12Joint&Several2
16/33 連帯債務の応用例(浮気紛争)(1/3)事実関係→図解,判例,判例批判,基本設例
【テロップ】
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【ノート】
判例が,共同不法行為を連帯債務とは異なる不真正連帯債務であると解釈したために,その後の民法学の展開に大きな影響(実は,悪影響)を与えた,最高裁判所▲第一小法廷▲平成6年11月24日判決(判例時報1514号82頁)が,この事件について興味深い判断を下しています。■ この事件の事実の概要は,以下の通りです。 Y女が夫Aと不貞行為に及び,そのため夫Aと妻Xとの婚姻関係が破綻するに至ったとして,妻Xは,Yに対し,不法行為に基づく慰謝料300万円とこれに対する遅延損害金の支払を請求して訴えを提起しました。 第一審は,Xの請求を全部認容しました。 ■そこで,Yが控訴しました。■ 控訴審は,本件不法行為に基づく慰謝料は300万円が相当であると判断したものの,Yが原審において主張した債務免除の抗弁を一部認め,YがXに支払うべき慰謝料は150万円が相当であるとし,一審判決を変更して,Yに対し,150万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命じました。 ■控訴審が,原告の損害賠償額を半額に減額したのは,妻Xが夫Aの債務を免除したため,控訴審は,民法437条を適用して,夫の負担部分の2分の1について,Yに絶対的効力が及ぶとしたためです。 ■共同不法行為者の負担部分については,その証明が困難ですが,証明ができない場合には,民法427条(分割債権及び分割債務)が適用され,負担部分は,平等と推定されますので,不都合は生じないのです。 ■しかし,最高裁判決は,この控訴審判決を破棄し,夫の責任を免除した妻Xの,Yに対する損害賠償請求の全額を認めました。 ■最高裁の判決は重要であり,つぎに,判決文を詳しく検討しますが,それを読む前に,民法719条の責任が,もしも本当の連帯債務だとしたら,どのような判断がなされるべきなのか,という立場から,事実を詳しく分析してみることにします。 ■その理由は,私の考えでは,浮気(不貞行為)による離婚事件が多くなっている現代において,配偶者が浮気をした場合に,誰が非難されるべきかという問題について,はっきりとした立場をとる必要が生じているからです。 ■一昔前ならば,婚姻関係を何よりも大事にして,悪いのは,婚姻関係を破壊させる要因となった浮気の相手だけであると考え,浮気の相手方だけを非難することも可能でした。 ■しかし,現在では,浮気の相手方を非難できるのは,浮気をされた配偶者だけであり,たとえ,それが,婚姻関係だけでなく,家庭の崩壊を導いたとしても,子供たちは,浮気相手に対して不法行為に基づいて損害賠償をすることは認められていません。 ■つまり,判例によれば,配偶者だけが,浮気の相手方に対して損害賠償を請求できるのです。 ■それでは,配偶者だけが,浮気の相手に対して,損害賠償をできる理由は何でしょうか? ■本件の場合,妻Xを夫Aが裏切る不貞行為は,夫Aの妻に対する債務不履行であって,それが,民法770条の離婚原因となるだけであり,性愛(エロス)は,それ自体で不法行為を構成することはなく,「性愛の相手方を配偶者だけに限定する」と誓った,配偶者の債務不履行責任だけが問題となると考えるのが適切であり,浮気をされた配偶者は,浮気の相手方に対して,原則として,不法行為に基づく損害賠償請求をすることはできないと,私は考えています。 ■もちろん,Y女と夫Aが共謀して妻Xに損害を与えようとしていたような悪質な場合には,Y女と夫Aとの共同不法行為が成立する余地がありますが,その場合でも,Y女と夫Aとの負担部分は,2分の1と推定されるのであり,妻Xが夫Aの責任を免除しておきながら,Y女だけに,責任を転嫁しようとするのは,公平とはいえません。 ■控訴審判決が,妻Xの損害賠償額の2分の1を減額したのは,その限りで正当だと,私は考えています。 ■その理由を,図解によって示すことにします。