民法判例百選T−物権編

−第45事件から第78事件まで−

作成:2010年1月22日

明治学院大学法科大学院教授 加賀山 茂


学習目標と目標達成のための方法論


民法学習の最終目標は,条文や判例を知っているだけでは解けないような困難で新しい問題を,自分の力で解けるようになることである。この目的を達成するために,以下の方針で演習を行う。

@本講義の学習目標専門的な法知識を確実に習得するとともに,それを批判的に検討し,また発展させていく創造的な思考力を身につける。
A学習目標を達成する方法事実に即して,具体的な法的問題を解決していくため必要な法的分析能力および法的議論の能力を育成する。
B法的分析の対象:判例は,どの条文を参照し,どのような専門的な法知識法的推論(反対解釈,類推等)とを使って,結論を下しているのか。

全体のスケジュール


15回で物権法の重要判例(34件)すべてをカバーする場合のスケジュール

No. 2010年 テーマ 百選番号 判決のタイトル 判決の要旨,および,
学習目標が到達されたかどうかを確認するための論点
1 04 08 オリエンテーション 45 物権法定主義−鷹の湯事件 判旨 大判昭15・9・18民集19巻1611頁
@凡そ地中より湧出する温泉自体は之を該湧出地所有権の一内容を構成するものと解すべきや,若くは右土地所有権に対し独立せる一種の用益的支配権なりと解すべきものなりや否やは,此の種地下水に関し特別の立法を欠如せる我法制の下に在っては解釈上疑義なき能はざるも,本件係争の温泉専用権即所謂湯口権に付ては,該温泉所在の長野県松本地方に於ては,右権利が温泉湧出地(原泉地)より引湯使用する一種の物権的権利に属し,通常原泉地の所有権と独立して処分せらるる地方慣習法存する。
A既に地方慣習法に依り,如上の排他的支配権を肯認する以上,此の種権利の性質上民法第177条の規定を類推し,第三者をして其の権利の変動を明認せしむるに足るべき特殊の公示方法を構するに非ざれば,之を以て第三者に対抗し得ざるものと解すべきことは敢て多言を俟たざるが故に,原審は更に此の点に付,考慮を払ひ,右地方に在っても,例へば,温泉組合乃至は地方官庁の登録等にして右公示の目的を達するに足るべきもの存するや否や,或は尠くとも,立札其の他の標識に依り,若くは事情に依りては,温泉所在の土地自体に対する登記のみに依り,第三者をして叙上権利変動の事実を明認せしむるに足るべきや否やに付,須く審理判断を与へざるべからざる筋合なりとす。
論点 @民法175条の物権法定主義とは何か。慣習上の物権が物権法定主義に反しないのはなぜか。
A温泉権は,他の慣習上の物権と比較して,どのような特色を有しているか。温泉権に最も近似している制度は何か。所有権か,地上(地下)権か,地役権か,人役権か。
B温泉権の公示はどのようになされているか。民法177条との関係で,どのような解決が望ましいか。
62 明認方法 判旨 最一判昭36・5・4民集15巻5号1253頁
 物権変動の対抗要件としての明認方法は,第三者が利害関係を取得した当時にも存在するものでなければ,これをもつて当該第三者に対抗することはできない。
論点 @立木は土地の定着物か,独立の不動産か。
A立木法の登記のない立木の公示方法としての明認方法は,立木取引の対抗要件か,効力要件か。
B登記が不正に,または,過誤で抹消された場合と明認方法が消失した場合とで,法的効果に区別があるか。区別されるべきあるならば,その理由は何か。区別すべきでないとしたら,不都合は生じないか。
49 特約によらない中間省略登記請求権 判旨 最三判昭40・9・21民集19巻6号1560頁
 不動産の所有権が甲乙丙と順次移転したのに,登記名義は依然として甲にある場合には,丙が甲に対し直接自己に移転登記(中間省略登記)を請求することは,甲および乙の同意がないかぎり許されない。
論点 @中間省略登記の申請が認められていないのはなぜか。本件の場合,中間省略登記の問題として扱うことが妥当か。結論としても,具体的な妥当性があるか。
A中間省略登記がなされてしまった場合の効力はどうか。どのような場合に効力が認められているのか。その理由は何か。「よくないことでも既成事実を作ってしまえばそれで済む」という考え方は是認されるべきか。
B当事者が中間省略登記を望む理由は何か。中間省略登記の問題解決のための有用な施策は何か。わが国の登記制度は,どのような根本的な問題を抱えているか。
2 04 15 物権的請求権 46 土地崩壊の危険と所有権に基づく危険防止請求 判旨 大判昭12・11・19民集16巻1881頁
@凡そ所有権の円満なる状態が他より侵害せられたるときは,所有権の効力として其の侵害の排除を請求し得べきと共に,所有権の円満なる状態が他より侵害せらるる虞あるに至りたるときは,又所有権の効力として所有権の円満なる状態を保全する為現に此の危険を生ぜしめつつある者に対し其の危険の防止を請求し得るものと解せざるべからず。
A侵害又は危険が不可抗力に基因する場合若くは被害者自ら右侵害を認容すべき義務を負ふ場合の外,該侵害又は危険が自己の行為に基きたると否とを問はず,又自己に故意過失の有無を問はず,此の侵害を除去し又は侵害の危険を防止すべき義務を負担するものと解するを相当とす。
