04TarCase
9/35 講義後のリアクションペーパーの例

【テロップ】
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【ノート】
講義後に,以下のようなリアクションペーパーをいただきました。とても優れたものなので,紹介します。 学生:タール事件はもう少し時間をかけないと飲み込めそうにないです。 ■講師:事実関係をもう少し詳しく説明する必要があるようなので,事実の経緯を追加しておきました。 学生:〔タールの〕管理についてですが,これは「自己のものと同一」でいいのではないでしょうか? たしかに売買することは約していますが,実際に売主がお金を手にするのは買主が来るときになっているので,今回のように買主が来ないというリスクがあるのに善管注意義務まですることはないと思います。 ■講師:ヒトのいうことを鵜呑みにするのではなく,自分の考えを率直に述べてくれてありがとう。しかも,とても鋭い指摘で,感心しました。 ■2015年3月31日に国会に提出された,民法の一部を改正する法案では,民法413条が改正され,特定物債権に関して,債権者が受領遅滞に陥っている場合には,債務者は,善管注意義務を負うのではなく,「債務者は,履行の提供をした時からその引渡しをするまで,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,その物を保存すれば足りる。」と規定しています。 ■もっとも,タール事件の場合には,履行期間が1年間(すなわち,契約成立の昭和21年2月~昭和22年1月末まで)であり,その期限が経過する前(すなわち,昭和21年11月~12月)に,タールが処分され,滅失しています。 ■したがって,たとえ,この事件が民法改正後に生じたとしても,履行期限内に目的物が滅失した場合に,それが債権者の受領遅滞によるものだとはいえないような気がします。 学生:つまり,売買するのはその時々だから,この「タールを保管する」という寄託には,お金はからまない,よって無償のときの管理義務の準用でも問題はないのではないかと思いました。(M.S) ■講師:売買の場合,保管費用も値段に組み込むことができますので,無償の寄託とは性質が異なります。 ■売主である債務者の注意義務のレベルが「自己の財産に対するのと同一の注意義務」へと低下したのは,無償だからではなく,債権者が受領遅滞に陥っているからです。 ■しかし,本件のように,債権者の引き取り期間の経過前に,目的物が滅失した場合には,受領遅滞とはいえないと考えられるため,売主は,約束した履行期間である1年間は,善管注意義務を負うと考えるべきだとおもいます。 ■私の考え方は以上ですが,民法(債権関係)改正案をよく読んで,再度考えて見ましょう。