不真正連帯債務

作成:2010年7月12日

明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂


1 不真正連帯債務という考え方とその破綻


A. 不真正連帯債務という概念の多義性

不真正連帯債務という用語は,制定法上の明文の規定を欠いている。このような概念の意味を知るには,法律辞書で確認するのがよい。[有斐閣・法律学小辞典(2004)]によれば,「不真正連帯債務」とは,次のように定義されている。

同一内容の給付を目的とする債務が偶然に競合した場合をいう。多数の債務者が同一内容の給付について全部の履行をしなければならない義務を負い,一債務者の弁済によって他の者も債務を免れる点で連帯債務と近似するが,債務者間に主観的共同関係がなく,したがって弁済を除いて債務者の1人に生じた事由が他の債務者に効力を及ぼさない[民法434条~440条参照]点でそれと区別される。
例えば,他人の家屋を焼いた者の不法行為に基づく賠償義務と保険会社が保険契約に基づいて負うてん補義務,受寄物を不注意で盗まれた受寄者の債務不履行に基づく賠償義務と窃取者の不法行為に基づく賠償義務などのように,同一の損害を数人がそれぞれの立場においててん補しなければならない義務を負担する場合などに生ずるとされる。共同不法行為者の賠償義務は連帯と規定されている〔民法719条〕が,不真正連帯であるとする学説が有力である。

しかし,連帯債務を正確に理解した上で,上記の解説を読むと,その問題点が明らかとなる。

第1に,「債務者間に主観的共同関係がなく,したがって弁済を除いて債務者の1人に生じた事由が他の債務者に効力を及ぼさない」点で連帯債務と区別されるという点が問題である。なぜなら,連帯債務の場合にも,連帯債務者の1人について生じた事由が他の連帯債務者に影響を与えるのは,決して,連帯債務者間に代理関係等の主観的な共同関係があるからではなく,単に,相互に保証し合うという関係が生じてさえいればよいからである。連帯債務の発生原因を当事者間の合意に限定する必要はない。例えば,被害者を救済するために,複数の加害者について,相互に保証する関係を生じさせること,すなわち,法定連帯債務を課すことも可能だからである。

第2に,不真正連帯債務者が負う債務は,一方で,それぞれ,別個・独立の債務であると考えられているが,他方で,「一債務者の弁済によって他の者も債務を免れる」とされている。このことは,それぞれの債務に依存関係があることを示している。すなわち,不真正連帯債務も,保証部分を含んだ債務であり,連帯債務と同様,それぞれは別個・独立に存在している債務ではないことになる。

B. 不真正連帯債務という概念の破綻

不真正連帯債務は,ドイツ普通法以来の歴史的産物であり,不真正連帯債務という概念が必要とされたのは,共同不法行為者の「連帯」債務を説明するためであった(詳しくは,[潮見・債権総論Ⅱ(2005)546-548頁,584-588頁]参照)。不真正連帯債務の概念が誕生した当時は,共同不法行為者間には負担部分は存在しないと考えられており,したがって,1人の共同不法行為者が被害者に損害賠償額の全額を弁済すると,不真正連帯債務は消滅し,かつ,弁済した共同不法行為者は,他の共同不法行為者に求償することができなかった。不法行為を行った者が,求償を求めて訴えを提起することは,広い意味でのクリーン・ハンドの原則によって認められないと考えられたためである。

しかし,このような場合に求償を否定すると,まじめに全額を賠償した加害者だけが負担を負い,不誠実な加害者が免責されるという正義に反する結果が生じる。そこで,判例は,不真正連帯債務の場合においても,求償を認めざるを得なくなる(〈最一判昭46・9・30判時646号47頁,判タ269号194頁〉,〈最二判昭63・7・1民集42巻6号451頁〉,〈最二判平3・10・25民集45巻7号1173頁〉など)。そして,不真正連帯債務者間の求償が認められる理由が,相互に負担部分が存在するからであることが判明すると,不真正連帯債務の概念は,存在理由を失ってしまう。なぜなら,負担部分が存在するのであれば,保証部分も存在することになり,連帯債務者の1人に生じた事由は,保証の付従性に基づき,他の不真正連帯債務者にも影響を与えることになるのであって,不真正連帯債務の唯一の存在理由である「弁済を除いて債務者の1人に生じた事由が他の債務者に効力を及ぼさない」という特色が消滅するからである。

