2001年5月16日
名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂
債権の目的とは何か。債権とは,ある人が他の人に対して給付(あることを為すこと,又はあることを為さないこと)を要求する権利であるという定義に即して説明しなさい。
債務者 | 義務 | 目的 (作為・不作為) |
目的物 | |
---|---|---|---|---|
文法 | 主語 | 動詞 | 不定詞(動詞の目的語) | 不定詞の目的語 |
英文 | Obligor | ought | to do | something |
日本語の例 | 売主は | 義務を負う | 引き渡す(こと) | 目的物を |
買主は | 義務を負う | 支払う(こと) | 代金を |
債権の目的と債権の目的物との違いを,民法の条文に即して説明しなさい。その際,民法の条文で誤りがある個所を指摘しなさい。
第400条〔特定物引渡債権における保存義務〕
債権ノ目的カ特定物ノ引渡ナルトキハ債務者ハ其引渡ヲ為スマテ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ其物ヲ保存スルコトヲ要ス
第401条〔種類債権〕
債権ノ目的物ヲ指示スルニ種類ノミヲ以テシタル場合ニ於テ法律行為ノ性質又ハ当事者ノ意思ニ依リテ其品質ヲ定ムルコト能ハサルトキハ債務者ハ中等ノ品質ヲ有スル物ヲ給付スルコトヲ要ス
(2)前項ノ場合ニ於テ債務者カ物ノ給付ヲ為スニ必要ナル行為ヲ完了シ又ハ債権者ノ同意ヲ得テ其給付スヘキ物ヲ指定シタルトキハ爾後其物ヲ以テ債権ノ目的物トス
第402条〔金銭債権〕
債権ノ目的物カ金銭ナルトキハ債務者ハ其選択ニ従ヒ各種ノ通貨ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ得但特種ノ通貨ノ給付ヲ以テ債権ノ目的ト為シタルトキハ此限ニ在ラス
(2)債権ノ目的タル特種ノ通貨カ弁済期ニ於テ強制通用ノ効力ヲ失ヒタルトキハ債務者ハ他ノ通貨ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ要ス
(3)前二項ノ規定ハ外国ノ通貨ノ給付ヲ以テ債権ノ目的ト為シタル場合ニ之ヲ準用ス
第419条〔金銭債務の特則〕
金銭ヲ目的トスル債務ノ不履行ニ付テハ其損害賠償ノ額ハ法定利率ニ依リテ之ヲ定ム但約定利率カ法定利率ニ超ユルトキハ約定利率ニ依ル
(1)前項ノ損害賠償ニ付テハ債権者ハ損害ノ証明ヲ為スコトヲ要セス又債務者ハ不可抗力ヲ以テ抗弁ト為スコトヲ得ス
UNIDROIT Article 5.1 - 明示の債務,および,黙示の債務
契約当事者の契約上の債務には,明示の債務,または,黙示の債務がある。
PECL Article 6:101: 契約上の債務を生じさせる陳述
(1) 契約締結前または契約締結時に,当事者の一方によってなされた陳述は,次の各号を考慮して,諸般の事情から,相手方が,その陳述を契約上の債務の内容として理解するのが相当である場合には,契約上の債務を発生させるものとみなされる。
(a) 相手方に対する陳述が明らかに重要であるかどうか
(b) 当事者が業務の過程の中でその陳述をしたかどうか
(c) 当事者の相対的な専門知識
(2) 当事者の一方が,役務,商品,または,その他の財産の職業的な供給者であって,マーケティング,または,広告等で,それらについての契約が締結される前にそれらの品質について,情報を提供している場合には,その陳述は,契約上の債務を発生させるとみなされる。ただし,相手方が,その陳述が誤りであることを知っていたか,知っていないはずがありえない場合は,この限りでない。
(3) 職業的供給者のために役務,商品もしくは他の財産の広告またはマーケティングを行なう者,または,事業連鎖の比較的初期段階にいる者によって提供されるそのような情報およびその他の保証は,職業的供給者の側に,契約上の債務を発生させるとみなされる。ただし,職業的供給者がその情報または保証を知らないか,または,知る理由がない場合は,この限りでない。
UNIDROIT Article 5.2 - 黙示の債務
黙示の債務は,以下の各号から生じる。
(a) 契約の性質,および,その目的
(b) 当事者間で確立した慣行,および,慣習
(c) 信義誠実,および,公正取引
