04TarCase
23/35 タール事件の法的分析
【テロップ】
※各テロップ文字をクリックすると該当の場所がピンポイントで閲覧できます。
【ノート】
タール事件における差し戻し後の高裁判決は,売主にキセキ事由がないと判断したとたんに,「本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却を免れない」と断定して,思考を停止しています。 ■しかし,債務者にキセキ事由がない場合には,危険負担の問題が待ち構えているのです。 ■そこで,ここでは,契約解除と危険負担との関係について,図を使って理解を深めることにしましょう。 第1に,債務者である売主にキセキ事由がある場合には, 民法543条が適用され,債権者である買主は契約を解除することができます。 ■タール事件の原審判決はこの立場をとっていました。 ■これに対して,差し戻し後の高裁判決は,債務者である売主に過失がないとして,債権者である買主の解除権を否定しました。 ■事実認定によっては,そのような判断はありうるのですが,債務者の過失なしに履行不能となった場合には,つぎに,危険負担の問題に移らなければなりません。 ■差し戻し後の高裁判決が,危険負担の問題を無視して,「本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却を免れない。」としたのは,理論的には,致命的な誤りです。■ 債務者(売主)に過失がない場合には,問題は,二つに分岐します。 ■第1は,債務者である売主ばかりでなく,債権者である買主にも過失がない場合です。 ■第2は,債権者である買主だけにキセキ事由がある場合です。 ■第1に,債務者にも,また,債権者にも過失がない場合には, 危険負担の債務者主義の原則規定である民法536条1項が適用され,反対債権である代金債権は消滅します。 ■その結果,債権者である買主は,代金の支払をまぬかれますので,買主が勝訴します。 ■本件では,どの裁判所も,この判断を下していませんが,理論的には,実は,これが,原則です。 ■民法(債権関係)の改正がなされた場合には,履行が不能になった場合には,契約目的が達成できないので,売主にキセキ事由がない場合でも,買主は契約を解除することが認められることになります。 ■つまり,民法(債権関係)の改正後に本件が生じた場合には,つぎの第2の場合を除いて,買主が勝訴します。 第2に,債務者には,キセキ事由がなく,債権者だけにキセキ事由がある場合,例えば,債権者である買主に受領遅滞がある場合には, 民法536条2項が適用され,債権者である買主は,目的物が滅失したにもかかわらず,反対債権が残るため,買主は,代金債権を履行しなければなりません。 ■つまり,最高裁の調査官解説が明らかにしていたように,この場合には,買主が敗訴します。 ■以上の考察をまとめることにしましょう。 ■漁網用タール事件において問題とすべきなのは,以下の2点です。 ■本判決の第1の問題点は,「制限種類債務」という用語を用いるだけで,種類債務でも特定物債務でも問題となるべき▲品質▲の問題を無視することができるとし,債務者は,種類債務の場合に要求される厳格な調達義務も,特定物債権に要求される善管注意義務も免れ,その結果,キセキ事由がないと判断することができるのかどうかです。 本判決の第2の問題点は,履行不能が生じた本件において,債務者にキセキ事由がないとすれば,危険負担の問題へと移行するはずであり,債権者にキセキ事由があるかどうかを判断しなければならないにもかかわらず,その判断をしないまま,債権者敗訴の判決を下している点にあります。 民法(債権関係)の改正がなされた場合には,本件のような,買主の受領期間中に目的物の滅失が生じた事件については,反対の結論が出ることが予想されますので,この事件を契機として,契約解除と危険負担との関係について,理解を深めることが大切です。