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6/35 債務不履行の三分類(通説)→Q5

【テロップ】
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【ノート】
「債務不履行」とは何でしょうか? ■債権総論で最も重要で,かつ,裁判所による適用頻度が最も高い,民法415条を読んでみましょう。最近30年間の適用頻度によれば,債務不履行に関する415条の適用頻度は,民法の全条文中で,民法709条,715条についで,第3位です。 民法は,債務不履行とは,「債務の本旨に従った履行をしないこと」であると規定しています。 ■債務不履行を一言で表現したすばらしい定義です。これを債務不履行の一元説といいます。 ■ところが,わが国の学説は,この一元説では具体性が乏しいとして,ドイツ民法の分類に従って,債務不履行を,三つに分類しました。 第1は,履行遅滞です。履行期に履行がないことです。 第2は,履行不能です。履行が物理的,または,経済的に永久にできないことです。 第3は,不完全履行です。債務の履行はあるが,それが不完全なこと,すなわち,瑕疵があることです。 ■この三分類は,確かに便利な分類です。 ■のちに述べる,解除原因に関する契約総則,すなわち,民法541条から543条までの規定と平仄が合っているからです。 ■民法541条と542条とを見てみましょう。履行遅滞による解除の規定です。 ■民法543条を見てみましょう。履行不能による解除の規定です。 ■それでは,不完全履行に関する解除の規定はどこにあるのでしょうか? ■残念ながら,債権総則には,不完全履行に関する規定がありません。 ■不完全履行による解除の条文は,どこにあるのでしょうか? なぜ,契約総論の解除の規定の箇所にないのでしょうか? ■その理由は,不完全履行の場合の民法の態度が,無償契約(例えば,贈与,使用貸借)と有償契約(例えば,売買,請負契約)とで,対応を区別しているため,すべての契約に共通する契約総則には規定を置かずに,契約各論に別々に,不完全履行(すなわち,瑕疵ある履行)に基づく解除の規定を置いているからです。 ■無償契約の贈与の場合には,目的物に不完全履行があっても,「タダ」なのですから,原則として,贈与者に対して担保責任を追及することはできません(民法551条,596条を参照してください)。 ■有償契約としての売買の場合には,目的物に瑕疵がある場合には,民法570条で準用される民法566条によって,買主は,目的物の瑕疵が契約目的を達成することができない場合に限って,契約を解除できます。ただし,目的物の瑕疵が軽微で契約目的が達成できる場合には,代金減額に相当する損害賠償の請求ができるにとどまります。 このように,債務不履行の三分類は,契約解除の要件を理解するのに便利な分類なのですが,三分類特有の問題点が生じています。 ■これに対して,二分類は,イエスかノーかで比較的明確に分類をすることができます。したがって,三分類も,大きな二分類の後に,その一つを二つに分類する場合には,あいまいさが解消されます。しかし,いちどきに三分類とする場合には,分類に重複や,反対に欠落が生じる場合が多いのです。 ■債務不履行の三分類も,この例に漏れず,さきに述べたように,履行遅滞と履行不能でチョウフクが生じており,反対に,「履行拒絶」をどこにも分類できないため,債務不履行の内容に欠落を生じさせています。 ■そこで,民法416条の一元説に立ち返って,チョウフクと漏れのない分類を創設することに挑戦してみましょう。