このようにして,判例によって不真正連帯債務者間の求償が認められたため,不真正連帯債務の存在理由(raison d'être)も消滅してしまった。そして,不真正連帯債務の概念を肯定する人の間でさえ,不真正連帯債務についての統一的な学説は存在しなくなっている。学説も,従来の概念を死守して不真正連帯債務者間の求償をあくまで認めないとするもの,求償は認めるとしつつ,不真正連帯債務者の1人について生じた事由は,弁済を除いて影響を及ぼさないとするもの(ただし,弁済とその他の事由とを区別する理由は不明である)など,主張する人ごとに異なるほど,多岐に分かれている。

C. 共同不法行為責任が不真正連帯債務とされてきた理由

民法719条が「各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」と規定し,「連帯債務」と考えるのではなく,わざわざ,法律に規定がなく,多義的な概念である「不真正連帯債務」にこだわるのだろうか。

通説・判例が,民法719条の共同不法行為者の連帯責任を,不真正連帯責任と考える原因の一つは,共同不法行為の因果関係について,共同不法行為の各当事者の寄与率は不明であり,かつ,寄与率を考える余地はない(したがって,初期の不真正連帯債務理論は,求償を認めていなかった)と考えているからであると思われる。通説・判例が,このような偏った見解に凝り固まっている原因は,共同不法行為に関して,共同不法行為者の責任には負担部分が存在しないと考えているからである。

*図60 共同不法行為における事実的因果関係(通説)と
加害者の負担部分のブラック・ボックス化→不真正連帯債務

D. 相互保証理論による共同不法行為責任の解明

これに対して,因果関係について,オール・オア・ナッシングの考え方ではなく,量的な因果関係を是認する新しい因果関係論(浜上則雄「損害賠償法における『保証理論』と『部分的因果関係の理論』」(1)」民商66巻4号544頁以下)によれば,共同不法行為者も,損害について,部分的な因果関係を有していると考えることが可能となり,共同不法行為者の責任も,部分的因果関係(寄与分)に相当する負担部分を有する連帯責任と考えることが可能となる。

*図61 共同不法行為における部分的因果関係と
加害者の負担部分の可視化→連帯債務

複数の加害者が原因となって被害者に損害が生じた場合,共同不法行為者の1人1人は,被害者が被った損害について,それぞれ,損害全額を賠償する責任を負っている(民法719条)。しかし,複数の加害者の行為を仔細に検討してみると,それぞれの加害者は,1人だけで損害を引き起こしたわけではなく,結果全体に対して部分的にのみ寄与している(部分的因果関係)。そのことは,それぞれの加害者の負担する責任は,自らの寄与部分(負担部分)と他の加害者の負担部分に対する法定の連帯保証部分から成り立っている。これは,まさに連帯債務(負担部分と保証部分の結合)であり,その原因が,当事者の意思(連帯債務を負う合意)ではなく,被害者を救済するために,法律が定めた法定の連帯債務(いわゆる不真正連帯債務)である。


2 不真正連帯債務の再構成


A. 相互保証理論に基づく不真正連帯債務の再定義

不真正連帯債務は,もともとは,共同不法行為において寄与部分を観念できなかった時代に,求償が生じない不真正な連帯債務として位置づけられた歴史的な産物に過ぎない。共同不法行為において,加害者間の求償が認められるに至った(〈最一判昭46・9・30判時646号47頁,判タ269号194頁〉,〈最二判昭63・7・1民集42巻6号451頁〉,〈最二判平3・10・25民集45巻7号1173頁〉など)現代においては,無用の概念である。もしも,不真正連帯債務の用語を残すのであれば,その効果については,連帯債務と全く同じであるが,その発生原因については,当事者の意思ではなく,法律の規定によって生じるという意味で,不真正連帯債務という用語を用いることが許されるに過ぎない。そうすると,不真正連帯債務について,以下の知見が得られる。

第1に,「債務者間で求償が認められない連帯債務」という意味で考え出された「不真正連帯債務」という歴史的な概念が,求償が認められるに至った現在においては,概念として完全に破綻していることが明らかになった。

第2に,不真正連帯債務の典型例とされてきた共同不法行為においても,共同不法行為者には,寄与分(部分的因果関係)に相当する負担部分が存在していることが明らかとなった。

第3に,不真正連帯債務にも負担部分が存在するということから,共同不法行為者の1人が被害者に損害全額を賠償すると,他の共同不法行為者に対してその負担部分の限度で求償が可能となることも明らかとなった。現在の通説・判例は,不真正連帯債務とされる共同不法行為責任についても,加害者間,すなわち,不真正連帯債務者間の求償を認めるに至っているが,そのことは,不真正連帯債務にも負担部分があることを認めざるを得ないことを意味している。このようにして,歴史的な概念である「求償を認めない連帯債務」としての不真正連帯債務という概念の有用性は消滅したことになる。