B上告人〔Y〕は現に被上告人〔X〕所有の宅地と境を接して土地を所有するものなるが,上告人の前所有者相沢忠蔵〔A〕は素畑地なりし右土地を水田と為したるに際し,被上告人〔X〕所有の宅地との境界線上より垂直に掘下げし為,右宅地と水田との境界に直高約2尺4寸(約73cm)の断崖を生じ,右断崖は現在一部は斜面を為し,一部は却て其の下部に於て窪みて洞窟状を為せり。右断崖の状況は,過去に於て被上告人〔X〕所有地の土砂が上告人〔Y〕所有水田内へ崩落したるが為にして,一方被上告人〔Y〕所有の宅地上には,該境界より僅々約一間(約1.82m)を距てて人の住居に供する家屋存し,而かも右宅地の地質は砂地なるに因り,右宅地は将来該断崖に於て,上告人の水田地内へ自然崩壊の危険あると云ふに在り。果して然らば,被上告人は其の土地所有権に基き,現に隣地の所有者たる上告人に対し,右危険の防止に必要なる相当設備を請求する権利を有すること前説示するところに照し洵に明白なり。
論点 @物権的請求権とは何か。わが国には,物権的請求権についての一般的な明文規定は存在しない。しかし,具体的な規定は多数存在する。それらは,どのような規定か。
Aわが国の民法が物権的請求権についての一般規定を置かなかった理由は何か。損害賠償における損害と妨害排除における妨害とは実体が異なるか。
B本件の場合に,Xに妨害予防請求権として予防工事の権利を認めるべきか。それとも,Yに妨害排除請求権として土砂の除去を認めるべきか。いずれの場合についても,費用負担はどうあるべきか。最も望ましい方法は何か。
47 物権的請求権の相手方 判旨 最三判平6・2・8民集48巻2号373頁
@土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには,現実に建物を所有することによつてその土地を占拠し,土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである。
 したがって,未登記建物の所有者が未登記のままこれを第三者に譲渡した場合には,これにより確定的に所有権を失うことになるから,その後,その意思に基づかずに譲渡人名義に所有権取得の登記がされても,右譲渡人は,土地所有者による建物収去・土地明渡しの請求につき,建物の所有権の喪失により土地を占有していないことを主張することができるものというべきであり(最二判昭35・6・17民集14巻8号1396頁参照),
 また,建物の所有名義人が実際には建物を所有したことがなく,単に自己名義の所有権取得の登記を有するにすぎない場合も,土地所有者に対し,建物収去・土地明渡しの義務を負わないものというべきである最一判昭47・12・7民集26巻10号1829頁参照)。
Aもっとも,甲所有地上の建物の所有権を取得し,自らの意思に基づいてその旨の登記を経由した乙は,たとい右建物を丙に譲渡したとしても,引き続き右登記名義を保有する限り,甲に対し,建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない。
論点 @物権的請求権における妨害排除,返還請求権の相手方は誰か。
A妨害排除の相手方と損害賠償の相手方の異同は何か。
B本件の場合,実際に妨害を行っていない登記名義人に物権的請求権を認めてどうするのか。それは,制裁か,連帯責任か。それでは損害賠償と同じことにならないか。本件の場合の最も適切な解決方法は何か。
番外 物権的請求権は消滅時効にかかるか 判旨 大判大5・6・23民録22輯1161頁
@所有権に基く所有物の返還請求権は其所有権の一作用にして,之より発生する独立の権利に非ざるを以て所有権自体と同じく消滅時効に因りて消滅することなしと云はざるを得ず。本件の事実は原裁判所の確定する所に依れば,上告人が其所有に属する書状4通の返還を被上告人に訴求するに在ることは判文上明瞭なり。
A上告人の右書状の返還請求権は前示の法則に徴し消滅時効に因りて消滅することなきに拘はらず,原裁判所は事茲に出でずして右書状の返還請求権に付き,債権に関する規定の適用あるものとし其請求権は債権に関する消滅時効に因りて消滅したるものと認め,上告人敗訴の判決を為したるは違法にして,其判決は破毀を免がれざるものとす。
論点 @所有権が侵害された場合に所有権に基づく返還請求権は,所有権とは別個に侵害者に対して生じる請求権であり,債権と同様に消滅時効にかかるのか。
A所有権とは別個の請求権ではあるが,その性質上,消滅時効にかからないのか。
B所有権に基づく返還請求権は,所有権の一作用として所有権に付随するものとして生じるのであるから,所有権と同様,消滅時効にかからないのか。
3 04 22 占有訴権 68 占有の訴えに対する本権に基づく反訴 判旨 最一判昭40・3・4民集19巻2号197頁
 民法202条2項は,占有の訴において本権に関する理由に基づいて裁判することを禁ずるものであり,従って,占有の訴に対し防御方法として本権の主張をなすことは許されないけれども,これに対し本権に基づく反訴を提起することは,右法条の禁ずるところではない。そして,本件反訴請求を本訴たる占有の訴における請求と対比すれば,牽連性がないとはいえない。
論点 @占有訴権と本件の訴えとの関係(民法202条の意味)
A民法202条2項の意義を実現する制度(たとえば,手形訴訟手続)のような手続は存在するか。
