04TarCase
28/35 危険負担の解除への吸収不動産売買契約の実務→契約解除
【テロップ】
※各テロップ文字をクリックすると該当の場所がピンポイントで閲覧できます。
【ノート】
売買契約において,契約締結後,売買目的物が,売主の過失なしに落雷による火災等で滅失した場合,目的物に関する債権者である買主は,目的物を受け取ることができないのに,売買代金だけは支払わなければならないのでしょうか? ■現行民法534条によれば,物の引渡しについての債権者である買主は,そのような場合でも,売買代金を支払わなければならないと規定しています。 ■この規定は,売買契約の締結によって,通常,所有権は買主に移転します(民法176条)。したがって,目的物の履行不能の危険は,買主が負担すべきであるという理論に基づいています。 ■しかし,実務上は,所有権が移転するのは,目的物が引き渡されたり,代金が支払われたときであり,目的物が引き渡されないのに,買主が代金を支払わなければならないというのは,実務では通用しません。 そこで,不動産売買契約書の雛形では,民法534条とは反対に,目的物が売主の過失なしに滅失・損傷した場合には,売主が危険を負担するとしています。 ■不動産売買契約書の雛形の第9条(危険負担)を見てみましょう。 第1項■本契約締結後,本件土地建物の引渡しの完了前に,売主又は買主のいずれかの故意又は過失によらないで本件土地建物の全部又は一部が火災,流出,陥没その他により滅失又は毀損したとき,又は公用徴収,建築制限,道路編入等の負担が課せられたときは, その損失は全て売主の負担とし,買主は売主に対して売買代金の減額又は原状回復のために生ずる損害の賠償を請求することができるものとする。 第2項■前項に定める滅失又は毀損により買主が本契約締結の目的が達することができないときは, 買主はその旨を売主に書面でもって通告することにより本契約を解除することができるものとし,この場合,売主はすでに受取った手付金を全額買主に返還するものとする。 ■このように,実務では,買主が保護されていますが,理論上も,債務が履行不能になった場合,契約目的が永久に達成されないのですから,債務者にキセキ事由があるか,ないかを問わず,契約の解除を認めるべきです。 ■しかし,さきに述べたように,わが国の民法は,その場合でも,債務者にキセキ事由があるかどうかを問題とし,債務者にキセキ事由がない場合には,契約解除を認めない代わりに,危険負担の問題が生じるとし,解除を認めませんでした。 ■もっとも,危険負担については,対価危険は,原則として,債務者が負うべきであるとして(民法536条1項),結果的には,解除を認めたのと同じ結果を導いていました(危険負担の債務者主義)。 ■ただし,この債務者主義には,さきに述べたように,重大な例外があり,売買のように物権変動をもたらす契約については,債権者が対価危険を負うという条文(民法534条)があり,売買目的物の引渡しが履行不能となった場合でも,買主は,代金全額を支払わなければならないことになっていました(危険負担の債権者主義)。 ■今回の民法(債権関係)改正によって,民法534条は削除されることになりましたので,改正後は,実務の取り扱いと,民法理論とが整合性を保たれるようになります。