保証人の免責

2000年11月8日

名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂


主債務の不発生・無効・消滅による免責(付従性)


第448条〔保証債務の付従性〕
保証人ノ負担カ債務ノ目的又ハ体様ニ付キ主タル債務ヨリ重キトキハ之ヲ主タル債務ノ限度ニ減縮ス

保証は,民法446条によれば,主たる債務者が,その債務を履行しない場合に,主たる債務者に代わって,主たる債務を履行する責任のことをいう。したがって,保証は,主たる債務がなければ,存在しないし,主たる債務が無効となれば,保証も無効となり,主たる債務が消滅すれば,保証も消滅する。これを保証の付従性(民法448条)と呼んでいる。

もっとも,取消できる債務を,それと知りつつ保証を行なった場合には,保証を行なった者は,独立の債務を負担したものと推定されることになっている(民法449条)。しかし,このような独立の債務は,損害担保契約,または,独立担保といわれているが,その本質は,完全な独立の債務であって,保証ではない。付従性も求償権も発生しないからである。

この点に関しては,破産法が保証の付従性に関して,以下のような重大な例外を規定している。

第366条ノ13 〔保証人等に対する効果〕
免責ハ破産債権者ガ破産者ノ保証人其ノ他破産者ト共ニ債務ヲ負担スル者ニ対シテ有スル権利及破産債権者ノ為ニ供シタル担保ニ影響ヲ及ボサズ
(昭二七法一七三・追加)

しかし,この破産法の規定は,民法の原則を無視するものであり,保証契約の趣旨に反して,保証人に過酷の責任を課すものであり,直ちに改正すべきであると考える。

破産手続の終了によって,債務者が免責された場合,保証の付従性によって保証「債務」も消滅するのが原則である。もしも,主たる債務が免責されても,保証「債務」のみが存続するとすれば,それは,もはや,保証「債務」ではなく,独立した債務といわざるを得ない。保証人は主たる債務者との契約により,保証「債務」を負うことは約したかもしれない。しかし,保証人は,債務者が免責されても,保証人だけは,最後まで債務を負いつづけ,しかも,債務者に対する求償権も失うということまで約束していたといえるであろうか。その答えは明らかに否であろう。保証人の意思に反する契約の変更を余儀なくさせる破産法第366条ノ13は憲法に違反して無効であると考えざるをえない。

しかし,破産法が改正されるまでは,以下のような解釈によって,保証人の権利を保護すべきである。

破産法366条の13は,債権者が「保証人」に対して有する権利,担保に「影響を及ぼさず」と規定している。破産免責によって債務者が免責されても,保証「債務」が存続するとということは,保証「債務」は,独立保証担保へと変更することになり,債権者の保証人に対する権利は,「独立債務」へと変更することとなり,債権者の保証人に対する権利に「影響を及ぼさず」という文言に反することになる。したがって,破産法366条の13の解釈としては,保証「債務」は,破産免責によってもその本質に影響が及ぼされることはなく,付従性によって消滅すると解すべきであろう。


求償権を侵害する債権者の行為による免責


例題

 X金融から1,000万円を借りるに際して,Aは,親戚のYに保証人になってもらった。その経緯は以下のとおりである。
 Aは個人で事業を営んでいるが,経営不振に陥っており,銀行からは融資を受けることができないため,金利の高いXから融資を受けることにした。
 Xは,Aの経営がうまくいかない原因は,Aの経営方針がよくないことと長引く不況とであり,融資をしてもAが期限までに借金を返せなくなることを予知していたが,Aの土地建物に抵当権を設定するのに必要な書類を提出すること,および,Yが保証人になることを条件に融資を行うことにした。
 Yは,Aから,「経営がうまくいかないのは,銀行が貸し渋りを行うからで,Xから融資を受けることができれば,経営は立ち直るに違いない。Xから融資を受けるためには,あなたのような信用のある人に保証人になってもらう必要がある。融資さえあれば経営は万全だから,あなたには絶対に迷惑をかけない。ぜひ保証人になってほしい。」と懇願され,また,Xからも,「Aは,融資さえ受けることができれば,事業については全く心配は要らない。資産もあるので大丈夫。」との説明を受け,保証人となった。
返済期限が到来して,Aが借金を返せなくなったにもかかわらず,Xは,保証人Yの資力だけを頼みにしており,Aから受け取った必要書類に基づいて抵当権の登記をすることを怠ったため,Aの土地建物は他の債権者によって差し押さえられて,競落されてしまった。

 Xからの請求に対して,Yはどのような抗弁を主張することができるか。

この問題は,保証人は債権者に対してどのような抗弁を持っているのか,保証人には,なぜ,そのような抗弁が与えられているのか,債権者が保証人のどのような利益を害した場合に,保証人が免責されるかを尋ねるものである。

本問の場合,第1に,保証人にはどのような抗弁権が与えられているか,第2に,債務者のめぼしい財産が他の債権者に差し押さえられてしまった場合に,それらの抗弁をうまく使うことができるかどうか,第3に,債権者が過失で抵当権の登記をしなかったことが保証人の責任にどのような影響を与えるかが問題となる。