B占有権と本件との調整について,どのような規定が置かれているか。本件における紛争解決はどのようなルールによるべきか。
77 金銭所有権 判旨 最二判昭39・1・24判時365号26頁,判タ160号66頁
 金銭は,特別の場合を除いては,物としての個性を有せず,単なる価値そのものと考えるべきであり,価値は金銭の所在に随伴するものであるから,金銭の所有権者は,特段の事情のないかぎり,その占有者と一致すると解すべきであり,また金銭を現実に支配して占有する者は,それをいかなる理由によつて取得したか,またその占有を正当づける権利を有するか否かに拘わりなく,価値の帰属者即ち金銭の所有者とみるべきものである(最二判昭29・11・5刑集8巻11号1675頁参照)。本件において原判決の認定した事実によると,訴外藤野太一は上告人丹部忠男をだまして11万円余の交付をうけ,自己が上告人らから依頼されて経営に従事していた判示店舗の売上金6万余円を加えた金172,300円を,自己の銀行預金を払戻した自己の金であるといって執行吏に提出したというのであるから,11万円余は上告人丹部忠男から交付をうけたとき,6万余円は着服横領したとき,それぞれ訴外藤野太一の所有に帰し上告人らはその所有権を喪失したものというべきである。
論点 @金銭所有権の特色を列挙しなさい。その上で,金銭の所有権と占有権との関係を明らかにしなさい。
A騙取金による弁済について,金銭の取り戻しが可能かどうかについて,判例はどのような変遷をたどったか(最一判昭49・9・26民集28巻6号1243頁(民法判例百選U〔第6版〕第74事件)参照)。
B本件の場合,XらがYから17万余円の返還を受けるためには,どのような法律構成とそれに相応する要件が必要か。
4 04 29 占有 63 占有−法人の代表機関 判旨 最二判昭32・2・15民集11巻2号270頁
 株式会社の代表取締役が会社の代表者として土地を所持する場合には,右土地の直接占有者は会社自身であって,代表者は,個人のためにもこれを所持するものと認めるべき特段の事情がないかぎり,個人として占有者たる地位にあるものとはいえない。
論点 @自己のためにする占有(民法180条)と他人のためにする占有(民法197条2文)の違いと,自主占有(所有の意思のある占有)と他主占有(所有の意思のない占有)との違いとを例を挙げて説明するとともに,占有補助と代理占有との違いを明らかにしなさい。
A法人の代表機関による占有は占有補助とどのような関係にあるのか。
B物権的請求権としての土地の明渡しの相手方は,法人かそれとも法人の機関か,それとも両方か。
64 相続と民法185条にいう「新たな権原」 判旨 最三判平8・11・12民集50巻10号2591頁
@他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合には,相続人において,その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を証明すべきである(補足意見がある)。
AAが所有しその名義で登記されている土地建物について,Aの子であるBがZから管理をゆだねられて占有していたところ,Bの死亡後,その相続人であるBの妻子Xらが,Bが生前にZから右土地建物の贈与を受けてこれを自己が相続したものと信じて,その登記済証を所持し,固定資産税を納付しつつ,管理使用を専行し,賃借人から賃料を取り立てて生活費に費消しており,A及びその相続人Yらは,Xらが前記のような態様で前記土地建物の事実的支配をしていることを認識しながら,異議を述べていないなど判示の事実関係があるときは,Xらが,右土地建物がAの遺産として記載されている相続税の申告書類の写しを受け取りながら格別の対応をせず,Bの死亡から約15年経過した後に初めて右土地建物につき所有権移転登記手続を求めたという事実があるとしても,Xらの右土地建物についての事実的支配は,外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解するのが相当であり,Xらについて取得時効が成立する(補足意見がある)。
論点 @取得時効(民法162条)の要件としての自主占有はどのようにして取得できるのか。
A他主占有者は,どのような場合に,自主占有者となりうるか。民法185条によれば,所有の意思表示または新権原が必要とされているが,これを具体的な例を挙げて説明しなさい。
B他主占有者の相続人は,どのようにして自主占有を取得できるか。民法187条との関係を明らかにしなさい。
65 前主の無過失と10年の取得時効 判旨 最二判昭53・3・6民集32巻2号135頁
 不動産の占有主体に変更があつて承継された2個以上の占有が併せて主張された場合には,民法162条2項にいう占有者の善意・無過失は,その主張にかかる最初の占有者につきその占有開始の時点において判定すれば足りる。
論点 @10年の取得時効(民法162条2項)の要件としての無過失について,具体例を挙げて説明しなさい。
A10年の取得時効を主張する者は,民法187条に従って,前主の無過失を援用することができるか。
B前主のうちに,悪意の中間者が含まれている場合に,前主と自己の占有をあわせて10年の取得時効を主張することができるか。その理由は何か。
5 05 06 動産物権変動 60 民法178条の引渡し−占有改定 判旨 最一判昭30・6・2民集9巻7号855頁
