人に代わって営業若しくは第13条〔保佐人の同意を要する行為等〕第1項各号に掲げる行為をし,又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには,後見監督人があるときは,その同意を得なければならない。ただし,同項第一号に掲げる元本の領収については,この限りでない。
第865条〔後見監督人の同意を要する行為2〕
①後見人が,前条の規定に違反してし又は同意を与えた行為は,被後見人又は後見人が取り消すことができる。この場合においては,第20条〔制限行為能力者の相手方の催告権〕の規定を準用する。
②前項の規定は,第121条から第126条まで〔取消しの効果・追認〕の規定の適用を妨げない。
第866条(被後見人の財産等の譲受けの取消し)
①後見人が被後見人の財産又は被後見人に対する第三者の権利を譲り受けたときは,被後見人は,これを取り消すことができる。この場合においては,第20条〔制限行為能力者の相手方の催告権〕の規定を準用する。
②前項の規定は,第121条から第126条まで〔取消しの効果・追認〕の規定の適用を妨げない。
第867条(未成年被後見人に代わる親権の行使)
①未成年後見人は,未成年被後見人に代わって親権を行う。
②第853条から第857条まで〔被後見人の財産の調査,目録の調製等〕及び第861条から前条まで〔後見の報酬・監督等〕の規定は,前項の場合について準用する。
第868条(財産に関する権限のみを有する未成年後見人)
親権を行う者が管理権を有しない場合には,未成年後見人は,財産に関する権限のみを有する。
第869条(委任及び親権の規定の準用)
第644条〔受任者の注意義務〕及び第830条〔第三者が無償で子に与えた財産の管理〕の規定は,後見について準用する。
第870条(後見の計算1)
後見人の任務が終了したときは,後見人又はその相続人は,2箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。ただし,この期間は,家庭裁判所において伸長することができる。
第871条〔後見の計算2〕
後見の計算は,後見監督人があるときはは,その立会いをもってしなければならない。
第872条(未成年被後見人と未成年後見人等との間の契約等の取消し)
①未成年被後見人が成年に達した後後見の計算の終了前に,その者と未成年後見人又はその相続人との間でした契約は,その者が取り消すことができる。その者が未成年後見人又はその相続人に対してした単独行為も,同様とする。
②第20条〔制限行為能力者の相手方の催告権〕及び第121条から第126条まで〔取消しの効果・追認〕の規定は,前項の場合について準用する。
第873条(返還金に対する利息の支払等)
①後見人が被後見人に返還すべき金額及び被後見人が後見人に返還すべき金額には,後見の計算が終了した時から,利息を付さなければならない。
②後見人は,自己のために被後見人の金銭を消費したときは,その消費の時から,これに利息を付さなければならない。この場合において,なお損害があるときは,その賠償の責任を負う。
第874条(委任の規定の準用)
第654条〔委任の終了後の処分〕及び第655条〔委任の終了の対抗要件〕の規定は,後見について準用する。
第875条(後見に関して生じた債権の消滅時効)
①第832条〔財産の管理について生じた親子間の債権の消滅時効〕の規定は,後見人又は後見監督人と被後見人との間において後見に関して生じた債権の消滅時効について準用する。
②前項の消滅時効は,第872条〔未成年被後見人と未成年後見人等との間の契約等の取消し〕の規定により法律行為を取り消した場合には,その取消しの時から起算する。
第876条(保佐の開始)
保佐は,保佐開始の審判によって開始する。
第876条の2(保佐人及び臨時保佐人の選任等)
①は,保佐開始の審判をするときは,職権で,保佐人を選任する。
②第843条第2項から第4項まで〔成年後見人の選任〕及び第844条から第847条まで〔後見人の辞任,辞任した後見人による新たな後見人の選任の請求,後見人の解任,後見人の欠格事由〕の規定は,保佐人について準用する。
③保佐人又はその代表する者と被保佐人との利益が相反する行為については,保佐人は,臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし,保佐監督人がある場合は,この限りでない。
第876条の3(保佐監督人)
①家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被保佐人,その親族若しくは保佐人の請求により又は職権で,保佐監督人を選任することができる。
②第644条〔受任者の注意義務〕,第654条〔委任の終了後の処分〕,第655条〔委任の終了の対抗要件〕,第843条第4項〔成年後見人の選任〕,第844条〔後見人の辞任〕,第846条〔後見人の解任〕,第847条〔後見人の欠格事由〕,第850条〔後見監督人の欠格事由〕,第851条〔後見監督人の職務〕,第859条の2〔成年後見人が数人ある場合の権限の行使等〕,第859条の3〔成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可〕,第861条第2項〔後見の事務の費用〕及び第862条〔後見人の報酬〕の規定は,保佐監督人について準用する。この場合において,第851条第四号〔後見人と被後見人との利益相反行為〕中「被後見人を代表する」とあるのは,「被保佐人を代表し,又は被保佐人がこれをすることに同意する」と読み替えるものとする。
第876条の4(保佐人に代理権を付与する旨の審判)
①家庭裁判所は,第11条〔保佐開始の審判〕本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって,被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
②本人以外の者の請求によって前項の審判をするには,本人の同意がなければならない。
③家庭裁判所は,第1項に規定する者の請求によって,同項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。
第876条の5(保佐の事務及び保佐人の任務の終了等)
①保佐人は,保佐の事務を行うに当たっては,被保佐人の意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
②第644条〔受任者の注意義務〕,第859条の2〔成年後見人が数人ある場合の権限の行使等〕,第859条の3〔成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可〕,第861条第2項〔後見の事務の費用〕,第862条〔後見人の報酬〕及び第863条〔後見の事務の監督〕の規定は保佐の事務について,第824条ただし書〔財産の管理が子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には,本人の同意が必要〕の規定は保佐人が前条第1項の代理権を付与する旨の審判に基づき被保佐人を代表する場合について準用する。
③第654条〔委任の終了後の処分〕,第655条〔委任の終了の対抗要件〕,第870条〔後見の計算1〕,第871条〔後見の計算2〕及び第873条〔返還金に対する利息の支払等〕の規定は保佐人の任務が終了した場合について,第832条〔財産の管理について生じた親子間の債権の消滅時効〕の規定は保佐人又は保佐監督人と被保佐人との間において保佐に関して生じた債権について準用する。
第876条の6(補助の開始)
補助は,補助開始の審判によって開始する。
第876条の7(補助人及び臨時補助人の選任等)
①家庭裁判所は,補助開始の審判をするときは,職権で,補助人を選任する。
②第843条第2項から第4項まで〔成年後見人の選任〕及び第844条から第847条まで〔後見人の辞任,辞任した後見人による新たな後見人の選任の請求,後見人の解任,後見人の欠格事由〕の規定は,補助人について準用する。
③補助人又はその代表する者と被補助人との利益が相反する行為については,補助人は,臨時補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし,補助監督人がある場合は,この限りでない。
第876条の8(補助監督人)
①家庭裁判所は,必要があると認めるときは,被補助人,その親族若しくは補助人の請求により又は職権で,補助監督人を選任することができる。
②第644条〔受任者の注意義務〕,第654条〔委任の終了後の処分〕,第655条〔委任の終了の対抗要件〕,第843条第4項〔成年後見人の選任〕,第844条〔後見人の辞任〕,第846条〔後見人の解任〕,第847条〔後見人の欠格事由〕,第850条〔後見監督人の欠格事由〕,第851条〔後見監督人の職務〕,第859条の2〔成年後見人が数人ある場合の権限の行使等〕,第859条の3〔成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可〕,第861条第2項〔後見の事務の費用〕及び第862条〔後見人の報酬〕の規定は,補助監督人について準用する。この場合において,第851条第四号〔後見人と被後見人との利益相反行為〕中「被後見人を代表する」とあるのは,「被補助人を代表し,又は被補助人がこれをすることに同意する」と読み替えるものとする。
第876条の9(補助人に代理権を付与する旨の審判)
①家庭裁判所は,第15条第1項本文〔補助開始の審判〕に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求によって,被補助人のために特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
②第876条の4第2項及び第3項〔保佐人に代理権を付与する旨の審判〕の規定は,前項の審判について準用する。
第876条の10(補助の事務及び補助人の任務の終了等)
