第23回 相続分と遺産共有

2004年6月29日

名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂


講義のねらい


相続人の相続分の計算方法を習得するとともに,それを逆算することによって,被相続人の死亡以前の家族の財産の共有状態を推測しようというのが今回の講義のねらいである。


演習


問1 被相続人甲に配偶者乙と3人の子A,B,Cがいたとする。乙,A,B,Cのそれぞれの相続分はいくらか。

乙 … 1/2, A=B=C … 1/2*1/3=1/6
年代 配偶者相続分の変化 子が存在 子が不存在
直系尊属 兄弟姉妹
1962年以前 配偶者の相続分 4分の1 3分の1 2分の1
1980年以前 3分の1 2分の1 3分の2
1980年以後 2分の1 3分の2 4分の3

問2 被相続人甲に配偶者乙と内縁の配偶者丙がおり,甲と乙との間に子A,B,甲と丙との間に子Cがいたという場合には,それぞれの相続分はいくらになるか。

乙 … 1/2, A=B … 1/2*2/5=1/5, C=1/2*1/5=1/10

問3 家族法判例百選〔第6版〕第56事件(最大決平7・7・5民集49巻7号1789頁)を読んで以下の点を検討しなさい。

  1. この事件の事実を要約しなさい。
  2. 非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とすることが合憲だという多数意見の論理を整理しなさい。
  3. 非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とすることが意見だとする少数意見の論理を整理しなさい。
  4. 法定相続分の定めが補充的な規定であるということの意味を説明しなさい。

問4 被相続人甲には,父母(内縁)を同じくする妹Αと父の婚内子Βがいる。すでに父母が死亡し,甲に子がいない場合,Α,Βの相続分はどうなるか。

Α … 2/3, Β … 1/3

問5 被相続人甲に妻乙と3人の子A,B,Cがいたが,Aは二人の子a1,a2をもうけた後,被相続人甲よりも先に死亡していたとする。乙,B,C,a1,a2の相続分はいくらになるか。

乙 … 1/2, B=C … 1/2*1/3=1/6, a1=a2 … 1/2*1/3*1/2=1/12

問6 被相続人甲に妻乙,子A,B,Cがあり,被相続人が遺言でAの相続分を2分の1とする指定を行っていた場合,それぞれの相続分はどうなるか。

  1. 乙 … (1-1/2)*1/2=1/4, A … 1/2, B=C … (1-1/2)*1/2*1/2=1/8
  2. 乙 … 1/2, A … 1/2*1/2=1/4, B=C … 1/2*(1-1/2)*1/2=1/8
  3. 乙 … 1/2, A … 1/2, B=C … 1-1/2-1/2=0 

問7 被相続人甲には,配偶者乙と3人の子A,B,Cがいたが,遺産7,000万円を残して死亡した。甲は生前,Aには営業の資金として,1,200万円を,Cには,結婚の際に持参金として800万円を与えており,Bには,1,000万円を遺贈したとする。乙,A,B,Cの具体的な相続分はいくらになるか。

乙 … (7,000+1,200+800)*1/2=4,500
A … (7,000+1,200+800)*1/2*1/3=1,500    1,500-1,200=300
B … (7,000+1,200+800)*1/2*1/3=1,500    1,500-1,000=500
C … (7,000+1,200+800)*1/2*1/3=1,500    1,500-800=700

問8 家族法判例百選〔第6版〕第57事件(最一判平12・2・24民集54巻2号523頁)を読んで,以下の点を検討しなさい。

  1. この事件の事実関係を要約しなさい。
  2. 特別受益の持戻しは,具体的な相続分を確定するものとして相続分と考えるべきか,それとも,遺産分割の手続における分割基準と考えるべきか。

問9 被相続人甲が遺産8,000万円を残して死亡した。Zには,配偶者乙,子A,Bがおり,子Aの寄与分が3,000万円だったとする。それぞれの具体的な相続分はどうなるか。

乙 … (8,000-3,000)*1/2=2,500
A … (8,000-3,000)*1/2*1/2+3,000=4,250
B … (8,000-3,000)*1/2*1/2=1,250

問10 家族法判例百選〔第6版〕第58事件(東京高決平3・12・24判タ794号215号)を読んで,以下の点を検討しなさい。

  1. この事件の事実関係を要約しなさい。
  2. 寄与分は,遺留分による減殺の対象となるか。
  3. この事件において,被相続人の療養看護に当たったのが,Xの配偶者Bであったとした場合,Bに寄与分は認められるか。

問11 家族法判例百選〔第6版〕第71事件(最三判平8・12・17民集50巻10号27778頁)を読んで,以下の点を検討しなさい。

  1. この事件の事実を要約しなさい。
  2. 相続開始前から被相続人Zと同居していた共同相続人の一人Aが,相続開始後,遺産分割が終了するまでの間,遺産である建物を利用していた場合,遺産分割によって,その建物の相続人となったBは,Aに対して,家賃相当額の使用利益の返還を請求できるか。

家族財産の共有推定


1 夫婦のみ(親なし,兄弟なし,子なし)

最初は,夫婦の親がすでに亡くなっており,夫婦には兄弟もなく,子もいないという場合を想定する。この場合,夫婦の相続人は,お互いの配偶者だけである。

従来の考え方 結果 共有持分の理論
01 02
01
01 02
01
01 02
01
全て夫
の財産
妻が
相続
妻 1 共有の
弾力性
仮想持分
夫 1/2
妻 1/2

2 夫婦と子

従来の考え方 結果 共有持分の理論
01 02 03
01
02
01 02 03
01
02
01 02 03
01
02
全て夫の財産
推定相続人は
妻と子
夫の
死亡
妻 1/2
子 1/2
共有の
弾力性
仮想持分
夫 1/3
妻 1/3
子 1/3

3 夫婦(子なし)と親

従来の考え方 結果 共有持分の理論
01 02 03 04 05
01
02
03
01 02 03 04 05
01
02
03
01 02 03 04 05
01
02
03
全て夫の財産
推定相続人は,
妻と親
夫の
死亡
妻 2/3
親 1/3
共有の
弾力性
仮想持分
夫 2/5
妻 2/5
親 1/5

4 夫婦(親なし,子なし)と兄弟

従来の考え方 結果 共有持分の理論
01 02 03 04 05 06 07
01
02
03
04
01 02 03 04 05 06 07
01
02
03
04 兄妹
01 02 03 04 05 06 07
01
02
03
04
全て夫の財産
推定相続人は,
妻と兄弟
夫死亡 妻  3/4
兄妹 1/4
弾力性 仮想持分
夫  3/7
妻  3/7
兄妹 1/7