 債務者が動産を売渡担保に供し引きつづきこれを占有する場合においては,債権者は,契約の成立と同時に,占有改定によりその物の占有権を取得し,その所有権取得をもつて第三者に対抗することができるものと解すべきである。
論点 @動産物権変動の対抗要件としての引渡し(民法178条)には,現実の引渡しの他,どのような態様が認められているか。
A占有権の移転の方法としての占有改定(民法183条)は,他の移転の方法と比較して,どのような特色があるか。
B譲渡担保の対抗要件として,占有改定は適切な方法といえるか。最も適切な手段について論じなさい。
61 民法178条の第三者−受寄者 判旨 最三判昭29・8・31民集8巻8号1567頁
 譲渡された動産の寄託をうけ一時これを保管しているにすぎない者は,譲渡を否認するに付き正当の利害関係を有するものということは出来ない。従って民法178条にいう第三者に該当しないと解すべきである。
論点 @当事者と第三者との区別について,その基準を具体例(一般承継,特定承継等)を挙げて説明しなさい。
A占有の移転のうち,指図による占有移転(民法184条)について,具体例を挙げて,その特色を述べなさい。
B本件の場合,Xは目的動産の所有権移転について,どのような対抗要件を備えているか。
6 05 13 66 占有改定・指図による占有移転と即時取得 判旨 最一判昭35・2・11民集14巻2号168頁
 占有取得の方法が外観上の占有状態に変更を来たさない占有改定にとどまるときは,民法192条の適用はない。
論点 @占有の移転うち,占有改定と指図による占有の移転との相違点を具体例を挙げて説明しなさい。
A占有改定による即時取得を認めるのと,即時取得を認めないのとで,二重譲渡の譲受人の権利取得はどのように変化するか。
B占有改定による即時取得を認めるかどうかについて,判例は反対しているが,指図による占有移転による即時取得については,認められているのはなぜか。
67 占有194条に善意占有者の使用収益権(バック・ホー盗難事件) 判旨 最三判平12・6・27民集54巻5号1737頁(バック・ホー盗難事件)
@盗品又は遺失物の占有者は,民法194条に基づき右盗品等の引渡しを拒むことができる場合には,代価の弁償の提供があるまで右盗品等の使用収益権を有する。
A盗品の占有者が民法194条に基づき盗品の引渡しを拒むことができる場合において,被害者が代価を弁償して盗品を回復することを選択してその引渡しを受けたときには,占有者は,盗品の返還後,同条に基づき被害者に対して代価の弁償を請求することができる。
論点 @民法192条,193条,194条の関係を,時間,場所,取引の性質の3つの視点から比較し,それらの間の関係を明らかにしなさい。
A占有者の使用利益に関して,民法189条1項と民法703条との関係を述べなさい。また,民法545条2項との関係(最二判昭51・2・13民集30巻1号1頁(売買契約に基づき目的物の引渡を受けていた買主は,民法561条により右契約を解除した場合でも,原状回復義務の内容として,解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還しなければならない)),さらに,民法575条1項との関係についても考察しなさい。
B本件の場合に,善意取得者に使用利益の返還を認めないとどのような不都合が生じるか。本件の場合の最適の解決方法はどのようなものか。
7 05 20 所有権の帰属 72 建築途中の建物への第三者の工事と所有権の帰属 判旨 最一判昭54・1・25民集33巻1号26頁
 建築途中の未だ独立の不動産に至らない建前に第三者が材料を供して工事を施し独立の不動産である建物に仕上げた場合における建物所有権の帰属は,民法243条の規定によるのではなく,民法246条2項の規定に基づいて決定すべきである。
論点 @建築途中の建物の所有権の帰属は,請負契約によって定まるのか,不動産の付合の規定によって定まるのか,それとも,動産の付合の規定を類推して定まるのか。
A請負契約の場合,完成した建物の所有権は,注文者に帰属するのか,請負人に帰属するのか,契約の趣旨・目的から考えてどのように考えるべきか。
B本件の場合,建物の所有権は誰に帰属すると考えるべきか。その理由は何か。
73 建物の付合−賃借人のした増築 判旨 最三判昭44・7・25民集23巻8号1627頁
 建物の賃借人が建物の賃貸人兼所有者の承諾を得て賃借建物である平家の上に2階部分を増築した場合において,2階部分から外部への出入りが賃借建物内の部屋の中にある梯子段を使用するよりほかないときは,2階部分につき独立の登記がされていても,その2階部分は,区分所有権の対象たる部分にはあたらない。
論点 @不動産の付合に関する民法242条について,付合した不動産がどのように扱われるか,具体例で説明しなさい。
A本件で,民法242条但し書きが適用されないとされているのはなぜか。
B本件の事案の解決は,どのようなルールによってなされるべきか。
8 05 27 相隣関係 59 登記のない地役権と承役地の譲受人 判旨 最二判平10・2・13民集52巻1号65頁