(d) 相当性
UNIDROIT Article 5.3 - 当事者間の協力
各当事者は,相手方当事者がその債務の履行をなすために自らの協力が相当なものとして期待されるときは,相手方当事者に協力しなければならない。
UNIDROIT Article 7.4.8 - 侵害の軽減
(1) 不履行当事者は,被害を受けた当事者が被った侵害のうち,被害を受けた当事者が相当な措置をとっていたならば軽減することができた範囲については責任を負わない。
(2) 被害を受けた当事者は,侵害を軽減しようとして費やした費用のうち,相当と認められる部分につき,償還請求権を有する。
PECL Article 6:103: 明示の債務と黙示の債務との関係
当事者が,真の合意が反映されていない外見上の契約を締結した場合には,当事者間では,真の合意が優先する。
UNIDROIT Article 5.4 - 特定の結果の到達義務(結果債務),最善の努力義務(手段債務)
(1) 当事者の債務が,特定の結果を達成する債務とかかわる場合には,その限りにおいて,その当事者は,その結果を達成するように義務づけられる。
(2) 当事者の債務が,ある行為の履行につき,最善の努力をする債務とかかわる場合には,その限りにおいて,その当事者は,同種の合理的人間が同じ状況において為すであろう努力をするように義務づけられる。
UNIDROIT Article 5.5 - 関連する義務の種類(結果債務か手段債務か)の決定
当事者の債務が,どの程度まで,行為の履行における最善の努力債務または特定の結果の達成債務とかかわるのかを決定するに際しては,とりわけ,以下の各号の要素が考慮されなけばならない。
(a) 契約の中でその債務がどのように表示されているか
(b) 契約の価格,および,価格以外の契約条項
(c) 期待されている結果を達成する上で通常見込まれるリスクの程度
(d) 相手方がその債務の履行に対して及ぼしうる影響力
第632条〔請負〕
請負ハ当事者ノ一方カ或仕事ヲ完成スルコトヲ約シ相手方カ其仕事ノ結果ニ対シテ之ニ報酬ヲ与フルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス
第634条〔請負人の担保責任〕
(1) 仕事ノ目的物ニ瑕疵アルトキハ注文者ハ請負人ニ対シ相当ノ期限ヲ定メテ其瑕疵ノ修補ヲ請求スルコトヲ得但瑕疵カ重要ナラサル場合ニ於テ其修補カ過分ノ費用ヲ要スルトキハ此限ニ在ラス
(2)注文者ハ瑕疵ノ修補ニ代ヘ又ハ其修補ト共ニ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ第533条〔同時履行の抗弁権〕ノ規定ヲ準用ス
第644条〔事務処理に関する善管義務〕
受任者ハ委任ノ本旨ニ従ヒ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ委任事務ヲ処理スル義務ヲ負フ
名古屋地判昭58・3・31判時1081号104頁(難聴を治癒すると称して祈祷と療術を施し高額の料金を取得した行為に公序良俗に反する部分があるとした事例)参照
X漁業協同組合は、A社の溜池に貯蔵されているY所有の漁業用タールのうち、2,000トンをYから見積価格49万5,000円で購入することとし、引渡については、買主Xが売主Yに対して必要の都度その引渡を申し出て、Yが引渡場所を指定し、Xがドラム缶を当該場所に持ち込みタールを受領し、1年間で2,000トン全部を引き取るという契約を締結し、手付金20万円をYに交付した。
Yは、Xの求めに応じて10万7,500円分のタールの引渡を行ったが、その後、Xは、タールの品質が悪いといってしばらくの間引き取りに来ず、その間Yはタールの引渡作業に必要な人夫を配置する等引渡の準備をしていたが、その後これを引き上げ、監視人を置かなかったため、A社の労働組合員がこれを他に処分してしまい、タールは滅失するにいたった。そこで、Xは、Yのタールの引渡不履行を理由に残余部分につき契約を解除する意思表示をし、手付金から引渡を受けたタールの代価を差し引いた残金9万2,500円の返還を請求した。
Xの請求は認められるか(最三判昭30・10・18民集9巻11号1642頁)。
Y側の問題点:人夫の引き上げ・監視人を置かなかった→Yの過失による履行不能?
