保証「債務」の性質

2001年10月25日

名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂


〔保証人の責任〕
 第446条 保証人ハ主タル債務者カ其債務ヲ履行セサル場合ニ於テ其履行ヲ為ス責ニ任ス


保証は,債務か責任か


多数当事者の「債権」の節に,なぜ保証「債務」が規定されているのか

民法が,「多数当事者ノ『債権』」という表題を挙げているにもかかわらず,不可分債務,連帯債務,保証債務については,「債権」ではなく,「債務」という言葉を使っているのは,揚げ足取りかもしれないが,「羊頭狗肉」の類である。確かに,不可分債権,連帯債権という用語は存在すものの,これらは,それぞれ,不可分債務の債権者の有する債権,連帯債務の債権者が有する債権を意味するわけではない。さらに,保証債権という言葉に至っては存在すらしない。

保証債務に対応する債権に,何の名前も付けることができない理由は,債務者が債権者に負っている債務だけが本来の債務であり,債権者と保証人との間には,別の債権は全く存在しないからである。保証は,債権者と債務者との間の債務につき,保証人が責任のみを負っているのであって,債権の側からは,保証「債務」に対応する保証「債権」という名前を付けることができない。これが,立法者が,「多数当事者の債権」という表題を掲げつつ,保証につき,債権の側から名称をつけることを断念し,債務の側から名称をつけざるを得なかった真の理由であろう。

先に述べたように,保証「債務」は,多数当事者の債権の個所において,不可分債務,連帯債務と並べて規定されている。しかし,保証「債務」は,不可分債務や連帯債務と異なり,本来の債務部分を持っておらず,民法上は,「保証債務」と呼ばれているが,本来の債務ではなく,「債務のない責任」を負っているに過ぎない。なぜなら,本来の債務であれば,弁済によって求償権を取得することはありえないからである。

確かに,連帯債務は,債務であるにもかかわらず,他の債務者への求償が可能である。しかし,連帯債務の場合に求償ができる理由は,これから詳しく論じるように,連帯債務者の一人が,自己の本来的な債務である負担部分を超えて,他人の保証部分を弁済したために,共同の免責を得たからに過ぎない(民法442条)。したがって,本来の債務部分である自己の負担部分を弁済したにとどまる場合には,求償権を取得しないのである(465条1項参照)。

連帯債務の構造と求償権発生のメカニズム

以下においては,連帯債務と保証債務との関係を論じることを通じて,「債務」の弁済によって求償権が生じるのは,本来の債務の弁済でない場合に限ることを明らかにしようと思う。説明の流れを示すと以下のようになる。

  1. 連帯債務には,本来の債務(負担部分)と保証(連帯部分または保証部分)とが同居している。より厳密にいえば,下の図のように,連帯債務は,固有の債務(負担部分)と他人の債務に対する責任部分(保証部分)とから構成されている
  2. 連帯債務者の一人が,自らの負担部分を超えて弁済をした場合,すなわち,保証部分について,他人のために弁済した場合には,求償権を取得する。この場合は,自分の債務を弁済したからではなく,保証人として,他人の債務を支払ったからである。
  3. 反対に,弁済が負担分の範囲内に留まる場合には,連帯債務者の一人は,単に,自己の債務を弁済したに過ぎないため,求償権を取得できない。
  4. 以上のことを通じて,保証債務とは,実は,本来の債務ではなく,他人の債務を負担するという「債務のない責任」に過ぎないことを明らかにする。

例えば,Y1が300万円,Y2が200万円,Y3が100万円をXから借りて,それぞれがXに対して600万円の連帯債務を負ったとする。Y1がXに300万円を支払った場合,連帯債務は,600万円から300万円へと減少するが,Y1は,他の連帯債務者に対して求償を行なうことはできない。Y1が特別の弁済の指定をしない限り,それは,Y1の負担部分に充当されるからであり,自己の固有の債務を弁済しても,求償権が発生する理由がないからである。

これに反して,Y1がXに対して,300万円を超える弁済をした場合には,Y1は,自己の負担分を超えて,他人の保証部分を弁済したことになり,民法442条にいう「共同の免責を得」たことになるため,Y1は,Y2,Y3に対して,求償を行なうことができる。例えば,Y1がXに対して,480万円を弁済した場合には,300万円を超える180万円分につき,Y1は,Y2,Y3の負担部分の比に応じて,それぞれ,Y2に対して,120万円,Y3に対して60万円の求償をすることができる。