①第644条〔受任者の注意義務〕,第859条の2〔成年後見人が数人ある場合の権限の行使等〕,第859条の3〔成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可〕,第861条第2項〔後見の事務の費用〕,第862条〔後見人の報酬〕,第863条〔後見の事務の監督〕及び第876条の5第1項〔保佐の事務処理の基準〕の規定は補助の事務について,第824条ただし書〔財産の管理が子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には,本人の同意が必要〕の規定は補助人が前条第1項の代理権を付与する旨の審判に基づき被補助人を代表する場合について準用する。
②第654条〔委任の終了後の処分〕,第655条〔委任の終了の対抗要件〕,第870条〔後見の計算1〕,第871条〔後見の計算2〕及び第873条〔返還金に対する利息の支払等〕の規定は補助人の任務が終了した場合について,第832条〔財産の管理について生じた親子間の債権の消滅時効〕の規定は補助人又は補助監督人と被補助人との間において補助に関して生じた債権について準用する。
第877条(扶養義務者)
①直系血族及び兄弟姉妹は,互いに扶養をする義務がある。
②家庭裁判所は,特別の事情があるときは,前項に規定する場合のほか,3親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
③前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは,家庭裁判所は,その審判を取り消すことができる。
第878条(扶養の順位)
扶養をする義務のある者が数人ある場合において,扶養をすべき者の順序について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,これを定める。扶養を受ける権利のある者が数人ある場合において,扶養義務者の資力がその全員を扶養するのに足りないときの扶養を受けるべき者の順序についても,同様とする。
第879条(扶養の程度又は方法)
扶養の程度又は方法について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,扶養権利者の需要,扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して,家庭裁判所が,これを定める。
第880条(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)
扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは,家庭裁判所は,その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。
第881条(扶養請求権の処分の禁止)
扶養を受ける権利は,処分することができない。
第882条(相続開始の原因)
相続は,死亡によって開始する。
第883条(相続開始の場所)
相続は,被相続人の住所において開始する。
第884条(相続回復請求権)
相続回復の請求権は,相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも,同様とする。
第885条(相続財産に関する費用)
①相続財産に関する費用は,その財産の中から支弁する。ただし,相続人の過失によるものは,この限りでない。
②前項の費用は,遺留分権利者が贈与の減殺によって得た財産をもって支弁することを要しない。
第886条(相続に関する胎児の権利能力)
①胎児は,相続については,既に生まれたものとみなす。
②前項の規定は,胎児が死体で生まれたときは,適用しない。
第887条(子及びその代襲者等の相続権)
①被相続人の子は,相続人となる。
②被相続人の子が,相続の開始以前に死亡したとき,又は第891条〔相続人の欠格事由〕の規定に該当し,若しくは廃除によって,その相続権を失ったときは,その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし,被相続人の直系卑属でない者は,この限りでない。
③前項の規定は,代襲者が,相続の開始以前に死亡し,又は第891条〔相続人の欠格事由〕の規定に該当し,若しくは廃除によって,その代襲相続権を失った場合について準用する。
第888条 削除
第889条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
①次に掲げる者は,第887条〔子及びその代襲者等の相続権〕の規定により相続人となるべき者がない場合には,次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし,親等の異なる者の間では,その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
②第887条第2項〔子の代襲者の相続権〕の規定は,前項第二号の場合について準用する。
第890条(配偶者の相続権)
被相続人の配偶者は,常に相続人となる。この場合において,第887条〔子及びその代襲者等の相続権〕又は前条〔直系尊属及び兄弟姉妹の相続権〕の規定により相続人となるべき者があるときは,その者と同順位とする。
第891条(相続人の欠格事由)
次に掲げる者は,相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ,又は至らせようとしたために,刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って,これを告発せず,又は告訴しなかった者。ただし,その者に是非の弁別がないとき,又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは,この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって,被相続人が相続に関する遺言をし,撤回し,取り消し,又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって,被相続人に相続に関する遺言をさせ,撤回させ,取り消させ,又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し,変造し,破棄し,又は隠匿した者
第892条(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が,被相続人に対して虐待をし,若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき,又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは,被相続人は,その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
第893条(遺言による推定相続人の廃除)
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは,遺言執行者は,その遺言が効力を生じた後,遅滞なく,その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において,その推定相続人の廃除は,被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
第894条(推定相続人の廃除の取消し)
①被相続人は,いつでも,推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
②前条の規定は,推定相続人の廃除の取消しについて準用する。
第895条(推定相続人の廃除に関する審判確定前の遺産の管理)
①推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは,家庭裁判所は,親族,利害関係人又は検察官の請求によって,遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。推定相続人の廃除の遺言があったときも,同様とする。
②第27条から第29条まで〔不在者の財産管理人の権利義務〕の規定は,前項の規定により家庭裁判所が遺産の管理人を選任した場合について準用する。
第896条(相続の一般的効力)
相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし,被相続人の一身に専属したものは,この限りでない。
第897条(祭祀に関する権利の承継)
①系譜,祭具及び墳墓の所有権は,前条の規定にかかわらず,慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし,被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは,その者が承継する。
②前項本文の場合において慣習が明らかでないときは,同項の権利を承継すべき者は,家庭裁判所が定める。
第898条(共同相続の効力1)
相続人が数人あるときは,相続財産は,その共有に属する。
第899条〔共同相続の効力2〕
各共同相続人は,その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する
第900条(法定相続分)
同順位の相続人が数人あるときは,その相続分は,次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは,子の相続分及び配偶者の相続分は,各2分の1とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは,配偶者の相続分は,3分の2とし,直系尊属の相続分は,3分の1とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは,配偶者の相続分は,4分の3とし,兄弟姉妹の相続分は,4分の1とする。
四 子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自の相続分は,相等しいものとする。ただし,父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