 通行地役権の承役地が譲渡された場合において,譲渡の時に,承役地が要役地の所有地によって継続的に通路として使用されていることがその位置,形状,構造等の物理的状況から客観的に明らかであり,かつ,譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは,譲受人は,通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても,特段の事情がない限り,地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらない。  
論点
69 分筆後袋地を売却した場合の公道に至る通行権 判旨 最三判平2・11・20民集44巻8号1037頁
 共有物の分割又は土地の一部譲渡によって公路に通じない土地(袋地)を生じた場合には,袋地の所有者は,民法213条に基づき,これを囲繞する土地のうち,他の分割者の所有地又は土地の一部の譲渡人若しくは譲受人の所有地(残余地)についてのみ通行権を有するが,同条の規定する囲繞地通行権は,残余地について特定承継が生じた場合にも消滅するものではなく,袋地所有者は,民法210条に基づき残余地以外の囲繞地を通行しうるものではないと解するのが相当である。けだし,民法209条以下の相隣関係に関する規定は,土地の利用の調整を目的とするものであって,対人的な関係を定めたものではなく,同法213条の規定する囲繞地通行権も,袋地に付着した物権的権利で,残余地自体に課せられた物権的負担と解すべきものであるからである。残余地の所有者がこれを第三者に譲渡することによって囲繞地通行権が消滅すると解するのは,袋地所有者が自己の関知しない偶然の事情によってその法的保護を奪われるという不合理な結果をもたらし,他方,残余地以外の囲繞地を通行しうるものと解するのは,その所有者に不測の不利益が及ぶことになって,妥当でない(反対意見がある)。
論点
9 06 03 70 民法210条による通行権と自動車の通行 判旨 最一判平18・3・16民集60巻3号735頁
 自動車による通行を前提とする民法210条1項所定の通行権の成否及びその具体的内容は,公道に至るため他の土地について自動車による通行を認める必要性,周辺の土地の状況,上記通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。
論点
71 建築基準法65条の建物と民法234条1項 判旨 最三判平1・9・19民集43巻8号955頁
 上告人〔Y〕所有の土地に隣接する土地を所有する被上告人〔X〕が,上告人〔Y〕が建築した建物は境界線から50センチメートルの距離を置かないものであるから民法234条1項に違反するとして,本件建物うち境界線から50センチメートルの距離を置かない部分の収去等を求めたのに対し,上告人〔Y〕が建築基準法65条による民法234条1項の適用排除の抗弁を主張したが,抗弁が退けられたため,上告した事案。
 最高裁は,「建築基準法65条所定の,防火地域又は準防火地域内にある外壁が耐火構造の建築物については民法234条1項の規定の適用が排除される」として,原判決を破棄した(反対意見がある)。
論点
10 06 10 共有 74 共有者相互間の明渡請求 判旨 最一判昭41・5・19民集20巻5号947頁
 被相続人Aの妻及び子である一審原告らが,同じく子である一審被告に対し,本件土地の共有権取得登記手続及び本件建物の明渡しを求めた事案。
 最高裁は,「共同相続に基づく共有者の一人であって,その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者は,他の共有者の協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権限を有するものではないが,少数持分権者は自己の持分によって,共有物を使用収益する権限を有し,これに基づいて共有物を占有するものであるから,その共有持分を合計すると,その価格が共有物の価格の過半数を超えるからといって,多数持分権者が当然にその明渡しを請求できることにはならず,明渡しの請求にあたっては,多数持分権者といえども主張立証を要する」として,原判決中本件建物の明渡しを命じた部分を取り消した。
論点
75 共有者の一人による不実登記の抹消手続請求 判旨 最二判平15・7・17民集57巻7号787頁
 相続に起因して不動産を共同相続した相続人らのうちの一人である乙が,代物弁済に起因して被上告人へ持分を譲渡したので,乙から被上告人に対する持分全部移転登記がなされたところ,本件土地の共同相続人である上告人らが,被上告人に対して乙から被上告人への持分の譲渡は無効であるとして抹消登記を請求した事案。
 最高裁は,「不動産の共有者は単独で共有不動産に対する妨害を排除することができるので,控訴審が,仮に乙から被上告人に対する持分の譲渡が無効であったとしても上告人らの持分権は侵害されていないから上告人が抹消登記請求することはできないとした判断は,是認できない」として原判決を破棄,原審に差し戻した。
論点
11 06 17 76 共有物分割の方法−全面的価格賠償 判旨 最一判平8・10・31民集50巻9号2563頁
@共有物分割の申立を受けた裁判所は,現物分割をするに当たって,持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ,過不足の調整をすることができる。
