12Joint&Several2
15/33 連帯債務の応用例 ←事案,基本設例被害者救済のための連帯債務(民法719条)
【テロップ】
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【ノート】
民法719条の共同不法行為者の損害賠償責任は,多数当事者間の債権・債務関係であり,民法は,これを連帯債務として規定しているのですが,わが国の通説は,民法719条の多数当事者の債権・債務関係は,連帯債務ではなく,不真正連帯債務だと主張しています。 ■通説が,民法719条の共同不法行為者の責任を不真正連帯債務であると主張する理由は,「債務者間に主観的共同関係がなく,したがって,弁済を除いて債務者の一人に生じた事由が他の債務者に効力を及ぼさない点」にあるとされています。 しかし,民法719条(共同不法行為)は,以下のように規定しています。■ 第1項■数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうち,いずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも,同様とする。 第2項■行為者を教唆した者及び幇助した者は,共同行為者とみなして,前項の規定を適用する。 ■通説は,不真正連帯債務には,通常の連帯債務とは異なり,「債務者間に主観的共同関係がない」としていますが,民法719条の条文をよく読んでみると,民法719条1項本文の場合,いわゆる共犯関係にある場合には,「共同不法行為者間に主観的共同関係」があります。 ■また,民法719条2項のいわゆる教唆犯や幇助犯の場合にも,「共同不法行為者間に主観的な共同関係」が,明確に存在します。 ■通説の見解によっても,この様な場合に,共同不法行為者の責任を連帯責任としても,なんの不都合も生じません。 ■また,民法719条1項第2ブンのように,客観的な関連共同があるに過ぎない場合であっても,被害者を救済する視点から,連帯債務と考えることになんの支障もありません。■ 民法719条が,連帯債務であると明文で規定しているにもかかわらず,通説が,これを連帯債務とは異なる「不真正連帯債務」と考えているのは,なぜなのでしょうか? ■通説は,不真正連帯債務の場合には,「債務者間に主観的共同関係がなく,したがって弁済を除いて債務者の一人に生じた事由が他の債務者に効力を及ぼさない」からであると主張しているのですが,連帯債務の絶対的効力は,債権者や債務者の意思とか,主観的な関係から生じるものではなく,保証のフジュウ性という客観的な事由から生じることは,すでに,明らかにした通りです。 ■連帯債務者の一人に生じた事由は,無効であれ,弁済であれ,更改であれ,ソウサイであれ,免除であれ,混同であれ,消滅時効の完成であれ,それらが他の連帯債務者に影響を及ぼすのは,決して,債権者の意思とか,連帯債務者の共同関係とは関係なく,保証のフジュウ性によって生じる効果なのですから,共同不法行為の場合に,弁済以外には絶対的効力が生じないという理由は誤りです。 ■通説は,不真正連帯債務においては,弁済だけを絶対的効力事由としてあげていますが,これは,連帯債務において,弁済以外の絶対的効力を全く説明できなかった通説が陥る必然的な誤りです。 ■通説は,不真正連帯債務が弁済以外に絶対的効力を及ぼさない理由として,440条を根拠に挙げていますが,全く理由になっていません。 なぜなら,民法440条は,絶対的効力の例として弁済を挙げていないのですから,実は,弁済に絶対的効力があることを認めるためには,民法の条文に頼らない理論的根拠を示す必要があり,その理論的根拠は,民法448条に規定されているように,債務の消滅による保証のフジュウ性の効果であることを認めざるを得ないのです。■ そもそも,不真正連帯債務という概念が登場したのは,負担部分を観念できない多数当事者カンの債務が存在するということが出発点となっています。 ■つまり,不真正連帯債務者の一人,例えば,共犯者の一人が,損害賠償額の全額を弁済したとしてても,それは,自己の弁済にとどまり,他の不真正連帯債務者に求償することができないと考えられてきたのです。 ■しかし,共犯者の一人が損害賠償をした場合に,他の共犯者に求償ができないとなると,損害賠償を払わずに逃げ回った方が勝ちということになり,公正とはいえません。悪人にも悪人なりの公平さを維持させるのが,法律の極意だからです(もしも,悪人がいなければ,法律も無用となるのです)。 ■このような経緯をたどって,わが国最高裁は,不真正連帯債務には求償が生じないとする判断を改め,不真正連帯債務者間でも,求償が生じることを認めるにいたっています(最高裁▲昭和63年7月1日▲第二小法廷判決▲民事判例集42巻6号451頁,最高裁▲平成3年10月25日第二小法廷判決など)。■ しかし,求償権を認める場合には,民法442条を見ても明らかなように,他の連帯債務者の各自の負担部分に対して求償することになるため,不真正連帯債務にも,負担部分を認める必要があります。そうでなければ,具体的な求償額が決定できないからです。■ このようにして,不真正連帯債務にも負担部分があるということは,残りの部分は,保証部分とならざるを得ないわけであり,不真正連帯債務とは,結局,連帯債務と同じだということになり,不真正連帯債務という概念は,不要ということになります。 ■それでは,民法719条の連帯債務と,民法432条以下の連帯債務との違いは,どこにもないのでしょうか?■ ■通常の連帯債務が,債権者と連帯債務者間の意思の合致,すなわち,合意によって生じるのに対して,不真正連帯債務は,当事者の意思とは無関係に,法律の規定,例えば,民法719条によって成立します。 ■つまり,民法432条以下の通常の連帯債務は,合意による連帯債務であり,それに対して,民法719条の連帯債務は,法律の規定による連帯債務であるということができます。 ■両者ともに,負担部分と保証部分とが結合したものであり,効果については,なんらの違いもありませんから,「法律の規定に基づく連帯債務」という概念があれば十分であり,不真正連帯債務という概念は不要であることがわかります。