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16/35 民法416条の意味(通説)→Q5

【テロップ】
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【ノート】
事実的因果関係と相当因果関係の違いを明確に規定しているのが,民法416条です。 ■民法416条(損害賠償の範囲)第1項は,以下のように規定しています。 ■民法416条▲第1項■債務の不履行に対する損害賠償の請求は,これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。■ この規定は,ある債務不履行があれば,非常に高い確率で,すなわち,必然的,または,当然に,損害を生じるという場合に,債務者にその損害を賠償する責任を負わせています。 ■これを通常事情による通常損害についての賠償責任といいます。 ■これに対して,特別事情によって通常の損害が生じた場合について規定しているのが,民法416条第2項です。 ■民法416条▲第2項■特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見し,又は予見することができたときは,債権者は,その賠償を請求することができる。 この規定は,第1項のように,債務不履行があれば,通常生じる損害ではなく,特別の事情によって損害が生じた場合であっても,債務不履行があれば,そのような損害が発生する確率を高めている場合には,債務者はその損害を賠償する責任を負うというものです。 ■さきに説明したように,相当因果関係は,「原因事象が,結果事象に対して,その確率を高めたかどうか?」によって判断するものですから,民法416条は,まさに,相当因果関係を示すものとなっています。 ■その結果として,債務不履行が,損害の発生の確率を高めない場合,例えば,さきに述べたように,父親の反対を押し切って母が子を産んだら,その子が殺人犯になったとか,御者が右折すべきところを左折したために,落雷にあって乗客が死亡したというように,債務不履行が,損害の発生の確率を高めるものでない場合には,相当因果関係がないので,これを特別損害といって,債務者のその損害を賠償する責任はありません。 ■ところで,わが国の学説は,従来は,民法416条を相当因果関係を規定したものとしていましたが,平井教授の「事実的因果関係」は,基準として正しいが,相当因果関係については,これを否定し,保護範囲によって定めるべきである」との「保護範囲」説に傾いています。 ■しかし,これまで述べてきたように,誤りに陥っているのは,事実的因果関係の判断基準の方であり,確率論を取り込んだ相当因果関係説は正しいのであり,むしろ,相当性をさらに定量的に推し進め,部分的因果関係の理論へと押し進めるべきである,と私は考えています。