A当該共有物の性質及び形状,共有関係の発生原因,共有者の数及び持分の割合,共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値,分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し,当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ,かつ,その価格が適正に評価され,当該共有物を取得する者に支払能力があって,他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情の存するときは,全面的価格賠償の方法による分割をすることも許される。
論点
78 入会団体による総有権確認請求権 判旨 最三判平6・5・31民集48巻4号1065頁
@入会権者である村落住民が入会団体を形成し,それが権利能力のない社団に当たる場合には,右入会団体は,構成員全員の総有に属する不動産についての総有権確認請求訴訟の原告適格を有する。
A権利能力のない社団である入会団体の代表者が構成員全員の総有に属する不動産について総有権確認請求訴訟を原告の代表者として追行するには,右入会団体の規約等において右不動産を処分するのに必要とされる総会の議決等の手続による授権を要する。
B権利能力のない社団である入会団体において,規約等に定められた手続により,構成員全員の総有に属する不動産について代表者でない構成員甲を登記名義人とすることとされた場合には,甲は,右不動産についての登記手続請求訴訟の原告適格を有する。
論点
12 06 24 不動産物権変動総論 48 物権変動の時期 判旨 最二判昭33・6・20民集12巻10号1585頁
 売主の所有に属する特定物を目的とする売買においては,特にその所有権の移転が将来なされるべき約旨に出たものでないかぎり,買主に対し直ちに所有権移転の効力を生ずるものと解するを相当とする。(大判大2・10・25民録19輯857頁参照)。そして原審は,所論(丙)の建物(未登記)については,売主(上告人:Y)の引渡義務と買主(被上告人:X)の代金支払義務とは同時履行の関係にある旨を判示しているだけであつて,右建物の所有権自体の移転が,代金の支払または登記と同時になさるべき約旨であつたような事実を認めていないことは,原判文上明白である。それ故,原判決には,所論のような違法はなく,論旨は採用できない。
論点
50 民法177条の物権変動の範囲 判旨 大連判明41・12・15民録14輯1301頁
 民法第176条に物権の設定及び移転は当事者の意思表示のみに因りて其効力を生ずとありて,当事者間に在りては動産たると不動産たるとを問はず,物権の設定及び移転は単に意思表示のみに因りて其効力を生じ,他に登記又は引渡等何等の形式を要せざることを規定したるに止まり,又,其第177条には不動産に関する物権の得喪及び変更は登記法の定むる所に従ひ其登記を為すに非ざれば之を以て第三者に対抗することを得ずとありて,不動産に関する物権の得喪及び変更は其原因の如何を問はず総て登記法の定むる所に従ひ其登記を為すに非ざれば,之を以て第三者に対抗するを得ざることを規定したるものにして,右両条は全く別異の関係を規定したるものなり。
 之を換言せば,前者は物権の設定及び移転に於ける当事者間の関係を規定し,後者は物権の得喪及び変更の事為に於ける当事者と其得喪及び変更に干与せざる第三者との関係を規定したるものなり。
 故に偶第177条の規定即ち物権の得喪及び変更に付ての対抗条件の規定が前顕第176条の規定の次条に在るとの一事を以て,第177条の規定は独り第176条の意思表示のみに因る物権の設定及び移転の場合のみに限り之を適用すべきものにして其他の場合即ち意思表示に因らずして物権を移転する場合に於て之を適用すべからざるものとするを得ず。
 何となれば,第177条の規定は同一の不動産に関して正当の権利若くは利益を有する第三者をして登記に依りて物権の得喪及び変更の事状を知悉し以て不慮の損害を免るることを得せしめんが為めに存するものにして,畢竟第三者保護の規定なることは其法意に徴して毫も疑を容れず。而して右第三者に在りては,物権の得喪及び変更が当事者の意思表示に因り生じたると将た之に因らずして家督相続の如き法律の規定に因り生じたるとは毫も異なる所なきが故に,其間区別を設け前者の場合に於ては之に対抗するには登記を要するものとし,後者の場合に於ては登記を要せざるものとする理由なければなり。
 加之家督相続の如き法律の規定に因り物権を取得したる者に於ては,意思表示に因り物権を取得したる者と均しく,登記法の定むる所に従ひ登記を為し以て自ら其権利を自衛し第三者をも害せざる手続を為し得べきは言を俟たざる所なれば,其間敢て区別を設け,前者は登記を為さずして其権利を第三者に対抗し得るものとし,後者のみ登記なくして其権利を第三者に対抗し得ざるものとするの必要を認むるに由なければなり。
論点
13 07 01 不動産物権変動と登記 51 法律行為の取消しと登記 判旨 大判昭17・9・30民集21巻911頁