旧第900条(法定相続分)
同順位の相続人が数人あるときは,その相続分は,次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは,子の相続分及び配偶者の相続分は,各2分の1とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは,配偶者の相続分は,3分の2とし,直系尊属の相続分は,3分の1とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは,配偶者の相続分は,4分の3とし,兄弟姉妹の相続分は,4分の1とする。
四 子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自の相続分は,相等しいものとする。ただし,嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の2分の1とし,父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
第901条(代襲相続人の相続分)
①第887条第2項又は第3項〔子の代襲等者の相続権〕の規定により相続人となる直系卑属の相続分は,その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし,直系卑属が数人あるときは,その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について,前条の規定に従ってその相続分を定める。
②前項の規定は,第889条第2項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
第902条(遺言による相続分の指定)
①被相続人は,前2条の規定にかかわらず,遺言で,共同相続人の相続分を定め,又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし,被相続人又は第三者は,遺留分に関する規定に違反することができない。
②被相続人が,共同相続人中の1人若しくは数人の相続分のみを定め,又はこれを第三者に定めさせたときは,他の共同相続人の相続分は,前2条の規定により定める。
第903条(特別受益者の相続分1)
①共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし,前3条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
②遺贈又は贈与の価額が,相続分の価額に等しく,又はこれを超えるときは,受遺者又は受贈者は,その相続分を受けることができない。
③被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは,その意思表示は,遺留分に関する規定に違反しない範囲内で,その効力を有する。
第904条〔特別受益者の相続分2〕
前条に規定する贈与の価額は,受贈者の行為によって,その目的である財産が滅失し,又はその価格の増減があったときであっても,相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
第904条の2(寄与分)
①共同相続人中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,第900条から第902条まで〔法定相続分,代襲相続分,指定相続分〕の規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
②前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所は,同項に規定する寄与をした者の請求により,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して,寄与分を定める。
③寄与分は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
④第2項の請求は,第907条第2項〔遺産分割の審判の請求〕の規定による請求があった場合又は第910条〔相続の開始後に認知された者の価額の支払請求〕に規定する場合にすることができる。
第905条(相続分の取戻権)
①共同相続人の1人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは,他の共同相続人は,その価額及び費用を償還して,その相続分を譲り受けることができる。
②前項の権利は,1箇月以内に行使しなければならない。
第906条(遺産の分割の基準)
遺産の分割は,遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
第907条(遺産の分割の協議又は審判等)
①共同相続人は,次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き,いつでも,その協議で,遺産の分割をすることができる。
②遺産の分割について,共同相続人間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,各共同相続人は,その分割を家庭裁判所に請求することができる。
③前項の場合において特別の事由があるときは,家庭裁判所は,期間を定めて,遺産の全部又は一部について,その分割を禁ずることができる。
第908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
被相続人は,遺言で,遺産の分割の方法を定め,若しくはこれを定めることを第三者に委託し,又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて,遺産の分割を禁ずることができる。
第909条(遺産の分割の効力)
遺産の分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,第三者の権利を害することはできない。
第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは,価額のみによる支払の請求権を有する。
第911条(共同相続人間の担保責任)
各共同相続人は,他の共同相続人に対して,売主と同じく,その相続分に応じて担保の責任を負う。
第912条(遺産の分割によって受けた債権についての担保責任)
①は,その相続分に応じ,他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について,その分割の時における債務者の資力を担保する。
②弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については,各共同相続人は,弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。
第913条(資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担)
担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは,その償還することができない部分は,求償者及び他の資力のある者が,それぞれその相続分に応じて分担する。ただし,求償者に過失があるときは,他の共同相続人に対して分担を請求することができない。
第914条(遺言による担保責任の定め)
前3条の規定は,被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは,適用しない。
第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間1)
①相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に,相続について,単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし,この期間は,利害関係人又は検察官の請求によって,家庭裁判所において伸長することができる。
②相続人は,相続の承認又は放棄をする前に,相続財産の調査をすることができる。
第916条〔相続の承認又は放棄をすべき期間2〕
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは,前条第1項の期間は,その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
第917条〔相続の承認又は放棄をすべき期間3〕
相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは,第915条第1項の期間〔自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内〕は,その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
第918条(相続財産の管理)
①相続人は,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産を管理しなければならない。ただし,相続の承認又は放棄をしたときは,この限りでない。
②家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求によって,いつでも,相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
③第27条から第29条まで〔不在者の財産管理人の権利義務〕の規定は,前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
第919条(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
①相続の承認及び放棄は,第915条第1項の期間内〔自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内〕でも,撤回する【取り消す】ことができない。
