12Joint&Several2
11/33 一部弁済の場合の充当

【テロップ】
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【ノート】
連帯債務者の一人が自己の負担部分の範囲内の弁済をした場合に,その債務は,負担部分に配分されるのでしょうか? それとも,保証部分にも配分されるのでしょうか? ■債務者が,債務の全額に満たない弁済をした場合に,その弁済が,債務の中のどの部分に配分されるのか? については,民法488条以下に規定があります。これらの規定は,「弁済の充当」と呼ばれています。 ■弁済充当に関しては,充当の合意とか,債務者の適法な指定とかがあれば,合意や指定が優先しますが,そのような合意充当や指定充当がない場合には,民法489条によって,弁済の充当が行われます。 民法489条(法定充当)は,以下のように規定しています。■ 民法489条■弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは,つぎの各号の定めるところに従い,その弁済を充当する。■ 民法489条▲第二号■すべての債務が弁済期にあるとき,又は弁済期にないときは,債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。 ■連帯債務者の一人が負担部分の範囲で弁済する意味は,例えば,セツレイの場合で,Y1 ▲が自分が借りた300万円を返済するというのは,自分の債務だけは消滅させようとするつもりで弁済するのですから,その意思と利益とを考えると,民法489条2号の「債務者のために弁済の利益が多いもの」に該当するため,債務を消滅させる「負担部分」に充当されるのであり,債務を消滅させない「保証部分の弁済」には充当されないと考えるのが妥当です。 ■他の連帯債務者としても,Y1 ▲の300万円の弁済が,負担部分に充当されるとすると,フジュウ性によって,他の連帯債務者の連帯債務が減額されるので,大いに利益がありますが,もしも,保証部分に充当されるとすると,債務は消滅しない上に,Y1 ▲に対して,Y2 ▲,Y3 ▲は,それぞれ,200万円,100万円の弁済をしなければならなくなるので,たいした利益は生じません。 ■このように考えると,連帯債務者の一人が負担部分の範囲内で弁済をした場合には,その弁済は負担部分のみに充当され,負担部分を消滅させることによって,他の連帯債務者の保証部分をフジュウ性によって消滅させ,連帯債務額を減額させるという絶対的効力を生じさせますが,他の連帯債務者に対する求償権までは生じさせないと考えるべきでしょう。 ■このような考え方は,比較法的な観点からも,合理的なものであることがわかります。 グローバルな基準を示しているとされる,ヨーロッパ契約法原則10点106条(求償の要件)は,以下のように規定しています。■ 連帯債務者の一人が負担部分を超えて履行したときは,他のいずれの連帯債務者に対しても,それらの債務者各自の未履行部分を限度として,自らの負担部分を超える部分を求償することができる。■ 潮見他・ヨーロッパ契約法原則Ⅲ(2008)32頁。 ■以上の考察を通じて,連帯債務の一部弁済の構造が明らかとなりました。 ■連帯債務者の一人が,負担部分を超えて弁済をした場合には,負担部分を超える部分の弁済は,保証部分の弁済に充当され,保証人としての弁済となるので,求償権を確保する範囲で,債務は消滅せず,民法500条以下の弁済による代位が生じます。 ■これに対して,連帯債務者の一人が,負担部分の範囲内で弁済をした場合には,その弁済は,負担部分の弁済に充当されます(民法489条2号)。そして,その負担部分の消滅とともに,フジュウ性によって,他の連帯債務者の保証部分を消滅させ,連帯債務額を減少させます。しかし,他の連帯債務者に対する求償権までは生じさせません。 ■このような結果をうまく説明できる理論は,連帯債務者による弁済について,それが,負担部分の弁済なのか? それとも,保証部分の弁済なのか? について,厳密に区別する学説としての相互保証理論以外には存在しません。