04TarCase
32/35 危険負担
【テロップ】
※各テロップ文字をクリックすると該当の場所がピンポイントで閲覧できます。
【ノート】
■先に述べたように,タール事件においては,差し戻し後の高裁判決は,債務者にキセキ事由がないことを認定して,解除はできないとし,危険負担の問題を無視しました。 ■しかし,タール事件は,売買契約締結後に,売買目的物が滅失したため,履行不能になった事件であり,まさに,危険負担の問題として処理すべき問題でした。 そこで,2013年3月31日に国会に提出された,民法の一部を改正する法案では,危険負担はどのように規定されることになったのか,(新)民法▲第536条(債務者の危険負担等)を紹介しておきましょう。 (新)民法▲第536条▲第1項■当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことができる。 (新)民法▲第536条▲第2項■債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことができない。 この場合において,債務者は,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを債権者に償還しなければならない。 ■この規定は,危険負担の法理として問題のあった現行民法534条と535条を削除した上で,危険負担の債務者主義を原則とし,債権者にキセキ事由がある場合に限って,債権者主義を採用しており,危険負担の法理として,適切であると思います。 ■しかし,タール事件に当てはめてみればわかるように,この(新)民法▲第536条▲第2項と,先に紹介した(新)民法▲第413条の2▲第2項を組み合わせると,非常に危険な条文となります。 ■なぜなら,タール事件の場合のように,債権者である買主が,履行期間中に品質の不適合に基づいて,履行を拒絶している場合において,履行不能が生じた場合であっても,(新)民法▲第413条の2▲第2項によって,債権者にキセキ事由があると▲みなされてしまうため,債権者は,代金支払いをしなければならなくなってしまいます。 ■このように,一見,優れた条文のように見えても,具体的な事例に基づいて,今回の民法改正案を検討してみると,具体的な妥当性を確保できない民法改正案となっていることがわかります。 ■具体例に当てはめてみれば,今回の民法改正案が,全体として,債権者主義の適用範囲が非常に広く,現行民法を改善したことにはなっていないと,私は考えています。