保証の規定の連帯債務への準用の可能性

ところで,民法は,保証について連帯債務の規定を準用するという方法を採用しているが,連帯債務を固有の債務と連帯保証との結合と考えるのであれば,むしろ,保証を先に規定し,連帯債務の規定がそれを準用するのが妥当と思われる。

実際,旧民法は,保証を先に規定し,連帯債務は保証の規定を準用していた。そこで,求償の問題について,もしも,現行民法が,旧民法と同じように,共同保証人の求償に関する規定(民法456条)を連帯債務者の求償に関する規定(民法442条)が準用するとしていたら,問題状況はかなり異なっていたと思われる。

例えば,現行民法とは異なり,保証人の求償権に関する条文が先に置かれ,次に,連帯債務者間の求償の規定が置かれた状態,すなわち,旧民法の時代状況を再現してみると,求償件の発生が,負担部分を超えて初めて生じるかどうかについて,明確な基準を導くことができるように思われる。

第465条〔共同保証人間の求償権〕 第442条〔連帯債務者間の求償〕
現行民法の構造 (1) 数人ノ保証人アル場合ニ於テ主タル債務カ不可分ナル為メ又ハ各保証人カ全額ヲ弁済スヘキ特約アル為メ一人ノ保証人カ全額其他自己ノ負担部分ヲ超ユル額ヲ弁済シタルトキハ第442条乃至第444条〔弁済した連帯債務者の求償権〕ノ規定ヲ準用ス (1) 連帯債務者ノ一人カ債務ヲ弁済シ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ得タルトキハ他ノ債務者ニ対シ其各自ノ負担部分ニ付キ求償権ヲ有ス
旧民法時代の構造への復元 (1) 数人ノ保証人アル場合ニ於テ主タル債務カ不可分ナル為メ又ハ各保証人カ全額ヲ弁済スヘキ特約アル為メ一人ノ保証人カ全額其他自己ノ負担部分ヲ超ユル額ヲ弁済シタルトキハ他ノ保証人ニ対シ其各自ノ負担部分ニ付キ求償権ヲ有ス (1) 連帯債務者ノ一人カ債務ヲ弁済シ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ得タルトキハ第465条〔共同保証人間の求償権〕ノ規定ヲ準用ス

条文の順序と準用関係を逆の状態に戻してみると,連帯債務者間の求償関係と共同保証人間の求償関係は,反対解釈の関係にあるのではなく,実は,同じように解釈すべきことが明らかとなるはずである。

債務なき責任ととしての保証「債務」と物上保証との関係

以上の考察から,本来の債務を弁済した場合は求償権は生じないが,本来の債務ではなく,他人の債務を弁済すべき者が他人の債務を負担した場合には,求償権が取得できることが理解されたと思われる。

保証「債務」を「債務なき責任」として理解するということになると,保証と物上保証との関係が問題となる。物上保証人が債務を負わず,責任だけを負っていることは,一般に認められている。保証人も,本来の債務を負わず,責任のみを負っている点で,物上保証人の立場とよく似ている。物上保証人と保証人との違いは,前者が担保に差し出した物件の価値の範囲内で有限責任を負うに過ぎないのに対して,保証人は,主たる債務の額の範囲で無限責任を負う点が異なっているに過ぎない。


主契約,保証委託契約,保証契約との関係


主債務と保証「債務」との関係(付従性)

保証は,債権者と保証人との間の保証契約によって生じる。しかし,保証契約は債権者と保証人との間の保証契約だけでは,存在しえない。保証契約が存在するためには,債権者と債務者との間に主たる債務が存在することが必要であり,さらに,通常は,債務者と保証人との間の保証委託契約も存在する。もしも,債権者と債務者の間に主たる債務が存在しない場合には,保証債務も,付従性によって,そもそも不成立となるか,無効となるか,そうでなければ消滅する(民法448条)。

保証契約においては,保証人は,債務者が債務を弁済しなかった場合には,債務者に代わって債権者に債務を弁済することを約する。この保証契約は,保証人は,対価を得ることもなく,しかも,一方的に責任を負うだけである。すなわち,保証契約は,贈与と同じく,無償の片務契約である。したがって,書面によらない保証契約は,実際に保証の責任が生じるまでは,いつでも取消ができると考えるべきであろう(民法550条の類推)。