 凡そ民法第96条第3項に於て,「詐欺に因る意思表示の取消は之を以て善意の第三者に対抗することを得ざる」旨規定せるは,取消に因り其の行為が初より無効なりしものと看做さるる効果,即ち,取消の遡及効を制限する趣旨なれば,茲に所謂第三者とは,取消の遡及効に因り影響を受くべき第三者,即ち,取消前より既に其の行為の効力に付,利害関係を有せる第三者に限定して解すべく取消以後に於て始めて利害関係を有するに至りたる第三者は,仮令其の利害関係発生当時,詐欺及取消の事実を知らざりしとするも,右条項の適用を受けざること洵に原判示の如くなりと雖,右条項の適用なきの故を以て,直に斯かる第三者に対しては,取消の結果を無条件に対抗し得るものと為すを得ず
 今之を本件に付て観るに,本件売買が原判決説示の如く其の要素に錯誤あるものにあらずして詐欺に因り取消し得べきものなりとせば,本件売買の取消に依り土地所有権は被上告人先代に復帰し,初より松井に移転ざりしものと為るも,此の物権変動は民法第177条に依り登記を為すに非ざれば之を以て第三者に対抗することを得ざるを本則と為すを以て,取消後松井との契約に依り権利取得の登記を為したる上告人に之を対抗し得るものと為すには,取消に因る右権利変動の登記なきこと明かなる本件に於ては,其の登記なきも之を上告人に対抗し得べき理由を説明せざるべからず。
 然るに原判決は此の点に付,何等説示する所なくして取消に因る右権利変動を当然上告人に対抗し得るものの如く解し,上告人が松井との契約に因り登記したる権利を取得せざりしものと為し,登記は原因を欠くを以て之が抹消登記を為すべき義務ある旨判示したるは理由不備の違法あり
論点
52 解除と登記 判旨 最三判昭35・11・29民集14巻13号2869頁
 不動産売買契約が解除され,その所有権が売主に復帰した場合,売主はその旨の登記を経由しなければ,たまたま右不動産に予告登記がなされていても,契約解除後に買主から不動産を取得した第三者に対し所有権の取得を対抗できない。
論点
53 時効取得と登記 判旨 最二判昭46・11・5民集25巻8号1087頁
 不動産が二重に売買された場合において,買主甲がその引渡を受けたが,登記欠缺のため,その所有権の取得をもつて,のちに所有権取得登記を経由した買主乙に対抗することができないときは,甲の所有権の取得時効は,その占有を取得した時から起算すべきものである。
論点
14 07 08 54 共同相続と登記 判旨 最二判昭38・2・22民集17巻1号235頁
@甲乙両名が共同相続した不動産につき乙が勝手に単独所有権取得の登記をし,さらに第三取得者丙が乙から移転登記をうけた場合,甲は乙丙に対し自己の持分を登記なくして対抗できる。
A右の場合,甲が乙丙に対し請求できるのは,甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続であつて,各登記の全部抹消を求めることは許されない。
B右の場合,甲が乙丙に対し右登記の全部抹消登記手続を求めたのに対し,裁判所が乙丙に対し前記一部抹消(更正)登記手続を命ずる判決をしても,民訴第186条に反しない。
論点
55 遺産分割と登記 判旨 最三判昭46・1・26民集25巻1号90頁
 相続財産中の不動産につき,遺産分割により権利を取得した相続人は,登記を経なければ,分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し,法定相続分をこえる権利の取得を対抗することができない。
論点
62 明認方法
(第1回の予備)
判旨 最一判昭36・5・4民集15巻5号1253頁
 物権変動の対抗要件としての明認方法は,第三者が利害関係を取得した当時にも存在するものでなければ,これをもつて当該第三者に対抗することはできない。
論点 @立木は土地の定着物か,独立の不動産か。
A立木法の登記のない立木の公示方法としての明認方法は,立木取引の対抗要件か,効力要件か。
B登記が不正に,または,過誤で抹消された場合と明認方法が消失した場合とで,法的効果に区別があるか。区別されるべきあるならば,その理由は何か。区別すべきでないとしたら,不都合は生じないか。
15 07 15 不動産物権変動と第三者 56 民法177条の第三者の範囲(1)−背信的悪意者 判旨 最三判平18・1・17民集60巻1号27頁
 甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時に,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たる。
論点
57 民法177条の第三者の範囲(2)−背信的悪意者からの転得者 判旨 最三判平8・10・29民集50巻9号2506頁
 所有者甲から乙が不動産を買い受け,その登記が未了の間に,甲から丙が当該不動産を二重に買い受け,更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に,丙が背信的悪意者に当たるとしても,丁は,乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り,当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができる。
論点
58 民法177条の第三者−不法占拠者 判旨 最二判平10・2.13民集52巻1号65頁
 不動産の不法占有者は,民法第177条にいう「第三者」には当らない。
論点
07 22 定期試験

