名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山茂
X漁業協同組合は、A社の溜池に貯蔵されているY所有の漁業用タールのうち、2,000トンをYから見積価格49万5,000円で購入することとし、引渡については、買主Xが売主Yに対して必要の都度その引渡を申し出て、Yが引渡場所を指定し、Xがドラム缶を当該場所に持ち込みタールを受領し、1年間で2,000トン全部を引き取るという契約を締結し、手付金20万円をYに交付した。
Yは、Xの求めに応じて10万7,500円分のタールの引渡を行ったが、その後、Xは、タールの品質が悪いといってしばらくの間引き取りに来ず、その間Yはタールの引渡作業に必要な人夫を配置する等引渡の準備をしていたが、その後これを引き上げ、監視人を置かなかったため、A社の労働組合員がこれを他に処分してしまい、タールは滅失するにいたった。
そこで、Xは、Yのタールの引渡不履行を理由に残余部分につき契約を解除する意思表示をし、手付金から引渡を受けたタールの代価を差し引いた残金9万2,500円の返還を請求した。
Xの請求は認められるか。
自衛隊員Aは、昭和40年7月、自衛隊の車両整備工場で車両整備中、大型車両を運転していた同僚Bの過失により、その車両に轢かれて即死した。
Aの両親X1X2は、翌日これを知らされ、国家公務員災害補償金の支給を受けたが、自衛隊幹部から、自衛隊員は、国に対して訴えを起こすことができないとの説明を受け、自賠法に基づく損害賠償請求を行わなかった。
ところが、弁護士から、自衛隊員も国に対する損害賠償を請求できることを聞き、昭和44年10月、国Yに対して、自賠法3条、および、安全配慮義務違反に基づき損害賠償を請求した。Xらの請求は認められるか。
もしも、請求が認められるとして、それは、不法行為上の損害賠償請求権か、信義則上の債務不履行に基づく損害賠償請求権か。
問屋Xは、コンピュータのメモリの製造業者Yとの間で、1個あたり1万円のメモリチップを100個購入する売買契約を締結した。
Xは、そのメモリを1個当たり1万2,000円で小売店に転売する予定であった。ところが、この契約の締結時の翌日に、大手のメモリ製造業者の工場が火災で焼失し、メモリの生産が大幅に落ち込むという事態が発生した。
そのため、メモリの値段は、仕入れ価格で1個あたり、2万円、販売価格で2万4,000円に高騰した。そして、Yは、メモリを1個当たり2万円で購入したいという他の問屋に優先的に販売し、Xへの出荷を先送りにしている。
そこでXは、期日を指定してメモリ100個を契約通りの値段でXに引き渡すよう催告し、その期日までに履行がなかったため、契約を解除した。
解除の時点では、メモリの価格は、仕入れ値で1個当たり1万7,000円、販売価格で2万円になっていた。ただし、現在では、メモリの価格は仕入れ値で1個当たり9,000円、販売価格で1万円に下落している。
Xは、Yに対していくらの損害賠償を請求できるか。
Aは,生前に,その所有していた土地を弟Bおよび妹Cに代金604万円で売却し,代金中100万円を受領したのみで,残代金履行期到来前に死亡した。Aの子であるXら5名(移転登記賛成),およびY(移転登記反対)がAを共同相続した。
その後,残代金の支払いも移転登記もなされないまま経過したが,BおよびCは,Aの各相続人に対し,残代金を支払うから委任状・印鑑証明書等を交付するよう催告したが,Xらはこれに応じたものの,Yのみは売買契約の効力を争ってこれに応じなかった。
このため,B・Cは移転登記手続をすることができず,Xらに対して残代金のうち各相続分に応じた額である42万余円の支払いを拒んだ。
Yが移転登記に反対し,かつ,資力のあるB・Cが親族であるYを訴えるつもりがないという状況の中で,Xらは,どのような方法で,A名義のままになっている登記をB・Cへと移転させ,B・Cに対して,代金の支払いを求めることができるか。
Xは、Aから土地を購入し、代金を支払った。ところが、Aは、登記をXに移転しないままその土地を親族であるYに贈与し、登記もYに移して、その後、破産してしまった。Xは、Yに対して、登記をXに移すよう請求することができるか。
妻Y1と男性Y2とが不倫したため、婚姻関係が破綻し、夫Xと妻Y1とは離婚した。そして、Xは、妻Y1と男性Y2とを相手取って、連帯して慰謝料100万円を支払えとの損害賠償請求を行った後、妻に対しては、損害額を半額に免除するとの通知を行った。
その場合、Xは男性Y2に対して、100万円の損害賠償全額を請求できるか。
X金融から1,000万円を借りるに際して,Aは,親戚のYに保証人になってもらった。Aは個人で事業を営んでいるが,経営不振に陥っており,銀行からは融資を受けることができないため,金利の高いXから融資を受けることにした。
Xは,Aの経営がうまくいかない原因は,Aの経営方針がよくないことと,長引く不況とであり,融資をしても,Aが期限までに借金を返せなくなることを予知していたが,Aの土地建物に抵当権を設定するのに必要な書類を提出すること,および,Yが保証人になることを条件に融資を行うことにした。
Yは,Aから,「経営がうまくいかないのは,銀行が貸し渋りを行うからで,Xから融資を受けることができれば,経営は立ち直るに違いない。Xから融資を受けるためには,あなたのような信用のある人に保証人になってもらう必要がある。融資さえあれば経営は万全だから,あなたには絶対に迷惑をかけない。ぜひ保証人になってほしい。」と懇願され,また,Xからも,「Aは,融資さえ受けることができれば,事業については全く心配は要らない。資産もあるので大丈夫。」との説明を受け,保証人となった。
返済期限が到来して,Aが借金を返せなくなったにもかかわらず,Xは,保証人Yの資力だけを頼みにしており,Aから受け取った必要書類に基づいて抵当権の登記をすることを怠ったため,Aの土地建物は他の債権者によって差し押さえられて,競落されてしまった。
Xからの請求に対して,Yはどのような抗弁を主張することができるか。