X側の問題点:タールの品質が悪いといって引取りを拒絶→受領遅滞?→413条によるYの免責?
第419条〔金銭債務の特則〕
金銭ヲ目的トスル債務ノ不履行ニ付テハ其損害賠償ノ額ハ法定利率ニ依リテ之ヲ定ム但約定利率カ法定利率ニ超ユルトキハ約定利率ニ依ル
(1)前項ノ損害賠償ニ付テハ債権者ハ損害ノ証明ヲ為スコトヲ要セス又債務者ハ不可抗力ヲ以テ抗弁ト為スコトヲ得ス
UNIDROIT Article 6.1.6 - 履行地
(1) 履行地が契約によって定められておらず,また,契約からも決定できない場合には,当事者は以下の各号の場所で履行すべきである。
(a) 金銭債務については,債権者の営業所
(b) その他の債務については,その債務者自身の営業所
(2) 契約締結後に当事者が営業所を変更したことによって生じた履行に付随する費用の増加は,その当事者が負担しなければならない。
第484条〔弁済の場所〕
弁済ヲ為スヘキ場所ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ特定物ノ引渡ハ債権発生ノ当時其物ノ存在セシ場所ニ於テ之ヲ為シ其他ノ弁済ハ債権者ノ現時ノ住所ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス
第402条〔金銭債権〕
債権ノ目的物カ金銭ナルトキハ債務者ハ其選択ニ従ヒ各種ノ通貨ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ得但特種ノ通貨ノ給付ヲ以テ債権ノ目的ト為シタルトキハ此限ニ在ラス
(2)債権ノ目的タル特種ノ通貨カ弁済期ニ於テ強制通用ノ効力ヲ失ヒタルトキハ債務者ハ他ノ通貨ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ要ス
(3)前二項ノ規定ハ外国ノ通貨ノ給付ヲ以テ債権ノ目的ト為シタル場合ニ之ヲ準用ス
第403条〔外貨建金銭債権〕
外国ノ通貨ヲ以テ債権額ヲ指定シタルトキハ債務者ハ履行地ニ於ケル為替相場ニ依リ日本ノ通貨ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ得
第419条〔金銭債務の特則〕
金銭ヲ目的トスル債務ノ不履行ニ付テハ其損害賠償ノ額ハ法定利率ニ依リテ之ヲ定ム但約定利率カ法定利率ニ超ユルトキハ約定利率ニ依ル
(1)前項ノ損害賠償ニ付テハ債権者ハ損害ノ証明ヲ為スコトヲ要セス又債務者ハ不可抗力ヲ以テ抗弁ト為スコトヲ得ス
PECL Article 7:105: 選択的履行
(1) 債務が選択的な履行によってなされうる場合には,別段の事情がない限り,選択権は,履行すべき当事者に属する。
(2) 履行すべき当事者が,契約によって要求された期間内に選択権を行使しない場合は,次の2項に従って選択権は,相手方に移転する。
(a) 選択の遅滞が重大であるときは,選択権は相手方に移転する。
(b) 選択の遅滞が重大でないときは,相手方は,選択権を有する当事者に対して,相当な長さの付加期間を定め,その期間内に選択権を行使するよう通知を行なうことができる。選択権を有する当事者がその期間内に選択権を行使しないときは,選択権は相手方に移転する。
UNIDROIT Article 6.1.4 - 履行の順序
(1) 契約当事者の履行が同時になされうる限度で,当事者は,別段の事情がない限り,履行を同時にしなければならない。
(2) 当事者の一方の履行のみが一定の期間を要する場合には,その限度で,その当事者は,別段の事情がない限り,その履行を先にしなければならない。
UNIDROIT Article 5.8 - 期間の定めのない契約