債権者の適時の催告・検索懈怠による保証人の免責

第455条〔催告・検索の懈怠の効果〕
第452条〔催告の抗弁権〕及ヒ第453条〔検索の抗弁権〕ノ規定ニ依リ保証人ノ請求アリタルニ拘ハラス債権者カ催告又ハ執行ヲ為スコトヲ怠リ其後主タル債務者ヨリ全部ノ弁済ヲ得サルトキハ保証人ハ債権者カ直チニ催告又ハ執行ヲ為セハ弁済ヲ得ヘカリシ限度ニ於テ其義務ヲ免ル

保証人は,債権者から債務の履行を請求されたときは,まず,主たる債務者に催告するよう求める催告の抗弁権を有している(民法452条)。また,債権者が主たる債務者に催告をした場合であっても,主たる債務者に弁済の資力があり,かつ,執行が容易であることを証明して,債権者に対して,まず,主たる債務者の財産について強制執行をするよう求める検索の抗弁権を有している(民法453条)。

保証人がこのような催告の抗弁を主張し,または,検索の抗弁を主張しているにもかかわらず,債権者が,催告をせず,または,強制執行を怠っているうちに,主たる債務者の資力が悪化し,債務者から全部の弁済を受けることができなくなってしまった場合には,債権者が直ちに催告または強制執行をしていたならば弁済を得ることができたであろう範囲で,保証人は免責される(民法455条)。

保証人は,主たる債務者がその債務を履行しない場合に,主たる債務者に代わって債務を弁済する責任を負うのであるから,債権者は,主たる債務者に履行を請求しようと,保証人に履行を請求しようと自由な立場にあり,債務者への履行が遅れたからといって,非難される筋合いではないはずである。債務者が非難されるのは,保証人が催告・検索の抗弁権を主張しているにもかかわらず,主たる債務者に対する催告・執行を怠ったため,債務者の資力が低下し,本来ならできたはずの保証人の求償権が確保されなくなったためであると考えるのが正当であろう。

債権者は,保証人と保証契約を締結した結果,債務者は,信義則上,保証人の求償権を確保するための配慮義務を負うに至たると考えるならば,その配慮義務を怠った債権者に対して,保証責任の消滅という制裁が与得られることは妥当であると思われる。

例題に即して考えると,保証人が催告または検索の抗弁を主張しようとしても,債権者が抵当権の登記を怠ったため,すでに,債務者の財産は競落されているため,これらの抗弁を主張しても意味がないように思われる。しかし,債権者が抵当権の登記をしておれば,債権者は債務者の財産を容易に執行することが可能だったのであるから,もしも,債権者が保証人の財産を当てにして,保証人の検索の抗弁権の行使を妨害するため,故意に抵当権の登記をしなかったのであれば,民法130条により条件は成就したものとみなして,民法455条に基づき免責を主張することも可能であろう。

債権者の担保保存義務違反による保証人の免責

第504条〔債権者の担保保存義務〕
第500条ノ規定ニ依リテ代位ヲ為スヘキ者アル場合ニ於テ債権者カ故意又ハ懈怠ニ因リテ其担保ヲ喪失又ハ減少シタルトキハ代位ヲ為スヘキ者ハ其喪失又ハ減少ニ因リ償還ヲ受クルコト能ハサルニ至リタル限度ニ於テ其責ヲ免ル

債権者の行為によって保証人の求償権が害される典型例は,債権者の担保保存義務に違反する行為である。この場合に,保証人が免責されるのは,先の場合と同様,債権者の義務違反行為によって,保証人の求償権が害されたからである。

このように考えると,保証契約を締結した債権者は,信義則上,保証人の求償権を害しないような配慮義務を負うと解すべきである。このように考えることによって,民法455条と民法504条における保証人の免責を統一的に理解することが可能となるのである。

もっとも,最二判平8・12・19金融法務1482号77頁は,「債権者である被上告人のした根抵当権放棄により、これをしないでC銀行に対する弁済がされなかった場合に比べて、被上告人の株式会社Aに対する求償金債権で物的担保により満足を受けることのできないものの額がより多額になったということはできないから、債権者である被上告人の右行為は、金融取引上の通念から見て合理性を有するものであり、連帯保証人である上告人Bが担保保存義務免除特約の文言にかかわらず正当に有し、又は有し得べき代位の期待を奪うものとはいえない。したがって、被上告人が右特約の効力を主張することが信義則に反するものとは認められないとした原審の判断は、結論において是認することができる。」として,債権者が担保保存義務を特約によって免責することを認めている。しかし,母法となったフランスでは,このような免責特約は,信義則に反することを理由に,無効となるという立法的な解決がなされている。

上記の例題に即して考えると,債権者Xは,債務者Aから受け取った必要書類に基づいて抵当権の登記をすることを怠ったため,債務者Aの土地建物は他の債権者によって差し押さえられて,競落されてしまったというのであるから,保証人は,民法504条に基づいて,責任を免れることになる(静岡地判昭和31・9・4下民7巻8号2334頁、判時95号18頁:債権者が債務者から抵当権の設定を受けるため、その登記に必要な一切の書類の交付を受けたが、その登記をせずに放置しているうち債務者は抵当物件を他に売却してしまつたので、債権者はその登記をすることができなくなつてしまつた。という事実が、連帯保証人の免責事由とされた事例参照)。