債務不履行(不完全履行)責任と瑕疵担保責任

2001年6月28日

名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂


最二判昭36・12・15民集15巻11号2852頁 約束手形金請求事件

〔事実の概要〕

昭和27年3月,有線放送業を営むY社(被告・控訴人・被上告人)はX社(原告・被控訴人・上告人)から街頭宣伝のために出力50ワットの有線放送用スピーカーとその付属品を装備費も含めて24万7,980円で買い受け,同年4月18日に残代金16万6,000円の支払いのために同年6月17日を支払日とする本件約束手形を振り出した。

Yは本件機械を同年4月25日の塩釜神社の祭礼の頃より試験的に使用し,その結果が一応良好に見えたので,同年5月3日にXから現品の引渡を受けた。ところが,本件機械には,ソケットの接触不良やリード線のゴム劣化によるシールド線の断線,バイアス用抵抗値不適当等のために,聴く者に不快な感じを与える雑音や音質不良が生じ,付近の者より苦情が出るほどであった。Yの求めに応じてXの技師Aが数回にわたって簡単な修理をし,どうやら放送事業を続けたが,すぐ同じような雑音や音質不良を繰り返す始末で,Aも結局その故障の原因をつかみえず,完全に修理することができなかった。そこで,Yは,昭和27年6月初め頃,Xの塩釜出張所主任のBに対し,本件機械を一旦持ち帰って完全に修理することを催告したが,Xはこれを放置して修理をしなかった。そのため,Yは,やむなく昭和27年8月,同業のC有線放送会社から放送機械の貸与を受け,本件機械と取り替えて街頭放送事業を続けた。

Xが約束手形金の請求をしたのに対して,Yは瑕疵担保責任に基づく解除,および債務不履行を原因とする解除を抗弁として主張した。

第一審はXの請求を認容した。第二審は,本件機械の瑕疵はYが契約した目的を達する目的を達することができないほどのものとはいえないとして瑕疵担保責任の主張を認めなかったが,不完全な履行であるとして債務不履行による解除を認めた。さらに,Yは商法526条による検査・通知義務を尽くしていないから解除の効力は発生しないとのXの主張に対して,本件における解除は,瑕疵担保によるものではなく,債務不履行によるものであるとして採用しなかった。

そこで,Xが,不特定物の売買においては,目的物の受領の前と後とにそれぞれ不完全履行の責任と瑕疵担保の責任が対応するとの立場から,Yが本件機械を受領したことが明らかであるにもかかららず,原審が債務不履行解除を認めたのは法令違背であると主張して,上告した。


〔判旨〕

所論(上告理由)は、不特定物の売買においては、売買目的物の受領の前と後とにそれぞれ不完全履行の責任と瑕疵担保の責任とが対応するという立場から、本件売買では被上告人が本件機械を受領したことが明らかである以上もはや不完全履行の責任を論ずる余地なきにかかわらず、原判決が債務不履行による契約解除を認めたのは、法令の違背であると論じている。

しかし、不特定物を給付の目的物とする債権において給付せられたものに隠れた瑕疵があつた場合には、債権者が一旦これを受領したからといつて、それ以後債権者が右の瑕疵を発見し、既になされた給付が債務の本旨に従わぬ不完全なものであると主張して改めて債務の本旨に従う完全な給付を請求することができなくなるわけのものではない。債権者が瑕疵の存在を認識した上でこれを履行として認容し債務者に対しいわゆる瑕疵担保責任を問うなどの事情が存すれば格別、然らざる限り、債権者は受領後もなお、取替ないし追完の方法による完全な給付の請求をなす権利を有し、従つてまた、その不完全な給付が債務者の責に帰すべき事由に基づくときは、債務不履行の一場合として、損害賠償請求権および契約解除権をも有するものと解すべきである。

