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10/19 債権者代位権の行使範囲民法改正法案(2015)

【テロップ】
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【ノート】
民法改正法案で新設された民法423条の2(代位行使の範囲)は,以下のように規定しています。■ 民法423条の2■債権者は,被代位権利を行使する場合において,被代位権利の目的が可分であるときは,自己の債権の額の限度においてのみ,被代位権利を行使することができる。 ■債権者代位権の行使の範囲は,債権者の債務者に対するアルファ債権(被保全権利),債務者の第三債務者に対するベータ債権(被代位権利)という二つの債権のうちの,どちらか小さい債権の額の範囲に限定されます。 ■たとえば,アルファ債権の額が100万円,ベータ債権の額が80万円の場合にも,アルファ債権の額が80万円で,ベータ債権の額が100万円の場合も,債権者は80万円の額の範囲で,被代位債権を行使できるに過ぎません。■ この条文は,以下の判例の法理を明文化したものです。  最高裁第三小法廷昭和44年6月24日判決 民事判例集23巻7号1079頁(民法判例百選Ⅱ〔第7版〕第12事件)は,以下のように述べていました。 債権者が債務者に対する金銭債権に基づいて債務者の第三債務者に対して有する金銭債権を代位行使する場合においては,債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の債権を行使しうると解すべきである。 ■つまり,民法改正法案423条の2▲(代位権の行使)は,従来の判例法理を明文化したものであることがわかると思います。 ■債権者代位権は,現行法では,わずか1か条しか規定がありません。 ■実務で広く使われている債権者代位権の条文がただ一つしかないのでは,その内容を理解することは困難であり,判例の蓄積による判例法理が,それを補ってきました。 ■その判例の蓄積によって,判例法理が明らかになりつつある現在において,その判例法理を民法の条文として明確にすることは,法を運用する法曹実務家にとっても,また,国民一般にとっても大きな意味があります。 ■アメリカ合衆国は,判例法の国ですが,膨大な判例の中から,事件に適合した判例を検索するのには高度な専門知識と膨大な労力と時間を要するため,判例の法理を明文化するというリステイトメントの作業がさまざまな分野で実行されています。 ■今回の民法(債権関係)改正は,その目的の一つが,「国民一般に分かりやすいものとする」ということだったのですから,条文が少ない割りに,判例の蓄積が大きく,判例の法理が明らかとなっている場合には,判例法理を明文化する,すなわち,Restate することは,大きな意義があるといえます。 ■この点で,今回の債権者代位権に関する民法改正案は,民法の条文番号を害することなく,423条の枝番号として改正案が示されており,次回に取り上げるサガイ行為取消権と同様,民法改正の目的である「民法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かりやすいものとする」という立法の目的が十分に果たされた,数少ない例外として,高く評価できると,私は考えています。