期間の定めのない契約は,いずれの当事者も,前もって相当な期間を置いて通知することによって,これを終了させることができる。
第591条〔消費貸借の返還時期〕
(1)当事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ貸主ハ相当ノ期間ヲ定メテ返還ノ催告ヲ為スコトヲ得
(2)借主ハ何時ニテモ返還ヲ為スコトヲ得
第597条〔使用貸借の借用物の返還時期〕
(1)借主ハ契約ニ定メタル時期ニ於テ借用物ノ返還ヲ為スコトヲ要ス
(2)当事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ借主ハ契約ニ定メタル目的ニ従ヒ使用及ヒ収益ヲ終ハリタル時ニ於テ返還ヲ為スコトヲ要ス但其以前ト雖モ使用及ヒ収益ヲ為スニ足ルヘキ期間ヲ経過シタルトキハ貸主ハ直チニ返還ヲ請求スルコトヲ得
(3)当事者カ返還ノ時期又ハ使用及ヒ収益ノ目的ヲ定メサリシトキハ貸主ハ何時ニテモ返還ヲ請求スルコトヲ得
第617条〔賃貸借解約の申し入れ〕
(1)当事者カ賃貸借ノ期間ヲ定メサリシトキハ各当事者ハ何時ニテモ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ賃貸借ハ解約申入ノ後左ノ期間ヲ経過シタルニ因リテ終了ス
一 土地ニ付テハ1年
二 建物ニ付テハ3个月
三 貸席及ヒ動産ニ付テハ1日
(2)収穫季節アル土地ノ賃貸借ニ付テハ其季節後次ノ耕作ニ著手スル前ニ解約ノ申入ヲ為スコトヲ要ス
第627条〔解約の申入〕
(1)当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メサリシトキハ各当事者ハ何時ニテモ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ雇傭ハ解約申入ノ後二週間ヲ経過シタルニ因リテ終了ス
(2)期間ヲ以テ報酬ヲ定メタル場合ニ於テハ解約ノ申入ハ次期以後ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得但其申入ハ当期ノ前半ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス
(3)6个月以上ノ期間ヲ以テ報酬ヲ定メタル場合ニ於テハ前項ノ申入ハ3个月前ニ之ヲ為スコトヲ要ス
第628条〔やむことをえない事由による解除〕
当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メタルトキト雖モ已ムコトヲ得サル事由アルトキハ各当事者ハ直チニ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但其事由カ当事者ノ一方ノ過失ニ因リテ生シタルトキハ相手方ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス
第651条〔委任の相互解除の自由〕
(1)委任ハ各当事者ニ於テ何時ニテモ之ヲ解除スルコトヲ得
(2)当事者ノ一方カ相手方ノ為メニ不利ナル時期ニ於テ委任ヲ解除シタルトキハ其損害ヲ賠償スルコトヲ要ス但已ムコトヲ得サル事由アリタルトキハ此限ニ在ラス
第662条〔寄託者の寄託物返還請求権〕
当事者カ寄託物返還ノ時期ヲ定メタルトキト雖モ寄託者ハ何時ニテモ其返還ヲ請求スルコトヲ得
第663条〔受寄者の返還時期〕
(1)当事者カ寄託物返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ受寄者ハ何時ニテモ其返還ヲ為スコトヲ得
(2)返還時期ノ定アルトキハ受寄者ハ已ムコトヲ得サル事由アルニ非サレハ其期限前ニ返還ヲ為スコトヲ得ス