本件においては、放送機械が不特定物として売買せられ、買主たるY会社は昭和27年4月頃から同年7月頃までこれを街頭宣伝放送事業に使用していたこと、その間雑音および音質不良を来す故障が生じ、X会社側の技師が数回修理したが完全には修復できなかつたこと、Y会社は昭和27年6月初めX会社に対し機械を持ち帰つて完全な修理をなすことを求めたがX会社はこれを放置し修理しなかつたので、Y会社は街頭放送のため別の機械を第三者から借り受け使用するの止むなきに至つたこと、Y会社は昭和27年10月23日本件売買契約解除の意思表示をしたことが、それぞれ確定されている。右確定事実によれば、Y会社は、一旦本件放送機械を受領はしたが、隠れた瑕疵あることが判明して後は給付を完全ならしめるようX会社に請求し続けていたものであつて瑕疵の存在を知りつつ本件機械の引渡を履行として認容したことはなかつたものであるから、不完全履行による契約の解除権を取得したものということができる。原判決はこの理に従うものであつて所論の違法はない。


売主の物品引渡に対する買主の受領拒絶権と受領義務・受領遅滞との関係


民法555条は,売主の代金支払い義務を明確に定めているが,物品の引渡を受領する義務,すなわち,物品受領義務があるかどうかについては,明らかにしていない。もっとも,民法413条は,債務者が履行の提供をしたにもかかわらず,債権者が受領を拒絶した時は,債務者は債務不履行責任を免れるとしている。この結果,わが国においては,売主が不完全な物の履行をした場合,買主は,履行を拒絶することができるし,そのことによって,債務不履行責任を問われることはないと解される。

これに対して,国際売買法といわれる国連国際動産売買条約(United Nations Convention on Contracts for the International Sales of Goods)においては,国際取引の性質を考慮して,買主は,期限前の履行と数量超過の場合を除いて,売主が引き渡した物品を受領する義務があることを明文で定めている(CISG53条)。買主は,物品を受領した後に,瑕疵がないかどうかを検査し(CISG38条,39条),瑕疵がある場合には,代金減額(CISG50条),不合理でない場合には修補請求(CISG46条),重大な契約違反がある場合に限って,代替品の引渡請求(CISG46条),契約の解除(CISG49条)を行なうことができることとされている。

民法 国連国際動産売買条約(CISG)
第555条〔売買〕
 売買ハ当事者ノ一方カ或財産権ヲ相手方ニ移転スルコトヲ約シ相手方カ之ニ其代金ヲ払フコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス
第30条【売主の一般的義務】
 売主は,契約及びこの条約の定めるところに従い物品を引き渡し,それに関する書類を交付し,かつ,物品上の権原を移転しなければならない
第53条【買主の一般的義務】
 買主は,契約及びこの条約の定めるところに従い,物品の代金を支払い,かつ,物品の引渡を受領しなければならない
第52条【期日前の履行,数量超過の引渡】
(1)売主が定められた期日前に物品を引き渡す場合には,買主は引渡を受領するか引渡の受領を拒絶するかの自由を有する。
(2)売主が契約で定めるよりも多量の物品を引き渡す場合には,買主は引渡を受領するか超過分の引渡の受領を拒絶するかの自由を有する。買主が,超過分の全部又は一部の引渡を受領した場合には,契約価格の割合でその対価を支払わなければならない。
第413条〔受領遅滞〕
 債権者カ債務ノ履行ヲ受クルコトヲ拒ミ又ハ之ヲ受クルコト能ハサルトキハ其債権者ハ履行ノ提供アリタル時ヨリ遅滞ノ責ニ任ス
第61条【救済方法一般】
 (1)買主が契約又はこの条約に定められた義務のいずれかを履行しない場合には,売主は次の救済を求めることができる。
  (a)第62条から第65条までに規定された権利を行使すること。
  (b)第74条から第77条までの規定に従い損害賠償を請求すること。
 (2)売主が損害賠償を請求する権利は,それ以外の救済を求める権利の行使によって失われることはない。
 (3)売主が契約違反に対する救済を求める場合に,裁判所又は仲裁機関は買主に猶予期間を与えてはならない。
第533条〔同時履行の抗弁権〕
 双務契約当事者ノ一方ハ相手方カ其債務ノ履行ヲ提供スルマテハ自己ノ債務ノ履行ヲ拒ムコトヲ得但相手方ノ債務カ弁済期ニ在ラサルトキハ此限ニ在ラス
第58条【支払の時期】
 (1)代金を他の一定期日に支払うことを要しない場合には,契約及びこの条約の定めるところに従い売主が物品又はその処分を支配する書類を買主の処分に委ねた時に,買主は代金を支払わなければならない。売主は,その支払を,物品又は書類の交付のための条件とすることができる。
 (2)契約が物品の運送を予定する場合には,売主は,代金の支払と引換えでなければ物品又はその処分を支配する書類を買主に交付してはならないとの条項を付して,物品を発送することができる。
 (3)買主は,物品を検査する機会を有するまでは,代金を支払うことを要しない。ただし,当事者間で合意された引渡又は支払の手続が,買主が検査の機会を持つことと両立する場合はこの限りでない。