保証委託契約と保証契約との関係(求償関係)

保証人が,何のメリットもなく,責任だけ負担させられる保証契約を債権者と締結するのは,通常は,債務者に保証を頼まれるからである(保証委託契約)。この保証委託契約においては,債務者は,保証人に絶対に迷惑をかけないことを約束する。つまり,「保証人がいないと債権者が融資をしてくれないから,仕方なく保証人になることをお願いしたい。しかし,債務は必ず私が弁済するのであって,あなたに払わすようなことはしない。万が一,債務を弁済してもらうような事態が生じたとしても,必ず,私がお返しする」と。

債務者が保証人にする以上の約束を法律的に分析すると以下のようになる。

  1. 保証人は本来の債務を負担しない。保証人の本来の役割は,貸し渋る債権者に対して円滑な融資・与信を促進することである。
  2. 弁済期が来ても債務者が債権者に弁済しない場合に,債権者から保証人が支払を請求された場合には,保証人に迷惑をかけないよう,債務者がその額を保証人に対して支払う(事前求償権の確保)。
  3. 保証人が債権者に支払をした場合には,債務者がその全額を保証人に支払う(事後求償権の確保)。

以上の約束は,単なるリップサービスに留まらない。民法は,債務者の保証人に対する約束を実現させるため,保証人の権利として,債務者に対する求償権を与えている(民法459条以下)。さらには,後に述べるように,債権者が保証人の求償権を妨害した一定の場合には,保証人を免責する規定まで用意している(民法455条,504条)。


第459条〔受託保証人の求償権〕
@保証人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保証ヲ為シタル場合ニ於テ過失ナクシテ債権者ニ弁済スヘキ裁判言渡ヲ受ケ又ハ主タル債務者ニ代ハリテ弁済ヲ為シ其他自己ノ出捐ヲ以テ債務ヲ消滅セシムヘキ行為ヲ為シタルトキハ其保証人ハ主タル債務者ニ対シテ求償権ヲ有ス
A第四百四十二条第二項〔弁済した連帯債務者の求償権の範囲〕ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス

第460条〔受託保証人の事前求償権〕
保証人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保証ヲ為シタルトキハ其保証人ハ左ノ場合ニ於テ主タル債務者ニ対シテ予メ求償権ヲ行フコトヲ得
一 主タル債務者カ破産ノ宣告ヲ受ケ且債権者カ其財団ノ配当ニ加入セサルトキ
二 債務カ弁済期ニ在ルトキ但保証契約ノ後債権者カ主タル債務者ニ許与シタル期限ハ之ヲ以テ保証人ニ対抗スルコトヲ得ス
三 債務ノ弁済期カ不確定ニシテ且其最長期ヲモ確定スルコト能ハサル場合ニ於テ保証契約ノ後十年ヲ経過シタルトキ

第461条〔主債務者の免責請求〕
@前二条ノ規定ニ依リ主タル債務者カ保証人ニ対シテ賠償ヲ為ス場合ニ於テ債権者カ全部ノ弁済ヲ受ケサル間ハ主タル債務者ハ保証人ヲシテ担保ヲ供セシメ又ハ之ニ対シテ自己ニ免責ヲ得セシムヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得
A右ノ場合ニ於テ主タル債務者ハ供託ヲ為シ、担保ヲ供シ又ハ保証人ニ免責ヲ得セシメテ其賠償ノ義務ヲ免ルルコトヲ得

第462条〔委託なき保証人の求償権〕
@主タル債務者ノ委託ヲ受ケスシテ保証ヲ為シタル者カ債務ヲ弁済シ其他自己ノ出捐ヲ以テ主タル債務者ニ其債務ヲ免レシメタルトキハ主タル債務者ハ其当時利益ヲ受ケタル限度ニ於テ賠償ヲ為スコトヲ要ス
A主タル債務者ノ意思ニ反シテ保証ヲ為シタル者ハ主タル債務者カ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テノミ求償権ヲ有ス但主タル債務者カ求償ノ日以前ニ相殺ノ原因ヲ有セシコトヲ主張スルトキハ保証人ハ債権者ニ対シ其相殺ニ因リテ消滅スヘカリシ債務ノ履行ヲ請求スルコトヲ得