12Joint&Several2
19/33 共同行為にsine qua nonを適用するこれが民法学に生じている誤りの根本原因
【テロップ】
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【ノート】
通説における不真正連帯債務の考え方の深層には,共同不法行為にも,「あれなければ,これなし(シネ・クワ・ノン)の法理が適用できるという誤った考え方が潜んでいます。■ この考え方が完全に破綻していることは,共同不法行為者であるY1▲,Y2▲,Y3▲のそれぞれが,致死量10mgの毒物を,4mgづつ,被害者X▲のグラスに注いで,X▲を殺害したという「ワイングラスへの毒物混入事件」を通じて,すでに,論証しました。 ■たとえば,Y1▲,Y2▲,Y3▲のそれぞれが,致死量10mgの毒物を,4mgづつ,Xのグラスに注いで,X▲を殺害したという共同不法行為の場合,Y1▲を取り除くと,Xの殺害という結果が生じないため,Y1▲は,共同不法行為の全体について,全部の因果関係があると,わが国の通説は考えています。 ■同様にして,Y2▲も,また,Y3▲も,共同不法行為全体について,別個・独立の不真正連帯債務を負担すると,わが国の通説は信じているのです。 ■しかし,定量的な分析をすれば,Y1▲,Y2▲,Y3▲のそれぞれは,致死量に満たない4mgしか毒物を混入しておらず,単独では,Xを殺害できないことは明らかなのですから,Y1▲,Y2▲,Y3▲が別個・独立に全体について因果関係を有していると考えるのは完全に誤っています。 ところが,残念なことに,わが国のほとんどすべての学者,および,裁判官が,共同不法行為の責任を不真正連帯債務であると考えているのです。 ■確かに,「あれなければ,これなし」という事実的因果関係の理論が,共同不法行為にも適用できるとすれば,共同不法行為者の一人が抜けても,共同不法行為が成立しない場合には,共同不法行為者は,一人ひとりが,損害が賠償額の全額について,民法709条の不法行為責任を別個・独立の不真正連帯債務を負担するということができるかもしれません。 ■ところが,現実は,そう単純ではありません。上記のワイングラスへの毒物混入事件で明らかなように,各共同不法行為者が致死量10mgの毒物を4mgずつ入れた場合,一人の不法行為者を取り除くと,確かに被害者の殺害という結果は生じません。 ■しかし,そのことは,一人の共同不法行為者が独立して民法709条の責任を負担することにはなりません。 ■一人の共同不法行為者は,4mgの毒物を混入して,全体の結果に3分の1の寄与をしているだけです。各共同不法行為者の行為が合わさって,はじめて,被害者の殺害という結果が生じるのであり,各共同不法行為者は,負担部分が3分の1の連帯債務を負うにとどまるのです。 このような明快な理論を理解できない学者,法曹実務家が,多数説を生み出したとしても,その多数説がよい結果を生み出すとは限りません。 ■民法(債権関係)改正法案においては,連帯債務を別個・独立の全部義務,すなわち,不真正連帯債務へと統一しようとする,誤った方向へと暴走しつつあるのも,覚めた目で見れば,当然の結果といえます。 ■今回の民法改正が,保証人の保護を目指しているにもかかわらず,連帯保証を含む連帯債務について,連帯債務者の保護を極端にまで弱める方向に進んでいることすら自覚できないのが,現在のほぼすべての学者と法曹の限界なのです。 ■ヒトは社会的動物であり,ヒトが何かを成し遂げる場合,一人だけで成し遂げることはできません。業績を成し遂げたヒトには,必ず,サポートしてくれたヒトがいるのです。 ■そのことは,不法行為にも該当します。不法行為を仔細に検討していくと,その多くは,単独不法行為ではなく,広い意味での共同不法行為であることがわかります。 ■最近の民法判例において,適用頻度の第二位を占める使用者責任も,広い意味では,共同不法行為ですから,実は,わが国の民事事件のほとんどすべてが,多数当事者の不法行為か,多数当事者による債務不履行事件なのです。 ■そのような共同行為に関して,ほぼすべての民法学者,および,裁判官が,競合する共同不法行為について,事実的因果関係(シネ・クア・ノン)が妥当すると考えています。これが,原因となって,多数当事者が関与するほとんどすべての民法理論が破綻に陥っているのです。 ■反対からいえば,共同不法行為については,事実的因果関係の理論は妥当しないことを見抜き,共同不法行為は,不真正連帯債務ではなく,真の連帯債務であることを理解できるヒトは,わが国で,最高レベルの知識を有しているということができます。 ■わが国のほとんどすべての学者と裁判官が陥っている誤りから抜け出して,正しい知識を獲得するということは,容易なことではありません。 ■しかし,民法学のほとんどすべての重大な誤りが,共同行為にも「事実的因果関係」が妥当すると誤って考えていることに気がつき,その誤りが,いかなる分野に波及しているかを考えることができれば,そのヒトは,わが国で傑出した理論家になることができます。 ■その意味では,「事実的因果関係は共同行為には適用できず,部分的因果関係のみが妥当する」という知識を獲得したヒトだけが,民法学を根本的に変革することができるチャンスに恵まれていることになります。 ■幸いにして,明治学院大学で学ぶ諸君だけが,「事実的因果関係は共同行為には適用できず,部分的因果関係のみが妥当する」にもかかわらず,ほとんどすべての学者・法曹が,この誤りから抜け出せずにいることを理解したのですから,諸君が先頭を切って学問の誤りを正していただきたいと思います。