11Joint&Several1
19/30 連帯債務者の一人について無効・取消原因がある場合に関する立法理由→図解,困難,原理,付従性

【テロップ】
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【ノート】
通説によって,連帯債務が数個の独立の債務であることの根拠として挙げられている民法433条ですが, この条文は,どのような意図で起草されたのでしょうか? ■立法理由に遡って検討してみましょう。■ 『民法修正案(ゼン三編)の理由書』によれば,民法433条の立法理由は,旧民法債権担保編第58条が,取消しの場合のみを規定して,無効の場合にどのような結果が生じるか疑いを生じるため, 無効の場合も,取消しと同じであることを示すために旧民法を修正したものだとされています。 ■そこで,まず,旧民法の規定を読んでおくことにしましょう。 旧民法▲債権担保編▲第58条は,以下のように規定していました。■ 第1項■債務者の一人の無能力又は承諾の瑕疵に基きたる答弁方法は,そのヒト自身にあれざれば,これを援用することをえず。 ■この規定は,取消権者の範囲を規定したものであり,現行民法120条に照らしても,当然といえます。 第2項■しかれども,この答弁方法が,いったん許されたる上は,債務におけるその者の部分につき他の債務者を利す。ただし,他の債務者が契約の際,義務履行につき,その者の分担を予期すること有りたるときに限る。 ■この債権担保編▲第58条▲第2項の規定が重要です。つまり,連帯債務者の一人について,取消しが認められると,そのモノの負担部分の範囲で,その他の連帯債務者に利益をもたらすということです。 ■その意味は,例えば,この講義に共通のセツレイ,すなわち,Y1 ▲が,300万円▲,Y2 ▲が,200万円▲,Y3 ▲が,100万円▲をXから借りて,連帯債務を負担した場合を考えてみましょう。 ■もしも,Y1 ▲が詐欺とか強迫とかを理由に,連帯債務契約を取り消したとします。そうすると,連帯債務自体が取り消されるわけではないのですが,Y1 ▲が連帯債務から抜けるため,Y1 ▲の負担部分の限度で,連帯債務全体は影響を受けて,連帯債務は減額され,Y2 ▲,Y3 ▲の間で,合計300万円の連帯債務になってしまいます。したがって,他の連載債務者であるY2 ▲,Y3 ▲は,600万円の請求を受けることはなくなり,300万円の限度でしか債権者から請求を受けません。 ■これが,旧民法▲債権担保編▲第58条▲第2項にいう「債務におけるそのモノの部分につき他の債務者を利す」の意味です。 ■現行民法は,この点については,旧民法を修正せず,取消しのほか,無効の場合も同じであることを明確にしているにすぎません。 ■それでは,民法理由のその他の部分について,その記述を読んでおくことにしましょう。 民法理由書は,民法433条の立法理由について,以下のように述べています。■ 本条は解釈上,あるいは,疑いの生ずることあらんを恐れ,特にこれを設けたるものなり。■ けだし,連帯債務は債務者の多数なるにもかかわらず,一個の債務なりとする論者は,あるいは,本条の規定と異なりたる解釈をなすことあるべし。■ しかれども,連帯債務をもって一個の債務なりとすると否とにかかわらず,実際の結果において,本条の規定のごとくならざるべからざることは,近時学説の殆ど一定する所なり。 ■立法理由のこの最初の部分の趣旨は,以下の通りです。 ■現行民法の起草当時においては,連帯債務を全体で一つの債務であるとする説がありました。 ■したがって,連帯債務の債務一個説に従うと,一人の連帯債務者に対して,取消しとか無効原因があると,連帯債務自体が無効となるおそれがありました。 ■そこで,現行民法の起草者は,債務一個説であれ,現在の通説のように,債務複数説であれ,一人の債務者に取消し又は無効原因があっても,連帯債務全体が無効又は取消しによって効力を失うものではないことを明らかにしていたのです。 ■そして,最初に紹介したように,民法433条の法律効果は,旧民法▲債権担保編▲第58条▲第2項が述べているように,一人の連帯債務者が取り消し(現行民法の場合には,無効の場合も含む)によって,一人の連帯債務者が,連帯債務から抜けてしまうと,その一人の連帯債務者の負担部分の範囲で,連帯債務全体の額が減り,他の連帯債務者は,その範囲で利益を受けることを,民法理由書は明らかにしていたのです。 ■すなわち,民法理由書からは,通説が数個の債務の独立性の根拠としている民法433条について,逆の結論(絶対的効力)が導かれているのです。 ■つまり,連帯債務者の一人に生じた無効・取消し原因がある場合には,他の連帯債務者にその影響が及ぶ,絶対的効力が生じることを,民法理由書は明らかにしています。