CISGのように,売主の引渡があれば,期日前の履行の場合と数量過多の場合を除いて,必ず,引渡を受領しなければならず,その後に,買主の救済を考えれば済むというのは,国際取引の特殊性に由来するものであり,わが国の国内取引にもこのように解すべきであるというのは,行き過ぎであろう。

わが国の解釈としては,売主の引渡があったとしても,数量過多,数量不足の場合ばかりでなく,瑕疵が明らかな場合には,買主は,履行を拒絶し,債務の本旨に従った履行をするよう請求でき,その間は,代金の支払い義務について,同時履行の抗弁を主張できると解すべきであろう。

もっとも,売主にも,瑕疵の治癒権(追完権)を認め,売主には,状況に応じて,修補権,代替品の交付権が認められるべきである。

CISG第48条【売主による不履行の治癒】
 (1)第49条(買主の契約解除権)に服することを条件として,売主は,引渡期日後であっても,不合理な遅滞を招くことなく,かつ,買主に不合理な不便又は買主の前払い出費につき売主から償還を受けるについて買主に不安を生ぜしめずになし得る場合には,自己の費用によりその義務のあらゆる不履行を治癒することができる。ただし,この場合でも,買主はこの条約に定められた損害賠償を請求する権利は失わない。
 (2)売主が買主に対して履行を受け入れるか否かにつき問合わせをした場合において,買主が合理的な期間内にそれに応答しないときは,売主は,その問合わせの中で示した期間内に履行することができる。この期間中,買主は,売主による履行と両立し得ない救済を求めることができない。
 (3)一定の期間内に履行を行う旨の売主の通知は,買主にその選択を知らせるようにとの前項の下での問合わせを含むものと推定する。
 (4)(2)項又は(3)項の下での売主の問合わせ又は通知は,買主が受け取らない限りその効果を生じない。

売主の追完が適切になされた場合には,履行期の問題を除いて,債務の本旨に従った履行を受けることができるのであるから,遅延損害の賠償請求ができることは当然として,代金を支払わなければならない。

もしも,売主による瑕疵の治癒が適切になされない場合には,買主は,代金減額請求に代わる損害賠償を請求でき,契約目的を達することができないほどに瑕疵が重大な場合には,買主は,契約の解除をなしうると解すべきである。


買主の解除権


本件の最大のポイントは,買主は,契約の解除をなしうるかどうかであるが,この点に関しては,解除ができるという点で,すべての見解が一致している。問題は,本件のような種類物売買の場合に,目的物に瑕疵があった場合に,目的物の買主が契約を解除できる根拠(条文)であり,瑕疵担保責任の効果として解除が可能であるのか,債務不履行の一種としての不完全履行を根拠として解除ができるのかという問題である。