②前項の規定は,第一編(総則)〔第5条第2項(未成年者の法律行為の取消し),第9条(成年被後見人の法律行為の取消し),第13条(特に第1項第六号)第4項(被保佐人の法律行為の取消し),第17条第4項(被補助人の法律行為の取消し),第96条(詐欺・強迫による意思表示の取消し),第120条から第125条まで(取消し)〕及び前編(親族)の規定〔第865条(後見監督人の同意を要する法律行為の取消し),第867条(未成年後見監督人の同意を要する法律行為の取消し)〕により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
③前項の取消権は,追認をすることができる時から6箇月間行使しないときは,時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときも,同様とする。 〔旧第919条2項ただし書〕
④第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は,その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。 〔旧・第919条第3項〕
第920条(単純承認の効力)
相続人は,単純承認をしたときは,無限に被相続人の権利義務を承継する。
第921条(法定単純承認)
次に掲げる場合には,相続人は,単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし,保存行為及び第602条〔短期賃貸借〕に定める期間を超えない賃貸をすることは,この限りでない。
二 相続人が第915条第1項の期間内〔自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内〕に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が,限定承認又は相続の放棄をした後であっても,相続財産の全部若しくは一部を隠匿し,私にこれを消費し,又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし,その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は,この限りでない。
第922条(限定承認)
相続人は,相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して,相続の承認をすることができる。
第923条(共同相続人の限定承認)
相続人が数人あるときは,限定承認は,共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
第924条(限定承認の方式)
相続人は,限定承認をしようとするときは,第915条第1項の期間内〔自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内〕に,相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し,限定承認をする旨を申述しなければならない。
第925条(限定承認をしたときの権利義務)
相続人が限定承認をしたときは,その被相続人に対して有した権利義務は,消滅しなかったものとみなす。
第926条(限定承認者による管理)
①限定承認者は,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産の管理を継続しなければならない
②第645条〔受任者による報告〕,第646条〔受任者による受取物の引渡し等〕,第650条第1項及び第2項〔受任者による費用等の償還請求等〕並びに第918条第2項及び第3項〔家庭裁判所による相続財産の保存に必要な処分・管理人の選任〕の規定は,前項の場合について準用する。
第927条(相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)
①限定承認者は,限定承認をした後5日以内に,すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し,限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において,その期間は,2箇月を下ることができない。
②前項の規定による公告には,相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし,限定承認者は,知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。(平成18法50本項全部改正)
③限定承認者は,知れている相続債権者及び受遺者には,各別にその申出の催告をしなければならない。(平成18法50本項追加)
④第一項の規定による公告は,官報に掲載してする。(平成18法50本項追加)
旧第927条(相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)
①限定承認者は,限定承認をした後5日以内に,すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し,限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において,その期間は,2箇月を下ることができない。
②第79条第2項及び第3項〔法人の清算における清算人による債権の申出の広告による催告〕の規定は,前項の場合について準用する。
第928条(公告期間満了前の弁済の拒絶)
限定承認者は,前条第1項の期間の満了
前には,相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。
第929条(公告期間満了後の弁済)
第927条第1項の期間が満了した後は,限定承認者は,相続財産をもって,その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に,それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし,優先権を有する債権者の権利を害することはできない。
第930条(期限前の債務等の弁済)
①限定承認者は,弁済期に至らない債権であっても,前条の規定に従って弁済をしなければならない。
②条件付きの債権又は存続期間の不確定な債権は,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。
第931条(受遺者に対する弁済)
限定承認者は,前2条の規定に従って各相続債権者に弁済をした後でなければ,受遺者に弁済をすることができない。
第932条(弁済のための相続財産の換価)
前3条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは,限定承認者は,これを競売に付さなければならない。ただし,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して,その競売を止めることができる。
第933条(相続債権者及び受遺者の換価手続への参加)
相続債権者及び受遺者は,自己の費用で,相続財産の競売又は鑑定に参加することができる。この場合においては,第260条第2項〔共有物の分割への参加請求の効果〕の規定を準用する。
第934条(不当な弁済をした限定承認者の責任等)
①限定承認者は,第927条の公告若しくは催告をすることを怠り,又は同条第1項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。第929条から第931条まで〔相続債権者への弁済〕の規定に違反して弁済をしたときも,同様とする。
②前項の規定は,情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の相続債権者又は受遺者の求償を妨げない。
③第724条〔不法行為による損害賠償請求権の期間の制限〕の規定は,前2項の場合について準用する。
第935条(公告期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者)
第927条第1項の期間内に同項の申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは,残余財産についてのみその権利を行使することができる。ただし,相続財産について特別担保を有する者は,この限りでない。
第936条(相続人が数人ある場合の相続財産の管理人)
①相続人が数人ある場合には,家庭裁判所は,相続人の中から,相続財産の管理人を選任しなければならない。
②前項の相続財産の管理人は,相続人のために,これに代わって,相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
③第926条から前条まで〔限定承認者の任務〕の規定は,第1項の相続財産の管理人について準用する。この場合において,第927条第1項中「限定承認をした後5日以内」とあるのは,「その相続財産の管理人の選任があった後10日以内」と読み替えるものとする。
第937条(法定単純承認の事由がある場合の相続債権者)
限定承認をした共同相続人の1人又は数人について第921条〔法定単純承認〕第一号又は第三号に掲げる事由があるときは,相続債権者は,相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について,当該共同相続人に対し,その相続分に応じて権利を行使することができる。
第938条(相続の放棄の方式)
相続の放棄をしようとする者は,その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
第939条(相続の放棄の効力)
相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなす。
第940条(相続の放棄をした者による管理)
①の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。
