03ObjectOfObligation
8/20 民法85条の立法理由(広中俊雄編著『民法修正案〔前三編〕の理由書』有斐閣)

【テロップ】
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【ノート】
ボワソナードが起草した旧民法▲財産編第6条は,「モノにユウタイなるあり,無体なるあり。」と規定していました。現在から考えれば,無体財産〔すなわち知的財産〕を含む,優れた規定だったのですが,なぜ,このような優れた規定が削除され,現行民法85条のような,「モノとは有体物をいう」という▲限定された条文になってしまったのでしょうか?■ そこで,現行民法の立法理由書(広中俊雄編著『民法修正案〔ぜん三編〕の理由書』▲有斐閣)を読んでみることにしましょう。 ■現行民法の立法者たちが,なぜ,旧民法財産編第6条を削除してしまったのか,その理由が,以下のように明らかになります。■ 〔旧民法〕同編〔財産編〕第6条は,モノの第一の区別として有体物と無体物との区別を掲げ,かつ,これが定義を下したり。 然れども,これまた,無益の条文たるのみならず,その定義中には,おうおう,穏当ならざる点なしとせず。殊に無体物をもって物権,人権〔すなわち,債権〕その他の権利をいうものとし,常に物権,人権〔すなわち,債権〕の目的ぶつたるものとしたるは,はなはだ,その当を得ず。 その結果として,債権の所有権なるものをみとむるに至りては(〔財産取得編24条,68条),実に物権の何物たるを知ること▲あたわざらしむ。 このごとくんば,いわゆる人権〔すなわち,債権〕なるものは,常に物権の目的物に過ぎずして,結局,財産編第1条及び第2条の原則とどうちゃく〔矛盾〕するに至らん。 本案は,さにかかぐるごとく,法律上,物とは単に有体物のみをさすことに定めたるにより,右の条文〔財産編第6条〕はこれを削除するを至当と認めたり。■  以上の立法理由を読んで,皆さんはその理由がよく理解できたでしょうか?■  現行民法の立法者たちが,旧民法▲財産編第6条を削除したのは,以下のような「恐れ」からだということがわかります。  すなわち,もしも,モノの定義に無体物である権利を含めてしまうと,「債権の上の所有権」▲という概念が正当化され,債権も所有権で説明できることになります。なぜなら,物権の対象はモノですが,それに無体物である債権が含まれることになると,債権も物権で説明できるということになってしまうからです。  そうなると,債権も物権の対象となってしまうため,物権と債権とを峻別しようとする,民法の体系が破壊されてしまいます。「これでは困る。」というのが,現行民法の起草者の恐れだったのです。