種類物に瑕疵がある場合,通説・判例は,不完全履行を根拠として契約を解除できるというのであるが,その根拠条文は何であろうか。民法の解除原因をCISGの統一要件である「重大な契約違反」がある場合と対比して検討することにしよう。

民法 CISG
履行遅滞 第541条〔履行遅滞による解除権〕
 当事者ノ一方カ其債務ヲ履行セサルトキハ相手方ハ相当ノ期間ヲ定メテ其履行ヲ催告シ若シ其期間内ニ履行ナキトキハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
第49条【買主による契約解除権の発生・消滅要件】
 (1)買主は、次のいずれかの場合には、契約を解除することができる。
  (a)契約またはこの条約に基づく売主の義務のいずれかの不履行が、重大な契約違反を構成する場合。
  (b)引渡の不履行の場合であって、第47条第1項の規定に基づき買主が定めた付加期間内に、売主が、商品を引き渡さない場合、またはこの期間内に引渡をしないことを売主が表明した場合。
 (2)しかしながら、売主が商品をすでに引き渡している場合においては、次に掲げる時期に契約を解除しないときは、買主は解除権を失う。
  (a)引渡の遅滞を理由とする場合は、買主が引渡のなされたことを知った時以後の合理的期間内。
  (b)引渡の遅滞以外の違反を理由とする場合は、次に掲げるいずれかの時以後の合理的期間内。
   (i)買主がその違反を知りまたは知るべきであった時。
   (ii)第47条第1項の規定に基づき買主が定めた付加期間が経過した時、またはその付加期間以内に義務の履行をしないことを売主が表明した時。
   (iii)第48条第2項の規定に基づき売主が示した付加期間が経過した時、または買主が履行を受け入れないことを表明した時。

第47条【履行のための付加期間の付与】
(1)買主は,売主による義務の履行のために,合理的な長さの付加期間を定めることができる。
(2)その期間内に履行しない旨の通知を売主から受け取った場合でない限り,買主はその期間中契約違反についてのいかなる救済をも求めることができない。ただし,これにより買主は履行の遅滞について損害賠償を請求する権利を失うことはない。

第25条【「重大な契約違反」の定義】
 当事者の一方による契約違反は,その契約の下で相手方が期待するのが当然であったものを実質的に奪うような不都合な結果をもたらす場合には,重大なものとする。ただし,違反をした当事者がかような結果を予見せず,かつ,同じ状況の下でその者と同じ部類に属する合理的な者もかかる結果を予見しなかったであろう場合を除く。
第542条〔定期行為の解除権〕
 契約ノ性質又ハ当事者ノ意思表示ニ依リ一定ノ日時又ハ一定ノ期間内ニ履行ヲ為スニ非サレハ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ於テ当事者ノ一方カ履行ヲ為サスシテ其時期ヲ経過シタルトキハ相手方ハ前条ノ催告ヲ為サスシテ直チニ其契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
履行不能 第543条〔履行不能による解除権〕
 履行ノ全部又ハ一部カ債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ不能ト為リタルトキハ債権者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
不完全履行 無償契約 贈与 第551条〔贈与者の担保責任〕
 (1)贈与者ハ贈与ノ目的タル物又ハ権利ノ瑕疵又ハ欠缺ニ付キ其責ニ任セス但贈与者カ其瑕疵又ハ欠缺ヲ知リテ之ヲ受贈者ニ告ケサリシトキハ此限ニ在ラス
有償契約 売買 第570条〔瑕疵担保責任〕
 売買ノ目的物ニ隠レタル瑕疵アリタルトキハ第566条〔用益的権利・留置権・質権がある場合の担保責任〕ノ規定ヲ準用ス但強制競売ノ場合ハ此限ニ在ラス
第566条〔用益的権利・留置権・質権がある場合の担保責任〕
 (1)売買ノ目的物カ地上権,永小作権,地役権,留置権又ハ質権ノ目的タル場合ニ於テ買主カ之ヲ知ラサリシトキハ之カ為メニ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ限リ買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得其他ノ場合ニ於テハ損害賠償ノ請求ノミヲ為スコトヲ得
 (2)前項ノ規定ハ売買ノ目的タル不動産ノ為メニ存セリト称セシ地役権カ存セサリシトキ及ヒ其不動産ニ付キ登記シタル賃貸借アリタル場合ニ之ヲ準用ス
 (3)前二項ノ場合ニ於テ契約ノ解除又ハ損害賠償ノ請求ハ買主カ事実ヲ知リタル時ヨリ1年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス
請負 第632条〔請負〕
 請負ハ当事者ノ一方カ或仕事ヲ完成スルコトヲ約シ相手方カ其仕事ノ結果ニ対シテ之ニ報酬ヲ与フルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス
第634条〔請負人の担保責任〕
 (1) 仕事ノ目的物ニ瑕疵アルトキハ注文者ハ請負人ニ対シ相当ノ期限ヲ定メテ其瑕疵ノ修補ヲ請求スルコトヲ得但瑕疵カ重要ナラサル場合ニ於テ其修補カ過分ノ費用ヲ要スルトキハ此限ニ在ラス
 (2)注文者ハ瑕疵ノ修補ニ代ヘ又ハ其修補ト共ニ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ第533条〔同時履行の抗弁権〕ノ規定ヲ準用ス
第635条〔同前〕
 仕事ノ目的物ニ瑕疵アリテ之カ為メニ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサルトキハ注文者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但建物其他土地ノ工作物ニ付テハ此限ニ在ラス

