07NonPerformance
15/35 事実的因果関係の破綻の解消? →Q5

【テロップ】
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【ノート】
複数原因がある場合には,事実的因果関係の判断基準としての「あれなければ,これなし」は使えないことが明らかになりました。 ■事実的因果関係の「あれなければ,これなし」を破綻なしに利用するためには,複数原因を一つにまとめるほか方法はありません。 ■そこで,通説は,複数原因を一つにまとめるために,「関連共同性」という概念を採用して,破綻したはずの「あれなければ,これなし」の判断基準を維持することにしています。■ すなわち,Y1,Y2,Y3のそれぞれが 「関連共同」して,一つの結果を生じさせたときは, 事実的因果関係は,関連共同した「一つの共同行為」と「一つの結果」との間に「あれなければ,これなし」の関係があるかどうかで判断すればよい,と考えたのです。 そして,通説は,共同行為と結果との間に事実的な因果関係があれば,Y1,Y2,Y3は,結果に対して「不真正連帯債務」を負うのであるから,被害者救済の観点からは,問題を生じないと考えています。 ■この結果は,一見正しいように思われます。 ■しかし,このような考え方には,二つの落とし穴が潜んでいます。 ■第1は,個人責任を原則とする民法に,団体責任を取り入れる場合には,安易な全体主義に陥らないために,慎重な判断をすることが必要です。 ■第2は,Y1,Y2,Y3の責任を連帯責任とするためには,責任の根拠として,「関連共同性」という厳しい要件を課すだけでは足りません。連帯責任を負わせた後に,Y1,Y2,Y3のそれぞれの寄与分に応じた求償関係を確立し,安易な全体主義から脱する必要があるのです。 ■ところが,「不真正連帯債務」は,原則として求償を生じさせない法律関係であり,負担部分という重要な概念を無視するものであるため,たとえば,加害者のひとりであるY1が,被害者に損害賠償額の全額を支払った場合に,Y2,Y3に対して,いくら求償できるのかを明確にすることができません。 ■加害者間の衡平を維持し,求償関係を明らかにするためには,Y1,Y2,Y3のそれぞれの行為を,共同行為として一つにまとめるのではなく,むしろ,一つの結果に対して,Y1,Y2,Y3のそれぞれがどれだけ寄与したのかを考慮し,それに応じた負担部分を明確にし,それに応じた求償関係を樹立する必要があるのです。 通説が因果関係を「オール・オア・ナッシング」として考えるのとは異なり,因果関係の理論に定量的な分析方法を導入し, 複数原因が一つの結果の発生に,どの程度の寄与を果たしているかを考慮するのが,「部分的因果関係」の理論です。 ■部分的因果関係の理論は,徹底した個人主義を基盤として,被害者救済を実現するために,複数原因者に一時的な連帯責任を課すという理論です。 Y1,Y2,Y3の一つの結果に対する因果関係の寄与割合を最初から考慮した部分的因果関係によって,一時的に負担する連帯債務も,その負担部分が明確となっており,ひとりが損害賠償額の全額を支払った場合の求償関係も,負担部分によって明確に決まります。 通説の「不真正連帯債務」という概念が,負担部分を明確にしておらず,安易な全体主義に流れているのとは,根本的に異なります。 ■そもそも,事実的因果関係における「あれなければ,これなし」の判断基準は,論理学的には,「あれあれば,これあり」という因果関係の正しい命題とは異なる命題であり,複数原因の場合には破綻することが判明した段階で,通説は,本来の「あれあれば,これあり」へと立ち返り,かつ,複数原因の因果関係への寄与を取り入れて全面的割合を計算できるように,定量的な分析ができるベイズの統計学等の科学的な知見を取り入れるという改革をなすべきだったのです。 ■しかし,何事においても,全面的な改革をするのは難しいものです。破綻を避けるための小手先の改革でその場を取り繕う方法が採用されることが多いのも事実です。 ■通説も,根本的な改革を怠り,お決まりの▲安易な修正でつじつま合わせに終始しており,根本的な改革を行うべきでしょう。