②第645条〔受任者による報告〕,第646条〔受任者による受取物の引渡し等〕,第650条第1項及び第2項〔受任者による費用等の償還請求等〕並びに第918条第2項及び第3項〔家庭裁判所による相続財産の保存に必要な処分,管理人の選任〕の規定は,前項の場合について準用する。
第941条(相続債権者又は受遺者の請求による財産分離)
①相続債権者又は受遺者は,相続開始の時から3箇月以内に,相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は,その期間の満了後も,同様とする。
②家庭裁判所が前項の請求によって財産分離を命じたときは,その請求をした者は,5日以内に,他の相続債権者及び受遺者に対し,財産分離の命令があったこと及び一定の期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において,その期間は,2箇月を下ることができない。
第942条(財産分離の効力)
財産分離の請求をした者及び前条第2項の規定により配当加入の申出をした者は,相続財産について,相続人の債権者に先立って弁済を受ける。
第943条(財産分離の請求後の相続財産の管理)
①財産分離の請求があったときは,家庭裁判所は,相続財産の管理について必要な処分を命ずることができる。
②第27条から第29条まで〔不在者の財産管理人の権利義務〕の規定は,前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
第944条(財産分離の請求後の相続人による管理)
①相続人は,単純承認をした後でも,財産分離の請求があったときは,以後,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産の管理をしなければならない。ただし,家庭裁判所が相続財産の管理人を選任したときは,この限りでない。
②第645条から第647条まで〔受任者の責任〕並びに第650条第1項及び第2項〔受任者の費用償還請求等〕の規定は,前項の場合について準用する。
第945条(不動産についての財産分離の対抗要件)
財産分離は,不動産については,その登記をしなければ,第三者に対抗することができない。
第946条(物上代位の規定の準用)
第304条〔先取特権の物上代位〕の規定は,財産分離の場合について準用する。
第947条(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
①相続人は,第941条〔相続債権者又は受遺者の請求による財産分離〕第1項及び第2項の期間の満了前には,相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。
②財産分離の請求があったときは,相続人は,第941条第2項の期間の満了後に,相続財産をもって,財産分離の請求又は配当加入の申出をした相続債権者及び受遺者に,それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし,優先権を有する債権者の権利を害することはできない。
③第930条から第934条まで〔限定承認者による弁済〕の規定は,前項の場合について準用する。
第948条(相続人の固有財産からの弁済)
財産分離の請求をした者及び配当加入の申出をした者は,相続財産をもって全部の弁済を受けることができなかった場合に限り,相続人の固有財産についてその権利を行使することができる。この場合においては,相続人の債権者は,その者に先立って弁済を受けることができる。
第949条(財産分離の請求の防止等)
相続人は,その固有財産をもって相続債権者若しくは受遺者に弁済をし,又はこれに相当の担保を供して,財産分離の請求を防止し,又はその効力を消滅させることができる。ただし,相続人の債権者が,これによって損害を受けるべきことを証明して,異議を述べたときは,この限りでない。
第950条(相続人の債権者の請求による財産分離)
①相続人が限定承認をすることができる間又は相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は,相続人の債権者は,家庭裁判所に対して財産分離の請求をすることができる。
②第304条(先取特権の物上代位),第925条〔限定承認をしたときの権利義務〕,第927条から第934条まで〔限定承認における相続財産の清算〕,第943条から第945条まで〔相続債権者又は受遺者の請求による財産分離における相続財産の管理・対抗要件〕及び第948条〔相続債権者又は受遺者の請求による財産分離における相続人の固有財産からの弁済〕の規定は,前項の場合について準用する。ただし,第927条〔限定承認の場合の相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告〕の公告及び催告は,財産分離の請求をした債権者がしなければならない。
第951条(相続財産法人の成立)
相続人のあることが明らかでないときは,相続財産は,法人とする。
第952条(相続財産の管理人の選任)
①前条の場合には,家庭裁判所は,利害関係人又は検察官の請求によって,相続財産の管理人を選任しなければならない。
②前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは,家庭裁判所は,遅滞なくこれを公告しなければならない。
第953条(不在者の財産の管理人に関する規定の準用)
第27条から第29条まで〔不在者の財産管理人の権利義務〕の規定は,前条第1項の相続財産の管理人(以下この章において単に「相続財産の管理人」という。)について準用する。
第954条(相続財産の管理人の報告)
相続財産の管理人は,相続債権者又は受遺者の請求があるときは,その請求をした者に相続財産の状況を報告しなければならない。
第955条(相続財産法人の不成立)
相続人のあることが明らかになったときは,第951条の〔相続財産〕法人は,成立しなかったものとみなす。ただし,相続財産の管理人がその権限内でした行為の効力を妨げない。
第956条(相続財産の管理人の代理権の消滅)
①相続財産の管理人の代理権は,相続人が相続の承認をした時に消滅する。
②前項の場合には,相続財産の管理人は,遅滞なく相続人に対して管理の計算をしなければならない。
第957条(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
①第952条第2項〔相続財産の管理人の選任〕の公告があった後2箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは,相続財産の管理人は,遅滞なく,すべての相続債権者及び受遺者に対し,一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において,その期間は,2箇月を下ることができない。
②第972条第2項から第4項まで〔相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告〕及び第928条から第935条まで(第932条ただし書きを除く。)〔限定承認における相続財産の清算〕の規定は,前項の場合について準用する。(平成17法87,平成18法50本項改正))
旧第957条(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
①第952条第2項〔相続財産の管理人の選任〕の公告があった後2箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは,相続財産の管理人は,遅滞なく,すべての相続債権者及び受遺者に対し,一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において,その期間は,2箇月を下ることができない。
②第79条第2項及び第3項〔法人の清算における清算人による債権の申出の広告による催告〕並びに第928条から第935条まで〔限定承認における相続財産の清算〕(第932条ただし書〔競売の阻止〕を除く。)の規定は,前項の場合について準用する。
第958条(相続人の捜索の公告)
前条第1項の期間の満了後,なお相続人のあることが明らかでないときは,家庭裁判所は,相続財産の管理人又は検察官の請求によって,相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において,その期間は,6箇月を下ることができない。
第958条の2(権利を主張する者がない場合)
前条の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは,相続人並びに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は,その権利を行使することができない。
第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
①前条の場合において,相当と認めるときは,家庭裁判所は,被相続人と生計を同じくしていた者,被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって,これらの者に,清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
②前項の請求は,第958条〔相続人の捜索の公告〕の期間の満了後3箇月以内にしなければならない。
第959条(残余財産の国庫への帰属)
前条の規定により処分されなかった相続財産は,国庫に帰属する。この場合においては,第956条第2項〔相続財産の管理人の計算義務〕の規定を準用する。
第960条(遺言の方式)
遺言は,この法律に定める方式に従わなければ,することができない。
第961条(遺言能力1)
15歳に達した者は,遺言をすることができる。
第962条〔遺言能力2〕
第5条〔未成年者の法律行為〕,第9条〔成年被後見人の法律行為〕,第13条〔保佐人の同意を要する行為等〕及び第17条〔補助人の同意を要する旨の審判等〕の規定は,遺言については,適用しない。
第963条〔遺言能力3〕