物品に瑕疵がある場合に,それを不完全履行であると位置付けること自体は問題ではないが,不完全履行に基づく解除権について,わが国の民法は,債権総則に規定を置いていないため,その根拠条文について,履行遅滞の規定を準用するのか,一部履行不能であるとして,履行不能の場合の解除の規定を準用するのかという困難な問題が発生している。

しかし,わが国の民法が,不完全履行について,損害賠償に関しては,民法415条において,明文で規定しているのに対して,解除に関しては明文の規定を置いていないのは,それなりの理由がある。


買主の代金減額請求権


売主の代金減額請求に関して,民法は,権利の一部が他人に属する場合(563条)と数量不足・物の一部滅失の場合(民法565条)の場合に限って買主の代金減額請求を認めている。したがって,文理上は,物品に瑕疵がある場合には,買主は代金減額請求権を行使できない。買主は,買主に対して損害賠償を請求することを通じて,実質的な代金減額を実現する可能性が残されているに過ぎない。

これに対して,CISGは,広く,売主の代金減額請求を認めている(CISG50条)。

民法 CISG
第563条〔権利の一部が他人に属する場合の担保責任〕
 (1)売買ノ目的タル権利ノ一部カ他人ニ属スルニ因リ売主カ之ヲ買主ニ移転スルコト能ハサルトキハ買主ハ其足ラサル部分ノ割合ニ応シテ代金ノ減額ヲ請求スルコトヲ得
 (2)前項ノ場合ニ於テ残存スル部分ノミナレハ買主カ之ヲ買受ケサルヘカリシトキハ善意ノ買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
 (3)代金減額ノ請求又ハ契約ノ解除ハ善意ノ買主カ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ妨ケス
第50条【代金の減額】
 物品が契約に適合していない場合には,代金が既に支払われていると否とにかかわらず,現実に引き渡された物品の引渡の際の価値が契約に適合する物品ならばその時に有していたであろう価値に対する割合に応じて,買主は代金を減額することができる。
 ただし,売主が第37条又は第48条に従ってその義務の不履行を治癒した場合や,それらの規定5従った売主による履行の受け入れを買主が拒絶した場合には,買主は代金を減額することができない。
第565条〔数量不足・物の一部滅失の場合の担保責任〕
 数量ヲ指示シテ売買シタル物カ不足ナル場合及ヒ物ノ一部カ契約ノ当時既ニ滅失シタル場合ニ於テ買主カ其不足又ハ滅失ヲ知ラサリシトキハ前二条ノ規定ヲ準用ス