第4に,このように破綻した不真正連帯債務という歴史的な概念について,エコロジーの観点からは,これまで使われてきた概念を完全に捨て去るのではなく,その概念を厳密に再定義することを通じて,再利用することができる。つまり,その発生原因に着目すると,通常の連帯債務が当事者の合意によって生じるのに対して,不真正連帯債務は,法律の規定(または,その解釈)によってるという唯一の相違がある。したがって,不真正連帯債務という概念を,「法律上の連帯債務」(法定連帯債務)として再定義することが可能であることも明らかとなった。

B. 1人の不真正連帯債務者に生じた事由(免除)の絶対効

通常の連帯債務が当事者の合意によって生じること(約定連帯債務)との対比で,不真正連帯債務を「法律の規定によって生じる連帯債務」(法定連帯債務)として再定義すると,不真正連帯債務においても,不真正連帯債務者の1人について生じた事由が他の不真正連帯債務者に影響する場合(絶対的効力効)があり,連帯債務に関する民法の規定([民法434条~439条])が不真正連帯債務にも適用されること,および,その理由が明らかとなる。

不真正連帯債務において,弁済以外の事由について,絶対的効力を否定し続けてきた判例(〈最二判昭48・2・16民集27巻1号99頁〉,〈最一判昭57・3・4判時1042号,判タ470号121頁〉,〈最一判平6・11・24判時1514号82頁〉など)といえども,最近になってその考え方を実質的に変更し,不真正連帯債務の場合にも免除の絶対効を認める傾向を示しつつあり〈最一判平10・9・10民集52巻6号1494頁〉,相互保証理論をマスターすることがますます重要となっている。

(a) 不真正連帯債務を理由に免除の絶対効を否定した判例

第1の事例は,配偶者間における単なる債務不履行(不貞行為)の事例であり,他方配偶者と第三者による共同不法行為といえるかどうか微妙な問題であり,第三者に対する請求を最小限に抑えるべき事案において,最高裁は,あえて,免除の絶対効を否定している。

平成6年最高裁判決の事案は,原告(一方配偶者)が他方配偶者に対して連帯債務全額を免除しており,かつ,他方配偶者と第三者(不倫相手)との間に明らかに主観的関連共同が認められる場合である。したがって,不真正連帯債務において,1人の不真正連帯債務者に生じた事由が他の不真正連帯債務者に影響を及ぼすべきでないという理由,すなわち,不真正連帯債務者間には,主観的な関連共同がないからという理由も存在しない。それにもかかわらず,最高裁は,そのような重要な事情を無視し,「不真正連帯債務であるから」という唯一の理由に基づいて,第三者の責任を全額認めるという不条理な判決を下している。

(事案)X(妻)がA(夫)との婚姻関係を継続中,Y(女)がA(夫)と不貞行為に及び,そのため右婚姻関係が破綻するに至ったとして,Y(女)に対し,不法行為に基づく慰謝料300万円等を請求した事件。
 原審は,X(妻)がA(夫)に対して債務を免除したことを理由に,YがXに支払うべき慰謝料は150万円が相当であると判示した〔本書の立場と同じ〕。これに対して,最高裁は,原審の判断を覆し,以下のように判示して,Xの請求の全額を認めた。
(判旨)民法719条所定の共同不法行為者が負担する損害賠償債務は,いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではないから,その損害賠償債務については連帯債務に関する同法437条の規定は適用されないものと解するのが相当である(最二判昭48・2・16民集27巻1号99頁参照)。
*図62 最一判平6・11・24
判時1514号82頁

この判決の不当性は,判決に応じて,Y(女)がX(妻)に全額である300万円の損害賠償をした場合に明らかになる。その場合,共同不法行為者間においても,求償を認める判例準則によれば,Y(女)は,A(夫)に対して,その負担部分に当たる150万円(原審で確定されている)を求償することができる。そうだとすると,これは,いわゆる民法437条の趣旨説明として通説が認めるいわゆる回り求償(転償)が生じることになる。それを防止するために,民法437条が起草されたのであり,このような場合にこそ,民法437条を適用して債権者の全額賠償を制限すべき場合であった。つまり,平成6年最高裁判決は,理論的な面からも,また,事案の具体的な解決の面からも,何らの合理性も認められない。

