03ObjectOfObligation
16/20 民法現代語化(2004年)における目的と目的物の区別と修正(4/4)

【テロップ】
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【ノート】
■債権の「目的」と「目的物」の条文上の誤りが修正された最後の条文は,民法422条です。この条文の修正が,実は,誤りだったというのが,私の結論です。 ■民法のように,基本的で,かつ,最も重要な法典の条文に,今なお誤りがあるというのは,本当でしょうか? ■しかし,よく考えて見ましょう。現代語化される前の民法の条文に誤りがあり,それが修正されたことは,紛れもない事実です。そうだとすれば,今回の修正においても,再度,誤りが生じるという可能性もありうるのではないでしょうか? ■以上のことを頭に入れて,民法422条の旧条文と,現行条文とを詳しく比較検討をしてみましょう。 ■最高難度の「まちがい▲さがし」の始まりです。 民法422条(旧条文)■「債権者が損害賠償としてその債権の目的たるもの又は権利の価額の全部を受けたるときは,債務者は,そのモノ又は権利につき,当然債権者に代位す。」 この旧条文は,現代語化によって,以下のように修正されています。 民法422条(損害賠償による代位)■債権者が,損害賠償として,その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは,債務者は,その物又は権利について当然に債権者に代位する。」 ■ここで検討する必要があるのは,次の3点です。 ■第1は,民法422条の▲どこが修正されたのか?という問題です。 ■第2は,なぜ,修正されたのか?という問題です。 ■第3は,修正された条文において,修正された結果,「債権の目的」は,条文の趣旨に合致しているか?という問題です。 ■第1点は,単なる訂正ではなく,「支払」という用語の追加です。 第2点は,「誤りを正すのに,「目的物」と訂正せずに,「目的」とした上で「支払」を追加した理由は何か?」という問題です。 ■第3点は,「モノ,又は,権利の価額の全部」というのは,債権の目的か?それとも「目的物」か?という問題でもあります。 ■常識的に考えれば,損害賠償としての「全部」とは,民法417条によれば,金銭賠償となるので,金銭です。 ■金銭は有体物なので,債権の「目的」ではなく,「目的物」と修正すればよいということになります。 ■ところが,民法の現代語化によると,「債権の目的」を修正するのではなく,「債権の目的」を維持したまま,損害賠償としての「全部」を,損害賠償の「全部の支払」へと修正しています。 ■頭のよいヒトなら,「目的たる物,又は,権利」とあり,権利は有体物ではないので,目的物とは修正せず,「目的」を維持したまま,「支払」を追加して,誤りを修正したのだと考えるかもしれません。 ■民法の現代語化の立法者も,わが国の多くの学者も,このように考え,現代語化による修正は正しいと考えています。 ■しかし,そのように修正した場合,条文の趣旨は,損なわれてしまわないでしょうか。 ■この条文における「債権の目的」は,何でしょうか? ■この条文の趣旨とは何かを考えて見ましょう。 ■債権の「目的」を維持して,「支払」を追加することで,問題は解決されているのでしょうか? 例えば,債務者が預かっていたものを盗まれたり,滅失したり,損傷したりして,債務者が債権者に対して全額の損害賠償をした場合のことを考えて見ましょう。 ■全額の損害賠償をした債務者は,お金を払ってそのモノを買い取った場合と同じように,債権者が有している権利,すなわち,所有権とか,泥棒(第三者)に対する返還請求権とか,損害賠償請求権をすべて承継取得するというのが,民法422条の趣旨です。 ■そうすると,民法422条に出てくる「債権の目的」とは,預かったモノ,又は,権利を寄託者に「返還すること」であって,現代語化による「支払を受けること」では,決してないことがわかります。 ■「目的物」とすると,「権利という無体物が含まれるのでヤバい」から,とりあえず,「目的」を維持し,「支払」を付け加えておけば,何とかつじつまがあうと考えるのは,安易に過ぎるのです。 ■では,どうするのが正しいのでしょうか。それが,わが国の学者も誰も解くことができないほどの重大で,かつ,民法の根幹にかかわる重大問題なのです。