そこで,代金減額と損害賠償との差であるが,権利の一部が他人に属している場合,および,数量不足・物の一部滅失の場合には,代金減額の根拠が明白であり,計算も容易である。しかし,物に瑕疵がある場合には,減額の根拠と計算方法が明らかではない。その点を考慮して,民法は,減額を巡るトラブルを回避するため,物品に瑕疵がある場合の買主の減額請求を規定せず,買主が損害額の証明を行ない得る限度で損害賠償を認めたものと思われる。

しかし,CISGが代金減額請求として明らかにしている条文においても,「現実に引き渡された物品の引渡の際の価値が契約に適合する物品ならばその時に有していたであろう価値に対する割合に応じて,買主は代金を減額することができる。」と規定されているのであり,代金減額請求は,証明の問題においても,損害賠償請求の場合と何ら変わるところはないと思われる。

わが国の解釈としても,代金減額請求とは,「現実に引き渡された物品の引渡の際の価値が契約に適合する物品ならばその時に有していたであろう価値に対する割合に応じて,買主は代金を減額することができる」ことであると解し,これは,瑕疵担保責任に規定されている売主の損害賠償責任(無過失責任)の追及を通じて,実現可能であると解することでよいと思われる。


買主の特定履行請求権(代替物請求権・修補請求権)


CISG第46条【特定履行,代替品引渡又は修理の要求】
 (1)買主は,売主に対してその義務の履行を要求することができる。ただし,買主がこの要求と両立し得ない救済を求めている場合はこの限りではない。
 (2)物品が契約に適合していない場合には,買主は代替品の引渡を要求することができる。ただし,その不適合が重大な契約違反を構成し,かつ,その要求が,第39条の下での通知の際又はその後合理的な期間内になされたときに限る。
 (3)物品が契約に適合していない場合において,全ての状況から見て不合理でないときは,買主は売主に対してその不適合を修理によって治癒することを要求できる。修理の要求は,第39条の下での通知の際又はその後合理的な期間内になされなければならない。


買主の損害賠償請求権


民法 CISG
第415条〔債務不履行〕
 債務者カ其債務ノ本旨ニ従ヒタル履行ヲ為ササルトキハ債権者ハ其損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキ亦同シ
第30条【売主の一般的義務】
 売主は,契約及びこの条約の定めるところに従い物品を引き渡し,それに関する書類を交付し,かつ,物品上の権原を移転しなければならない
第413条〔受領遅滞〕
 債権者カ債務ノ履行ヲ受クルコトヲ拒ミ又ハ之ヲ受クルコト能ハサルトキハ其債権者ハ履行ノ提供アリタル時ヨリ遅滞ノ責ニ任ス
第53条【買主の一般的義務】
 買主は,契約及びこの条約の定めるところに従い,物品の代金を支払い,かつ,物品の引渡を受領しなければならない
第416条〔損害賠償の範囲・相当因果関係〕
 (1)損害賠償ノ請求ハ債務ノ不履行ニ因リテ通常生スヘキ損害ノ賠償ヲ為サシムルヲ以テ其目的トス
 (2)特別ノ事情ニ因リテ生シタル損害ト雖モ当事者カ其事情ヲ予見シ又ハ予見スルコトヲ得ヘカリシトキハ債権者ハ其賠償ヲ請求スルコトヲ得
第74条【損害賠償の範囲についての一般原則】
 当事者の一方の契約違反に対する損害賠償は,得べかりし利益の喪失も含め,その違反の結果相手方が被った損失に等しい額とする。この損害賠償は,違反をした当事者が契約締結時に知り又は知るべきであった事実及び事項に照らし,契約違反から生じ得る結果として契約締結時に予見し又は予見すべきであった損失を超え得ないものとする。