遺言者は,遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
第964条(包括遺贈及び特定遺贈)
遺言者は,包括又は特定の名義で,その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし,遺留分に関する規定に違反することができない。
第965条(相続人に関する規定の準用)
第886条〔相続に関する胎児の権利能力〕及び第891条〔相続人の欠格事由〕の規定は,受遺者について準用する。
第966条(被後見人の遺言の制限)
①被後見人が,後見の計算の終了前に,後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは,その遺言は,無効とする。
②前項の規定は,直系血族,配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には,適用しない。
第967条(普通の方式による遺言の種類)
遺言は,自筆証書,公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし,特別の方式によることを許す場合は,この限りでない。
第968条(自筆証書遺言)
①自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない。
②自筆証書中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない。
第969条(公正証書遺言)
公正証書によって遺言をするには,次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人2人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が,遺言者の口述を筆記し,これを遺言者及び証人に読み聞かせ,又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が,筆記の正確なことを承認した後,各自これに署名し,印を押すこと。ただし,遺言者が署名することができない場合は,公証人がその事由を付記して,署名に代えることができる。
五 公証人が,その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して,これに署名し,印を押すこと。
第969条の2(公正証書遺言の方式の特則)
①口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には,遺言者は,公証人及び証人の前で,遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し,又は自書して,前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については,同号中「口述」とあるのは,「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
②前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には,公証人は,同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて,同号の読み聞かせに代えることができる。
③公証人は,前2項に定める方式に従って公正証書を作ったときは,その旨をその証書に付記しなければならない。
第970条(秘密証書遺言)
①秘密証書によって遺言をするには,次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が,その証書に署名し,印を押すこと。
二 遺言者が,その証書を封じ,証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が,公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して,自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が,その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後,遺言者及び証人とともにこれに署名し,印を押すこと。
②第968条第2項〔自筆証書遺言の加除訂正〕の規定は,秘密証書による遺言について準用する。
第971条(方式に欠ける秘密証書遺言の効力)
秘密証書による遺言は,前条に定める方式に欠けるものがあっても,第968条〔自筆証書遺言〕に定める方式を具備しているときは,自筆証書による遺言としてその効力を有する。
第972条(秘密証書遺言の方式の特則)
①口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には,遺言者は,公証人及び証人の前で,その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し,又は封紙に自書して,第970条第1項第三号の申述に代えなければならない。
②前項の場合において,遺言者が通訳人の通訳により申述したときは,公証人は,その旨を封紙に記載しなければならない。
③第1項の場合において,遺言者が封紙に自書したときは,公証人は,その旨を封紙に記載して,第970条第1項第四号に規定する申述の記載に代えなければならない。
第973条(成年被後見人の遺言)
①成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには,医師2人以上の立会いがなければならない。
②遺言に立ち会った医師は,遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して,これに署名し,印を押さなければならない。ただし,秘密証書による遺言にあっては,その封紙にその旨の記載をし,署名し,印を押さなければならない。
第974条(証人及び立会人の欠格事由)
次に掲げる者は,遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者,4親等内の親族,書記及び使用人
第975条(共同遺言の禁止)
遺言は,2人以上の者が同一の証書ですることができない。
第976条(死亡の危急に迫った者の遺言)
①疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは,証人3人以上の立会いをもって,その1人に遺言の趣旨を口授して,これをすることができる。この場合においては,その口授を受けた者が,これを筆記して,遺言者及び他の証人に読み聞かせ,又は閲覧させ,各証人がその筆記の正確なことを承認した後,これに署名し,印を押さなければならない。
②口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には,遺言者は,証人の前で,遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して,同項の口授に代えなければならない。
③第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には,遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は,同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて,同項後段の読み聞かせに代えることができる。
④前3項の規定によりした遺言は,遺言の日から20日以内に,証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ,その効力を生じない。
⑤家庭裁判所は,前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ,これを確認することができない。
第977条(伝染病隔離者の遺言)
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は,警察官1人及び証人1人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
第978条(在船者の遺言)
船舶中に在る者は,船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
第979条(船舶遭難者の遺言)
①船舶が遭難した場合において,当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は,証人2人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
②口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には,遺言者は,通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
③前2項の規定に従ってした遺言は,証人が,その趣旨を筆記して,これに署名し,印を押し,かつ,証人の1人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ,その効力を生じない。
④第976条第5項〔家庭裁判所の確認の基準〕の規定は,前項の場合について準用する。
第980条(遺言関係者の署名及び押印)
第977条及び第978条の場合には,遺言者,筆者,立会人及び証人は,各自遺言書に署名し,印を押さなければならない。
第981条(署名又は押印が不能の場合)
第977条から第979条までの場合において,署名又は印を押すことのできない者があるときは,立会人又は証人は,その事由を付記しなければならない。
第982条(普通の方式による遺言の規定の準用)
第968条第2項〔自筆証書遺言の加除訂正〕及び第973条から第975条まで〔成年被後見人の遺言,証人及び立会人の欠格事由,共同遺言の禁止〕の規定は,第976条から前条までの規定による遺言について準用する。
第983条(特別の方式による遺言の効力)
