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8/46 詐害行為取消権の法的性質

【テロップ】
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【ノート】
サガイ行為取消権とは何でしょうか?■ 第1に,用語は,取消権となっていますが,サガイ行為取消権とは,実は,当事者によって法律行為自体を無効とする民法120条以下の取消権ではありません。 ■その理由は,サガイ行為を主張する債権者は,サガイ行為の当事者でも,代理人でも,承継人でもないため,民法120条の取消権者には,該当しないからです。 ■第2に,サガイ行為取消権は,小破産といわれているように,破産法第160条以下に規定されている,「否認権」と非常によく似ているという点に注目しなければなりません。 ■民法(債権関係)改正では,わずか3カ条しかなかったサガイ行為取消権の規定に,9条に及ぶ新設条文が追加され,全体で14カ条の規定になっていますが,その追加規定のほとんどが,破産法第160条以下の規定のパクリです。 サガイ行為取消権は,このように,破産法上の否認権と非常によく似ているのですが,サガイ行為取消権は,破産手続きに載せないことを前提にして,強制執行ですませるという制度ですから,その正確な意味は,破産法上の否認ではなく,民法の条文に根拠を求めなければなりません。■ 民法では,否認という言葉は,民法37条5項のみで用いられています。 ■民法37条5項を読んでみましょう。 ■民法37条5項は,「登記するまでは,第三者は,その法人の成立を否認することができる」と規定しています。その意味は,「登記するまでは,法人の成立を第三者に対抗できない」という意味です。 ■そこで結論です。サガイ行為取消権とは,サガイ行為,すなわち,債務者と受益者または転得者が,悪意で債務者の責任財産を逸失させることによって債権者を害する行為のことですが,そのサガイ行為自体は無効とせず(すなわち,サガイ行為は有効なまま,結果的に債務不履行となるため,受益者または転得者は,求償権を取得することになります),その責任財産の逸失させているという効果についてのみ,その効果を否認し,受益者または転得者の名義となっている財産に対して,第三者である債権者が強制執行を行うことを可能にする制度であるということになります。 ■民法では,サガイ行為取消権とは,民法上の否認の制度であり,否認とは,民法37条5項で明らかにされているように,第三者に対抗出来ないという意味ですから,サガイ行為取消権とは,「債務者と受益者または転得者との間の法律行為を第三者である債権者に対抗できない」,すなわち,「財産を逸失させても,債務者の責任財産とみなされ,債権者によって強制執行の対象とされてしまいますよ▲」という制度なのです。 ■この結論に至るまでには,学説の苦闘がありました。■ この講義では,サガイ行為取消権の全体像をプロセスで図解したあとで,サガイ行為取消権の性質をめぐる学説の苦悩の歴史をたどることにします。■ すなわち,(1)形成権説(取消権説),(2)請求権説,(3)折衷説(相対的取消権説),(4)責任説(責任無効説),(5)訴権説(対抗不能説)という学説の歴史です。