このような不条理な判決理由が長続きするはずはない。最高裁は,最近になって,「不真正連帯債務だから…」というような硬直的な判断に修正を加えるようになりつつある。

(b) 不真正連帯債務にもかかわらず,実質的に免除の絶対効を認めた判例

第2の事例は,自動車販売業者Yの従業員Bが,信販会社Aと提携関係にある自動車販売業者Xを巻き込んで,架空の自動車販売契約によって,クレジット会社(信販会社A)から3,303万円を詐取した詐欺事件である。XはAとの間の和解に基づき和解金2,000万円を支払った後,Bの負担部分について,使用者であるYに対して求償金として1,600万円および遅延損害金の支払を求めた〈最一判平10・9・10民集52巻6号1494頁(民法判例百選Ⅱ〔第6版〕第23事件)〉。

(判旨)①〔不真正連帯債務における負担部分の承認と求償の承認〕
 XとYが共同の不法行為により他人に損害を加えた場合において,XがYとの責任割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは,XはYの負担部分について求償することができる。
②〔不真正連帯債務における免除の絶対効の形式的な否定〕
 XとYが負担する損害賠償債務は,いわゆる不真正連帯債務であるから,XとA(被害者)との間で訴訟上の和解が成立し,請求額の一部につき和解金が支払われるとともに,和解調書中に「被害者はその余の請求を放棄する」旨の条項が設けられ,被害者がXに対し残債務を免除したと解し得るときでも,連帯債務における免除の絶対的効力を定めた民法437条の規定は適用されず,Yに対して当然に免除の効力が及ぶものではない(最二判昭48・2・16民集27巻1号99頁,最一判平6・11・24裁民173号431頁参照)。
③〔不真正連帯債務における免除の絶対的効力の実質的な承認〕
 しかし,被害者Aが,右訴訟上の和解に際し,Yの残債務をも免除する意思を有していると認められるときは,Yに対しても残債務の免除の効力が及ぶものというべきである。そして,この場合には,Yはもはや被害者から残債務を訴求される可能性はないのであるから,XのYに対する求償金額は,確定した損害額である右訴訟上の和解におけるXの支払額を基準とし,双方の責任割合に従いその負担部分を定めて,これを算定するのが相当であると解される。
 仮に,本件和解における上告人の支払額2,000万円を基準とし,原審の確定した前記責任割合〔4対6〕に基づき算定した場合には,本件共同不法行為におけるXの負担部分は800万円となる。したがって,XはYに対し,その支払額のうち1,200万円の求償をすることができ,右の違法はこの範囲で原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
*図63 最一判平10・9・10民集52巻6号1494頁 民法判例百選Ⅱ〔第6版〕第23事件

不真正連帯債務を法定の連帯債務として再定義し,その内容は通常の連帯債務と同じであるとして,連帯債務者の1人に生じた事由のうち負担部分に関するものは,付従性に基づき,他の連帯債務者の保証分に影響を与えるとする本書の立場に立つと,最高裁の結論は,理論的にも説明することができる。その理論的説明は,以下の通りである。

第1に,債権者Aが連帯債務者の1人であるXに対して,連帯債務4,124万円を2,000万円へと縮減したことは,Xの連帯債務のうち,2,124万円を免除したことを意味する。この一部免除の意味については,XとYとの負担割合に応じた免除がなされるというのが判例の考え方である〈大判昭15・9・21民集19巻1701頁〉。そうすると,本件の場合,債権者Aは,Xの負担部分を850万円,保証部分を1,274万円,合計で,2,124万円を免除したことになる。

第2に,債権者Aの連帯債務者の1人Xに対する一部免除の結果は,民法437条により,その負担部分に関する免除(850万円)のみが,付従性によって,他の連帯債務者であるYに対して絶対的効力を有する。したがって,Yの連帯債務は,850万円の範囲で消滅する。

第3に,連帯債務者の1人であるXが免除された連帯債務の全額である2,000万円の弁済をすると,その負担部分(800万円)を超えた保証部分(1,200万円)の弁済のみについて,他の連帯債務者であるYに対して求償することができる。

最高裁は,免除の絶対効を認めないとしつつ,「被害者Aが,右訴訟上の和解に際し,Yの残債務をも免除する意思を有していると認められるとき」は「Yに対しても残債務の免除の効力が及ぶものというべきである」と述べている。しかし,被害者Aと加害者Xとの和解の効力は,当事者外のYには及ばないのであるから,結局のところ,最高裁の結論は,不真正連帯債務において不真正連帯債務者の1人に対する免除が他の不真正連帯債務者に影響を及ぼすという,免除の絶対効を認めたことになっている。

このようにして,和解の効力が当事者以外に及ばないことを前提にすると,最高裁の結論を理論的に説明できるのは,本書が採用する相互保証理論のみであることが明らかとなったと思われる。


□ 学習到達度チェック 不真正連帯債務