第976条から前条までの規定によりした遺言は,遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6箇月間生存するときは,その効力を生じない。
第984条(外国に在る日本人の遺言の方式)
日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは,公証人の職務は,領事が行う。
第985条(遺言の効力の発生時期)
①遺言は,遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
②遺言に停止条件を付した場合において,その条件が遺言者の死亡後に成就したときは,遺言は,条件が成就した時からその効力を生ずる。
第986条(遺贈の放棄)
①受遺者は,遺言者の死亡後,いつでも,遺贈の放棄をすることができる。
②遺贈の放棄は,遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
第987条(受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告)
遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は,受遺者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。この場合において,受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは,遺贈を承認したものとみなす。
第988条(受遺者の相続人による遺贈の承認又は放棄)
受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは,その相続人は,自己の相続権の範囲内で,遺贈の承認又は放棄をすることができる。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
第989条(遺贈の承認及び放棄の撤回及び取消し)
①遺贈の承認及び放棄は,撤回する【取り消す】ことができない。
②第919条第2項及び第3項〔第一編又は前編の規定による相続の承認・放棄の取消しの許容〕の規定は,遺贈の承認及び放棄について準用する。
第990条(包括受遺者の権利義務)
包括受遺者は,相続人と同一の権利義務を有する。
第991条(受遺者による担保の請求)
受遺者は,遺贈が弁済期に至らない間は,遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができる。停止条件付きの遺贈についてその条件の成否が未定である間も,同様とする。
第992条(受遺者による果実の取得)
受遺者は,遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
第993条(遺贈義務者による費用の償還請求)
①第299条の〔留置権者による費用の償還請求〕規定は,遺贈義務者が遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を支出した場合について準用する。
②果実を収取するために支出した通常の必要費は,果実の価格を超えない限度で,その償還を請求することができる。
第994条(受遺者の死亡による遺贈の失効)
①遺贈は,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは,その効力を生じない。
②停止条件付きの遺贈については,受遺者がその条件の成就前に死亡したときも,前項と同様とする。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
第995条(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
遺贈が,その効力を生じないとき,又は放棄によってその効力を失ったときは,受遺者が受けるべきであったものは,相続人に帰属する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
第996条(相続財産に属しない権利の遺贈1)
遺贈は,その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは,その効力を生じない。ただし,その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず,これを遺贈の目的としたものと認められるときは,この限りでない。
第997条〔相続財産に属しない権利の遺贈2〕
①相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは,遺贈義務者は,その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。
②前項の場合において,同項に規定する権利を取得することができないとき,又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは,遺贈義務者は,その価額を弁償しなければならない。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
第998条(不特定物の遺贈義務者の担保責任)
①不特定物を遺贈の目的とした場合において,受遺者がこれにつき第三者から追奪を受けたときは,遺贈義務者は,これに対して,売主と同じく,担保の責任を負う。
②不特定物を遺贈の目的とした場合において,物に瑕疵があったときは,遺贈義務者は,瑕疵のない物をもってこれに代えなければならない。
第999条(遺贈の物上代位)
①遺言者が,遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失によって第三者に対して償金を請求する権利を有するときは,その権利を遺贈の目的としたものと推定する。
②遺贈の目的物が,他の物と付合し,又は混和した場合において,遺言者が第243条から第245条まで〔動産の附合,混和〕の規定により合成物又は混和物の単独所有者又は共有者となったときは,その全部の所有権又は持分を遺贈の目的としたものと推定する。
第1000条(第三者の権利の目的である財産の遺贈)
遺贈の目的である物又は権利が遺言者の死亡の時において第三者の権利の目的であるときは,受遺者は,遺贈義務者に対しその権利を消滅させるべき旨を請求することができない。ただし,遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは,この限りでない。
第1001条(債権の遺贈の物上代位)
①債権を遺贈の目的とした場合において,遺言者が弁済を受け,かつ,その受け取った物がなお相続財産中に在るときは,その物を遺贈の目的としたものと推定する。
②金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合においては,相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても,その金額を遺贈の目的としたものと推定する。
第1002条(負担付遺贈)
①負担付遺贈を受けた者は,遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ,負担した義務を履行する責任を負う。
②受遺者が遺贈の放棄をしたときは,負担の利益を受けるべき者は,自ら受遺者となることができる。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
第1003条(負担付遺贈の受遺者の免責)
負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴えによって減少したときは,受遺者は,その減少の割合に応じて,その負担した義務を免れる。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
第1004条(遺言書の検認)
①遺言書の保管者は,相続の開始を知った後,遅滞なく,これを家庭裁判所に提出して,その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において,相続人が遺言書を発見した後も,同様とする。
②前項の規定は,公正証書による遺言については,適用しない。
③封印のある遺言書は,家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ,開封することができない。
第1005条(過料)
前条の規定により遺言書を提出することを怠り,その検認を経ないで遺言を執行し,又は家庭裁判所外においてその開封をした者は,5万円以下の過料に処する。
第1006条(遺言執行者の指定)
①遺言者は,遺言で,1人又は数人の遺言執行者を指定し,又はその指定を第三者に委託することができる。
②遺言執行者の指定の委託を受けた者は,遅滞なく,その指定をして,これを相続人に通知しなければならない。
③遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは,遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
第1007条(遺言執行者の任務の開始)
遺言執行者が就職を承諾したときは,直ちにその任務を行わなければならない。
第1008条(遺言執行者に対する就職の催告)
相続人その他の利害関係人は,遺言執行者に対し,相当の期間を定めて,その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において,遺言執行者が,その期間内に相続人に対して確答をしないときは,就職を承諾したものとみなす。
第1009条(遺言執行者の欠格事由)
未成年者及び破産者は,遺言執行者となることができない。
第1010条(遺言執行者の選任)
遺言執行者がないとき,又はなくなったときは,家庭裁判所は,利害関係人の請求によって,これを選任することができる。
第1011条(相続財産の目録の作成)
①遺言執行者は,遅滞なく,相続財産の目録を作成して,相続人に交付しなければならない。