間違いやすい用語についてのコメント

本権

我妻・有泉『コンメンタール民法』〔第2版〕日本評論社(2009)336頁によると,本権としての物権占有権以外の物権を「本権」と呼ぶ§202参照)という記述が見られる。これを見て,「本権とは占有権以外の物権である」と信じている人が多い。しかし,この考え方は以下の2つの点で誤解に陥っている。

  1. 本権とは,物に対する事実上の支配に過ぎない占有権について,占有権の正当性を基礎づける権原のことをいうのであって,物権には限定されない(本権に基づかない占有は,「瑕疵ある占有」(民法187条2項,190条参照)といわれている。瑕疵ある占有であっても,20年間占有を継続すれば,取得時効によって本権を取得することができる)。たとえば,賃借人の占有は,賃借権に基づいており,この場合に時効によって取得される本権は,「賃借権」という債権であって,物権ではない。したがって,本権が物権に限定されると考えるのは誤りである。
  2. 占有権以外の物権を本権と呼ぶ」という言い方は,占有権が物権であるとの誤解を生じさせる点でも,問題である。占有権は,本権(賃借権を含む)を取得したり(取得時効は民法総則に規定されている。賃借権の取得時効が認められている(最二判昭62・6・5判時1260号7頁,判タ654号124頁,金判786号3頁〔民法判例百選T〔第6版〕第44事件)のは,占有権が物権を取得するものに限られないことを意味している),本権を証明したり,本権と占有権との関係を調整したり,占有権そのものを保護するための制度であり,物権ではない。もしも占有権を物権と考えるならば,使用貸借,賃貸借,寄託は,すべて物権ということになり,民法の体系が破壊されてしまう。占有権は,本来は,物権ではなく,賃借権を含む本権を保護するものとして,民法総則に規定されるべきものであって,物権と考えるのは,体系的な誤りを犯すことになる(もちろん,試験の答案には,堂々と「占有権は物権である」と書いてよい。むしろ,「占有権は物権ではない」と書く方が危険である)。

上記の[我妻・有泉・コンメンタール民法(336頁)]の「占有以外の物権を「本権」と呼ぶ」という表現が誤解を招くものであることは,法律学小辞典(有斐閣)の以下の記述を読んでみれば明らかである。

本権とは〕,占有すべき権利(権限)ともいい,所有権・地上権・質権賃借権など,占有を正当づける権利〔のことをいう〕。占有者が占有の訴えを起こしたとき,例えば,占有者の賃借権は消滅したこと等,本権に関する理由から占有の訴えの当否を判断することはできないが,占有の訴えの相手方は本権の訴え(例:所有権に基づく請求権)を提起することができ〔民202〕,この場合,判例は別訴でなくても反訴でもよいとする(最判昭和40・3・4民集19・2・197)。→ 占有訴権

それでは,[我妻・有泉・コンメンタール民法(336頁)]の「本権としての物権」はどのように表現すればよいか。それは,そのまま「本権としての物権」と呼べばよい。同様に,「本権としての賃借権」という言い方も正解である。もしも,「本権としての物権」を省略して表現したければ,「占有権」との対比で,「物権本権」と呼べばよいということになる。

立木(りゅうぼく)

一般常識とは異なる読み方に注意する必要がある。立木法によって登記された樹木の集団(立木)は,不動産とみなされる(立木法1条,2条)。明認方法を施した樹木の集団(登記されていない立木)も,同様に独立の不動産として扱うことができるかどうかが問題となる。

立木法の規定
第1条
@本法に於て立木と称するは,一筆の土地又は一筆の土地の一部分に生立する樹木の集団にして,其の所有者が本法に依り所有権保存の登記を受けたるものを謂ふ。
A前項の樹木の集団の範囲は,勅令を以て之を定む。
第2条
@立木は,之を不動産と看做す。
A立木の所有者は,土地と分離して立木を譲渡し又は之を以て抵当権の目的と為すことを得。
B土地所有権又は地上権の処分の効力は,立木に及ばす。
法学小辞典(有斐閣)
〔立木とは,〕土地に生立する樹木の集団〔のことをいう〕。樹木は本来は土地の定着物であり,独立の権利の客体とならない。わが国には,これを土地と分離して独立に取引する慣行があったが,不動産登記法(明治32法24)はこれを独立の不動産としなかったので,立木ニ関スル法律(明治42法22)は樹木の集団を登記できるものとして,抵当権の目的となることなどを認めた結果,立木はその限りで独立の不動産として扱われる。同法による登記をしない樹木は原則として土地の処分に従うが,特に明認方法を施せば,土地と分離して取引の目的とすることができる。

物権的請求権

以下の[我妻・有泉・コンメンタール民法(2009)341頁]の記述の適否を詳しく検討し,通説の問題点を浮き彫りにしてみよう。

〔1〕物権の内容の完全な実現が何らかの事情で妨げられている場合には,物権者は,その妨害を生じさせている地位にある者に対して,その妨害を除去して物権内容の完全な実現を可能とする行為を請求することができる。たとえば,動産の所有者は盗人に対してその返還を請求し,土地の所有者は隣地から倒れてきた樹木の除去を請求することができる。物権のこのような効力を,「物権的請求権」または「物上請求権」という民法は,占有についてこれを規定しているが(§§198〜200),その他の物権,ことに所有権については何の規定も設けていない。しかし,学説・判例は,所有権についてもこれを認め,その他の物権についても,それぞれの特質に応じてこれに対応する請求権を認めるべきだとしている。
〔2〕その根拠は,つぎのように説かれる。そもそも,物権は目的物を直接に支配することを内容とするものであるから,その内容の実現がなんびとかの支配内に存する事情によって妨げられている場合には,物権はその作用としてその侵害の排除を請求することができるとするのが,まさに法律が物権を認めた趣旨に適合すると考えられる。条文上の根拠を考えれば,民法が一時的な支配権である占有権についてさえこれを認め,また,占有の訴えの他に本権の訴えなるものを認めている(§202参照)のは,本権すなわち占有権以外の,占有権より強力な物権に基づく請求権を当然に予定するものであろう,と考えられる。

リンク集


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民法立法理由(作業中)

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