②遺言執行者は,相続人の請求があるときは,その立会いをもって相続財産の目録を作成し,又は公証人にこれを作成させなければならない。
第1012条(遺言執行者の権利義務)
①遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
②第644条から第647条まで〔受任者の責任〕及び第650条〔受任者による費用等の償還請求等〕の規定は,遺言執行者について準用する。
第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)
遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をするとができない。
第1014条(特定財産に関する遺言の執行)
前3条の規定は,遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には,その財産についてのみ適用する。
第1015条(遺言執行者の地位)
遺言執行者は,相続人の代理人とみなす。
第1016条(遺言執行者の復任権)
①遺言執行者は,やむを得ない事由がなければ,第三者にその任務を行わせることができない。ただし,遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは,この限りでない。
②遺言執行者が前項ただし書の規定により第三者にその任務を行わせる場合には,相続人に対して,第105条〔復代理人を選任した代理人の責任〕に規定する責任を負う。
第1017条(遺言執行者が数人ある場合の任務の執行)
①遺言執行者が数人ある場合には,その任務の執行は,過半数で決する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
②各遺言執行者は,前項の規定にかかわらず,保存行為をすることができる。
第1018条(遺言執行者の報酬)
①家庭裁判所は,相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし,遺言者がその遺言に報酬を定めたときは,この限りでない。
②第648条第2項及び第3項〔受任者の報酬の支払方法〕の規定は,遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。
第1019条(遺言執行者の解任及び辞任)
①遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは,利害関係人は,その解任を家庭裁判所に請求することができる。
②遺言執行者は,正当な事由があるときは,家庭裁判所の許可を得て,その任務を辞することができる。
第1020条(委任の規定の準用)
第654条〔復代理人を選任した代理人の責任〕及び第655条〔委任の終了の対抗要件〕の規定は,遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。
第1021条(遺言の執行に関する費用の負担)
遺言の執行に関する費用は,相続財産の負担とする。ただし,これによって遺留分を減ずることができない。
第1022条(遺言の撤回)
遺言者は,いつでも,遺言の方式に従って,その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
第1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)
①前の遺言が後の遺言と抵触するときは,その抵触する部分については,後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
②前項の規定は,遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
第1024条(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは,その破棄した部分については,遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも,同様とする。
第1025条(撤回された遺言の効力)
前3条の規定により撤回された遺言は,その撤回の行為が,撤回され,取り消され,又は効力を生じなくなるに至ったときであっても,その効力を回復しない。ただし,その行為が詐欺又は強迫による場合は,この限りでない。
第1026条(遺言の撤回権の放棄の禁止)
遺言者は,その遺言を撤回する権利を放棄することができない。
第1027条(負担付遺贈に係る遺言の取消し)
負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは,相続人は,相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において,その期間内に履行がないときは,その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
第1028条(遺留分の帰属及びその割合)
兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分として,次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人であるときは,被相続人の財産の3分の1
二 前号に掲げる場合以外の場合被相続人の財産の2分の1
第1029条(遺留分の算定1)
①遺留分は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して,これを算定する。
②条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は,家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って,その価格を定める。
第1030条〔遺留分の算定2〕
贈与は,相続開始前の1年間にしたものに限り,前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは,1年前の日より前にしたものについても,同様とする。
第1031条(遺贈又は贈与の減殺請求)
遺留分権利者及びその承継人は,遺留分を保全するのに必要な限度で,遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
第1032条(条件付権利等の贈与又は遺贈の一部の減殺)
条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利を贈与又は遺贈の目的とした場合において,その贈与又は遺贈の一部を減殺すべきときは,遺留分権利者は,第1029条第2項の規定により定めた価格に従い,直ちにその残部の価額を受贈者又は受遺者に給付しなければならない。
第1033条(贈与と遺贈の減殺の順序)
贈与は,遺贈を減殺した後でなければ,減殺することができない。
第1034条(遺贈の減殺の割合)
遺贈は,その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
第1035条(贈与の減殺の順序)
贈与の減殺は,後の贈与から順次前の贈与に対してする。
第1036条(受贈者による果実の返還)
受贈者は,その返還すべき財産のほか,減殺の請求があった日以後の果実を返還しなければならない。
第1037条(受贈者の無資力による損失の負担)
減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は,遺留分権利者の負担に帰する。
第1038条(負担付贈与の減殺請求)
負担付贈与は,その目的の価額から負担の価額を控除したものについて,その減殺を請求することができる。
第1039条(不相当な対価による有償行為)
不相当な対価をもってした有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り,これを贈与とみなす。この場合において,遺留分権利者がその減殺を請求するときは,その対価を償還しなければならない。
第1040条(受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等)
①減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは,遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし,譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは,遺留分権利者は,これに対しても減殺を請求することができる。
②前項の規定は,受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合について準用する。
第1041条(遺留分権利者に対する価額による弁償)
①受贈者及び受遺者は,減殺を受けるべき限度において,贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。
②前項の規定は,前条第1項ただし書の場合について準用する。
第1042条(減殺請求権の期間の制限)
減殺の請求権は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは,時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも,同様とする。
第1043条(遺留分の放棄)
①相続の開始前における遺留分の放棄は,家庭裁判所の許可を受けたときに限り,その効力を生ずる。
②共同相続人の1人のした遺留分の放棄は,他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
第1044条(代襲相続及び相続分の規定の準用)
第887条第2項及び第3項〔子の代襲者等〕,第900条〔法定相続分〕,第901条〔代襲相続分〕,第903条並びに第904条〔特別受益者の相続分〕の規定は,遺留分について準用する。